NanotechJapan Bulletin

      

文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 秀でた利用成果
<2018年秀でた利用成果-3>
超低損失酸化ガリウムトレンチMOS型ショットキーバリアダイオード
株式会社ノベルクリスタルテクノロジー/株式会社タムラ製作所 佐々木 公平
物質・材料研究機構 大里 啓孝,津谷 大樹

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(左) 株式会社ノベルクリスタルテクノロジー 佐々木 公平,
(右) 物質・材料研究機構 大里 啓孝,津谷 大樹


1.はじめに

 これまで我々は,より良い世界の実現のため,化石燃料を大量に消費しながら科学技術を発展させてきた.しかしながら,従来のやり方で今後の更なる人口増加および発展途上国の近代化に対応していった場合,地球上の資源の枯渇は免れない.この世界を持続させるためには,我々は省エネルギー社会へ転換していく必要がある.

 省エネルギー化のために様々な方法が検討されているが,電気エネルギーの有効利用はその中核を担う技術開発課題である.我々は発電施設で生成した電気エネルギーを,送配電設備によって様々な電気機器へ送り届け,消費している.送配電の際,それぞれの電気機器に適した電圧・電流・周波数へ適宜変換を行っているが,その変換損失が無視できないほど大きく,より一層の低損失化が求められている.電気エネルギーの変換を行う部品はパワーデバイスと呼ばれ,半導体シリコン(Si)によって作られてきた.これまで,変換損失の低減のために,Siパワーデバイスはそのデバイス構造および製造プロセスが高度に改良されてきた.しかし,そのデバイス性能はすでにSiの材料物性限界まで達しており,これ以上の大幅な低損失化は難しい.そこで,Siに変わる新しい半導体材料の利用が世界中で検討されている.

 新材料の候補として,Siよりも材料物性に優れる炭化ケイ素(SiC)が注目され,その実用化を目指した多くの国家プロジェクトが各国で進められてきた.我々はそのSiCよりも材料物性に優れ,かつ量産性にも優れた酸化ガリウムに関する研究を進めている.本稿では,その最前線の研究成果を紹介する.

 本研究を開始した直後,デバイス試作のために必要な設備が足りないという事態に直面した.その時,ナノテクプラットフォーム事業の存在を知り,酸化ガリウムの加工に適した装置を多く保有している物質・材料研究機構へ協力を依頼したところ,相談開始からわずか数ヶ月という短期間で本成果を得ることができた.我々と同様に試作設備が不足して困っている特に若手研究者の方々へ,本稿がナノテクプラットフォーム利用のきっかけとなったら幸いである.


2.酸化ガリウムとは

 酸化ガリウムは酸素とガリウムの化合物であり,α,β,γ,δ,εといった複数の結晶構造を取ることが知られている[1].これらの中でβ型酸化ガリウムが最安定相であり,他の準安定相は加熱することでβ型へと変化する.そのため,酸化ガリウムに関する研究は主にβ型酸化ガリウムに対して行われている.なお,本稿では特に断らない限り,酸化ガリウムと言った場合にはβ型酸化ガリウムを指す.

 図1に,β型酸化ガリウムの結晶構造模式図を示す.本結晶構造は単斜晶系のβ-gallia構造と呼ばれている.表1に,各種半導体材料の材料物性値比較表を示す[2][3].酸化ガリウムのバンドギャップは,光学評価により4.5-4.9eVと推定されている[4][5][6][7][8][9][10][11][12].酸化ガリウムの絶縁破壊電界強度は,各種半導体材料のバンドギャップと絶縁破壊電界強度の関係から推定した.電子移動度は実験結果からの推定値である[13].半導体材料のパワーデバイス用材料としての潜在能力を比較する指標として,バリガ指数が広く用いられている[14].酸化ガリウムは,その大きな絶縁破壊電界強度から,バリガ指数がSiの約3,000倍,SiCの10倍になる.このバリガ指数を図示したものが図2である.図2は材料物性から決まるユニポーラデバイスの理論オン抵抗と耐圧の関係である.図中の直線は各種半導体の材料物性から決まる理論限界を示しており,右下に行くほど低損失高耐圧デバイスを実現可能であることを表している.図の通り,SiCと同じ耐圧のデバイスを酸化ガリウムで作った場合,そのオン抵抗はSiCの1/10になる.よって,酸化ガリウムパワーデバイスの実現により,大きな省エネルギー効果が期待できる.


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図1 β型酸化ガリウムの結晶構造模式図


表1 各種半導体材料の材料物性値比較表
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図2 ユニポーラデバイスの理論オン抵抗と耐圧の関係


 酸化ガリウムがSiCよりも優れている他の特徴として,大気圧下での融液成長法により,大型で高品質のバルク結晶を育成可能であることが挙げられる.現状,SiC基板は昇華法で製造されているが,製造コストが高く,また高品質な結晶を得にくいという課題があるために,SiCデバイスの広い普及を妨げる大きな障害となっている.酸化ガリウムの融液成長については様々な手法が試みられているが,もっとも大型化が進んでいるのはedge-defined film-fed growth(EFG)法である.図3にEFG法の模式図を示す.EFG法の場合,るつぼの中央にダイと呼ばれるスリットが形成されたブロックを配置し,そのスリットを毛細管現象で上昇してきた酸化ガリウム融液に単結晶酸化ガリウムの種結晶を接触し,上方へ引き上げて結晶育成を行う.図4に,EFG法を用いて作製した(a)2インチ及び(b)4インチの酸化ガリウム単結晶基板の写真を示す[15].2018年3月現在,当社では2インチ酸化ガリウム単結晶基板を市販しており,2018年度中の4インチ基板の販売に向けた開発を進めている.


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図3 EFG法模式図


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図4 EFG法で作製した(a)2インチ及び(b)4インチ酸化ガリウム単結晶基板


 このように,酸化ガリウムは他の材料を上回る優れた材料物性を有し,かつ高品質な単結晶基板を安価に製造できることから,超低損失パワーデバイスを低コストで作製できる可能性がある.よって,酸化ガリウムパワーデバイスが実用化されれば,世界中での大きな省エネ効果が期待できる.


3.トレンチMOS型ショットキーバリアダイオードの特徴

 前項で解説した通り,酸化ガリウムはその非常に大きな絶縁破壊電界強度から,低損失高耐圧パワーデバイスを作製できると期待される.しかしながら,これまでパワーデバイスはSiの物性値を念頭に開発されてきたため,従来構造をそのまま酸化ガリウムに適用しても,酸化ガリウムのポテンシャルを発揮することができない.例えば,パワーデバイスのキーデバイスの一つであるショットキーバリアダイオード(SBD)の場合,Siで用いられてきた従来構造だと,図5(a)に示した通り,ショットキー電極と酸化ガリウムの界面にもっとも大きな電界が印加される.実はその界面がある実効的な耐圧限界を有しており,いかに半導体材料が大きな絶縁破壊電界強度を有していても,その界面の特性でデバイス性能を制限されるという現象が生じる.例えば,1.0eV程度の標準的なバリアバイトのショットキー電極を酸化ガリウムへ形成した場合,その界面におおよそ1-2MV/cm程度の電界を印加すると,ショットキー接合を流れるリーク電流が無視できないほど大きくなり,酸化ガリウム自体は絶縁破壊していないのに,そのリーク電流による発熱によって素子が燃え尽きてしまうのである.そのため,従来構造では酸化ガリウムの大きな絶縁破壊電界強度のメリットを発揮できない.その制限を打破するための方法として,我々は,図5(b)に示したトレンチMetal-oxide-semiconductor(MOS)型SBDを見出した.トレンチMOS構造を設けると,図5(b)の通り,デバイス中の最大電界はトレンチの底で発生する.この時,そのMOS界面は絶縁膜を挟んでいるため,上述のリーク電流の問題は解消され,酸化ガリウムへその材料物性限界まで電界を印加することができるようになる.よって,本構造を用いることで,酸化ガリウムのポテンシャルをフルに発揮したデバイスの設計が可能となる.


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図5 ショットキーバリアダイオードの電界強度分布板
(a)従来構造
(b)トレンチMOS構造


4.ナノテクプラットフォーム利用の経緯

 本アイディアの実現のため,そのトレンチの最適な寸法をシミュレーションしたところ,メサの幅は2-3µm程度まで微細化しなければならないことがわかった.しかしながら,当時我々はそのような微細加工のための設備を保有していなかった.そこで,試作を代行してくれるいくつかの民間企業にトレンチの形成を依頼し,数100万円かけて予備実験を行ったのだが,どこも酸化ガリウムに適した設備を保有しておらず,良い結果が得られないまま数ヶ月が経過した.このままでは埒が明かないと考え,改めて試作代行先を探し,ナノテクプラットフォームのホームページに辿り着いた.ホームページの内容を読むと,共同研究契約がなくても企業が大学や研究所の最先端の設備を利用できるとのことだったため,早速酸化ガリウムの加工に良さそうな設備を多く保有していた物質・材料研究機構へ協力を依頼した.すると,そこからわずか1ヶ月という短期間で,さらにわずか数十万の費用で,所望の微細トレンチの形成に成功してしまった.このような短期間で成果が得られたのは,民間企業に比べて大学や国研が,常日頃から様々な新材料の難しい加工を幅広く行っており,特殊な加工に対するノウハウを多く有しているためと考えられる.(誤解のないように申し上げておくと,決して民間企業の技術レベルが低いということではなく,得意不得意の問題である.)トレンチ形成に成功したので,次にトレンチ内部の絶縁膜の形成に適した設備を保有している東工大へ成膜を依頼し,この工程も1ヶ月程度で確立することができた.これにより,大きな課題がクリアされ,当初最初の試作が完了するまで1年程度を見込んでいたところ,4ヶ月程度でデバイスの動作実証に成功し,1年経たずに市販SiCデバイスを凌駕する世界最高性能を実証することができた.その成果を次項で紹介する.


5.酸化ガリウムトレンチMOS型SBDの試作[16][17][18]

5.1 デバイス構造とプロセスフロー

 図6(a),(b),に試作したデバイスの(a)断面模式図と(b)外観写真を示す.また,プロセスフローを図7に示す.最初に,EFG法を用いて作製したSnドープ酸化ガリウム基板上に,Siをドープした酸化ガリウム膜をHalide vapor phase epitaxy法によりホモエピタキシャル成長させた.基板およびエピ膜のドナー濃度と厚さは6×1018cm-3,570µmと6×1016cm-3,5µmである.次に,エピ膜の表面に,NIMSナノテクプラットフォームの設備を用いてメサとトレンチの周期構造を形成した.トレンチ幅は4µm,メサ幅は2µmとした.トレンチ深さは2-3µm程度である.トレンチ形成後,エピ膜全面に東工大ナノテクプラットフォームの原子層堆積装置を用いて厚さ50nmのHfO2膜を設けた.その後,メサ上部のHfO2膜のみ,化学機械研磨により除去した.そして,NIMSナノテクプラットフォームにて厚さ400nmのフィールドプレート用SiO2膜を形成し,フォトリソグラフィとウェットエッチングによりパターニングを行った.SiO2の開口部の直径はおよそ300µmである.最後に,カソード電極としてTi/Au,アノード電極としてMo/Au/Niを形成した.酸化ガリウムと接触しているのはMoである.作製したデバイスの電気特性評価は,早稲田大学ナノテクプラットフォームの高耐圧デバイス測定システムを用いて行った.


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図6 酸化ガリウムトレンチMOS型SBDの(a)断面模式図と(b)外観写真


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図7 酸化ガリウムトレンチMOS型SBDのプロセスフロー


5.2 酸化ガリウムトレンチMOS型SBDの特性

 図8(a)に,酸化ガリウムトレンチMOS型SBDと,市販されている中耐圧(~600V)SiC SBDの逆方向電流-電圧特性を示す.一般的にダイオードは,順方向特性と逆方向特性にトレードオフの関係があり,デバイス構造によって調整することができる.本研究では,市販SiC SBDと同程度の逆方向特性になるように酸化ガリウムトレンチMOS型SBDの構造を設計し,順方向特性によりデバイス間の特性比較を行った.図8(a)を見ると,設計通り,酸化ガリウムトレンチMOS型SBDと市販SiC SBDは同等の逆方向特性になっている.酸化ガリウムトレンチMOS型SBDのデータが-400V程度までなのは,そこで局所的なブレークダウンを起こしたためである.このブレークダウンは酸化ガリウムの材料物性限界に起因するものではなく,トレンチ表面の平坦性の悪さによるものと推測される.今後トレンチ形成プロセスを改良することにより,破壊電圧の改善が可能と考えられる.

 図8(b)に順方向電流密度-電圧特性比較図を示す.酸化ガリウムトレンチMOS型SBDはSiC SBDよりも立ち上がり電圧を半分程度と大幅に低減できており,動作電流において最大で40%低損失化することに成功した.本研究により,SiCデバイスよりも低損失で動作する酸化ガリウムデバイスを世界で初めて実証することができた.今後,基板抵抗などの余分な抵抗成分を取り除き,さらなる低損失化に取り組んで行く.


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図8 酸化ガリウムトレンチMOS型SBDおよび市販SiC SBDの(a)逆方向特性と(b)順方向特性


6.まとめ

 本稿では,酸化ガリウムのパワーデバイス用材料としての優位性と,最新の研究成果としてSiCを超える性能の実証結果について紹介した.本研究で試作したデバイスは,数年以内のサンプル出荷を目指して量産技術開発へと進んでいる.また本稿では,ナノテクプラットフォームを利用した背景についても詳細に記した.ナノテクプラットフォームは,我々のような,アイディアはあるが実行するための設備が足りない若手研究者や中小企業などに特に最適な仕組みであると感じる.本稿がナノテクプラットフォームを利用する上での参考になれば幸いである.


謝辞

 本研究の一部は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(NIMS微細加工プラットフォーム),12025014(F-17-IT-0002)の支援を受けて実施した.


参考文献

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[17] K. Sasaki, Q. T. Thieu, D. Wakimoto, Y. Koishikawa, A. Kuramata, and S. Yamakoshi: Ext. Abstr. The 78th JSAP autumn meeting(2017).
[18] K. Sasaki, Q. T. Thieu, D. Wakimoto, Y. Koishikawa, A. Kuramata, and S. Yamakoshi: Ext. Abstr. IWGO(2017).


(株式会社ノベルクリスタルテクノロジー 開発部長 佐々木 公平)


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