NanotechJapan Bulletin

      


<第64回>
分子レベルで異種高分子素材同士を均等に混ぜ合わせる高せん断成形加工技術の開発
~混ざらないものを混ぜて新規ナノコンポジットを創る~

株式会社HSPテクノロジーズ 代表取締役社長 清水 博氏に聞く

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高せん断成形加工機を背に清水 博氏

 

 産業技術総合研究所(以下,産総研)発の技術移転ベンチャー 株式会社HSPテクノロジーズ(以下,HSPテクノロジーズ)[1]は,独自の高せん断成形加工技術を開発し,本来混ざり合わないとされる異種高分子を分子レベルで混ぜ合わせ,かつ透明性に優れた軽量なガラス代替素材を創製した.この技術は熱可塑性エラストマー中にカーボンナノチューブ(CNT)をナノレベルで均一に分散することによって伸縮自在な高導電性電極材料を作ることや,アルミ等の金属の代替となる高強度・軽量化素材やバイオマス由来のエコマテリアル等々の創製に応用することができる.これら素材の応用展開を図るため,同社は,2018年2月14日~16日に東京ビッグサイトで開催された第17回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2018)に出展し,注目を浴びると共に,nano tech大賞2018のスタートアップ賞を受賞した[2].受賞理由は「産総研技術移転ベンチャーで,分子レベルで異種高分子素材同士を均等に混ぜ合わせる高せん断成形加工技術を開発した.この技術により,ゴムのように伸縮する電極素材にも応用できる高導電性エラストマーなどを開発した点を賞す.」である.そこで,自ら開発した高せん断成形加工技術を活用して,様々な新規素材を次々と開発しているHSPテクノロジーズ 代表取締役社長 清水 博(しみず ひろし)氏を,同社のオフィスが入る茨城県つくば市のつくば研究支援センターに訪問し,創業に至る経緯とその後の展開,高せん断加工技術の内容や開発された素材の特徴,本技術を中心とした今後の展望などをお伺いした.

1.HSPテクノロジーズの概要 [1]

 HSPテクノロジーズは,2011年6月に設立された産総研発の技術移転ベンチャーである.拠り所とする技術は,創業者の清水氏が産総研在職中に世界に先駆けて開発した独創的な“高せん断成形加工技術”である.この技術は本来混じり合わないとされる非相溶性高分子のナノ混合を可能にするだけではなく,CNT等各種ナノサイズの粒子やフィラー(充填材)を高分子中にナノ分散させる技術として有用であり,多様な新規ナノコンポシット(複合材)の創製に資することができる.現在この技術を駆使して,新規ナノコンポシットの開発・製造・販売を行っている.社名の“HSP”は,高せん断成形加工技術の英語表記である“High Shear Processing”の頭文字をとったものである.

 以下,高せん断成形加工技術の内容およびこれによって開発されたナノコンポジットの代表的なものを紹介する.

2.高せん断成形加工技術

2.1 開発の経緯:開発のきっかけと小型高せん断成形加工機の開発

 清水氏はHSPテクノロジー設立の前まで,産総研で高分子材料の研究に従事してきた.高分子材料は,単独又は複数の材料を溶融混合し,押出成形もしくは射出成形によりプラスチック製品として利用される.産総研在職中にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「精密高分子技術プロジェクト」に参加して,高分子ブレンド系にせん断流動場,高圧場等の外部場を加えた状態での“その場 相挙動解析”を行っていた.その解析結果から高せん断流動場等の非平衡状態を利用することにより図1に示すように非相溶性高分子ブレンド系のナノ混合が,またフィラーの分散においてもナノ分散が実現できると予想した.

 

図1 高せん断混練によって何が実現出来るか

 

 しかし,当時市販されていた成形加工機は,スクリュー回転数が300rpm以下で,対応するせん断速度が100sec1程度であり,十分なせん断速度が得られずそれを実証することができなかった.そこで,2003年に(株)井元製作所(京都)と共同で手動式の微量型高せん断装置(製品名:HSE3000mini)[3]を開発した(図2(a)).この装置は,バッチ式処理により数g程度の少量試料に適用できるものであり,せん断速度はスクリュー回転数が最高の3,000rpm時に4,400sec-1に到達する.また,この装置は独創的な“帰還型スクリュー”を搭載し,これにより混練時間を任意に設定できる世界で初めての装置となった.図2(b)に帰還型スクリューの原理図を示す.これらの装置を,多様な材料系に適用し様々な高分子ナノマテリアルの創製に成功を収めることができた.その後,2009年に(株)ニイガタマシンテクノ(新潟)と共同で全自動小型高せん断装置(製品名:NHSS2-28)[4]を開発した(図2(c)).

 

(a)微量型高せん断成形加工機

(b)帰還型スクリューの原理図

(c)全自動小型高せん断成形加工機

図2 高せん断成形装置と帰還型スクリュー

 

2.2 完全連続式高せん断加工機(量産機)の開発

 このようにして得られる新規ナノコンポジットは従来材料に無い特性を持つことから,関係業界の注目するところとなった.しかしながら上記で紹介した装置はバッチ式であるために処理量が数g/バッチと極めて少なく,産業用途としては道半ばであった.そこで,東芝機械(株)と共同で“完全連続式高せん断加工機”(図3)を開発した[5].本機は先行機の持つナノレベル構造を実現する高い混練性能を活かしつつ,押出成形加工法の連続性と安定性を賦与した高せん断成形装置となっている.処理能力は50kg/時 であり,本稿で以下紹介するナノコンポシットの量産化に対応できる状況になっている.連続式スクリューの構造は図の通りであり,この図ではスクリューエレメントが3個連なっていることを示しており,サンプルは右から左に“一筆書き”で進んでいく.

 

図3 完全連続式高せん断加工機と連続式スクリュー

 

3.新規なポリマーナノコンポシットの創製

3.1 高分子/高分子系:非相溶性高分子ブレンドのナノ混合・相溶化

(1)PVDF/PA11ナノブレンド:強誘電性ポリマーブレンド材料の創製 [6][7][8]

 ポリフッ化ビニリデン(PVDF,CH3(CH2CF2)nCH3),とポリアミド11(PA11,CH3(NH(CH2)10CO)nCH3)の混練条件は,スクリュー回転数1,200rpm,混練時間120秒である.PVDFとPA11をナノブレンド化する目的はそれぞれの優れた特性を相乗的に発現させた,強誘電性ポリマーブレンドを創製することが狙いだが,従来はPA11がミクロンオーダーで凝集してしまうため期待するほどの効果は上がらなかった.高せん断加工で作製した混練物は,図4の左側,透過型電子顕微鏡(TEM)写真に示されるようにPVDFマトリクス(白い部分)中に10~数10nmのPA11ドメイン(黒く染色された部分)が密に分散しているナノ構造となっている.この系の分散相サイズは,従来機械的な混合では,その理論的実験的限界が350nmとされたものを1桁以上低減化したものであり世界で初めての成果である.また,元素識別型TEM解析(TEM-EDX)や小角X線散乱(SAXS)測定から,高せん断混練したPVDF/PA11 ブレンド系においては,図4右の模式図に示されるように非晶部においてそれぞれのポリマー鎖が相互に貫入した構造を形成している.即ち“相溶状態”が実現されている.しかも,この相溶化の構造は,試料を再溶融しても安定で崩れることはない.清水氏は「得られた試料の構造観察を電子顕微鏡の第一人者の先生にお願いしましたが,見た途端,先生は『こんな微細構造が形成されているのか』と驚かれました.通常は混ざり得ない異種高分子同士が均一に分子レベルで混ざっていたからです.」と当時の興奮を想い出し,語られた.

 

図4 高せん断成形加工による非相溶性ポリマーブレンドのナノ分散構造構築と相溶性の同時実現
(PVDF/PA11ナノブレンド)

 

 図5にPVDF/PA11ナノブレンドの応力-ひずみ特性を示す.通常の低せん断下で作製されたブレンド試料(図中のb)に比べ,高せん断下で作製された試料(図中のc)の破断伸びは6倍にも上昇している.

 

図5  PVDF/PA11ナノブレンドの応力-ひずみ曲線

 

 さらに,このブレンド系は強誘電性を示すポリマー同士のブレンドであり,図6(a)に示されるように,例えばPVDF/PA11=90/10のナノブレンド化により良好な強誘電性ヒステリシスを示し,電場280MV/m時の残留分極値Prは91mC/m2でPVDF単体の76mC/m2よりも1.2倍の高い値を示した.また,圧電性の温度依存性は,図6(b)に示すように,PVDF/PA11=90/10では,80℃以上の高温領域においてブレンド試料の方がPVDF単体よりも高い圧電歪係数を保持することも分かった.このように非相溶性ポリマーブレンド系をナノ混合化することにより,構成ポリマーのそれぞれの長所が顕在化し,物性の相乗効果が期待通りに発現した.

 

図6 PVDF/PA11ナノブレンド系の強誘電性ヒステリシス(a)と圧電性の温度依存性(b)

 

(2)PC/PMMA 透明ナノポリマーブレンドの創製[9][10]:ガラス代替材料

 ポリカーボネート(PC)(構造式は図7左)とポリメチルメタクリレート(PMMA)(構造式は図7右)は元々各々が透明性を示すポリマーであるが,非相溶性である.所定のブレンド組成のPC/PMMAを成形温度230℃で,高せん断(スクリュー回転数:2,250rpm,混練時間:20秒)と低せん断(スクリュー回転数:300rpm,混練時間:20秒)条件で混練し,得られたものの特性を比較した.低せん断条件では白濁したブレンドが,高せん断条件では透明なブレンド試料が得られた.透明ブレンドの内部構造を観察したところ,PC/PMMA=80/20ブレンドにおいてはPMMAドメインのサイズは10nm前後であり,PC/PMMA=20/80ブレンドではPCドメインのサイズは30~50nmサイズになっており,非常に微細な構造が形成されていることが分かった.このように微細な構造が形成されているため,散乱が抑えられ,高せん断混練されたPC/PMMAブレンドは優れた透明性が確保されている.しかも,図7に示すようにこれら混練物を再度溶融して厚さ0.5 mmのフィルムを作製しても,不透明ブレンド試料からは不透明フィルムが,透明ブレンド試料からは透明フィルムが得られ,再溶融後も光学特性(透明性)が保持されている.

 

図7 PC/PMMAブレンドの透明性
(左:白濁した低せん断成形加工試料,右:透明な高せん断成形加工試料)
(試料サイズ(フィルム):100×100×0.5mm)

 

 PC,PMMAおよびPC/PMMAブレンドの応力-ひずみ特性を図8に示す.高せん断加工後のPC/PMMAは低せん断加工後の試料に対して2倍強の伸びを示し,PMMAのもろさを大きく改善している.

 

図8 高せん断混練したPC/PMMAブレンドとPC,PMMAの応力-ひずみ特性

 

 高せん断混練したPC/PMMA(比重1.2)は,以上のような優れた光学的,機械的特性から光学レンズ,各種透明パネル,導光板,耐熱性光ファイバー等多様な光学部品への応用展開が期待される.特に,自動車用窓材に利用すればガラス(比重2.5)窓に比べ,50%以上の軽量化が実現することになり期待が持てる.

 

3.2 高分子/フィラー系:CNT分散ナノコンポジットの創製 ― 金属代替材料の開発

(1)高せん断場によるフィラーのナノ分散化のメカニズム [11]

 CNTや金属酸化物粒子などナノサイズレベルのフィラーは,静電気力,Van der Walls力,双極子力などにより強く凝集している.その凝集力は下記の式で示されるように粒子径や空隙率が小さい程大きくなる.

Fc=9(1-ε)C0S/8εd

(Fc:凝集力,ε:空隙率,C0:定数,d:単位粒子の直径,S:集合粒子の断面積)

 ナノレベルのCNTなどのフィラーを高分子中にナノオーダーでかつ均一に分散させるには,この凝集力による凝集を解放する(CNTの場合,解繊という)必要がある.従って,高分子中でナノサイズフィラーや粒子の凝集を解放し,均一に分散させるためには,以下の2通りの手法が考えられる.

 一つの方法は,ナノサイズフィラーの表面修飾や界面活性剤の添加により,フィラーと高分子間の親和性を向上させることである.しかし,この方法では凝集体の表面のみに界面活性剤が作用して解繊がうまく進行しなかったり,また添加されたものが不純物として残り,得られるコンポジットの特性を損なってしまう可能性が高い.もう一つの方法は,ここで取り上げる“凝集力に勝る機械的エネルギー(せん断応力)”を高分子/フィラー系に付与して分散性を高めることである.即ち,

せん断応力 = 【粘度 × せん断速度 】> 凝集力

とすることである.この様子を層状ケイ酸塩をモデルに示したものが図9である.

 

図9 高分子/フィラー系におけるせん断流動場の効果

①第1段階では,層状ケイ酸塩同士が凝集して数μmの球状体になっているものをせん断場の作用により,それぞれ層状にスタックしたプレートレットに分ける.

②第2段階では,せん断場は更にそのプレートレットの層を数層レベルに剥離するように作用し,

③第3段階では,高分子鎖の拡散過程とも協同し,層そのものが剥離分散して行く.

 このせん断流動場による分散メカニズムは,CNTやその他の凝集しているフィラーの分散に対しても同様に作用する.即ちフィラー間の凝集力に勝るせん断流動場が作用すると,フィラー同士の凝集が解かれ,高分子と相互作用をしながら分散していく.清水氏らは,CNT,クレイ(粘土),籠状シリカ(POSS),球状シリカ等のフィラー,さらには二酸化チタン(TiO2)やSiC(炭化ケイ素),BN(窒化ホウ素)等のセラミックス粒子系に対して高分子へのナノ分散化を可能にし,有用なナノコンポジット材料を創製しているが,ここでは,CNTの例を以下に紹介する.

 

(2)熱可塑性エラストマー/CNT 系ナノコンポジット:伸縮自在電極を実現する高電導性エラストマーの創製 [12][13][14]

 熱可塑性エラストマー(ゴムとプラスチックの両方の性質を有する弾性材料)としてpoly[styrene-b- (ethylene -co-butylene)-b-styrene](SEBS)註1)を選び,CNT は未処理の多層CNT を用いた.

註1)SEBSの構造式:

 

 図10はスクリュー回転数1,000rpm,多層CNTを1.25から15wt%まで添加したSEBS/CNT系ナノコンポジットにおける内部構造をSEM(走査型電子顕微鏡)観察したものである.CNT添加量が多くなってもCNTがSEBS 中において均一に分散しており,CNTの凝集物がほとんど観測されない.

 

図10 SEBS/CNT系のSEM写真
(CNT添加量;(a)1.25,(b)2.5,(c)5.0,(d)10,(e)15wt%:(f)1.25wt%の高倍率)

 

 図11には,横軸にCNT添加量,縦軸に電気伝導度のデータを示す.また,図12は,最終的に300%まで延伸させたときの,それぞれの延伸状態での電気伝導度を示している.この系の電気伝導度はCNT添加量が10wt%を越えると,数S/cmレベルまでに向上している.CNT添加量が5%程度と少ない場合には延伸すると電気伝導度が低下してしまうが,添加量が15%の場合には試料を50%延伸しても電気伝導度はそのまま維持している(図12).

 

図11 SEBS/CNT系におけるCNT添加量と電気伝導度

 

図12 SEBS/CNT系を延伸したときの電気伝導度変化

 

 このような特性を有する導電性ナノコンポジットは伸縮自在な電極材料への応用が可能と考え,導電性だけでなくエラストマー本来の伸縮性能もより効果的に発揮させるための手法を考案した.図13にその手法を示す.

 

図13 表面コーティング手法による高導電性エラストマーの作製

 

 上記で得られた導電性エラストマーをトルエンに溶解し,それをSEBSのシート(厚さ500μm)の上にキャストする(Surface Coating)手法である(この表面コーティングにより作製された導電性エラストマーをSC-SEBSと呼ぶ).表面コーティングされたCNT層の溶媒除去後をSEM観察すると,厚みを変えてもCNT は凝集することなく良好なネットワーク構造を形成していることが分かった.

 次に,図14に本手法の目標である電気伝導度の延伸による影響の改善効果を示した.バルク試料では,150%までの延伸(元の長さの2.5倍まで伸ばした状態に相当)により,その電気伝導度は3桁以上低下してしまうが,SC-SEBSでは同様の延伸処理を施しても1S/cm以上の極めて高い導電性が保持されている.このような導電性エラストマーは伸縮自在な電極(回路)として使えるため,今後,ウエアラブル(身体装着)な医療・健康・福祉機器向けのデバイスやセンサーに搭載されることが期待される.しかも,図13におけるプロセスは,プリンタブル・エレクトロニクス技術に相当するので,オフセット印刷,スクリーン印刷やインクジェット技術を用いて精細な電極や回路を形成することが可能となる.

 

図14 バルクナノコンポジットとSC-SEBS を延伸したときの電気伝導度変化

 

3.3 高分子/高分子/フィラー系(三元系):共連続構造ナノコンポジットの創製

 高分子/高分子/フィラー系(三元系)において,共連続構造でかつフィラーが一方の相にのみ選択的に分散しているナノコンポジットを創製した[15][16].

 PVDF/PA6=50/50ブレンド組成のあたりでCNTを添加することにより,その高次構造が“海-島構造”から“共連続構造(図15左)”に変わる.しかも,添加されたCNTは,親和性の良いPA6相のみに選択的にナノ分散する.即ち,PVDF単体(又はPA6単体)に分散させるよりも少ない量(半分)で,導電性を向上させることができることを意味する.

 

図15  PVDF/PA6/CNT=50/50/5 ナノコンポジットにおいて形成された構造の模式図

 

 さらに,高せん断成形加工中に,PA6がPA6連続相からPVDF連続相中にナノドメインとして大量に入り込む(図15右).しかしながら,PVDF相中にあるPA6ナノドメイン相は小さいため,CNTはこれらのナノドメイン相には入ることができない.従って,高せん断下では量的に少なくなったPA6連続相中にCNTが高密度でナノ分散していることになる(図15右の○印中のCNTの存在量).このようにPA6相が連続相となり,かつその中のCNT同士は重なり合い電気的ネットワークを形成しながら分散している構造になっている.この構造を反映して,高せん断成形加工したナノコンポジット系では,図16に示されるように,極めて少ないCNT添加量(閾値0.8wt%)から電気伝導度が向上していることが分かる.図には比較のためにPA6/CNT系のそれも示したが,共連続構造を形成した系に比べ,同じCNT 添加量でもその最終到達電気伝導度は4桁程低い.

 

図16 PVDF/PA6/CNT系およびPA6/CNT系のCNT添加量と電気伝導度との関係

 

 このように,高分子ブレンド系に各種フィラーを添加し,高せん断成形加工を行うことで,高分子ブレンド間での共連続構造形成とCNTの選択的分散が同時に進行し,精緻な階層構造制御を“one step”で実現できる.

 

3.4 高せん断場と反応場との統合によるエコマテリアルの創製 [17]

 ここでは,汎用プラスチックである低密度ポリエチレン(LDPE)註2)と植物由来のポリ乳酸(PLLA)註2)とのアロイ化について紹介する.実現できれば,PLLAの重量分に相当した“植物化度”を有するエコマテリアルが創製されるはずである.しかし,LDPEとPLLAとは相溶性がなく,通常の成形条件では図17の(1)(2)のように,PLLA相ドメインのサイズは大小様々で分布が広くかつナノサイズにならず,また界面が平滑にならない.このような非相溶性高分子のブレンドでは,いわゆるリアクティブプロセシングが行われてきた.これは,高分子の末端官能基同士の反応性を利用することで,あるいは反応性相溶化剤の利用により主に界面で反応を誘起することにより界面張力を低下させ相溶化しようというものである.そこで,ここではエポキシ基をもつ反応性相溶化剤EGMA註2) を用いてこの系のリアクティブプロセシングを試みた.EGMAを添加するとドメインサイズは減少するが(図17の(3)),PLLA相のサイズはまだ数μmレベルである.これに対して,スクリュー回転数600rpmで高せん断混練すると図17の(4)のように界面が非常に平滑となり,PLLA相もこのスケールではドメインが観察できない.このように反応性相溶化剤の利用だけでなく,600rpmという高せん断条件を付加することで,微細な構造を形成することができた.

 

図17  LDPE/PLLA/EGMAブレンド系の微細構造

 

註2)左よりLDPE,PLLA,EGMAの構造式:

 

 図17のSEM像(1)~(4)に対応する応力-ひずみ特性を図18に示した.SEM像(1)~(3)に対応する図18の曲線(1~3)は,大きくは改善されていない.しかし,600rpmの高せん断場とEGMA添加による反応場との統合により作製したSEM像(4)の構造をもつ試料では曲線4のように非常に優れた特性を示した.この結果からも明らかなように,このアロイ系ではPLLAが添加されたことにより弾性率が著しく向上しただけでなく,LDPE本来の破断伸びが復活していることが分かる.

 

図18 LDPE/PLLA/EGMAブレンド系の応力-ひずみ特性

 

 また最近,バイオマス由来のPEも市場に出ており,これと上述のバイオマス由来のPLLAを組み合わせたバイオマス由来高分子同士のアロイ創製についても特許を取得している[18].延性と剛性のバランスの取れた材料創製に成功しており,エコマテリアルとして各種容器,包装材,玩具等への応用が期待されている.

 

4.おわりに

 本来混ざらないとされる異種高分子素材同士を分子レベルで均等に混ぜ合わせ,また無機フィラーをナノレベルに均一に分散させて新素材を創る! これが,HSPテクノロジーズの特技であり,この技術でHSPテクノロジーズは,一般金属やレアメタル,ガラスの代替材料に加え,化石資源に頼ることのない地球環境に優しい新しい素材を創製する技術を開発し,その応用を産業界に呼び掛けている.またこれからも,「電極がもっと伸縮すればいいのに」,「同じ性質のままでもっと透明になればいいのに」,「同じ素材コストでもっと強度が上がればいいのに」など「もっと,もっと」と言うニーズに,HSPテクノロジーズは独自の高せん断成形加工技術で応えていく.「もっと」があればあるほど,HSPテクノロジーズの出番であり,新技術は進化していくことを強く感じるインタビューであった.

 清水氏は,図19に示すビジネスプランを示しながら「小規模ベンチャーとして,今は特許維持費用をはじめ資金繰り等厳しい局面もあるが,HSPテクノロジーズの業績を伸ばすため,保有する特許・ノウハウを活用する二つの柱を掲げている.一つは,小回りの利くベンチャーとして,少量・高付加価値の新素材を開発しニーズに応えること.二つ目は,開発した量産装置使用にまつわるノウハウ等の諸事項に関し,コンサルティグに応じこの技術の普及に努めることである.」と述べられ,また「これらを通して図20に示すHSPテクノロジーズの“ものづくり”を推し進め持続可能な社会の形成に貢献したい.」と語られた.これら創製された新素材が産業界に広く普及し,それらが私たちの身近で活躍する日の到来を期待している.

 

図19 HSPテクノロジーズのビジネスプラン

 

図20 開発された材料と代替が期待され製品群

 

参考文献

[1] (株)HSPテクノロジーズ,ホームページ,http://www.hsp-technologies.co.jp/
[2] nano tech 2018,nano tech大賞:スタートアップ賞,https://www.nanotechexpo.jp/main/award2018.html
[3] 産業技術総合研究所,(株)井元製作所,「せん断成形加工機」,特許第5238926号(出願日:2010.11.22)
[4] 産業技術総合研究所,(株)ニイガタマシンテクノ,「高せん断装置および高せん断方法」,特許第5614686号(出願日:2010.2.2)
[5] 東芝機械(株),(株)HSPテクノロジーズ,「押出機および混練装置」,特開2016-83869(出願日:2014.10.27)
東芝機械(株):「世界初の完全連続式高せん断加工機を開発」,http://www.toshiba-machine.co.jp/jp/NEWS/product/2014_0423.html
[6] 産業技術総合研究所,「強誘電体フィルム及びその製造方法」,特許第4845084号(出願日:2005.2.28)
[7] H. Shimizu, Y. Li, A. Kaito, and H. Sano, “Formation of Nanostructured PVDF/PA11 Blends Using High-Shear Processing”, Macromolecules, 38, 7880(2005).
[8] Y. Li, H. Shimizu, T. Furumichi, Y. Takahashi, T. Furukawa,”Crystal Forms and Ferroelectric Properties of Poly(vinylidene fluoride)/Polyamide 11 Blends Prepared by High-Shear Processing”, J. Polym. Sci. Part B: Polym. Phys., 45, 2707(2007).
[9] 産業技術総合研究所,「溶融混練方法,押出し物及び透明樹脂材」,特許第5697143号(出願日:2009.11.26)
[10] Y. Li and H.Shimizu, “Fabrication of Nanostructured Polycarbonate/Poly(methyl methacrylate) Blends With Improved Optical and Mechanical Properties by High-Shear Processing”, Polymer Engineering & Science, 51, 1437 (2011).
[11] T. D. Fornes, D. J. Yoon, H. Keskkula, and D. R. Paul, “Nylon 6 nanocomposites; The effect of matrix molecular weight”, Polymer, 42, 9929(2001).
[12] 産業技術総合研究所,「溶融混練物,樹脂成形物及びその製造方法」,特許第5207351号(出願日:2008.2.6)
[13] Y. Li and H. Shimizu, “Toward a Stretchable, Elastic, and Electrically Conductive Nanocomposite: Morphology and Properties of Poly[styrene-b-(ethylene-co-butylene)-b-styrene]/Multiwalled Carbon Nanotube Composites Fabricated by High-Shear Processing”, Macromolecules, 42, 2587 (2009) .
[14] Y. Li, L. Zhao, H. Shimizu, “Electrically Conductive Polymeric Materials with High Stretchability and Excellent Elasticity by a Surface Coating Method”, Macromol. Rapid Commun., 32, 289 (2011).
[15] Yongjin Li and Hiroshi Shimizu,“Conductive PVDF/PA6/CNTs Nanocomposites Fabricated by Dual Formation of Cocontinuous and Nanodispersion Structures”,Macromolecules, 41, 5339 (2008).
[16] 産業技術総合研究所,「充填剤並びに非相溶性の樹脂若しくはエラストマーにより構成される構造体およびその製造方法若しくはその用途」,特許第5152711号(出願日:2007.7.6)
[17] 産業技術総合研究所,「脂肪族ポリエステル組成物およびその製造方法」,特許第5177748号(出願日:2008.9.2)
[18] 産業技術総合研究所,「植物由来プラスチックブレンド物およびその製造方法」,特許第6340196号(出願日:2013.1.17)

本文中の図表は,全て株式会社HSPテクノロジーズより提供されたものである.

(真辺 俊勝)

 

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