NanotechJapan Bulletin

      


<第62回>
高スループットの微細構造三次元解析が可能なFIB-SEM装置開発
~ビームを組み合わせて高効率に生体や材料の3次元構造を可視化~

カールツァイス 箱崎 和令氏,藤谷 洋氏,余 涌氏に聞く

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デモセンターのFIB-SEMの前で,左から藤谷氏,箱崎氏,余氏


 今世紀初頭から毎年開催され,500社が展示し,5万人が参加する国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech)は,優れた展示にnano tech大賞を贈って表彰してきた.2018年2月14日~16日に東京ビッグサイトで開催されたnano tech 2018では,nano tech 大賞 ライフテクノロジー賞に「カールツァイス(小間番号:6G-01)」が選ばれた[1].授賞理由は,「高スループットの微細構造三次元解析およびサンプル作成が可能なFIB-SEM装置を開発した.低加速電圧ながら解像度を従来機から30%向上した.解像度は1.4nmを達成したほか,サンプルの切削効率を大きく向上した.ライフサイエンス分野の分析・計測に大きな進展をもたらす画期的な装置開発を賞す.」であった.このFIB-SEM(集束イオンビーム-走査電子顕微鏡)装置開発の背景,授賞理由に記された技術の内容を伺うべく,2018年4月に,東京・四ツ谷のデモセンターが新裝されたカールツァイス株式会社を訪ねた.お話を伺った方々は,ツァイスグループ カールツァイス株式会社の副社長 箱崎 和令(はこざき かずのり)氏,EM PASSディパートメント シニアディパートメントマネジャー 藤谷 洋(ふじたに ひろし)氏,ストラテジックマーケティングディパートメント・シニアディパートメントマネジャー 余 涌(よ ゆう)氏であった.


1.ものを見る技術を世に広めるカールツァイス

1.1 170年に及ぶ顕微鏡開発

 ツァイスグループ(以下,ZEISS)の始まりは,ドイツ東部にある古くからの大学町イエナ(Jena)で顕微鏡職人Carl Zeiss(1816-1888)が1846年に設立した工房である.光学を基礎とし,ものを見る機器を中心に開発・製造・販売してきた.ZEISSの企業形態の特徴は,カールツァイス財団が株主になっていることである.財団は光技術のツァイスグループとガラスのショットグループに100%出資をしている.この企業形態は,営利だけでなく,技術で社会に貢献することを企業理念としていることによる.2016年は,創業170年,Carl Zeiss生誕200年であった.

 Carl Zeissは工房で顕微鏡を作っていたが,レンズの品質追求で壁に当たり,1866年にイエナ大学のErnst Abbe(1840-1905)に助けを求めた.顕微鏡の結像に関する波動理論を導き出し,この理論がその後の光学顕微鏡開発の礎になり,Abbeは,1876年に共同経営者となった.1879年からはOtto Schott(1851-1935)による良質なガラスの提供を受けて,ZEISSが世界有数の光学機器会社として発展することとなった.

 共同経営者となったAbbeはCarl Zeissの死後,1889年にカールツァイス財団を設立して,株式をすべて財団所有とした.技術で社会に貢献しようという企業理念から,当初は開発した技術を多くの人が利用できるよう,特許を取らなかった.また,Abbeは,従業員の労働条件改善にも取り組んだ.1901年に労働時間を短縮し,有給休暇制度を作り,週休2日,週40時間労働の基礎を作っている.

 この経営体制のもとで,ZEISSは位相差顕微鏡,共焦点レーザ顕微鏡など最先端の光学顕微鏡を世に出し,電子顕微鏡,手術用顕微鏡,医療光学機器,半導体関連機器,工業用測定機器,プラネタリウムなどにも展開している.眼鏡レンズ,双眼鏡,カメラ用レンズなど身の回りの光学製品も提供する.観察手段は光から電子線,X線に展開し,X線顕微鏡も製品化した.電子顕微鏡は,ドイツ電機メーカーのAEGと共同で,1949年に電界レンズ式の透過電子顕微鏡を開発した[2].


1.2 光学機器と精密計測を中心に,産業・医療分野に事業展開

 ドイツのイエナで1866年に創業したZEISSは,1893年にロンドンに拠点を設けて以来,全世界に拠点,工場を展開してきた.現在は,40カ国以上で約27,000人が働き,30を超える製造拠点,50を超える営業とサービスの拠点,25を超える研究開発施設を設けている.会計年度は10月に始まり,2017年9月期の売上は5,348MEU(約7,100億円)であった[3].研究開発を重視し,売り上げの10%を研究開発費に投入している.特許はこの1年に約500件を出願した.

 ZEISSは,現在,次表の4つの事業を営んでいる.


表1 ZEISSの事業展開
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 半導体製造技術(Semiconductor Manufacturing Technology)はステッパー(縮小投影露光装置)のレンズが主なものである.オランダのASMLと協業し,ASMLの作る最先端のステッパーに組み込む大きくて歪みのないレンズを,ZEISSが開発・製造・供給している.

 研究及び品質保証技術(Research & Quality Technology)は2つのグループに分かれ,工業計測(IMT, Industrial Metrology)は自動車の計測など,製造されたものの大きさの測定器が主な製品になる.もう一つの顕微鏡グループは,光学顕微鏡,電子顕微鏡,イオン顕微鏡,X線顕微鏡と各種顕微鏡を手がける.

 医療技術(Medical Technology)は脳外科や白内障手術用の顕微鏡を提供する.

 ビジョンケアと民生機器(Vision Care/Consumer Products)には,ビジョンケアと民生光学機器(Consumer Optics)の2グループがあり,眼鏡レンズ,カメラ,双眼鏡を作っている.眼鏡レンズは,日本にも工場があり,自動車運転中に暗くなって瞳孔が開いた時に対応するような高度な眼鏡レンズを作る.映画用のレンズも作り,黒澤映画の撮影にも使われた.

 ZEISSの日本における企業活動は,カールツァイスジャパングループが行い,グループは,表2の3社で構成される.表にはそれぞれの担当製品分野を併記した[2].


表2 カールツァイスジャパングループ
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 ただし,nano tech 2018開催当時は,このほかに,カールツァイスマイクロスコピー株式会社があり,大賞はその名で贈られた.顕微鏡を担当していた同社は本稿取材後間もなく,カールツァイス株式会社の1事業部になった.製品ごとに特化した独立の会社運営から,あらゆるツールを使って,顧客の課題に応える総合ソリューションを提供する一体運営に移行している.


2.光・X線・電子線・イオンとビーム技術を総合して効率的に微細構造解析

 あらゆるツールを有機的に組み合わせ活用して顧客の課題解決に当たることは,様々な計測手段や顕微鏡を使った微細構造解析ですでに行われてきたことである.ZEISSは,光,X線,電子線を統合して,構造解析のソリューションを提供する.異なる観察手段をシームレスにつなぐようハードウェアを設計し,つなぐためのソフトウェアを開発してきた.このサポートのもとに微細構造解析を行う一連の過程において,ナノテク受賞対象のFIB-SEMが活用される.

 例えば,航空機ジェットエンジンのブレードの故障解析を行うとする.大きさは1mあるから,まず工業計測器IMTで検査する.欠陥の存在と場所がわかったら,そこをX線顕微鏡で調べる.X線顕微鏡で調べられるのは300mmまでなので,観察場所をその大きさに絞り込んでおく必要がある.X線は試料をよく透過するので,3次元の解析を行いやすいが,分解能は数十nmにとどまる.そこで,X線顕微鏡で捉えた欠陥をSEMで調べる.分解能は数nmになるが,観察できるのは表面に限られる.このため,イオンビームで欠陥を隠している表面層を取り除く.あるいは,イオンビームで孔を掘って,その孔の断面を観察する.イオンビームで削って,SEMで観察した結果を積み上げて,欠陥の3次元立体像が得られる.SEMには元素分析や結晶解析の機能を付加できるから,対象がどんな元素で構成され,どのような結晶構造かなど,より詳細な構造解析ができる.

 しかし,視野は倍率が大きいと狭くなるから,SEMで観察対象の欠陥を見つけるのに苦労する.ZEISSの技術を応用すると,光学顕微鏡やX戦顕微鏡などの広い視野で見つかった欠陥の位置情報をSEMに転送してその視野内に欠陥が来るようにでき,効率的な欠陥の解析が可能になる.異なる観察手段をシームレスにつないで,低倍率から高倍率まで効果的な解析を可能にするようZEISSはCorrelative Solutionを提供する[4].

 複数の装置間を移動する試料において,観察位置の相関をとる一つの方法は,試料ホルダーをそのまま転送するもので,位置合わせのマーカーを基準に,前の装置で見つけた観察位置に次の観察機器の視野を合わせる.

 ZEISSは,“Shuttle & Find”と名付けるシステムを提供して,マイクロとナノの世界を結びつける.まず,試料を専用設計されたホルダーに載せ,3点の基準マーカーで位置が較正された光学顕微鏡を使って観察すべき構造や細胞を見つけ出す.そのイメージ(画像)と位置情報を保存して,試料をSEMに移動する.SEMで基準マーカーを利用してキャリブレーションを行えば,Shuttle & Find が光学顕微鏡で選び出した観察対象の存在する範囲を探し出す.光学顕微鏡と走査電子顕微鏡の像を相関させ,SEMによって拡大して構造を解析する.SEMの観察結果は,光学顕微鏡の画像にオーバーレイ表示することができる.この相関観察は,細胞生物学や神経生物学,宿主寄生体相互作用の研究や,共生関係の解析に有効である.図1は光学顕微鏡とSEMの相関を示すもので,エンドサイトーシス(細胞が異物を取り込む作用)を観察している.左が光学顕微鏡像,中央に同じ場所のSEM像,右が両者の重ね合わせで,白黒のSEM画像に光学顕微鏡像の色がついている.


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図1 光学顕微鏡(左)とSEM(中央)の相関観察(右)(試料:エンドサイトーシス) [4]


 さらに,この“Shuttle & Find”をもとに,光学顕微鏡から電子顕微鏡まで,二次元または三次元のマルチスケールイメージング(空間分解能が異なる装置での同一場所観察)を相関して行うソフトウェアプラットフォーム(Atlas 5)を開発,提供している.これを用いて,例えば,X線顕微鏡(XRM)とFIB-SEMを相関させて熱電材料内部の界面を解析した(図2).Atlas 5では,二次元(2D)または三次元(3D)の画像を画素(pixelまたはvoxel)に分けて取得して再構成する.解析した熱電材料はMg2SnとMg2Siの2相からなり,その界面と欠陥が構造解析の対象であった.XRMを使って790nmのvoxelで約1mmの試料を非破壊で観察し,図2左の欠陥を含むイメージと位置情報を含むデータセットが得られる.試料をFIB-SEMに移し,データセットに含まれる位置情報をもとに,幅が約25µmの2相遷移領域のSEM画像を取得できた(図2中央).FIBで削ってSEM画像を取得することを繰り返すと試料全体の3D構造が図2右のように描けた.Siリッチ相をオレンジ色,Snリッチ相を緑色で示している.中央付近には2相の相互拡散領域が明確に表示されている.マルチスケールの相関イメージングにより,解析時間は著しく短縮されたという.


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図2 XRM(左)とFIB/SEM(中央)の相関による熱電材料の3次元構造(右) [5]


3.立体構造全体を微細に観察するX線顕微鏡

 複数の計測手法を用いて相関を取りながら,精密な微細構造解析を行うにはまず,光学顕微鏡や,X線顕微鏡で全体を見て,観察対象を定める.試料をよく透過するX線を用いれば,X線顕微鏡[6]により,立体像を非破壊で観察できる.

 X線顕微鏡は,基本的にはマイクロフォーカスX線CT(Computed Tomography,コンピュータ断層撮影)である(図3).従来のX線CT(図3(a))は,試料を回転させることによって様々な方向から試料にX線を当て,その透過X線の像をコンピュータで解析して,試料の立体像を再構成する.像の拡大率は,線源から試料とX線検出器までの距離の比で決まる幾何学倍率である.これに対し,ZEISSのX線顕微鏡(図3(b))は,検出器がシンチレータ(X線を蛍光に変換),光学レンズ,CCD撮像素子で構成され,拡大率には光学拡大率が加わる.さらに高分解能タイプのX線顕微鏡では,図3(c)のような構成をとる.高輝度のX線源から放射されたX線は,キャピラリコンデンサによって試料にフォーカスされる.試料を透過したX線は,これに続くフレネルレンズを用いた対物ゾーンプレートを透過して検出される.低吸収の試料の場合は吸収コントラストが低くなるので,高いコントラストで画像化するために位相リングを追加して挿入する.


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図3 X線顕微鏡の構成:(a)従来のX線CT,(b)ZEISSのX線顕微鏡,(c)高解像度X線顕微鏡


 ZEISSは,汎用性を重視したX線CTのZEISS Xradia Context,高解像度をねらったZEISS Xradia Versaと更なる超高解像度を達成しているZEISS Xradia Ultraの3つのシリーズのX線顕微鏡を提供している[6].Versaシリーズの検出器にはシンクロトロン放射光技術を応用した精巧な光学系のX線検出器を使用する.Versaシリーズの空間分解能は700nmであるが,300mmの試料まで対応する.X線源の管電圧は30-160kVと広く,多数のフィルタを用意して,X線の波長域を選ぶことができる.また,オートローダーを搭載し,14個の試料を順次観察できる.試料ごとに観察条件のレシピを組んで撮影する.応用対象は,ポリマーから金属まで幅広い.高アスペクト比トモグラフィでは専用の撮影アルゴリズムにより,短時間で高画質のイメージを得ることができる.また,トモグラフィとともに回折光を観測して,結晶構造を解析するDCT(Diffraction Contrast Tomography)により3次元レベルでの結晶解析ができる.

 Ultraシリーズは,図3(c)の構成で50nmの分解能を実現している.X線エネルギーとして,5.4keVあるいは8.0keVを選べる.SEMでは表面しかわからないが,X線ではナノレベルの立体構造を捉えられる.ラットの動脈壁組織(図4(a))やCNT(Carbon Nano Tube)の繊維構造などを捉えた例がある.さらに装置内でインデンテーション(荷重押込み)や,引っ張り荷重をかけながらその場撮影ができるので,サンプルの物理的変化を3次元的に捉えられる.図4(b)はナノインデンテーションによって,象牙質の表面構造の力学的変化を捉えた例である.


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図4 高分解能X線顕微鏡観察:ラットの動脈壁組織(a)と象牙質のクラック伝搬(b)


4.3次元微細構造解析を行うFIB-SEM [7]

4.1 電子顕微鏡の多機能化

 X線顕微鏡で比較的大きな試料を非破壊で観察し,欠陥・損傷など詳細に観察すべきところを特定してその構造を解析できるが,分解能は限られる.より詳細に調べるには,電子顕微鏡を用いると良いが,走査電子顕微鏡では表面のみの観察になる.詳細な観察・解析は表面を露出させる加工を伴った破壊解析になる.この要求に応えるのが,nano tech大賞の受賞対象になったFIB-SEMである.X線顕微鏡で欠陥を見つけたら,その位置情報を転送して,FIB-SEMで破壊解析をする.光で見えるのに,電子線では見えない欠陥もある.共焦点顕微鏡で見つけた欠陥の位置情報を転送して,SEMやFIB-SEMで詳細観察する.装置間にまたがった同一場所の観察・解析には前述のCorrelative Solutionを活用する.

 FIB-SEMは,イオンビームと電子線の2つのビームを,それぞれ異なる方向から試料に照射する.このため,FIB-SEMの製品系列をZEISS Crossbeam Familyと呼んでいる.これには,二つのビームのそれぞれの特徴を発揮できる機器設計が必要になる.


4.2 低加速電圧で高分解能を実現するZEISS独自のSEMカラム

 FIB-SEMでまず重要なのはSEM技術である.ZEISSは,静電レンズと磁界レンズを併用して,高分解能にするGeminiレンズを開発・活用・改良してきた.図5はGeminiレンズの模式図である.FEガン(電界放射電子銃)から放出された電子線はビームブースター機能により高加速になり,コニカルレンズ先端部に搭載されている静電レンズにより減速され,設定された加速電圧で電子線が試料に照射される.これにより,低加速電圧におけるエネルギー幅広がりとその結果生じる色収差の増大が抑制されるので分解能を高められる.対物レンズ全体としてはこの静電レンズと磁界レンズが組み合わされた構成になっている.


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図5 Geminiレンズ模式図とインレンズ検出器


 高分解能観察時ではビームブースター中央部分に示されているインレンズ(In-Lens)検出器を使い,静電レンズの静電界により効率よく二次電子を検出することが可能である.また,インレンズ検出器はこのIn-lens SE検出器の他,Low Lossエネルギーの反射電子像が得られるEsB検出器(Energy and angle selective Backscattered electron detector)がある.このEsB検出器の手前にはグリッドバイアス機能が備わっており,そのバイアス値を変更することで様々なエネルギー帯の反射電子を検出でき,Low Loss反射電子の検出では平均原子番号の近い構造をコントラストとして区別することが可能になる.

 Geminiレンズは,磁界レンズと静電レンズを組み合わせた電子光学系,ブースティング機能,In-lens検出器等を改良することで現在のCrossbeamでのSEMの分解能が低加速電圧1kVにて1.4nmという分解能を実現している.試料に到達する電子線の加速電圧を下げても高分解能が得られるため,炭素など軽元素で構成されるLiイオンバッテリー素材のセパレーターの高分解能観察が可能となっている(図6).Geminiレンズでは,試料直上を含む試料チャンバー内に磁場を漏らさない構造をしているため,試料に対する磁界の影響なく,磁性材料に対しても問題なく高分解能イメージングが可能になっている(図7).


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図6 Liイオンバッテリー・セパレーターの観察:加速電圧100V


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図7 バリウムヘキサフェライト磁性体(左)とセリウム鉄粒子の観察(右)


4.3 高安定FIBとSEMの複合機

 前述のような特徴を持ったSEMのカラム(鏡筒)に集束イオンビーム(Focused Ion Beam, FIB)カラムを図8のように組み込む.この構成の装置をZeissの製品名でCrossbeamと呼んでいる.Crossbeamは試料斜め上のFIBと直上のSEMの2つのビームを使い,FIBのGaイオンビームで加工し,SEMで観察する.イオンビームでも観察できるが,ZEISS Crossbeamに組み込まれたFIBの役割は加工が主になる.加工寸法や加工速度に応じて最適なビーム電流を選ぶが,ビーム電流は1pAから100nAまでの5桁にわたって調整できる.最大100nAのビーム電流により,高速材料除去と精密なミリング加工を行うことができる.FIB-SEMによる3次元解析はFIB加工とSEM観察の繰り返しになり,反復回数が多く長時間の作業になるので,FIBのビーム安定性を高めている.Gaイオン源と引き出し電極(Extractor)の間に設けたサプレッサーに印加する電圧を調整して,イオン源からの全エミッション電流を一定にすることができる(図9,2.1µAから1.9µAの間で調整).


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図8 FIB-SEMの構成


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図9 FIBにおけるGaイオンエミッション電流の調整


4.4 Crossbeamによる3次元微細構造解析

 Crossbeamによる3次元微細構造解析の手順は,まず,SEMにて解析の目的部位を探し,その部位の水平面を54°傾斜して,FIBにて断面加工を施す.その後,その加工断面に対しSEM観察と断面スライス加工を繰り返し行うことで3次元評価が可能となる.この過程で取得した連続断面SEM像から,3D構築ソフトを用いて空孔率や体積率などを算出することもできる.また,断面部位を,より詳細な高分解能観察するため,薄片加工をし,TEM(透過電子顕微鏡)用の試料を作る機能も用意されている.さらに,Gaビームにより任意形状の加工ができるから,ナノパターンの加工もできる(図10).


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図10 Si基板をFIBで加工して作製したナノ流体チャネル(中央部の4本の蛇行した流路)


 SEMは二次電子による画像観察と同時に,入射電子によって試料から放出されるX線を検出することにより,元素分析や結晶格子解析ができる.FE-SEMにX線検出機能を付加し,EDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)-3DとEBSD(Energy Backscattered Diffraction)-3Dによって3次元の元素分布,結晶構造を解析できる.図11にNiフィルム材の3D EBSDデータ(左)と磁性材料の3D EDSデータ(右)を示す.


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図11 Niフィルムの3D EBSDデータ(左),磁性材料の3D EDSデータ(右)


4.5 FIB-SEMによる生体試料の相関解析例 [8]

 神経科学とその元になる脳機能の理解は,顕微鏡の技術進歩と結びついている.神経細胞は細胞体,軸索,樹状突起からなり,軸索終末部と樹状突起先端部に形成されるスパインの間(シナプス領域)で情報伝達を行う.これら樹状突起/軸索の形態変化やそれに伴う機能異常,また細胞内における老廃物処理機構はアルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患と密接に関係する.生体組織深部構造の観察を可能にする二光子顕微鏡は神経変性疾患の有用な解析ツールとして用いられるが,光学顕微鏡がもつ分解能ではシナプスの微細構造解析は困難である.ZEISSのCorrelative Solution(Shuttle & Find)は上述のように光学顕微鏡と電子顕微鏡等,異なる顕微鏡同士を手間なく簡単に相関する.本アプリケーションを二光子顕微鏡とFIB-SEMに応用すれば,生体の組織深部で起こる経時的変化と,それに相当する領域を高分解能かつ三次元で解析することを実現する.

 蛍光顕微鏡とFIB-SEMの相関解析により,神経細胞の挙動と3次元構造が明らかにされた.


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図12 蛍光顕微鏡(a)とFIB-SEM(b)をつないだ神経細胞の3D観察(c)(d)
((a)の“4”を(b)で捉え,(c)はFIBスライス加工面観察,(d)は3D構成2例)


おわりに

 ZEISSは170年前に光学顕微鏡で創業して以来,財団が100%株主で技術に特化する企業として観察技術を磨き,光と電子の顕微鏡技術を併せ持つ数少ない企業の一つとなった.光学,電子線,X線,イオンビーム,それぞれの技術を活かし,組み合わせることによって詳細な微細構造解析を可能にした.独自の電子線鏡筒とイオンビームを組み合わせ,光やX線で大きなボリュームを観察して,選んだ場所を集束イオンビームで加工して走査電子顕微鏡で観察することにより,3次元画像を取得する.この手法は,材料技術,ライフサイエンスなどに広く活用される.新たな技術を開発し,持てる技術を総合してニーズに応えるという企業の方針のもと,新たな微細構造解析ソリューションを産み出すことが期待される.


参考文献

[1] nano tech 大賞 2018
https://www.nanotechexpo.jp/main/award2018.html
[2] ZEISS Corporate Profile カールツァイスジャパングループ会社案内(パンフレット)
https://www.zeiss.co.jp/microscopy/about-us.html
[3] Annual Report 2016/17 ZEISS Group
https://www.zeiss.com/corporate/annual-report/home.html
[4] 光学・電子顕微鏡で同一部位を観察 光・電子相関顕微鏡
https://www.zeiss.co.jp/microscopy/products/correlative-microscopy.html
[5] Correlative XRM-FIB/SEM Study of Thermoelectric Materials
https://p.widencdn.net/ps8rlb/EN_wp_Correlative-Study_XRM_FIB-SEM
[6] ZEISS X線顕微鏡
https://www.zeiss.co.jp/microscopy/products/x-ray-microscopy.html
ZEISS Xradia 520 Versa~Submicron X-ray Imaging : Extend the Limits of Your Exploration~(製品カタログ)
ZEISS Xradia 810 Ultra~Nanoscale X-ray Imaging: Explore at the Speed of Science~(製品カタログ)
[7] Your FIB-SEM for High Throughput 3D Analysis and Sample Preparation
https://www.zeiss.co.jp/microscopy/products/fib-sem/crossbeam.html
ZEISS Crossbeam Family ハイスループットの三次元解析を実現するFIB-SEM(製品カタログ)
[8] L. Blazquez-Llorca, E. Hummel, H. Zimmerman, C. Zou, S. Burgold, J. Rietdorf, and J. Herms, "Correlation of two-photon in vivo imaging and FIB/SEM microscopy", Journal of Microscopy, Vol.259, No.2, pp.129-136(2015).
White Paper: Correlation of Two-Photon in Vivo Imaging and FIB-SEM Microscopy
https://applications.zeiss.com/C125792900358A3F/0/6DFAC2C199C442F2C1257B940048967E/$FILE/EN_41_011_048_corrmic_two-photon-in-vivo-fib-sem.pdf

(図は全てカールツァイス株式会社から提供された)


(古寺 博)

 

 

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