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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 平成28年度技術スタッフ表彰 若手技術奨励賞
粒径評価のための新規電顕画像解析法の提案
受賞者 名古屋大学 微細構造解析プラットフォーム 山本 悠太氏に聞く

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(左)若手技術奨励賞受賞の名古屋大学 山本 悠太氏
(右)副賞のバッジ 若手技術奨励賞


 文部科学省の推進するナノテクノロジープラットフォーム(NPJ)事業も5年目を迎え,装置や施設の活用により,学界や産業界における多くの研究開発が支援され,優れた成果が創出されている.組織にまたがる共同研究,産学連携,異分野融合の動きが活発化されてきた.そうしたプラットフォームが真に力を発揮するためには,最先端装置の利用者のニーズに対して装置能力を有効に引き出して最適なソリューションを提供できるような,技術スタッフの存在は極めて重要である.毎年nano tech weekに開催されるナノテクノロジー総合シンポジウムJAPAN NANOにおいてNPJは,優れた成果を挙げた技術スタッフを表彰し,その功績を讃えている[1].

 今年,JAPAN NANO 2017において,若手技術奨励賞を受賞したのは名古屋大学 微細構造解析プラットフォーム実施機関 副技師 山本 悠太氏である.電子顕微鏡の観測画像に適用して著しい画像改善効果を発揮する「粒径評価のための新規電顕画像解析法」を提案し[2],装置利用者の研究開発の進展に貢献している.この度,名古屋大学 未来材料・システム研究所 超高圧電子顕微鏡施設に,同氏を訪ね,提案された新画像解析法について伺うと共に,同施設利用者への支援活動について伺った.


1.名古屋大学微細構造解析プラットフォームにおける利用者支援活動

 名古屋大学は,文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」の3つの技術領域(微細構造解析,微細加工,分子・物質合成)に参画している.その中の,「微細構造解析プラットフォーム」(nanoplat)については,同大学 超高圧電子顕微鏡施設が管理している電子顕微鏡群と関連する試料作製装置群があり,それとは別にnanoplatを支援する教員の保有する装置がある.山本氏はその前者の利用者の支援を行っている.

 nanoplatでは,超高圧反応科学走査透過電子頭微鏡,冷陰極型収差補正電子顕微鏡,電界放出型収差補正電子顕微鏡,ホログラフィー電子顕微鏡,電子分光走査透過電子顕微鏡,電界放出型透過電子顕微鏡,走査電子顕微鏡の7台の顕微鏡装置を揃えており,金属・セラミックス・有機薄膜などの結晶構造解析,元素分析,電子状態解析,微小電磁場解析などについて,観察用試料の作製から得られた結果の解析まで,総合的に利用申請者を支援している.支援・利用形態には,次の4形態がある.

・技術補助:オペレータが補助,操作方法を指導しながら利用者が機器を操作する技術支援

・技術代行:オペレータが利用者に代行して装置を操作する技術支援

・共同研究:契約に基づき登録装置を用いて利用者と教員が共同で実施する成果公開型共同研究

・技術相談:利用者の技術的な相談に応えるコンサルタントとしての支援

 山本氏らはこれらの実施に必要となる電子顕微鏡画像の解析法で卓越した技術と成果を挙げている.


2.新画像解析手法提案の契機となったプラットフォーム利用者の課題

 今回の受賞の対象となった成果の課題は,「金触媒の粒径制御と触媒活性の粒径効果」の研究をされている名古屋大学工学研究科 教授 薩摩 篤氏と助教 大山 順也氏からの依頼に基づくものである.金は触媒活性がないと思われていたが,粒径が5nm以下になると活性が大きくなることが1989年に首都大学東京 教授 春田 正毅氏により発見されて以来,粒径と触媒としての活性との関係について様々な研究が行われてきている[3][4][5].今回の依頼は,HMF(2-hydroxymethyl-5-furfural)というバイオマスのセルロースから取れる有機化合物(図1の左の物質)を水素化反応で抗菌性化合物のBMH(2,5-bis(hydroxymethyl)huran:図1の右の物質)に変換する触媒に関するものである.この反応は,図1に示すように,二つの側鎖(-OH,=O)のうちのO終端に水素を結合させるもので,その際,触媒である金の粒径によるその活性の違いを調べるために,金の粒径を正確に把握することが課題であった.


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図1 課題の触媒の果たす役割


 依頼元の研究グループはこれまでに汎用装置である電子顕微鏡のエントリータイプでの観察を行ったが評価できなかったとのことで,より高精度で解析に適した電子顕微鏡の選定を行い,原子分解能HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM)観察が可能である電界放出型収差補正電子顕微鏡を使うこととした.次章に装置の概要と選定の理由を説明する.


3.利用する観察技術・装置

3.1 HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM)法

 評価する触媒はアルミナ(Al2O3)に金(Au)ナノ粒子を担持させたものであり,ナノ粒子を観察できる精度と共に,AlとAuを識別できることが必要であった.そこでHAADF-STEM法を採用することとした.TEM(透過型電子顕微鏡)は電子線を試料に当て,透過した電子線を電子レンズで像を結ばせ観察するのに対しSTEMは,図2に示すように電子線をプローブ状に集束して試料表面を走査して,透過電子を検出して,走査に合せてパターニングするものである.HAADF-STEMは,STEMの透過電子を図2に示す環状検出器で検出するもので,電子プローブの電子が試料を透過する電子のうち,図2右部分(吹き出し)に示す高角度に非弾性散乱した電子を検出する.散乱電子の量は散乱断面積に比例し,高角度に散乱した電子の量は原子番号Zの大きさに強く依存するので,環状検出器の出力で原子番号が異なる物質を識別できる(Zコントラスト像).即ち,担持触媒のAuと担体のAlを見分けることができる.図3にHAADF-STEMとTEMによる顕微鏡写真を比較して示す.なお,試料はカーボン膜上に,Auが分散したアルミナが載ったものである.


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図2 HAADF-STEM法の原理


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図3 (左)HAADF-STEMによる像 (右)透過電子顕微鏡像


3.2 電界放出型収差補正電子顕微鏡

 観察依頼に対しては金の微粒子のサイズを正確に評価する必要があり,図4に示す電界放出型収差補正電子顕微鏡を用いることとした.この電子顕微鏡は,熱陰極電子放射電子銃を搭載し,TEMとSTEMが可能であり,2重球面収差補正レンズを使用して,加速電圧200kVで,<70pmの直径の電子プローブを形成可能である.図5にこの装置を用いた原子分解能HAADF-STEM法によるアルミナにAuを担持した試料の観察例を示す.


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図4 電界放出型収差補正電子顕微鏡


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図5 原子分解能HAADF-STEMによるZコントラスト像


4.画像解析技術の提案

 上述の手法で観察したデータから,金の粒子のサイズと触媒活性の関係を把握するためには,得られた画像から金の粒子サイズを定量的統計データとして把握する必要がある.その作業を人手で行う場合は,大量の画像を処理するために膨大な時間がかかることや,解析結果の個人依存性,恣意性や再現性に疑問がもたれる等の問題がある.そこで,機械的に処理でき,コンピュータが活用できる画像処理・解析技術が求められる.以下にこれに対処する適用可能な従来技術と,新しい提案技術を説明する.

4.1 従来技術の適用と問題点

(1)しきい値処理

 従来からよく使われているしきい値処理は,図6に示すように,画像の濃淡にしきい値を設定し,それより濃いか薄いかで2値にしてデータのコンピュータ処理を容易にする手法である.問題は,しきい値の設定によって,小さい粒子が消えてしまったり,逆に粒子が大きくなって隣りと繋がってしまったり,という問題が生じる.


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図6 しきい値処理によりバイナリー像に変換した例


(2)ぼかしフィルター処理

 元画像とそれをぼかした画像との差分により,像のバックグラウンドを処理する方法である.この後,しきい値処理を行い粒子を抽出する.図7にアルミナに金粒子を担持した例を示す.図右に示すように,かなりよく粒子を取りだすことができるので,この方法の使用例は多い[6][7].しかし,今回依頼の課題では,この方法でも粒子が取りだせなかった.


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図7 ぼかし処理の例(金担持アルミナ).左:元画像,中央:ぼかし画像,右:差分画像


4.2 モフォロジー演算画像処理の適用の提案

 以上のことから,モフォロジー演算を利用するという,これまでにない手法を考えた.モフォロジー演算では,先ず図8のa,bに示すように,構造化要素というものを決めて(図中の円;一般に形・大きさは適宜に定義できる),構成化要素の中心を画像内の対象物の縁に沿って走査させる.構成化要素の外側の軌跡を使うのを膨張処理(図a),内側の軌跡を使うのを縮小処理(図b)と云う.この二つを組み合わせて使うと次のような効果が生まれる.最初に縮小処理を行った後,膨張処理を行うのをオープニング処理(図c)という.この処理を行うと,図に示すように構造化要素より小さい図形が削除される.また,最初に膨張処理を行った後,縮小処理を行うのをクロージング処理(図d)という.この処理を行うと,構造化要素より狭い図形間の溝を埋めることができる.


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図8 モフォロジー画像処理の原理説明


 今回の依頼に対して,原子分解能HAADF-STEMで得られた画像に上記モフォロジー演算を適用することのより,応えることができた[8].次章で依頼の課題に対して,新規画像処理法を適用した結果を紹介する.


5.課題への新規電顕画像解析法の適用 [8]

 アルミナに担持された金粒子の寸法を定量的に把握するための,新規電顕画像解析法の適用過程を,図9により説明する.①は,高分解能HAADF-STEMによるZコントラスト像である.金単原子およびサブナノクラスターを担持したアルミナが見えている.②は,①に平滑フィルター処理をしてノイズを低減させた像.③は,モフォロジー演算のオープニング処理によリ金粒子を見えなくしたバックグラウンド像,④は,②から③を差し引いた金のクラスター像,⑤は,④を二値化したものである.この像に対して図10に示すようにモフォロジー演算のクロージング処理とオープニング処理を施し,更に,金クラスターについては,電子プローブサイズで生ずる誤差を縮小処理により補正し,また,金単原子の実寸法は画像上のサイズより大きいので、その誤差を膨張処理で補正したものを最終画像とする.最後に統計処理を行うために,最終画像の金クラスターの面積と同じ面積の円の直径を求めて,これをクラスターの粒径とした.図9の⑥にこうして求めた粒径を,50枚の画像について測定した結果の分布を示す.


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図9 新規電顕画像解析法をアルミナに担持された金粒子の解析に適用した例


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図10 バイナリー像(図9の⑤)に対してモフォロジー演算を行う.


 原子分解能HAADF-STEMの使用と,本画像解析法の適用により,ナノテクノロジープラットフォーム利用者の課題解決への支援を行うことができた.この支援を受けた薩摩篤氏の研究グループは,グループの研究課題であるHMFやベンゾアルデヒド,ニトロベンゼンの水素化反応における,金触媒の反応の活性点と各反応に効果的な金の粒径を発見し[9],また,アルミナに鉄を加えて金触媒を担持することで,HMFの水素化反応において効果的な粒径の金粒子を選択的に調整し,触媒の活性向上に成功する[10]などの研究成果を挙げている.

6.プラットフォーム支援事業への想い

 山本氏は自身の仕事への想いについて次のように語っている.

「この施設にある電子顕微鏡類全部について,ユーザーの支援を行っており,ユーザーが上手く観察できない場合に,解決に向けた具体的アドバイスをしたいので,各装置の使い方や試料の準備の仕方について一定の水準以上に理解している必要がある.
 2011年に技術職員としてこの施設に着任した時に,先輩から,先端設備を共同利用装置として有するこの超高圧電子顕微鏡施設で一人前のスタッフと認められるには10年の修行が必要であると云われた.日々行っている仕事や勉強のなかで,自分が一人前になる過程を踏んでいるのか気になりながら過ごしてきたが,今回の受賞を受けたことで,自分がこれまで試行錯誤しながら進めてきたことが,的外れでないことが分かって嬉しい.修業期間は,まだ三分の一ほど残っているが,この受賞を励みに,これからもう一回りも二回りも成長したいと思っている.そうした研鑚がナノテクノロジープラットフォームにも役立つことになると考えている.」

 今回はプラットフォームのユーザーからもらった難しい課題があって,それを克服する努力が実を結んだ.「これからも,ユーザーからいろいろな課題をもらって挑戦して行きたい.」と,山本氏は語った.


おわりに

 ナノテクノロジープラットフォームの最先端装置の持つ性能と機能の共用によって,従来技術では不可能であった微細領域での材料解析ができ,研究開発が大きく進展する例を伺った.プラットフォームは多くの利用者で多忙のようであり,これによる学界,産業界に於ける研究開発促進効果は測り知れない.

 また,そこで利用者を支援する技術スタッフの活動が,プラットフォームの存在価値を高めていることが実感された.特に,今回の山本氏の場合では,利用者の持つ課題に挑戦することで,電子顕微鏡の出力画像解析の新手法を創出した.利用者の研究成果への貢献は勿論のことであるが,ナノ粒子の構造解析の標準的一手法を提言したものと評価されよう.


参考文献

[1] 「ナノテクノロジープラットフォーム 技術スタッフ表彰」NanotechJapan , 成果事例・表彰.
http://nanonet.mext.go.jp/award/
[2]「粒径評価のための新規電顕画像解析法の提案」NanotechJapan , 成果事例・表彰, 若手技術奨励賞.
http://nanonet.mext.go.jp/research_support_award/H28_Award_3.pdf
[3] M. Haruta, N. Yamada, T. Kobayashi, and S. Iijima, “Gold catalysts prepared by coprecipitation for low-temperature oxidation of hydrogen and of carbon monoxide”, Journal of Catalysis, Vol. 115, pp. 301-309 (1989).
[4] N. Dimitratos, J.A. Lopez-Sanchez, D. Morgan, A. Carley, L. Prati, G. and J. Hutchings, “Solvent free liquid phase oxidation of benzyl alcohol using Au supported catalysts using a sol immobilization technique”, Catalysis today Vol. 122, No. 3, pp. 317-324 (2007).
[5] Y. Liu, H. Tsunoyama, T. Akita, S. Xie, and T. Tsukuda, “Aerobic oxidation of cyclohexane catalyzed by size-controlled au clusters on hydroxyapatite: Size effect in the sub-2 nm regime”, ACS Catalysis, 2011, No. 1, pp. 2-6 (2011).
[6] C. Lohr, A. H. Kunding, V. K. Bhatia, D. Stamou, “Constructing size distributions of liposomes from single-object fluorescence measurements”, Methods in Enzymology, Vol. 465, pp. 143-160 (2009).
[7] S. Iwabuchi, Y. Kakazu, J. Y. Koh, and N. C. Harata, “Evaluation of the effectiveness of Gaussian filtering in distinguishing punctate synaptic signals from background noise during image analysis”, Journal of Neuroscience Methods, Vol 223, pp. 92- 113 (2014).
[8] Yuta Yamamoto, Shigeo Arai, Akihiko Esaki, Junya Ohyama, Atsushi Satsuma, and Nobuo Tanaka, “Statistical distribution of single atoms and clusters of supported Au catalyst analyzed by global high-resolution HAADF-STEM observation with morphological image-processing operation”, Microscopy,Vol. 63, No. 3, pp. 209-218 (2014).
[9] Junya Ohyama, Akihiko Esaki, Taiki Koketsu, Yuta Yamamoto, Shigeo Arai, and Atsushi Satsuma , “Atomic-scale insight into the structural effect of a supported Au catalyst based on a size-distribution analysis using Cs-STEM and morphological image-processing”, Journal of Catalysis, Vol. 335, March, pp. 24-35 (2016).
[10] Junya Ohyama, Yoshinori Hayashi, Kakuya Ueda, Yuta Yamamoto, Shigeo Arai, and Atsushi Satsuma, “Effect of FeOx Modification of Al2O3 on Its Supported Au Catalyst for Hydrogenation of 5-Hydroxymethylfurfural”, Journal of Physical Chemistry C,Vol. 120, No. 28, pp 15129-15136 (2016).

 本文中の図は全て山本 悠太氏から提供されたものである.


(向井 久和)