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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 平成27年度秀でた利用6大成果
複合金属酸化物ナノワイヤの合成と構造解析
首都大学東京 村山 徹,神奈川大学 Zhang Zhenxin,広島大学 定金 正洋,神奈川大学 上田 渉
北海道大学 坂口 紀史

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(左から)首都大学東京 村山 徹,神奈川大学 Zhang Zhenxin,広島大学 定金 正洋,
神奈川大学 上田 渉,北海道大学 坂口 紀史

1.はじめに

 ナノワイヤ(断面積が10nm×10nm程度であり,長軸方向へ繰り返し構造を有する)は,高表面積を有していること,およびユニークな構造特性によってもたらされる量子力学的挙動などで注目されている.ナノワイヤを形成する化合物として,金属化合物[1],半導体化合物[2][3][4][5][6][7][8][9][10],金属酸化物[11][12][13],有機ポリマー[14][15][16][17]等の種々の化合物が知られており,機能材料や機能デバイスとして触媒[18],各種センサ[13],トランジスタ[2][5],半導体[3],フォトニクスデバイス[7][11],および太陽電池[4][6]の分野に応用されている.様々なタイプのナノワイヤのうち,特定の軸に沿った単一の分子単位の繰り返しによって成長する分子ナノワイヤの合成が注目されている.分子ワイヤの最も一般的な例は,有機または有機金属ポリマーであり[14][15][16][17],ナノテクノロジー,半導体,電気化学,および細胞生物学に広く応用されている.

 我々は,全てが無機化合物から成る分子ワイヤに注目した.無機化合物は,熱的,機械的に安定であり,化学組成の制御により化学特性が調整できるという利点を有する.しかしながら,これまで全て無機物から成る分子ワイヤ報告例はほとんどなかった.無機分子ワイヤの唯一の例は,Mo6S9-xIx分子ユニットをc軸方向に沿って集積させたMo6S9-xIx分子ナノワイヤである[19][20].この材料は,優れた電子輸送能,磁気特性,機械特性,摩擦特性,及び光学的特性を示し,化学センサ,バイオセンサ,電界放出素子,複合材料,潤滑剤,非線形光制限材料,リチウム電池,分子スケールのコネクタなどに応用されている.

 これまでの研究において,我々は遷移金属の酸素八面体のユニットの集積により,3D規則的多孔体構造を合成できることを報告してきた.また,この方法によって,0D分子ナノドット(ポリオキソメタレート(POM))および,2次元分子ナノシートが得られることが報告されている[21][22][23][24][25].この遷移金属の酸素八面体のユニットの集積によりナノ構造材料を形成するアプローチが,無機分子ワイヤの合成に適用できると考えた.このような遷移金属八面体構造で組み立てられた分子ナノワイヤは,これまで報告されていない.

 POMは,遷移金属の酸素八面体をベースにし多次元の金属酸化物を構成するための理想的なサブユニットであり,POMをベースとした無機化合物の結晶構造の例が報告されている[26][27][28].しかし,遷移金属酸化物から成る無機物の分子ワイヤを単離した例は報告されていない.今回我々は,[XIVMoVI6O21]2-(X=Te又はSe)で構成されるユニットがc軸方向に積層した遷移金属酸化物の分子ワイヤの集積体である結晶性Mo-Te酸化物または結晶性Mo-Se酸化物の合成を報告する.結晶性Mo-Te酸化物は,全て無機物から成るナノワイヤの単離が可能である.Mo-Te酸化物のナノワイヤは,酸触媒として活性を有しており,熱処理によりバンドギャップが容易に制御できることから,触媒及び電子デバイスなど様々用途に応用できる可能性がある[29].

 このナノワイヤの様な微小スケールの分析は,高分解の透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡での観察が必要不可欠である.我々は,これら微細構造の分析について前身であるナノテクノロジーネットワーク,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業・微細構造解析プラットフォーム(北海道大学)を利用して種々の装置を積極的に活用させて頂いている.本稿では,ナノテクノロジープラットフォーム事業の支援により得られた成果の中から,ナノワイヤ集積体である結晶性Mo-Te酸化物および結晶性Mo-Se酸化物の合成と,酸化物からナノワイヤを単離した結果について紹介する.


2.実験

2.1 Mo-Te系酸化物の合成

 (NH4)6Mo7O24・4H2O(1.766g,Mo10mmol)を水20mLに溶解させ,Te(OH)6(0.391g,1.7mmol)を加えた(溶液A).VOSO4・5H2O(0.6438g,2.5mmol)を水20mLに溶解させた(溶液B).溶液Bを溶液Aに素早く加え10分間撹拌した後,N2で10minバブリングした.混合溶液を50mLのテフロンライナーに移し,ステンレス製オートクレーブにて448Kにて24h水熱合成を行った.オートクレーブを室温に冷却した後,得られた固体を濾過により溶液から回収した.得られた固体を水10mLで3回洗浄し,353Kにて一晩乾燥し,Mo-Te酸化物を得た(Mo基準の収率:58%).元素分析結果:計算値N2Mo6Te1O24H14; N,2.48; Mo, 50.98; Te, 11.30; H, 1.24; V, 0, 実験値: N, 2.49; Mo, 51.59; Te, 11.13; H, 1.22; V, 0.

 低温にてMo-Te酸化物結晶を合成する場合,上記と同様に調製した溶液を密閉し,約3ヶ月間冷蔵庫内で保存した.Mo-Te酸化物の結晶を遠心分離(3500rpm,5min)により回収した.この時のMo-Te酸化物の収率は0.3%(Mo基準)であった.


2.2 Mo-Se酸化物の合成

 (NH4)6Mo7O24・4H2O(1.766g,Mo10mmol)を水20mLに溶解させ,SeO2(0.189g,1.7mmol)を加えた.溶液のpHをH2SO4(1M)を用いて2.8に調節し,溶液を室温で10分間撹拌した(黄色固体が生成).続いて,N2で10minバブリングした後,混合溶液を50mLのテフロンライナーに移し,ステンレス製オートクレーブにて448Kにて24h水熱合成を行った.オートクレーブを室温に冷却した後,得られた固体を濾過により溶液から回収した.得られた固体を水10mLで3回洗浄し,一晩,353Kで乾燥し,Mo-Se酸化物0.17gを(9.6%の収率)を得た.元素分析結果:計算値N2Mo6Se1O23H12;N, 2.64; Mo, 54.17; Se, 7.43; H, 1.13, 実測値: N, 2.72; Mo, 54.19; Se, 7.58; H, 1.25.


2.3 プロトンとのイオン交換処理

 Mo-Te酸化物又はMo-Se酸化物(0.9g)を水24mL中に分散させ,塩酸(36%,2mL)を溶液に添加し,15h攪拌した.得られた固体を濾過により回収し,室温で乾燥させた.元素分析結果,計算値N1.1Mo6Te1O26H15.3(H-Mo-Te酸化物); N, 1.34; Mo, 50.06; Te, 11.10; H, 1.33, 実験値:N, 1.44; Mo, 50.34; Te, 11.18; H, 1.51.元素分析結果N1.1Mo6Se1O27H17.3(H-Mo-Se酸化物); N, 1.38; Mo, 51.43; Se, 7.05; H, 1.55, 実験値:N, 1.52; Mo, 51.68; Se, 7.05; H, 1.58.


2.4 分子ワイヤの分離

 H-Mo-Te酸化物またはH-Mo-Se酸化物(5mg)をエタノール5mLに分散させ1h超音波処理(200W,37キロヘルツ)した.その後,溶液を3500rpm(2h)にて遠心分離した.コロイドの上部50%をキャラクタリゼーションに利用した.溶液中の残りの固体重量を測定することにより,コロイド溶液には約2wt%のH-Mo-Te酸化物のナノ粒子が含まれることを確認した.


2.5 触媒活性の評価

 触媒(0.1g)をエタノール5mLに分散させた.酢酸(0.1mL)およびデカン(0.1mL)をエタノール溶液に加え,365Kにて反応を行った.生成物は水素炎イオン化検出器(GC-FID)を用いて分析し,転化率は酢酸基準で計算した.全ての実験において,カーボンバランスは95%以上,酢酸エチル選択率は99%以上であった.


2.6 サンプルの熱処理

 Mo-Te酸化物(0.1g)を設定温度にて1h,N2流通下(180mL min-1)にて熱処理した.


2.7 キャラクタリゼーション

 微細構造の測定は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業・微細構造解析プラットフォーム(北海道大学)の装置を利用して行った.走査型電子顕微鏡(SEM)による形状測定は,超薄膜評価装置(HD-2000,日立)を用いて行った.透過型電子顕微鏡による高分解能の結晶構造像測定は,JEM-2010F(200-kV TEM,JEOL)にて行った.その他のキャラクタリゼーションは,既報の文献に従って行った.[18]


3. 結果と考察

3.1 酸化物の合成とキャラクタリゼーション

 水熱条件下においてMo前駆体の(NH4)6Mo7O24・4H2Oと,SeIVまたはTeIVイオンとを反応させ,Mo-Se酸化物またはMo-Te酸化物を合成した.前駆体のSe,Teイオンの酸化状態はIV価であることが重要であり,Mo-Se酸化物は,(NH4)6Mo7O24・4H2OとSeIVO2溶液の水熱合成により容易に得ることができた.Mo-Te酸化物を合成する場合,水溶性のTeVI(OH)6に還元剤(VOSO4・5H2O)を加えTeIVイオンを生成することにより,目的のMo-Te酸化物が得られた.

 得られた酸化物のMo,Te及びSeの酸化数は,X線光電子分光法(XPS)の結果,各々MoVI,TeIV,SeIVであった.Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物の紫外-可視(UV-vis)のスペクトルにおいても,MoVに起因する500~600nmの吸収は観測されず,酸化物中のMo種はMoVIとして存在することを確認した.元素分析,XPS,およびエネルギー分散型X線分光法(EDX)により,Mo-Te酸化物には前駆体溶液に加えたV種が存在しないことを確認した.従って,V種は酸化物を形成せずにTeVI(OH)6をTeIVイオンとする還元剤として作用したと考えられる.Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物の粉末X線回折(XRD)パターンを図1に示す.Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物は三方晶に指数付けされ,格子定数はa=12.48Å,c=3.94Å(Mo-Te酸化物),a=12.51Å,c=3.93Å(Mo-Se酸化物)であったため,2つの酸化物は類似の構造であると示唆された.Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物の赤外(FT-IR)スペクトルも類似しており,両者共に水和水のH2O(1,620cm-1)および前駆体由来のNH4+(1,400cm-1)が存在した.H2OおよびNH4+の存在は,昇温脱離質量分析法(TPD-MS)およびTG-DTAによって定性・定量をした.これら結果と元素分析結果を合わせると,Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物の元素比はMo:Te:NH4+:H2O=6:1:2:3,Mo:Se:NH4+:H2O=6:1:2:2であった.


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図1 水熱合成により得られたMo-Te酸化物(a)およびMo-Se酸化物(b)のXRDパターン,
およびリートベルト解析の結果(a, Rwp=7.06%; b, Rwp=7.49%).挿入図は高角度側の拡大図.


 合成した酸化物の走査型電子顕微鏡(SEM)を図2に示す.Mo-Te酸化物およびMo-Se酸化物の形態は異なっており,Mo-Te酸化物が棒状粒子であったのに対し,Mo-Se酸化物は板状粒子であった.水熱合成により得られたMo-Te酸化物及びMo-Se酸化物は,単結晶構造解析に用いるには小さかったため,低温にて結晶化する方法を用いて,比較的大きなMo-Te酸化物の単結晶を得た.この低温で得られたMo-Te酸化物のXRDおよびFT-IRは,水熱合成で得られたMo-Te酸化物と同様であり,基本構造が同一であることを確認した.


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図2 (a)水熱合成したMo-Te酸化物,(b)水熱合成したMo-Se酸化物,
および(c)低温にて結晶化したMo-Te酸化物


 低温で得られたMo-Te酸化物の元素分析および単結晶X線構造解析から得られた構造を図3に示した.a-b面方向から見ると6つのMoO6八面体がTeイオンの周りに配置し,[TeIVMoVI6O21]2-の分子ユニットを形成することが分かった(図3a,b).この[TeIVMoVI6O21]2-ユニットは,2つのMoO6八面体ユニットが稜共有で接合して2量体を形成し,2量体が頂点共有した六角形構造であった.Teはユニットの中心に位置し,3つの酸素原子に配位していた.六角形[TeMo6O21]2-ユニットは,MoO6八面体ユニットが頂点共有でc軸方向に積層し分子ワイヤを形成していた(図3c).Te間の距離は3.94Åであるため,Te間には相互作用はないと考えられる.分子ワイヤは図3dに示すように規則的に配列しており,分子ワイヤ間にNH4+とH2Oが配位していた.この,ナノワイヤの幅は約1.2nmであった.


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図3 得られた酸化物のモデル図.(a)[TeIVMoVI6O21]2-または[SeIVMoVI6O21]2-ユニットの多面体図(b)[TeIVMoVI6O21]2-または[SeIVMoVI6O21]2-のBall-and-Stick表記,(c)Mo-Te酸化物の分子ワイヤ.(六角形ユニットを結ぶ架橋酸素原子を黄色で示す.) (d)結晶性Mo-Te酸化物(またはMo-Se酸化物)(分子ワイヤが集積し規則的に配列する.)Mo:青色,Te(Se):茶色,O:赤 .

 SEM画像よりMo-Te系酸化物結晶のサイズ分布の結果を図4に示した.棒状粒子の幅は50~200nm(極大値150nm)であり,長さは500~3,000nm(極大値1,500nm)であった.これは,3,800以上の六角形[TeMo6O21]2-ユニットがc軸方向に沿って蓄積されたことを示す.


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図4 SEM像より得られたMo-Te酸化物結晶のサイズ分布,
およびTEM像より得られたH-Mo-Teナノワイヤのサイズ分布.(粒子カウント数:800個)


 水熱合成で得られたMo-Te酸化物およびMo-Se酸化物の構造を,低温にて得られたMo-Te酸化物の構造に基づきXRDパターンのリートベルト解析を用いて計算を行った(図1).リートベルト解析による酸化物のシミュレートパターンは,実験データと一致し,Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物のRwp値は,各々7.06%および7.49%であった.これら基本構造は低温にて得られたMo-Te酸化物と同じであり,また,不純物ピークは観察されず単一の結晶相であった.これらの結果より,Mo-Te酸化物の化学式は,(NH4)2[TeIVMoVI6O21]・3H2Oと表記され,Mo-Se酸化物の化学式は,(NH4)2[SeIVMoVI6O21]・2H2Oと表記できる.以上のように,Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物は,[XIVMoVI6O21]2-(X=Te,Se)モノマーがc軸方向に積層したナノワイヤが規則的に集積した,無機ポリマーでの集合体であった.


3.2 結晶からの分子ワイヤの単離

 結晶の配向がMo-Te酸化物及びMo-Se酸化物結晶では異なるため,高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)により,各酸化物の異なる格子面を観察することができた(図5).Mo-Te酸化物では,分子ワイヤが約1.1nmの距離でc軸方向に平行に規則的に配列しており,[TeMo6O21]2-ユニット間の距離は約0.4nmであった.Mo-Se酸化物では,a-b面方向から分子ワイヤが観察でき,六角形の[SeMo6O21]2-ユニットが規則的に配列しているのが分かった.これらのHR-TEM画像は,構造解析の結果とよく一致した.


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図5 Mo-Te酸化物およびMo-Se酸化物のHR-TEM像,および多面体構造図.


 結晶中の分子ワイヤの単離を試みた.まず,H+によりNH4+のイオン交換処理を行い(H-Mo-Te酸化物,H-Mo-Se酸化物),XRD,FT-IRおよび元素分析を行った.その結果,NH4+の約半分がH+によって置換され,Mo-Te酸化物およびMo-Se酸化物に特徴的なIRスペクトルは変化せずに,分子ワイヤ間が拡大したことが分かった.これは,プロトン交換により,酸化物結晶から分子ワイヤがとれたことを示す.次に,H-Mo-Te酸化物をエタノール中に分散させ超音波処理したところ,超音波処理後のサンプルのHR-TEM観察により,1.5nmの幅を有する分子ワイヤが観察できた(図6c).さらに,単離したH-Mo-Te酸化物のナノワイヤを原子間力顕微鏡(AFM)によって観察したところ(図6d),ワイヤ状の粒子が確認され,その厚みが約1.2nm(i)と約4.8nm(ii)であり,構造解析やTEM画像から得られたワイヤの幅(ワイヤ1層の厚みと4層の厚み)と一致した.そのモデル図を図6fに示した.ワイヤ粒子に比べAFMカンチレバーが大きいため,AFM像にてワイヤ粒子の幅の正確な値を見積もることは困難であった.

 同様に処理したH-Mo-Se酸化物コロイドのTEM(図6i)及びAFM(図6j)の画像は,H-Mo-Te酸化物とは異なり,六角形状のナノプレートであった.ナノプレートの厚さは約1.6nmであり(図6k),(NH4)1.1[H0.9SeMo6O21]ユニットがc軸方向へ4層分積層した厚さに相当した(図6l).

 以上のように,分子ワイヤが規則的に集積したMo-Te酸化物及びMo-Se酸化物は,酸によるプロトン交換処理と超音波処理をすることで,構造中の分子ワイヤを容易に単離することができた.


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図6 Mo-Te酸化物およびMo-Se酸化物のプロトン処理および超音波処理による分子ワイヤの単離プロセス.((a)Mo-Te酸化物からの分子ワイヤの単離の模式図,(b)H-Mo-Te酸化物のSEM像,(c)H-Mo-Te酸化物コロイドのHR-TEM像,(d)H-Mo-Te酸化物コロイドのAFM像,(e)AFM像のラインプロファイル,(f)AFM像より得られた構造の模式図.(a-b面の最上層のMoを黄色で示した),(g)Mo-Se酸化物からのナノプレートの単離の模式図,(h)H-Mo-Se酸化物のSEM像(i)H-Mo-Se酸化物コロイドのHR-TEM像,(j)H-Mo-Se酸化物コロイドのAFM像,(k)AFM像のラインプロファイル,(l)AFM像より得られた構造の模式図.(a-b面の最上層のMoを黄色で示した))



3.3 H-Mo-Te系酸化物ナノワイヤの酸触媒作用

 ナノ材料は,大きな比表面積を有するため触媒反応への応用が期待できる.前述の通り,Mo-Te酸化物中のNH4+の約半分はH+に置換できたため,この酸化物は酸性質を有すると考えられる.H-Mo-Te酸化物を触媒として用い,酢酸とエタノールのエステル化反応を365Kで行った結果を図7に示す.超音波処理を行っていない(分子ワイヤが集積した)H-Mo-Te酸化物を用いたところ,反応時間22hにおける酢酸の転化率は17%であり,無触媒での反応(11%)とあまり変化なく低活性であった.超音波処理後のH-Mo-Te酸化物ナノワイヤの触媒活性は,転化率が58%と大きく向上した.既存の均一系の酸触媒であるH3PW12O40(30%)やH3PMo12O40(38%)と比較しても高い活性を有していた.H-Mo-Te酸化物ナノワイヤはコロイド状であり,活性のわずかな減少があるものの3回リサイクルが可能であった.


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図7 エタノールと酢酸のエステル化反応.(反応条件:触媒 0.1mg,エタノール5mL,酢酸 0.1mL,デカン(内部標準)0.1mL,反応温度 365K(酢酸エチルへの選択率>99%,カーボンバランス>95%))



3.4 Mo-Te系酸化物のバンドギャップの制御

 一次元ナノ構造材料は,機能性材料や導電性材料としてナノエレクトロニクスの分野への応用も期待されている.また,ナノ構造を有するモリブデン酸化物は,電子デバイスへの応用も報告されている.Mo-Te酸化物は,ナノワイヤの集積体であるため,このような電子デバイスへの応用が期待できる.電子材料用途においては,電気伝導が重要であるが,α-MoO3のような6価のモリブデン酸化物は,大きなバンドギャップ(>2.7eV)を有しており,導電性が不十分なため半導体としては適さない.この場合,還元反応によってMoVIを生成し,酸化物のバンドギャップを減少させる処理が必要である.

 Mo-Te酸化物は,単純な熱処理により還元剤を用いずにMoの酸化状態をコントロールし,バンドギャップを連続的に調節することができる.Mo-Te酸化物を,N2気流下にて473K~573Kで処理したところ,分子ワイヤ間に存在するH2OやNH3(NH4+由来)の脱離によって,間隙が縮小したものの基本的な構造に変化は生じなかった.

 Mo-Te酸化物は,熱処理温度の増加により徐々にMoの還元種の生成に伴い青味を帯びた色に変化した.UV-visスペクトルにおいてもこの変化の様子が確認できた(図8a).UV-visスペクトルからバンドギャップを算出したところ,Mo種の還元に伴いバンドギャップが減少したことを示した(図8b).熱処理前のMo-Te酸化物のバンドギャップは2.93eVであり,熱処理後のバンドギャップは2.28eVに低下した.


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図8 (a)DR-UV-vis スペクトル(b) vs. (α)2のプロット(α:吸収係数).
(挿入図:熱処理温度とバンドギャップの関係)


4.まとめ

 SeIVまたはTeIVとMo-O八面体による遷移金属酸化物ベースの分子ワイヤ({(NH4)2[XIVMoVI6O21]}n)を合成することに成功した.Mo-Te酸化物及びMo-Se酸化物の構造は,単結晶X線分析およびXPS,FT-IRと結合粉末XRDリートベルト解析,元素分析によって決定した.

 金属酸化物の分子ワイヤは酸触媒活性を示し,分子ワイヤを用いた不均一触媒の利用が期待できる.また,熱処理によりバンドギャップを容易に変化できることも明らかとなった.これら分子ワイヤベースの材料は,サーモクロミック材料,半導体,ならびに他の関連分野での応用が期待できる.


謝辞

 本研究成果は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業・微細構造解析プラットフォーム(北海道大学)の支援を受けて実施されました.この場をお借りして厚く御礼申し上げます.


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(首都大学東京 村山 徹)


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