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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 平成27年度秀でた利用6大成果
音響光学フィルタの開発
長野計器株式会社 小林 広樹,藤田 圭一,ミマキ電子部品株式会社 堀田 一,株式会社オプトハブ 峯尾 尚之
東北大学 森山 雅昭,鈴木 裕輝夫,戸津 健太郎

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(左から) 長野計器株式会社 小林 広樹,藤田 圭一,
ミマキ電子部品株式会社 堀田 一,
株式会社オプトハブ 峯尾 尚之

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(左から) 東北大学 森山 雅昭,鈴木 裕輝夫,戸津 健太郎


1.はじめに

 近年,高速道路や鉄道の橋梁やトンネルの経年劣化による安全性信頼性低下が顕在化してきている.このような状況の中,インフラ設備の劣化具合等の健全度を監視することは,保全作業などに対する負担を大幅に軽減することが可能となると同時に,災害時などでの迅速な健全度監視ニーズにも対応が可能となる(図1).これらインフラの健全度監視のため光ファイバセンサ(FBGセンサ:Fiber Bragg Grating)が検討されている.


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図1 インフラ監視システム

 FBGセンサは一つの光ファイバに複数の測定箇所を製作でき,多点計測が可能になる他,電源の供給が必要ないので設置が容易である.また,本質的に外来ノイズの影響を受けないなどインフラ構造物の監視用センサとして優れている.

 一方,このようなFBGセンサを用いた測定には各センサに応じた波長の光を発生し,測定信号(光)を受け取る光波長測定装置が必要であるが,現在の光波長測定装置は非常に高価であり,普及には大きな障害となっている.そのため,低コストでありながら,信頼性の高い光波長測定装置が求められている.音響光学素子フィルタ(AOTF:Acousto-Optic Tunable Filter)を用いた光波長測定装置は,ソリッドステートな構造を持つため信頼性が高く,低コストな測定装置である.

 AOTF製造には微細加工技術が必須であり,2013年度より文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細加工プラットフォーム)の豊富な微細加工装置群を活用させていただき,AOTF製造プロセスの開発を行っている.本稿では開発したAOTF製造プロセスと開発品である光波長測定装置等について紹介する.


2.AOTFの開発

2.1 AOTFについて

 AOTFは通常XカットLiNbO3を基板とし,結晶軸y方向に光と表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)を伝搬させることによってAO効果を生じさせる.通常,光導波路は7µm程度に細長くパターニングされたTiを熱拡散させることによって形成される.SAWはAuをパターニングした周期20µm程度の櫛歯電極(IDT:Inter Digital Transducer)によって励振される.

 このデバイスはAO効果による波長選択的なTE/TMモードの偏波回転を利用しており,モード変換器の前後に偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)を配置することによって波長フィルタとして機能する.[1]

 モード変換される波長λ,すなわち透過波長λは櫛歯電極に印加するRF周波数によって決定される.その関係は式(1)で表す位相整合条件によって導き出される.また,透過波長のFWHMであるが,これは相互作用領域の長さと相関があり,式(2)で表される.[2]


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λ:光波長
N:屈折率
Λ:SAW波長
f:RF周波数
v:SAW速度


 ここで,Na,NbはそれぞれTE/TMモードの屈折率で,この場合は約2.14と2.22であり,SAW速度Λは約3600m/sである.通信波長帯である1550nm付近の波長λを選択する場合,シミュレーションの結果,印加すべきRF周波数は170MHz付近となる(図2).目標FWHMを1nm以下とした場合,相互作用長Lは30mm以上と導き出される(図3).


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図2 印加RF周波数fと透過波長λのシミュレーション結果


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図3 相互作用長Lと透過波長のFWHMのシミュレーション結果


2.2 AOTF製造プロセス

 AOTF製造プロセスは表面弾性波のガイドを形成するSAWガイドプロセス,光導波路プロセス,櫛歯電極プロセス等の微細加工プロセスから成る(図4).これらの微細加工プロセスは東北大学微細加工プラットフォームの豊富な装置群の活用や,装置改良等の柔軟な対応により行われた.また,各プロセスの条件出しについても豊富な知見やアドバイスを頂き,行われた.


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図4 AOTF製造プロセス概要図


 最初にSAWガイドパターニングをフォトリソ工程により形成し,Ti蒸着後,リフトオフによりSAWガイドを形成する.熱拡散にはArとO2ガスを用いる.これらのガスを温水中に通し,水蒸気を含ませ炉内に導き,熱拡散を行った.同様の手順で光導波路プロセスを行い,LiNbO3基板上に光導波路を形成した.

 その後,櫛歯電極パターニングをフォトリソ工程により形成し,Au蒸着後リフトオフを行い櫛歯電極を形成した.[3][4]

 製作したAOTF(図5)にRF信号を印加した結果,特定の光波長を選択的に出力できることを確認した(図6).


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図5 AOTFチップ


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図6 RF信号に応じて出力される光波長


3.AOTFを用いた製品開発

3.1 光学モジュール,波長掃引光源モジュールの開発

 光学モジュールは,製造したAOTF,偏光子やミラー等の光学部品を一体化したものである(図7).発熱によりアライメントが変化し,光学的な損失の変動が発生するため,筐体の材質にAOTF(16.7×10-6/℃)と線膨張係数が近いSUS304(17.3×10-6/℃)を用いることにより,アライメントの変化を少なくしている.また,光学部品の固定を接着剤から溶接に変更したことによって,振動や熱によるアライメントのずれが生じにくい構造となっている.


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図7 光学モジュール外観


 波長掃引光源モジュールは,光学モジュール,ASE光源,電気制御回路で構成されている(図8).ノイズの発生源となるRF信号発生器,RFゲイン調整器,RFアンプをシールドケース内に収め,波長掃引光源モジュールケース内の信号増幅部への影響を少ない構造としている.高周波発生部は,発生信号周波数を1kHz以下の分解能で設定可能で自動掃引が可能なDDS(Direct Digital Synthesizer),ATT(Attenuator),周波数増幅を行うRF AMPで構成されている.電源は,一般産業用途24Vやバッテリ駆動を考慮して9~36VDCの範囲で使用可能な設定とした.


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図8 波長掃引光源モジュール内部


 波長掃引光源モジュールの波長掃引範囲,掃引スペクトルの測定を行った評価試験結果,開発仕様を満たしていることを確認した(表1).


表1 波長掃引光源モジュール開発仕様と評価試験結果
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3.2 光波長測定装置の開発

 光波長測定装置はFBGセンサの出力を測定し,変位・歪み・圧力・加速度などの物理量に変換,上位システムと接続するハブとしての役割を持つ(図9).インフラ維持管理分野や工業分野での測定に必要な開発仕様とした(表2).また,小型・低価格によるシステム導入コストの低減,物理量変換機能や設定支援機能による現場設置を簡素化,多彩なインターフェースによりシステム構築が容易である.


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図9 光波長測定装置の役割


表2 光波長測定装置開発仕様
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4.まとめ

 本開発では電気信号により特定の光波長を選択的に出力することが可能なAOTF製造プロセスの開発を行った.これにより,AOTFの内製化が可能となった.製造プロセスはフォトリソ,現像露光,蒸着,リフトオフ,熱拡散と言った工程から成り立ち,本製造プロセスは東北大学マイクロシステム融合研究開発センター試作コインランドリの微細加工設備や知見・アドバイスにより開発を行った.

 また,製造したAOTFを用いた,高信頼性かつ低コストな光波長測定装置の開発を行った.2015年には光波長測定装置デモ機を展示会に出展し,ユーザーへのPRと反応の調査を行った.PR活動の結果,インフラ用途では,当初より想定していたニーズでの引き合いが実際に存在し,ユーザーの反応も良好であった.工業用途では,光波長測定装置による光ファイバ測定の強みを活かして行くことが重要であることが明らかとなった.


謝辞

 本研究開発は文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細加工プラットフォーム),戦略的基盤技術高度化支援事業(関東経済産業局)の支援を受けて実施されました.この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます.


参考文献

[1] AO素子の最近の技術進展-電気情報通信学会論文誌C VOL.J86-C No.12 pp1236-1243 2003年12月
[2] IEEE JOURNAL ON SELECTED AREAS IN COMMINICATIONS.VOL.8.NO.6.AUGUST 0990
Integrated-OpticAcoustically-Tunable Filters for WDM Networks - DAVID A.SMITH,JANE E.BARAN,JOHN J.JOHNSON,AND KWOK-WAI CHEUNG,MEMBER,IEEE
[3] レーザービーム直接描画法によるLiNbO3光集積機能デバイスに関する研究 - 1998年3月 原野 正幸
[4] 光集積回路 - 西原 浩,春名 正光,栖原 敏明


(長野計器株式会社 小林 広樹)


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