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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 秀でた利用6大成果
ナノワイヤ結晶成長のその場TEM観察
Complex Functional Materials Group, School of Chemistry, University of Bristol
Bristol Centre for Functional Nanomaterials, Centre for Nanoscience and Quantum Information Rebecca Boston
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 電子顕微鏡ステーション 根本 善弘

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(左から) ブリストル大学 Rebecca Boston,物質・材料研究機構 根本 善弘

1.要旨

 イットリウム系銅酸化物高温超電導体(YBCO)の固体原料をTEM内部において融点以下で加熱すると,固体原料表面にナノワイヤが結晶成長する.その成長過程をその場観察した.


2.緒言

 本研究は,当時,英国ブリストル大学の大学院生であったRebecca Boston氏が国立研究開発法人 物質・材料研究機構の目義雄副部門長との共同研究のために来日され,物質・材料研究機構の微細構造解析プラットフォームを利用されて行われた[1].

 近年,非常に多彩な超電導物質が発見されて活発に研究が行われているが,依然として銅酸化物高温超電導体が最も高い超電導転移温度を有する物質群である.物質・材料研究機構(旧金属材料技術研究所)の前田弘特別名誉研究員によって発見されたビスマス系高温超電導体のうちBi2Sr2Ca2Cu3Ox相は送電線として,もうまもなく実用化される状況にある.ビスマス系高温超電導体はその2次元的な電子状態ゆえに層状の結晶になりやすいために実用化研究が他の材料よりも早く進行した.ビスマス系高温超電導体と同様に実用化が検討されている材料としてイットリウム系の高温超電導体がある.イットリウム系高温超電導体はその組成の頭文字をとってYBCO超電導体,或いは組成比をとってY123相などと呼ばれる.米国ヒューストン大学のChu教授が最初に液体窒素温度を超える相転移温度を有する物質として発見した.その後,東京大学が単相化に成功して,物質・材料研究機構(旧無機材質研究所)が結晶構造解析に成功した.イットリウム系高温超電導体は高温超電導体の中でも3次元的な性質をもつために,液体窒素温度以上の温度でも比較的高い不可逆磁界や通電特性をもつ.しかし3次元的な性質ゆえに結晶配向した長尺線材や膜を作ることが難しかった.イットリウム系高温超電導体は,現在,超電導マグネットの極低温部と液体窒素温度以上の部分を結ぶ電流リードとして利用されている.これは電気抵抗ゼロであるために発熱しないことと,低い熱伝導度ゆえに,ヘリウム消費を抑えることができるからである.高温超電導の応用としては,この他にエレクトロニクスへの応用が検討されている.例えば,電波による通信のためのフィルターを超電導で作ると,超電導体の電気抵抗はゼロなので,Q値の非常に高いフィルターを作ることができ,近年の,電波通信の更なる高速化の要望に応えることができる.このように高温超電導体は非常に高い可能性を持っているが,その高い特性を発揮するためには,結晶成長方法を最適化して結晶組織を高度に制御することが重要である.

 本研究ではRebecca Boston氏はイットリウム系高温超電導体ナノワイヤの結晶成長をTEM内部で行い,結晶成長過程をその場観察することで,結晶成長機構を明らかにすることを目的とした.Rebecca Boston氏の製法はイットリウム系高温超電導体の原料を液体状態で混合して,乾燥させて粉末を得る際に,海草を原料としたバイオテンプレートを加えることで,原料が均一に混ざるようにしたものを出発原料とする.海草を原料とするものを用いるのは環境負荷を減らすためである.このようにして得た固体粉末を融点よりも低い温度で加熱して原料表面にナノワイヤを成長させる.基板上に成膜したものをリソグラフィーで加工してナノワイヤを作る場合は,基板による制約が大きいのに対して,本研究のような製法の場合はそのような制約がない.


3.実験

 イットリウム系銅酸化物高温超電導体の原料は硝酸塩水溶液を混合して,海草由来のテンプレート(アルギン酸ナトリウム)を加えて,乾燥させるというバイオテンプレート法で作製した.そのように作製したイットリウム系高温超電導体の固体原料をエタノールで分散し,Protochips社のカーボン支持膜つき加熱チップ(AHA-21)に塗布して乾燥させた.これをProtochips社の試料加熱ホルダー(Aduro)にセットして,TEM内で試料加熱して,観察した.加熱は室温~800℃の範囲で行った.EDS元素分析は室温に下げてから行った.結晶成長過程の動画観察はTEMモードで行った.本研究に使用したTEMは日本電子社製のJEM-ARM200FとJEM-2100Fである.加速電圧は200kVで行った.


4.解析1  結晶構造~界面構造

 固体原料を加熱するとナノワイヤが表面に成長してくるのが見えた.まずどのような相が成長するのかを調べた.その一例を図1に示す.この結晶はY2BaCuO5相(Y211相)であることが分かった.この相は非超電導相である.大気中で加熱すると超電導相であるYBa2Cu3O7-δ相(Y123相)が成長することが確認されていたが,TEM内部は真空であるために超電導相は実験した範囲では確認できなかった.しかしY2BaCuO5相(Y211相)はYBa2Cu3O7-δ相(Y123相)と同じY,Ba,Cu,Oの全ての元素を含む相であるので,YBa2Cu3O7-δ相(Y123相)に最も近い相として,Y2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤの成長過程をその場観察した.図1に示したY2BaCuO5相(Y211相)は単一のドメインからなることが格子像と電子線回折像から確認できた.また結晶面が見えていることから,このナノワイヤの成長はVLS成長ではないことが分かる.結晶成長時のノワイヤと固体原料の界面に格子像のない領域があることが分かった.急冷後に観察するとアモルファス相になっていることが分かったので,結晶成長していた温度では液相だったと思われる.


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図1 微細坩堝法で成長させたY2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤのTEM像.ナノワイヤの上部のTEM像(A),電子線回折像(B),HRTEM像(C),ナノワイヤと固体原料の界面のTEM像(D).(A)(C)(D)のスケールバーは5nm.(A)の図中の白い四角のエリアは(B)と(C)の分析エリア.(D)の結果から固体原料とナノワイヤの界面の結晶格子縞は均一ではないので微細坩堝(ナノワイヤと固体原料の界面にありナノワイヤが成長する元となる部分)は結晶成長の途中で大きな変化があり,単調に結晶成長した訳ではないことを示している.



 EDSを用いてナノワイヤと固体原料の界面近傍の元素分布を調べた結果を図2Bに示す.Y2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤと接するアモルファス領域にはY,Ba,Cu,Oの全ての元素が含まれることが確認できた.それに接する部分にはCuO相とBaCO3相が存在することが確認できた.この分析結果は本研究の目的である結晶成長メカニズムを説明するために非常に重要である.最初の原料混合の際に,液体原料を混合してテンプレートを用いて混合状態を固定することで,なるべく均一に混ざるように準備した固体原料であるが,10~30nmの大きさのCuO相やBaCO3相などからなり,決して均一ではない.図には示されていないが,他にイットリウムを含む相がある.これらが反応してY2BaCuO5相(Y211相)になるので,ナノワイヤが成長するためには,ナノワイヤに直接接していて,ナノワイヤに元素を供給する液相(アモルファス相)にはY,Ba,Cu,Oの全ての元素が含まれることが,条件として絶対に必要だからである.また,アモルファス領域と接する部分にBaCO3相が存在することも重要である.結晶成長温度はY2BaCuO5相(Y211相)の融点よりも低いので,固体原料の一部に液相ができるとすれば,低融点のBaCO3相が液相の主体となり,そこに周辺からYやCuが供給されて全ての元素が揃ったあとY2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤが成長したと考えられるからである.


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図2 Y2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤの結晶成長温度から急冷した後のTEM像.固体原料の全体像(A),急冷後にEDXで元素分析したナノワイヤと固体原料の界面の構造(B).(A)のスケールバーは200nm,(B)のスケールバーは5nm.(A)の図中の赤い四角のエリアは分析したナノワイヤの位置で(B)に対応する.(B)にEDX分析から分かった固体原料とナノワイヤの界面に存在する物質名を示した.赤=Y2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤ.緑=BaCO3相.黄=CuO相.青=アモルファス相(Y,Ba,Cu,Oを含有).


5.解析2  結晶成長の動画観察

 図3にナノワイヤの成長過程を動画撮影した結果を示す.ナノワイヤは長手方向に成長するときと横方向に成長する場合があるようである.例えば7分→8分においては長手方向に成長しているが,8分→9分においては横方向に成長している.


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図3 Y2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤの結晶成長の初期を動画撮影したTEM像.図中(0min)のスケールバーは100nm.結晶成長温度は500℃.


 それまで長手方向に成長していたナノワイヤが横方向に成長するようになる理由について考察する.考えられるモデルはナノワイヤと固体原料の界面に存在する液相のサイズが変化することである.液相が同じサイズである場合は,ナノワイヤは長手方向に成長して,液相のサイズが大きくなるとナノワイヤの側面にも元素が供給されて,ナノワイヤが太くなるように成長すると考えられる.図4CとDはナノワイヤの成長過程を動画撮影したものと同じ時間スケールでの界面の液相の変化とナノワイヤの成長方向を説明したイラストである.


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図4 微細坩堝法によるY2BaCuO5相(Y211相)のナノワイヤの長手方向⇔横方向の結晶成長の変化.ステップ付きツインタワー型の結晶成長をしたナノワイヤのTEM像(A).同結晶成長の原理を時間変化で説明するイラスト(B).微細坩堝(界面の液相)の拡大によるナノワイヤの長手方向から横方向に成長が変化する過程を動画撮影したTEM像(C).同現象の原理を時間変化で説明するイラスト(D).(A)のスケールバーは100nm,(C)のスケールバーは200nm.結晶成長温度は500℃.


 図4Aに長時間加熱後に固体原料が全て反応して大きな結晶になったものを示す.長時間加熱後の結晶は単結晶ではあるが端部が部分的に突き出たり引っ込んだりしたような形状になっている.最初に成長が始まった頃のナノワイヤの形状と全ての原料と反応し尽くした後の結晶の形状を比較すると単純に成長した訳ではないことが推測される.図4Bはこのような形になることを時間変化で示す説明イラストである.ナノワイヤが段々成長していくと,隣のナノワイヤとの距離が近くなってきて,やがて界面の液相が接触して1つになる.その後は太い単結晶が成長するのでステップつきツインタワーのような形状になり,図4Aに示したような結晶の形状になったと思われる.

6.結言

 Rebecca Boston氏はこの結晶成長機構を微細坩堝法(Microcrucible法)と名づけた.固体である原料表面にナノワイヤが成長するが,ナノワイヤの結晶成長時の原料は固体で,ナノワイヤとの界面には成長するナノワイヤに供給される液体の原料が存在する.これが坩堝を用いた溶融法による単結晶育成に形状が似ていることが名前の由来である.これまでは,この様な成長機構であろうという推測に基づいて研究が行われてきた.その名の通り,固体原料の表面に微小な液相ができて,この液相から原料を供給されながら液面に垂直にナノワイヤが成長するという結晶成長メカニズムが,本研究で初めて明らかにされた.

 本研究成果の今後を予想すると,高温超電導体のナノワイヤの成長機構のみならず,微小な液相を伴う場合と伴わない場合など様々な固相反応において生じる様々な物質の結晶成長のメカニズムを見ることができるのではないかと,個人的には思っている.関心のある方は是非,物質・材料研究機構の微細構造解析プラットフォームに来て,皆さまが研究されている物質の結晶成長を観察していただきたいと思う.


7.謝辞 付記

 Rebecca Boston氏の共同研究者の英国バーミンガム大学のSchnepp Zoe氏,英国ブリストル大学のSimon Hall教授,物質・材料研究機構の目義雄副部門長に感謝いたします.また試料を加熱チップに塗布して頂いた松尾明子氏他,物質・材料研究機構 電子顕微鏡ステーションの皆様に感謝いたします.その場TEM観察のテクニックや条件などのご助言を頂き,また高品質で使いやすいハードウェアとソフトウェアを選別し,ナノテクノロジープラットフォームを通じて多くの方にご利用頂けるようにして頂いている物質・材料研究機構の竹口雅樹電子顕微鏡ステーション長に感謝いたします.また,このような機会を下さいましたナノテクノロジープラットフォームの皆様に感謝いたします.

 Rebecca Boston氏は現在,英国シェフィールド大学でBaTiO3の研究をされています.Rebecca Boston氏の研究の今後ますますの発展を祈念いたします.


参考文献

[1] In-situ Observation of a Microcrucible Mechanism of Nanowire Growth Boston, R., Schnepp, Z., Nemoto, Y., Sakka, Y., Hall, S. R., Science 344, 623 (2014)


(物質・材料研究機構 根本 善弘)


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