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NanotechJapan Bulletin Vol.7, No.4, 2014 発行

企画特集 ナノテクノロジー EXPRESS ~ナノテクノロジープラットフォームから飛び立つ成果~
<第28回>
フッ化物薄膜を用いた真空紫外光源と光検出器
名古屋工業大学 小野 晋吾,株式会社トクヤマ 福田 健太郎,須山 敏尚,九州工業大学 柳田 健之,東北大学 吉川 彰
名古屋工業大学 種村 眞幸

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1.はじめに


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(左から) 名古屋工業大学 小野 晋吾,(株)トクヤマ 須山 敏尚,九州工業大学 柳田 健之,東北大学 吉川 彰


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名古屋工業大学 種村 眞幸


 我々は紫外線の中でも特に短波長領域(波長200nm以下)の真空紫外領域における光源と光検出器の開発に取り組んでおり,その開発のキーマテリアルがフッ化物である.フッ化には,現在様々な分野で用いられている酸化物や窒化物よりも大きなバンドギャップを有する材料が数多く存在する.フッ化物の中には材料作製や取り扱いが困難であることから,その光学特性等が詳しく調べられていない材料も多いが,これらがワイドギャップ材料であることから,真空紫外領域での優れた光学特性を持ち,これをデバイス化することで,波長領域200nm以下の真空紫外領域で動作する光源や光検出器とすることができる[1].本稿で紹介するこれらのデバイス開発を進めるうえで電子顕微鏡などの分析機器が必要不可欠である.筆者が名古屋工業大学へ異動してから開発を始めたこれらのデバイスは,現在ではどちらも製品化に向け企業との共同研究開発を行う段階へ進んでいるが,このように研究を進めることができたのは,名古屋工業大学と自然科学研究機構分子科学研究所におけるナノテクノロジープラットフォーム支援機器のおかげである.


2.パルスレーザー堆積法によるフッ化物発光材料の薄膜化

 フッ化物光デバイスの実現には,薄膜化技術が必要である.通常,材料の薄膜化に際して,酸化物の場合には酸素中で成膜するように雰囲気制御を行う.しかしフッ化物の場合,フッ素ガスを導入した場合,その毒性や腐食性などから,取り扱いと処理が非常に複雑であり,また装置の劣化の要因にもなる.フッ素ガス以外にも,4フッ化メタンガスなどの使用が考えられるが,特定フロンガスであることや,炭素の混入が問題となる.

 そこで我々は,薄膜化する材料ターゲットと作製された薄膜の組成ずれが少ないとされるパルスレーザー堆積法(PLD)を用いることで,雰囲気制御を行わない真空中でのフッ化物の成膜を行った.PLD法は高温超電導体などの多種の元素から構成される物質に対しても用いられており,複合フッ化物の成膜も可能である[2].図1はパルスレーザー堆積装置の模式図である.高いパワー密度を持つレーザーパルスを,真空チャンバー内に配置したターゲットにレンズを用いて集光照射し,ターゲットをアブレーション(蒸発)することで,対向位置にある基板上に薄膜を堆積する.基板温度は室温から600℃まで制御可能である.


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図1 パルスレーザー堆積装置.
レーザーパルスをターゲットに集光照射しアブレーションさせることで,
対向位置にある基板上に薄膜を堆積する.


 真空紫外発光材料であるNd3+:LuF3薄膜を作製のため,ターゲットに,LuF3:NdF3 = 9:1の割合で混合した粉末を圧縮したペレットを用意した.真空度~4×10-4Paのチャンバー内にターゲットを配置し,Nd:YAGレーザーの第3高調波(波長:355nm)を照射することで成膜を行う.真空紫外領域での高い透過特性を示すMgF2単結晶を基板に用い,400℃の基板温度で成膜している.

 図2に作製した薄膜の電子顕微鏡像を示す.薄膜上にPLD特有のドロップレットが多数観測され,大きいものには亀裂が見られた.これは,Nd3+:LuF3が融点(1180℃)より低い温度(950℃)で構造相転移を起こすことに起因し,冷却過程で発生する応力によって引き起こされる.しかし,下地部分は形成する粒子サイズが小さいため,薄膜に亀裂などは見られず,XRDの結果を見ても良好な結晶性を観測している.


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図2 Nd3+:LuF3薄膜表面の電子顕微鏡像.
薄膜表面にはドロップレットが多く存在し,サイズの大きいものには亀裂がみられる.


 図3にNd3+:LuF3薄膜の紫外領域にける電子線励起発光スペクトルを示す.発光中心として働くNd3+イオンの5d-4f遷移に起因する波長179nm,223nm,250nmでのピークが観測された.これは,Nd3+:LuF3単結晶からの発光スペクトルのピーク位置と同じであることから,フッ素欠陥の少ない蛍光体として十分な品質の薄膜である.


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図3 Nd3+:LuF3薄膜の紫外領域にける電子線励起発光スペクトル.


3.フッ化物薄膜を蛍光体とした真空紫外光源

 紫外線の応用範囲は,計測,環境,医療など多岐にわたり,その発光材料として窒化物や酸化物の研究が進められている.しかし,現在短波長光源用の蛍光体として研究がすすめられているAlGaNを用いた素子でも,波長200nm以下の真空紫外領域の発光を得ることは難しい.そこで,より短波長領域で動作する発光素子実現のため,上述したNd3+:LuF3薄膜に加え,KMgF3薄膜を蛍光体とするフィールドエミッションランプと呼ばれる発光素子の開発を行なった[3][4][5].

 真空紫外発光材料であるKMgF3は,Nd3+:LuF3薄膜の場合と同様にパルスレーザー堆積法によって薄膜化した.ただし,KMgF3薄膜作製用ターゲットにはKF:MgF2=1:1で混合した粉末を坩堝内で溶融,凝固させたものを用い,Nd:YAGレーザーの第3高調波を照射することで,MgF2単結晶基板上に成膜を行った.これらを蛍光体とし,電界放出型電子源として用いるカーボンナノファイバー(CNFs)と組み合わせることで,図4のようなフィールドエミッションランプを作製した.CNFs作製には,グラファイト基板にAr+イオンビームを照射する簡便な手法を用いており,室温で作製可能である[6].このCNFsとアノード電極に用いた銅のスリット電極間に電圧(引き出し電圧)を印加すると,CNFs先端に電界集中が起こり,トンネル効果によって電子が放出される.放出された電子は,銅のスリット電極を通り抜け,カーボンナノファイバーと上方の銅スリット電極間に加えられた電圧(加速電圧)によって加速される.ここでは,引き出し電圧を600Vとし,加速電圧を1-2.5kVの間で制御し発光特性評価を行った.


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図4 カーボンナノファイバーを電子線源とし,
フッ化物薄膜を蛍光体として用いた真空紫外フィールドエミッションランプ.


 図5は作製した素子からの発光スペクトルである.155,180nm付近に2つのピークを持つ140から210nmに及ぶ真空紫外領域における幅広い発光を確認した.また,加速電圧を上げるにつれ,発光量が非線形に増加している.つまり,高い加速電圧を加えることにより,効率よく光源の高輝度化を行うことが可能であることを示している.


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図5 KMgF3薄膜を蛍光体としたフィールドエミッションランプからの発光スペクトル.
波長140から200nmに及ぶ真空紫外領域での発光を観測.


 図6は,蛍光体にNd3+:LuF3薄膜を用いた場合の素子からの発光スペクトルである.図3と同様の位置にピークを持つスペクトルが得られており,こちらも真空紫外発光素子として動作していることを確認した.


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図6 Nd3+:LuF3薄膜を蛍光体としたフィールドエミッションランプからの発光スペクトル.


 このようなフィールドエミッションランプは,固体蛍光体を用いた光源における世界最短波長の動作領域であり,従来のガスランプに比べて,固体蛍光体を用いているため高い安定性やガス交換を必要としないことによる長寿命化が見込まれる.さらに冷陰極であるCNFsを電子源として用いているため熱が発生せず,紫外線照射対象に熱ダメージを与えにくいという利点も挙げられる.大面積化が容易であるこのような光源は,水銀ランプのように環境汚染を引き起こす物質を用いていないことからも,殺菌や表面処理など幅広い分野への利用が期待できる.


4.フッ化物薄膜を用いた光伝導型フィルタレス紫外線検出器

 紫外光源のモニタリングや,短波長紫外光源を用いた有害物質検出センサなどへの応用などのニーズにこたえるため,紫外線検出器開発の重要性が高まっている.これまでにもダイヤモンドや酸化物,窒化物などのワイドギャップ材料を用いた紫外線センサの開発が行われてきたが,より短波長な真空紫外領域に選択的に感度のあるフィルタレス光検出器の実現には,より大きなバンドギャップを有する材料が必要である[7].我々は,数多くのワイドギャップフッ化物が紫外光に対して光伝導性を示し,これらを用いた波長選択型光伝導型検出器が作製可能であることを見出した[8][9].それらの中でもここではNdF3について紹介する.

 NdF3の薄膜化は,上述したNd3+:LuF3やKMgF3と同様にパルスレーザー堆積法によって行い,ターゲットには,NdF3セラミクスペレットを用いて石英ガラス基板上に堆積した.このとき,薄膜作製時の基板温度を制御することにより膜質の改善を試みた.さらに,堆積したNdF3薄膜に,アルミ櫛型電極を蒸着することで光伝導型紫外線検出器を作製した.このセンサの電極に300Vまでの電圧を印加し,重水素ランプによって紫外線を照射した際の光伝導特性評価を行った.

 図7はNdF3薄膜の紫外線照射時,及び非照射時の電圧-電流特性である.紫外線非照射時に観測される暗電流は,300Vの電圧を加えた場合でも,0.6pA以下であり,この薄膜の絶縁性が極めて高く,フッ素脱離により導電性の低いネオジウムになっていないことを示している.また,紫外線照射時の電流値は,非照射時に比べて大きく増加しており,NdF3が光伝導性を持つことを示している.さらに成膜中の基板温度の上昇に伴う光伝導電流の増加も観測したが,基板温度600℃以上ではそれ以上のセンサ特性の改善は見られなかった(図8).図9は基板温度600℃で作製した薄膜表面のSEM像であり,多数のクラックが見られる.これが,光伝導電流を減少させた要因であると考えられる.図10にはNdF3光伝導型センサの感度領域と透過スペクトルを示しており,NdF3薄膜の透過端付近である波長180nm以上の紫外領域にのみ選択的に感度を有することがわかる.


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図7 NdF3薄膜を用いた光検出器の電圧-電流特性.


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図8 異なる基板温度で作製した薄膜の光電流値.


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図9 NdF3薄膜表面の電子顕微鏡像.


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図10 NdF3薄膜の透過スペクトルと光検出特性.


5.まとめ

 フッ化物の薄膜作製にPLD法を用いることで,雰囲気制御をすることなく,フィールドエミッションランプの蛍光体や光検出器の材料として用いるのに十分な品質の薄膜が得られている.真空紫外領域での優れた特性を持つこれらのフッ化物材料を用いることで,これまでにない新たな素子開発の可能性が広がる.


参考文献

[1] S. Ono, R. El Ouenzerfi, A. Quema, H. Murakami, N. Sarukura, T. Nishimatsu1, N. Terakubo1, H. Mizuseki1, Y. Kawazoe1, A. Yoshikawa and T. Fukuda, Jpn. J. Appl. Phys. 44, 7285-7290 (2005).
[2] M. Ieda, T. Ishimaru, S. Ono, K. Yamanoi, M. Cadatal-Raduban, T. Shimizu, N. Sarukura, K. Fukuda, T. Suyama, Y. Yokota, T. Yanagida, Jpn. J. Appl. Phys. 51, 022603 (2012).
[3] M. Yanagihara, M. Z. Yusop, M. Tanemura, S Ono, T. Nagami, K. Fukuda, T. Suyama, Y. Yokota, T. Yanagida, A. Yoshikawa, APL Materials 2, 046110 (2014).
[4] http://www.aip.org/publishing/journal-highlights/vacuum-ultraviolet-lamp-future-created-japan
[5] http://www.laserfocusworld.com/articles/2014/04/cold-cathode-field-emission-vuv-lamp-is-cool-and-compact.html
[6] M. Tanemura, J. Tanaka, K. Itoh, Y. Fujimoto, Y. Agawa, L. Miao, and S. Tanemura, Appl. Phys. Lett. 86, 113107 (2005).
[7] L. S. Pan, D. R. Kania, P. Pianetta, and O. L. Landen, Appl. Phys. Lett. 57, 623 (1990).
[8] M. Ieda, T. Ishimaru, S. Ono, N. Kawaguchi, K. Fukuda, T. Suyama, Y. Yokota, T. Yanagida, and A. Yoshikawa, Jpn. J. Appl. Phys., 51, 062202-062202-3 (2012).
[9] T. Ishimaru, M. Ieda, S. Ono, Y. Yokota, T. Yanagida , A. Yoshikawa, Thin Solid Films, 534, 12-14 (2013).

(名古屋工業大学 小野 晋吾)


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