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NanotechJapan Bulletin Vol.11, No.2, 2018 発行

第17回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2018)開催報告

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 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2018)は,2018年2月14日から16日までの3日間例年通り東京国際展示場(東京ビッグサイト)東4~6ホールで開催された.主催はnano tech実行委員会であり,後援には内閣府,総務省,文部科学省,農林水産省,経済産業省,11外国大使館,6国立研究開発法人などを含む25機関が名を連ねており,6学会の協賛を得ている.事務局は(株)JTBコミュニケーションデザインである.

 本展示会は,“ナノテクノロジー”をテーマとする最大級の展示会である.ナノテクノロジー開拓の機運がグローバルに始まった21世紀初頭から毎年開催され,今年は17回目となる.23の国・地域より556企業・団体(国内359,海外197)が出展して開催された.

 今年度のnano tech展は主催者企画特別シンポジウムのテーマ「超スマート社会の実現に貢献するナノテクノロジー」のスローガンの下で展開されており,本展示会の一つのキーワードとなっている.このナノテク・ウイークの3日間,nano tech 2018と同時開催で表1に示す10の展示会が同じ東京ビッグサイト東棟の1~6ホールに展開された.ナノテクノロジーのアプリケーションとの結びつきや技術の広がりによるnano tech出展者の進出もあり,同時開催展示会も年々盛り上がっている様子が窺えた.


表1 nano tech 2018と同時に開催された展示会
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 会場は連日来場者で賑わい,全展示場の3日間の総来場者数は44,437名と発表されている.図1は過去10年間の来場者の変化で,今年の来場者数は例年に比べてやや少なくなっている. また,開催の3日間はnano weekとして,会議棟において,「第16回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2018)(本Webジャーナル当月号に開催報告あり)」など各種シンポジウムやセミナーが開催された.


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図1 3日間の全展示場総来場者数


 nano tech総合展は,異分野融合や,シーズとニーズの結びつきの場を提供することが目的のひとつであり,第12回nano tech総合展から毎回商談促進ツール「ビジネスマッチングシステム」を運用してきている.総合展開催の2ヶ月前からWeb登録してシステムに参加し,マッチングメンバーを検索して展示会場での商談のアポイント申し込みを行うもので,商談には会場に設けられたビジネスマッチング会場も利用できる.毎年積極的に活用されており,最終日に行われるnano tech大賞表彰式では最も多く商談を実現した展示にたいしてビジネスマッチング賞が授与されている.


1.nano tech 2018の概要

1.1  出展状況

 出展状況を,nano tech 2018のWebサイトの「出展者/製品・技術一覧」での検索結果のデータに基づいて概観する.

 まず,nano tech 2018の出展者数の年次推移を図2に示す.2017年来の国内出展者の減少が目に付くが,これは,ナノテクが様々の応用分野へ展開しているのに伴い,同時開催の他の展示会へ移動していることが関係していると思われる.それでも2018年に国内は多少増えた.海外は昨年とあまり変わらない.


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図2 出展者数の年次推移(国内,国外)


 図3は技術・製品応用分野別に見た出展者数のここ3年間の推移を示すもので,出展者/製品・技術一覧の分類項目に若干の変更があり,2016年には計測・加工の項目がなかったので,データが欠如している.IT&エレクトロニクスは継続して減少傾向にあり,ライフ分野は昨年増えただが今年は減少している.それ以外は若干増加している.


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図3 各分野出展者数の3年間の推移


 図4は,昨年と今年の分野別出展者数を国内と海外出展者に別けて比較したものである.材料・素材,計測加工,ナノバイオは国内が増え海外は減っている,逆にIT&エレクトロニクスは国内が減ってるのに海外は増えている.


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図4 分野別出展者数の国内と海外それぞれの昨年との比較


 図5~図11に7つの分野それぞれについて,ここ3年間(材料・素材分野だけは2年間)の技術・製品分類項目別の出展者数を比較して示す.


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図5 材料・素材分野の項目別出展者数


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図6 計測・加工分野の項目別出展者数


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図7 IT&エレクトロニクス分野の項目別出展者数


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図8 ナノバイオ分野の項目別出展者数


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図9 自動車分野の項目別出展者数


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図10 環境・エネルギー分野の項目別出展者数


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図11 ライフ分野の項目別出展者数


1.2 nano tech 2018の展示会場の状況

1.2.1 メインシアターおよびセミナー会場から

 メインシアターにおいては,主催者企画の特別シンポジウム「超スマート社会に貢献するナノテクノロジー」が3日間にわたって開催され,社会の進化に大きく貢献することが予見される重要課題を取り上げ,それぞれの分野について講演が行われた.

 初日に「ライフナノテクノロジーが拓く最先端医療と健康長寿社会」と題して,次の講演があり,ナノテクノロジーの医療と健康への貢献が広く具体的な形に進みつつある様子が伺えた.

・患者のガンの全ゲノム解析に基づく短期診断の実現,

・抗体テクノロジーの進展による新しい健康・医療戦略,

・新しい蛍光プローブによる正常部位とガン部位の識別可能化,

・エポキシド型の酸素を修飾したep-SWCNTを用いたライフサイエンス研究に活用可能なイメージングアプリケーション,

・細胞内の導体制御を考慮した遺伝子・核酸送達システム


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メインシアターでの特別シンポジウム

 2日目午前には,昨年に続いて「ナノセルロースの技術開発最前線」が議論された.産業技術総合研究所(産総研)のナノセルロースフォーラム,北海道大学,日本製紙(株),モリマシナリー(株),(株)KRI,そしてカナダのNational Research Council Canadaの講師により,開発状況や応用展開活動について報告された.この分野は来場者の関心が高く,相変わらずの盛況であった.詳細は後述する.

 2日目の午後には昨年に続いて,「グラフェンスペシャル」が開催され,英国の市場調査・イベント企画会社ID TechEx社,英国のグラフェンやSiC素材と応用開発会社Haydale社などの海外からの4人の講師によるグラフェンのビジネスの現状や応用分野の開拓状況が報告された.グラフェンの開発,応用展開で先行している海外の動向が我が国のこの分野の今後の展開に繋がることを期待したい.

 3日目の午前は昨年に続いて「軽量化材料とマテリアルズ・インフォマティクス」が開催された.講演題目は次のとおりである.「AIで加速する物質・材料の研究開発~NIMS-MaDISの取り組み」(NIMS),「ナノ構造情報のフロンティア開拓―材料科学の新展開」(京都大学),「高次元材料情報統合型研究による材料開発の革新的加速」(名古屋大学),「Artificial Intelligence Driving a Revolution in Materials Discovery」(Citrine Informatics),「炭素繊維複合材料におけるナノテクノロジー」(東レ),「化学産業におけるマテリアルズ・インフォマティクス」(旭化成).

 なお,メインシアターでは,上記特別シンポジウムの他にも各種セミナーが行われている.また,展示場内にはシーズ&ニーズセミナーA会場,B会場,C会場が設けられ,出展者の技術・製品紹介の他,シンポジウムも行われた.C会場は主として3D Printing 2018関連のセミナーであり,特に盛況であった.


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東6ホールから東5ホールの方向を見る.右端にメインシアターの客席が見える.


1.2.2 注目分野の状況

(1)セルロースナノファイバー

 セルロースナノファイバー(CNF)は注目を集める分野であり,上記メインシアターの特別シンポジウムでの諸研究機関・企業からの報告と展示ブースからのピックアップを紹介する.

産総研からは研究・実用化の動向が報告された.CNFの製造方法について機械的解繊の他に化学的TEMPO法(ラジカルによる触媒的酸化処理法),硫酸等による酸化処理などの解繊や,菌によるセルロースの合成などが行われている.まだ品質評価の基準や国際標準がないことが,一つの問題となっている.生産が行われるようになっているが,本格的産業化には大量生産によるコストダウンが重要であるとしている.

北海道大学からは,菌によるセルロース合成の成果が報告された.医薬品のキャリア応用で,胃がん腹腔内に抗がん剤をセルロースに混ぜて投与して効果を確認している.

日本製紙(株)は2007年からのNEDOプロジェクトの成果によりTEMPO法で500トン/年のCNFを生産し,各種応用製品を展開している.応用分野としては,金属イオンを付けて消臭・殺菌効果を持つ紙おむつ,透明でかつ熱膨張しない機能性シート,樹脂の補強剤として,自動車や建材向け,等多岐にわたる.

モリマシナリー(株)は岡山県のプロジェクトに金属加工装置メーカーとして参画し,機械的解繊でCNFを製造している.プラスチック樹脂への混錬,ゴムへの添加,成形体などの応用を図っている.

(株)KRIは大阪ガス出資のR&D会社で,有機溶剤を使うCNF製造法と用途を開発し技術移転をおこなっている.

 展示場のブースにおいては,セルロースナノファイバー特別展示があり,7社が出展した.セルロースナノファイバーの展示は他にも多く見られた.中越パルプ,森林総合研究所など以前のナノテク大賞受賞者も継続してCNFを展示している.そのなかで次の二つを紹介する.

・nano tech 2015で産学連携賞を受賞した中越パルプ工業(株)はスギノマシンの水流ジェットによる物理的方法でブランド名nanoforestのナノセルロースを製造している.製品としては水溶性ナノセルロース,樹脂に分散しやすい粉末品,表面疎水化ナノセルロース等を,用途開発例としては,nanoforest 100%の成形体,導電性PEDOT薄膜,nanoforestとカーボンナノチューブの複合シート等を展示した.また,実用例としてはスピーカ震動板がある.

王子ホールディングス(株)は,リン酸エステル化法による化学処理でパルプから製造したCNFによる製品,CNF増粘材「アウロ・ヴィスコTM」やCNFシート「アウロ・ヴェールWP」を展示した.


(2)ナノカーボン

 nano tech 2018の出展分野のなかで材料・素材の分野が,図3に示すように関連製品出展者数が圧倒的に多い.またその中で,図5に示すようにカーボンナノチューブ(CNT)関連製品の出展者数は多い.CNT,フラーレン,グラフェンを含むナノカーボンは会場内でも目立つ存在であった.グラフェンについては,海外が先行しているが,前述の特別シンポジウムの講演で,英国の市場調査・イベント企画会社ID TechEx社の副社長は「CNTは既に商用生産に入り立ち上がりつつある.GrapheneはHype(熱気)が覚め,様々な応用をトライしているが,未だキラーアプリを探している段階.参入企業も未だ赤字経営の状態,中国の企業数が多い.価格が主たるハードル.」と話していた.

(2-1) CNT

 CNTについては,低品質でも低価格化を狙い実用化を推進する海外企業と高品質を追求する日本企業の指向の違いが鮮明であった.以下に特徴ある展示を紹介する.

 OCSiAL社(本社はルクセンブルグ,工場はロシアにあり,韓国にも関連企業がある)は,世界を翔けるOCSiAL単層CNT“TUBALLTM”で,相変わらず気を吐いている.純度80%であるが,2014年10t/年(実績),2018年50t/年(2017年着手),2020年250t/年(計画)の生産・設備を誇っており,これで,CNTのネックである高価格の低減を図っている.この生産能力は2017年現在,世界の90%を占めているという.中国,韓国のリチウムイオン電池用導電助材としての用途がこの増産を引っ張っているようである.

 日本ゼオン(株)/ゼオンナノテクノロジー(株)は産総研のスーパーグロス法を発展させて量産工場を立ち上げており,単層・長尺のSWCNT(ZEONANO®SG101)・純度>99%で用途開発に努めている.CNTを用いたシート系熱界面材料(TIM:Thermal Interface Material)(量産レベル:2017.4.30より発売)を,昨年に続き今年も出展し,半導体等の放熱分野への進出を企てている.

 (株)GSIクレオスは,カップ積層型CNT(CSCNT)という構造のCNTを開発している.カップ端部のカーボンがダングリングボンドを有しており活性なため,分散,複合材料化が容易であり,その特徴を活かして多くの応用を展開している.製品化(その前段階を含む)が相当進んでいる.

 ニッタ(株)は,カーボンファイバー(CF)にCNTをまぶす(接着させる)技術(CNT/炭素繊維複合化技術NamdTM)を開発している.これによってCFRPの厚み方向の強度,導電性を増加できる特徴を活かして,多くの構造材等へのアプリケーションを提案している.

 NECはCNTの元祖であるが,1998年カーボンナノホーン集合体を発見したのに続いて,2015年繊維状カーボンナノホーン集合体(カーボンナノブラシ)を発見した.分散性も高く,分散混合物の導電性も高まる.高比面積であり,吸着性も高い.そのうえCNTに比べて製造が容易であるという特長があり,将来性に期待している.

(2-2) グラフェン

 産総研はプラズマ処理法でCu基材上にグラフェンの原子層を作製し,その後Cu基板から樹脂基材上へ転写する方式でグラフェン原子層フィルムを実現している.この技術を基に,産総研技術移転ベンチャーの(株)エアメンブレンを設立し,グラフェン透明導電フィルム(A4,10cm×10cm,1cm×1cm等の各種サイズ)を製造している.さらに,超高感度爆発物ガスセンサー,流体センサー,タッチパネル,フレキシブルグラフェン有機EL,太陽電池,キャパシター,放熱シート,高速ヒータ,電子顕微鏡グリッド等への応用展開を行っている.

(3)センサー技術

 nano tech 2018における分野ごとの技術・製品項目別出展者数をみると,図7のIT&エレクトロニクス分野,図8のナノバイオ分野ではセンサーに関連する製品出展者数はどちらもトップクラスにある.IoT(Internet of Things)の時代に向かいつつある今,センサーの位置づけと重要性が明確になっている.沢山あるセンサー関連展示の中で一部ではあるが,目に留まったものを以下に記す.

 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のブースでは,戦略的創造研究推進事業 統括実施型研究(ERATO)の染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトの成果「皮膚呼吸可能なナノメッシュセンサー」が展示された.なお,JSTはnano tech 2018終了直後の2月18日,同プロジェクトが「薄型で伸縮自在なスキンディスプレイの開発に成功」し,スキンセンサーで計測された心電波形の動画を皮膚上に張り付けたスキンディスプレイに表示することに成功したことをプレスリリースしている[1].

 同じくJSTのブースで戦略的創造研究推進事業CRESTの成果「新型インフルエンザの世界的流行を阻止するグラフェンバイオセンサー」を展示した.この成果はnano tech 2018大賞で産学連携賞を受賞している.

 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)のブースでは,「MSS(膜型表面応力センサー[2])嗅覚センサーと機械学習を融合したニオイ指標の定量推定」,「湿潤を測り分けるモイスチャーセンサ」,「カーボンナノチューブを用いたRFIDホルムアルデヒドセンサー」,「高感度磁気センサー」などを展示していた.このなかのニオイ指標の定量推定では,お酒のニオイからアルコールの度数の推定や,混合液体試料のニオイから濃度推定に成功しているという.

 nano tech 2018の表彰で大賞を受賞したNECのブースでは,センサーに関しても「量子ドット赤外線センサーによる資源探査の効率化」,「バイオミメティックな匂い源探査による危険検知」,「生体調和型センサーを用いた業務ストレスモニタリング」,「レーザガスセンサーによる広域ガス検知及び早期異常検知」を展示し,超スマート社会実現の課題への取り組みを表明していた.

 メインシアターでは,初日の午後昨年に続いて,内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)宮田プログラム「進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム」の進捗状況の報告がなされた.


1.2.3 産学官連携,異分野融合

 nano tech 総合展の回を重ねるごとに,地方大学や地域の研究開発活動の定着が進んでいる様子が窺える.文部科学省が推進しているナノテクノロジープラットフォーム事業は,最先端の研究設備を有する全国26の大学・研究機関の設備の共用体制を構築し,大学や企業がこれを活用することにより,ナノテクノロジーの研究開発,応用展開,産業化を促進することを目的とするもので,これまで既に数多くの成果が蓄積されている.ナノテクノロジープラットフォーム(PF)では毎年その年度の「秀でた利用成果」を表彰しており,その表彰式が,今年度はnano tech 2018の初日に会場のPFセンターである研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)のブースで行われ,6件が表彰された.同時に,PFの共用設備利用者を支援する技術スタッフの中で活動の優れた人の表彰式も行われた.表彰式の後,表彰内容のプレゼンテーションが行われた.また,表彰された成果・活動を説明するパネルが,隣のナノテクノロジープラットフォームのブースに展示された.


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表彰されたナノテクノロジープラットフォーム利用成果のプレゼンテーション


 6成果のうち最優秀賞を受賞したのはNIMSの微細加工PFを利用した株式会社ノベルクリスタルテクノロジーと株式会社タムラ製作所の「トレンチMOS構造を設けたGa2O3ショットキーバリアダイオード」の開発である.超低消費電力のパワーデバイスを経済的に実現する道が拓かれつつある.なお,NanotechJapanのホームページから,表彰された「秀でた利用成果」を過去に遡ってみることが出来る[3].

 名古屋大学ブースでは二つの拠点活動の成果を見ることができた.一つは,上記ナノテクノロジーPFのなかの分子・物質合成PFの利用成果で,「ナノワイヤを用いた尿中細胞外小胞体補足」である.九州大学・大阪大学の半導体ナノワイヤ技術に基づき,名古屋大学・九州大学共同でバイオ応用可能な金属酸化物ナノワイヤを合成し,名古屋大学がナノワイヤ合成支援とプラスチック基板上への固定を行って新デバイス構築技術を創出した.さらに,尿中細胞外小胞体内部のマイクロRNAを1000種以上検出できることを世界で初めて実証し,国立がん研究センターと共同で,肺,肝臓,膀胱,前立腺,膵がんの診断ができることを実証した.

 同大学ブース展示のもう一つは,再生医療実現拠点ネットワークプログラムの技術開発個別課題「iPS細胞分化・がん化の量子スイッチングin vivo Theranostics」の紹介で,量子・磁気ハイブリッド材料を開発し,肝細胞の変化を量子ドットの蛍光変化として検知し,磁気効果で異常細胞を死滅させる生体内診断・治療融合(in vivo Theranostics)の実現を目指し,量子ドット・磁性ナノ粒子の合成を実現している.

 TIA(つくばイノベーションアリーナ)オープンイノベーション拠点は,産総研,NIMS,筑波大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK)が参画して,2009年からナノテクノロジー分野のオープンイノベーションを推進してきたTIA-nanoに,2016年に東京大学が加わって,研究領域もこれまでのナノテクノロジーからバイオ,計算科学,IoT等へと拡大し,新生TIAとしてスタートした.この年にTIA連携プログラム探索推進事業「かけはし」を開始している.TIA中核5機関の連携を支援する事業で,少ない研究資源を連携集結して大きな成果につなげ,「新しい知の創造と産業界への橋渡し」を目指している.29年度は継続課題を含む50件を採択している.例えば,共通基盤分野で,「計算科学とデータ科学の連携による実験データ高度解析手法の社会実装」,材料・加工分野で「窒化物高圧構造探索による新たな超硬質高密度材料開発のための調査研究」,エレクトロニクス・デバイス分野で「ダイヤモンド電子デバイス実用化のための調査研究」などが採択されている.

 信州大学繊維学部のオープンイノベーションにより新たなファイバー産業と地域産業を創出する産学官連携拠点Fiber Innovation Incubator(Fii)が利用者を募集していた.繊維に関する試作品製造から機能評価まで行える最先端の設備を利用でき,経験豊富なコーディネータが常駐し,大学の研究者や異業種との橋渡しを含むきめ細かな支援を行なっている.


2.海外からの参加

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  分散配置の韓国パビリオン         6員環の結晶構造を模した台湾パビリオン


 図12は,海外の国別出展者数である.ここ5年の数値を並べて表示し,今回の出展者数の多い順に並べている.昨年と比較すると上位陣に順位の変化はない.1位の韓国は,それでも昨年より若干減少している.nano tech 2018の日程が旧正月と重なったためとの説明があった.そのためかパビリオンにはやや広い商談スペースができていた.2位の台湾は,国の組織が管理して毎年ほぼ同じ数の企業・団体が出展している.なお,台湾パビリオンの構造は,毎年テーマを持ってデザインされており,今回は,写真に示すようにナノ材料の6員環の結晶構造をモデルとし,中央の6角柱には国花である梅の花をあしらっている.3位のカナダは2015年にNational Institute for Nanotechnologyが設立されてnano tech 展への出展のまとめ役も務めており,前回出展数が急増し,今年もその数を保っている.カナダはナノセルロースに関しても積極的で,CellForce社は300トン/年の量産をしており,InnoTechAlberta社,BlueGoose Biorefinerles社もこの分野に参画している.これら会社を標準化測定法でサポートしているNational Research Council Canadaから,メインシアターの特別シンポジウム「ナノセルロース技術開発最前線」でカナダの状況が報告された.


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図12 海外からの出展者数の推移


 常連の外国の企業はnano tech総合展の意義を強く認識しており,マッチングシステムも積極的に活用している.それは,nano tech 大賞におけるビジネスマッチング賞がnano tech 2015から4年連続して海外から出展の企業が受賞していることにも表れている.


3.nano tech 大賞2018

 最終日の午後,メインシアターにおいてナノテク大賞2018の表彰式が行われた.表彰式の冒頭,nano tech実行委員会の川合 知二委員長より,ナノテク大賞2018の選考経緯について次のような説明があった.


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表彰式における川合委員長の挨拶


 nano tech 2018は,23ヵ国から集まった560の企業・団体が出展している.nano tech 2018大賞の選出に当っては,その680の全出展ブースを対象として,27名の審査委員による2時間半にわたる激論が交わされ,グリーンナノテクノロジー,ライフナノテクノロジー,ビジネスマッチング,産学連携,プロジェクト等,いろいろな側面で評価した部門賞と総合的に優れた大賞の受賞者が選出された.

 続いてナノテク大賞,7部門賞,および日刊工業新聞社賞と今回新たに加わったACS(American Chemical Society)賞の発表と表彰が行われた.以下に各賞の授賞者および公表された授賞理由と展示内容を紹介する.

◆nano tech大賞 NEC

受賞理由:得意とするICT技術,AI技術,材料開発技術などを融合し,IoT時代を意識したセンサーシステム,金属ナノ材料による低消費電力LSI,発電デバイスなどを開発.総合電機メーカーの名に相応しい先進的な技術開発力を高く賞す.

展示内容:超スマート社会を見据えて社会価値創造の7テーマ(Sustainable Earth, Quality of Life, Lifeline Infrasutrakutya, Communication等)を掲げ,共通基盤技術2テーマを含めて,これらに繋がる12技術・製品の展示を行った.カーボンナノチューブ,カーボンナノホーンに次いで発見したカーボン・ナノブラシ,漆ブラックを実現するバイオプラスチック,マテリアルズ・インフォマティックスなども展示された.


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NECのブース


◆ライフナノテクノロジー賞 カールツァイスマイクロスコピー

受賞理由:高スループットの微細構造三次元解析およびサンプル作成が可能なFIB-SEM装置を開発した.低加速電圧ながら解像度を従来機から30%向上した.解像度は1.4nmを達成したほか,サンプルの切削効率を大きく向上した.ライフサイエンス分野の分析・計測に大きな進展をもたらす画期的な装置開発を賞す.

展示内容:静電場と磁場の組み合わせでサンプルに与える場の影響を最小限に抑えるレンズ設計や,低ビーム電流の高分解能イメージングモードと高ビーム電流分析モードを切り替えて使えるダブルコンデンサーカラムを備え,イメージングと分析を両立させたFE-SEM,サブミクロン分解能の非破壊3次元イメージングが可能なX線顕微鏡,高速・高精細で再現性の高い表面解析が可能なワイドフィールド共焦点顕微鏡などを展示した.

◆グリーンナノテクノロジー賞 スギノマシン

受賞理由:独自開発したセルロースナノファイバー抽出技術と疏水化技術を組み合わせた粉末を開発した.様々な母材に均一分散して強度を大幅に向上させることができる.従来は複合化が難しかった熱可塑性樹脂やゴムにも適用できる.機械メーカーの新たな事業展開を賞す.

展示内容:ウォータージェット法を応用したコンタミレス湿式微粒化装置「スターバースト」による分散処理のデモンストレーションを行った.バイオマスナノファイバー「BiNFi-s(ビンフィス)」およびそのセルロースナノファイバー乾燥粉末体などを展示した.

◆スタートアップ賞 HSPテクノロジーズ

受賞理由:産総研技術移転ベンチャーで,分子レベルで異種高分子素材同士を均等に混ぜ合わせる高せん断成型加工技術を開発した.この技術により,ゴムのように伸縮する電極素材にも応用できる高導電性エラストマーなどを開発した点を賞す.

展示内容:展示された高せん断成形加工技術は帰還型スクリューの効果でコンポジット材料のナノレベルの混合や分散を可能とする.ガラス代替の透明ナノポリマーアロイは自動車窓ガラスを40%軽量化する.その他,金属代替高強度・軽量化素材,伸縮自在電極用素材,レアメタル代替ナノコンポッジット素材,石油資源代替エコマテリアルを開発した.

◆産学連携賞 科学技術振興機構(JST)

受賞理由:村田製作所,大阪大学,中部大学,香川大学,京都府立医科大学からなる産学連携チームは,新炭素素材グラフェンを用いてインフルエンザウイルスを高感度で検出できるセンサーを開発した.手のひらサイズで瞬時に計測できるため,インフルエンザの流行を未然に防げるほか,創薬研究にも役立つ点を賞す.

展示内容:JST戦略的創造研究推進事業CRESTの領域名「二次元機能性原子・分子薄膜の創製と利用に資する基盤技術の創出」における研究課題名「糖鎖機能化グラフェンを用いた二次元生体モデルプラットフォームの創成」の成果を展示した.二次元材料の生体モデル化という全く新しい可能性を提案するもので,ウイルス感染の基礎研究から世界流行阻止の医療応用まで幅広く貢献する.

◆プロジェクト賞 理化学研究所

受賞理由:偶然発見したテラヘルツ波の新しい発生原理を応用し,数キロワットの高い出力を出せる小型装置を開発した.有害なガスの検出などこれまで実現が難しかったテラヘルツ波の新たな用途開拓につながる.理研発ベンチャーから製品化を検討している点を賞す.

展示内容:非線形光学結晶としてニオブ酸リチウム結晶に近赤外励起光を導入するだけで,近赤外光の後進波としてテラヘルツ波を発振させることに成功したもので,高効率テラヘルツ発生装置,光波変換テラヘルツ波検出技術等を展示した.

◆ビジネスマッチング賞 MRS(イタリア)

受賞理由:ビジネスマッチングシステムを活用して,様々な出展者,来場者と最も多くの商談ポイントを獲得.精力的にオープンイノベーションに取り組んだ点を賞す.

展示内容:薄膜蒸着システム向け物質回収システム開発を行っている.産業廃棄物を簡単に回収することが出来るグリーンテクノロジーの提供を目指しており,試作品を産業化するに際してのパートナや技術販売先等を求めている.廃棄物からの金の回収率99.85が得れたと云う.

◆ACS(American Chemical Society)賞 National Taiwan University of Science and Technology

受賞理由:シリコン基板上金属ナノチューブアレイの創生をはじめとしたナノ基盤技術のバイオ,エネルギー,マテリアルなど幅広い分野への応用を賞す.

展示内容:高強度で低摩擦の薄膜金属ガラス(TFMG)を被覆したナノチューブアレイのバイオセンサー機能を紹介した.また,TFMG被覆された針は,一般的な被覆材料よりはるかに低い摩擦係数を示すとのことである.

◆日刊工業新聞社賞 東レ

受賞理由:ナノテクノロジーをフルに活用した素材開発と,それらを使う様々なデバイスを展開している.まさに本物のナノテクノロジー(トゥルーナノ)を極めており,国内外の企業にとって手本となる出展内容を高く賞す.

展示内容:繊維の断面形状を任意に制御可能で様々な原料樹脂を自在に複合化できるNANODESIGN®,分子設計とナノアロイ®技術の適用により6倍の破断伸びと20倍の屈曲耐久性を持つしなやかなタフポリマー,カーボンナノチューブ薄膜トランジスタで塗布型FETとして世界最高レベルの移動度108cm2/Vsを実現,MBR(膜分離活性汚泥法)において散気エネルギーの変換効率向上による省エネ実現,その他多くの技術・製品を展示した.


4.おわりに

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 東京ビッグサイトでのnano tech総合展・技術会議の3日間にわたるエキサイティングな時間が終わり,出展者も来場者もそれぞれに,明日からの研究やビジネス展開への想いを抱いて帰途についたことであろう.超スマート社会の実現に向けて,ナノテクノロジーが創出する限りない応用展開に人々の多くの英知が結集することを期待したい.一年後のnano techでの数々の新展開との出会いが待ち遠しい.

 次回の第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)は2019年1月30日~2月1日に同じ東京ビックサイトで開催される.


参考文献

[1] JSTプレスリリース(2018, 2, 18)「薄型で伸縮自在なスキンディスプレイの開発に成功~スキンセンサーで計測された心電波形を動画表示し,在宅ヘルスケア応用に期待~」:https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180218/index.html
[2] NanotechJapan Bulletin, 企画特集 10-9INNOVATIONの最先端<第14回>「新たな分子検出センサーMSSの開発(物質・材料研究機構)」,Vol. 7, No. 1,(2014).
[3] NanotechJapan,秀でた利用成果:http://nanonet.mext.go.jp/selection/



(向井 久和)