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NanotechJapan Bulletin Vol.11, No.2, 2018 発行

第16回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2018)開催報告

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 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(NPJ)の一環として「第16回ナノテクノロジー総合シンポジウム」が2018年2月16日に東京ビッグサイトで開催された.この事業は,微細構造解析,微細加工,及び分子・物質合成の3つのプラットフォームで最先端のナノテクノロジー施設・設備を有する38研究機関が,全国の産学官の研究者に利用機会を提供し,イノベーションにつながる研究成果の創出を目指すものである.今回のシンポジウムは,文部科学省ナノテクノロジープラットフォームセンターの主催により,「持続的な社会発展に向けたナノテクノロジー」を主題とし,ナノテクノロジー・材料技術の最新の研究開発を展望するとともに,本事業の成果を紹介した.

 以下,講演ごとの概要を,聴講メモと講演予稿をもとにまとめた.参考文献は,筆者が追加した.

【開会挨拶/Opening Remarks】

橋本 和仁 物質・材料研究機構 理事長/Kazuhito Hashimoto (President, National Institute for Materials Science, Japan)

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 本シンポジウムは文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の一環として開催する.

 国連は,2015年9月に持続可能な社会に向けて,2050年における課題を抽出し,2030年までの「持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals (SDGs)」を提示した.一方,2016年に始まった第5期科学技術基本計画は,サイバー空間とフィジカル空間が融合した超スマート社会を目指すSoc. 5.0を目標に掲げた.

 いずれの目標達成にもナノテクノロジーは重要な役割を果たし,産学官の協調が不可欠である.本シンポジウムがその出会いの場となり,ネットワークが世界に広がり,開発の進むことを期待する.


磯谷 桂介 文部科学省研究振興局 局長/Keisuke Isogai (Director General, Research Promotion Bureau,Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology)

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 第16回ナノテクノロジーシンポジウムが関係者の努力によって開催され,外務省科学技術顧問の岸氏,米国NSFのRoco氏,タイ科学技術相Maesincee氏,フランスMINATECのGuibert氏始め,内外の有識者の話を伺えるのは大変喜ばしい.

 我が国のナノテクノロジーは第5期科学技術基本計画でSoc. 5.0を実現するためのコア技術と位置付けられており,政府はイノベーション,国際競争力強化,SDGs達成に向け,ナノテクノロジーの研究開発を推進している.ナノテクノロジープラットフォームでは最先端の設備を38の機関が,これを必要とする研究機関に提供している.物質・材料研究機構(NIMS)が中心となって最先端設備の供用を推進し,共用文化を養成するとともに,産業現場の課題解決に欠かせない異分野融合を推し進めている.こうした共用設備の利用,異分野融合を通じて,成果が生まれる.本シンポジウムでは利用成果も紹介されるが,今後とも活発な利用が進み,さらに顕著な成果が生まれ続けることを期待する.


【基調講演/Plenary Lecture】

座長 藤田 大介(NIMS)

「持続可能な社会の発展に向けた科学技術の役割」/Role of Science & Technology for the Sustainable Development of Society"
岸 輝雄(東京大学名誉教授/外務大臣科学技術顧問)/Teruo Kishi (Prof. Emeritus at e University of Tokyo / Science & Technology Advisor to the Minister for Foreign Affairs, Japan)

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 1999年の科学技術会議は社会のための科学に舵を切った.その流れの中で,SDGsが2030に向けた国連の課題として取り上げられた.

 外務大臣科学技術顧問は,2年半前に設けられ,海外との連携,科学技術活用等の提言を行っている.例えば,各国アカデミーと連携し,二国間協定,国際協力などを外務省に提案する.文部科学省と外務省との仲立ちともなる.2016年の伊勢志摩サミットでは,科学技術の社会実装を提案した.SDGsについても外相に提案し,イノベーションによるソリューション,人材育成などの政策に反映されている.

 SDGsの2030アジェンダは,2015年9月に開催された国連の持続可能な開発サミットによって採択された.このアジェンダでは貧困を撲滅し,持続可能な世界を実現するために,17の持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(SDGs)を列挙している.その中で,次のような項目は,ナノテクノロジーや材料などの先端的な科学や技術を必要とする.「3.良好な健康と福祉」,「6.清潔と衛生」,「7.手頃な価格とクリーンエネルギー」に対し,生命,環境,エネルギーのためのナノテクノロジーが直接貢献し,「8.適切な労働と経済成長」,「9.産業の革新と基盤」,「11.持続可能な社会と地域共同体」,「12.責任ある消費と生産」には,製造,IT,都市工学,運輸のためのナノテクノロジーと,材料が広く用いられる.

 このような目標を達成するため,例えば構造材料に関して,進行中の2つの大きな国家プロジェクトがある.一つは,経済産業省が支援するISMA(Innovative Structural Materials Association,新構造材料技術研究組合)と,もう一つは内閣府が支援するSIP-SM4I(Structural Materials for Innovation of Strategic Innovation Promotion Program,「革新的構造材料」戦略的イノベーション創造プログラム)である.ISMA,SIP-SM4Iともに現在は輸送システムのための材料開発を行っているが,ISMAは主として自動車,SM4Iは航空機を指向している.ISMAでは,劇的な軽量化のため,スチール,アルミニウム合金,チタン合金,マグネシウム合金,CFRPなどの軽くて強い材料と,その接合技術を開発している.一方,SIP-SM4Iは,軽くて強い材料とともに,航空機エンジンの熱効率を高めるために耐熱材料が求められ,CFRP,チタン合金,ニッケルベース合金,チタン・アルミニウム金属間化合物,SiC/SiCセラミックス複合マトリックスが開発されている.さらに,材料統合(Materials Integration),統合システムの理論,数値シミュレーション,実験データから導かれる規則性,および材料科学・技術に関するAIを含む情報科学(インフォーマティクス)が材料設計をスピードアップしようと開発が進められている.

 ナノテクテクノロジー事業の支援でオープンイノベーションの拠点ができ,ナノテクノロジープラットフォーム利用は2013年から件数・金額とも急増している.日本の科学技術基本計画は,Soc. 5.0を目指す.ドイツのIndustry 4.0は工業発展を指向するのに対し,日本は科学技術開発による社会の変革を目指している.


【特別講演/Special Lecture】

座長 藤田 大介(NIMS)

「超微細スピントロニクス素子とその集積回路,AI応用」/Nano Spintronics Devices for VLSI and AI"
大野 英男(東北大学)/Hideo Ohno (Tohoku University, Japan)

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 SDGsやSoc. 5.0に必要となるモノのインターネット(IoT),高性能コンピューティング,および人工知能(AI)のために,低電力消費で,しかも高性能な集積回路の開発は重要な課題である.スピントロニクスはこの課題に応える技術として,日本,並びに海外の研究者が東北大学省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンターに集まって,研究開発を進めている.

 コンピュータのメモリーにはワーキングメモリーとストレージメモリーの2つの階層がある.コンピュータのロジックはワーキングメモリーを使う.ストレージメモリーに使われているフラッシュメモリーは日本の大発明だが,ワーキングメモリーにはならない.ワーキングメモリーに使われるDRAMのセルサイズは小さく高密度,SRAMはその60倍のサイズだが高速である.どちらも揮発性であり,記憶保持のために常時電圧を印加しているから,電流リークによって電力を消費し,その上DRAMはリフレッシュにエネルギーを使う.消費電力が大きいことはデバイスをIoTに使う上の障害になる.そこでメモリーは不揮発性にしたいが,不揮発性のフラッシュメモリーは動作が遅い.高速・揮発性のワーキングメモリー,大容量・不揮発性のストレージメモリーと,2つのメモリーの特性は不連続でその間にはギャップがある.これに対し,スピントロニクスはメモリー階層間にあるギャップをなくし,ロジックとメモリーを一体化して低電力・高速化を図ることが期待される.

 従来のエレクトロニクスでは,電子の電荷の動きを制御するのに対し,スピントロニクスでは電子のスピン(磁石)の向きを制御し,磁石の平行と反平行の書き換えを行う.スピンの向きが,データの(0,1)に対応する.スピン軌道相互作用により磁気情報と電気信号の変換もできる.電流と磁場の向きを組み合わせて動作させ,100psで動く高速の不揮発性メモリーができる.

 不揮発性スピントロニクスデバイスの磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction, MTJ)は2端子で,垂直磁化容易軸を持ったCoFeB-MgO系で20nmまで微細化できるため,ワーキングメモリー置き換えの目的に広く用いられるデバイスである.MgOとCoFeBを積層し,1nm程度に膜を薄くすることで界面磁気異方性により膜に垂直方向の磁化容易性を実現していたが,情報の忘れにくさ(熱安定性)と書き換えやすさ(電流誘起磁化反転)の両立のため20nm以下への微細化は難しかった.これに対し,CoFeBの代わりに低電流での磁化反転が期待されるFeB合金を用い,膜を厚くすることで形状磁気異方性を活用して,磁石を縦に配置した形にすることで高い熱安定性を保ちながら10nmを超えて8nmの領域まで微細化することに成功した[1].MTJを用いた不揮発性集積回路も開発した.また,書き込み電流路と読み出し電流路を分離する3端子デバイスは高速動作に適する.スピンの制御には電流誘起磁壁移動が用いられ,重金属や反強磁性体で起こる,スピン軌道トルクを用いるデバイスが注目されるようになった.このデバイスに反強磁性体を用いると,神経形態学的(neuromorophic)応用に適したアナログメモリとして動作する.このメモリーでは学習が可能で,東北大では3×3のパターンで「ICT」という文字の学習に成功した.

 東北大では,設計から集積化試作まで全てスピントロニクスデバイスの研究開発ができるようにし,産官学の多数の人たちが研究開発を進めている.低消費電力・高速のスピントロニクスはロジックインメモリ,集積化も可能である.ワーキングメモリーとストレージメモリーの間にあるギャップをなくして両者を融合できる.スピントロニクスは,IoT,高速演算,AIが求める待機時電力不要,低電力消費で,しかも高性能な集積回路を実現する重要な課題である.

質疑

Q:機械学習の話があったが,アーキテクチャから変わるのか,数値演算で加速しているのか?

A:アーキテクチャが変わらなくても大電力を使わずに学習できるようになると考えている.さまざまな可能性があり,アーキテクチャにまで踏み込んで行けるかもしれない.


【Session 1:ナノテクノロジーによるイノベーション(I)/Nanotechnology for Innovation (I)】

座長 藤田 大介(NIMS)

1-1 「将来に向けたナノテクノロジー及びその他の先端的取り組み」/"Nanotechnology and other Grand Challenges for Future Society"
Mihail C. Roco(National Science Foundation, USA)

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 米国は,17年間にNNI(National Nanotechnology Initiative,米国ナノテクノロジー計画)に240億ドル(約25兆円)を投じた.他の様々な開発計画Initiative(計画)も進められており,それらとのコンバージェンス(収束・統合)が今後の技術開発に重要となる.

 科学技術開発は外的要因で始まる.宇宙開発はロシアが先に有人衛星を打ち上げたことによって始まった.NNIの科学技術開発は大気環境を含む地球規模の課題へのグランドチャレンジである.異なる分野の知識・技術が相互に関連しながらスパイラル・パターンで進歩してゆく.一つのものでは解決できないから,多数のものを使い,収束・統合して解決する.人間の認知,生産能力を高め,一般化できる理論を作り,知識ツールを共通目標で統合する.違った経路で進み,個別要素を組み合わせて,全体像を描く一方,システムは演繹的に作る.ビジョンのもとに,科学,環境,経済などが,同時進行の相互作用により水平方向と垂直方向の展開によるスパイラルが創造を生む.それを一旦収束・統合した上で,次の展開を図る.

 コンバージェンスによって新しいアイデアが生まれる.がん細胞の標的破壊はその例である.がん細胞をナノマテリアルに包んで体外の生体内と同じ環境に取り出せれば,細胞処理がやりやすくなり,治療法や創薬が進むことになるだろう.

 科学技術のコンバージェンスには3つの階層がある.ナノテクノロジー(Nanotechnology)から,ナノ・バイオ・AIの統合(NBICA, Nano-Bio-Into-Cognitive-AI Converging Technologies)を経て,社会のエコシステム(Convergence of Knowledge, Technology and Society)構築に進む.これを遂行するため,単一現象,システム統合,インテグレーション,バイオなどと結びついたプラットフォームを構成する.この考えに沿った「2019年に向けた計画」は大統領の承認を経て,Nanotechnology Signature Initiativeとなった.2020-2030にコンバージェンスの実験を行い,領域を超えることによって新しい発展が生まれることが期待される.

 これまでのナノテクノロジーの発展を,科学論文,米国特許(USPTO)や国際特許(WIPO)で見てみると,2000年-2016年の期間では論文と特許の世界的な平均成長率は15%を保っている.地域ごとの成長率は一様ではない.科学論文発表の数と質で,中国と韓国の伸びは速い.現在中国はナノテクノロジーの発表数では最大となった.韓国は一人当たりのナノテクノロジー発表が最大である.US,EU,日本は,ナノテクノロジーR&Dの上流,引用数,概念の面で指導的立場を保っている.


1-2 「タイ4.0 - 21世紀の繁栄」/"Thailand 4.0 - Thriving in the 21st Century in the Time of Changes"
Suvit Maesincee(Minister, Ministry of Science & Technology, Thailand)

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 タイの人口は6,900万人,GDPはASEANで第3位の4,400億ドル(約50兆円)で,3,900万人の労働人口を持ち,GDP成長率は2015年の2.9%から,2016年には3.8%となり,2018年は4.6%を見込んでいる.R&D(研究開発)費の対GDP比率も上がり,2010年の0.22%から,2016年には0.78%となった.2018年は1%になると見ている.国の国際競争力も上がったが,これには規制緩和が役立っている.タイは投資先として魅力的になった.これからは,Thailand(タイ)4.0という経済モデルのもとに,新しい経済機会を創出する.

 タイ4.0は20年にわたる国家戦略である.タイには不平等,不均衡が残り,国の将来にビジョンがなかった.2017年から安全,持続性などの戦略を立て,グリーン成長,人材開発など行っている.2036年に1兆4,000億ドルのGDPを目指す.一人当たりのGDPは2万ドル,R&D費のGDP比率は4%を目論む.人口1万人あたりの科学・技術者数は25人を目指す.

 タイ1.0は農業,2.0は輸入を代替する国内軽工業,3.0は投資を呼び込んで輸出する重工業が中心だった.タイ4.0ではバランスのとれた繁栄,経済,環境,社会の共創を図る.量中心から価値中心,比較優位から競争力優位,物理的・財的資本から技術的・人的資本へ,製造から製品へとサービスの価値を高める.

 タイ4.0はイノベーション主導の経済である.繁栄,R&D人材,革新,起業がこれを支える.資源再生を含めた循環型社会を目指す.人と自然,人と人とのバランスをとる.分配型の経済で,ビッグデータを活用し,貧困を削減して,持続可能,安全な社会を構築する.自動車,観光,エレクトロニクスなどの10の産業を選び,アップグレードを図る.世界の台所を目指し,食品技術にフォーカスした研究パートナーのネットワークを作る.ネットワークは,23の大学,12の政府機関,3つの地域センターの入居者で構成される.この中には日本の農場が5つ入っている.

 タイにおける経済機会として,東部経済回廊(EEC, East Economic Corridor)がある.投資のための特区である.チョンブリ,ナヨン,チョチュンサヨンの3県に跨る.ここには港,空港など既存のインフラがあり,物流で国内を結べるよう,5年間に430億ドルかけて,高速鉄道を整備し,鉄道の複線化などを進める.税の特別措置などの優遇策も用意されている.マーケットと生産を統合し,産業と研究を結びつけて,技術移転の中心になる.近代農業と生物技術,高性能電池と近代輸送,航空・宇宙,バオ燃料とバイオ化学品,知能システム,医学装置の6産業に焦点を絞り,ARIPOLIS,BIOPOLIs,SPACE KRENOVAPOLISの3つのInnopolis(ハイテクシティ)イノベーションクラスタを構築する.法人税の免除,研究開発用材料の関税免除など,政府からのインセンティブが与えられる.日本からも戦略的パートナーがタイに来ることを期待する.

質疑

Q:研究開発費はGDPの4%か.

A:実績は0.8%で今年は1%の達成を狙う.20年でGDPの4%を目指す.


ナノテクノロジープラットフォーム利用成果ポスター展示/Poster Presentation on Activities of Nanotechnology Platform

 昼食・休憩の時間を利用してポスター展示が行われた.文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム平成29年度「秀でた利用成果」6件,「技術スタッフ表彰」4件,及びナノテクノロジープラットフォームセンター/微細構造解析プラットフォーム11機関/微細加工プラットフォーム16機関/分子・物質合成プラットフォーム11機関の実施概要及び利用成果概要,これに加えて,文部科学省蓄電池基盤プラットフォーム実施概要のポスター展示が行われ,参会者との活発な意見交換が行われた.


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 昨年の「秀でた利用成果」表彰と「技術スタッフ表彰」は,JAPAN NANOシンポジウムの1セッションとして行われたが,今年は2月14日に,第17回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2018)展示会場内の,物質・材料研究機構のブースで,下記の表彰が行われた.


秀でた利用成果(*最優秀賞)[2]
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技術スタッフ表彰[3]
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【Session 2:ナノテクノロジーによるイノベーション(II)/Nanotechnology for Innovation (II)】

座長 小出 康夫(NIMS)

2-1 「ナノテクノロジー研究開発拠点MINATEC」/"Nanomaterials Based Start-Up, the MINATEC Experience"
Jean-Charles Guibert(MINATEC, France)

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 フランスのナノテクノロジー研究開発拠点MINATECのあるGrenobleはフランス南東部に位置するハイテク産業都市で,アルプス山脈の麓にあり,スキーリゾートに囲まれている.CEA(Commissariat à l'énergie atomique et aux énergies alternatives,フランス原子力・代替エネルギー庁)とLETI(Laboratoire d'électronique des technologies de l' information,電子情報技術研究所)が連携して2006年にMINATEC(Micro and Nanotechnology Innovation Centre)を設立し,イノベーションリーダーを目指ことになった.ナノテクノロジーへの挑戦に立ち向かうには新しいモデルが必要で,ナノ時代に入るには基礎研究とこれに続く開発が次第に増えることを,認識した結果である.教育,産業,研究が1箇所に集まり,この3者の3重螺旋構造で科学技術の進展を図る.学生,産業界を含めて,4,000人の研究スタッフを擁し,150,000m2の建物の中にマイクロ・ナノテクノロジー専用の(dedicated)12,000m2のクリーンルームを設けている.

 LETIはオープンリサーチで,そこから生まれたスタートアップが数多くある.知識を産業界に移転する好ましい方法はスタートアップを創設することである.MINATECは量子,低温,Siテクノロジーの専門家を集めて,ナノ材料と科学をベースに大手企業とともにスタートアップを支援する.すでに50以上のスタートアップを立ち上げ,MINATECのビルに多数のスタートアップが入っている.キャンパス運営費の30%はスタートアップからの収入が当てられている.

 MINATECはスタートアップの株主になって,15~20%の出資をする.40Mユーロのファンドが用意されている.スタートアップのアイデアが出てから6~24ヶ月かけてアイデアが成熟するのを見て,"Incubation"に進むことが決まり,プロジェクトが始まる.9~18ヶ月の"Incubation"の後,"Creation"に進むことが決まり,CEAが投資してスタートアップが創業する."Creation"に入って事業が軌道に乗るまでの"Starting Phase"は12~24ヶ月である.講演では,10社以上のスタートアップ・支援例が紹介されたが,その幾つかを記しておく.

*Soltech:1991年からLETIとの共同研究を元に,GaAs多層エピタキシャルウェーハ,III-V化合物半導体多接合太陽電池等の半導体材料製造する.IBM,ARMのパートナーとなり,2017年にスタッフは1200人を超え,雇用創出にも貢献している.
*CROCUS Technology:高信頼・高速MRAM開発.工場建設の資金を獲得している.
*ETHERA:ビル内の空気の化学汚染診断を簡便に行う装置を開発.
*ISORG:光検知器・大面積イメージセンサをつくるプリンテッド有機エレクトロニクスの開発.
*ALEDIA:ナノワイヤLED.低コスト狙いで,300mm Siウェーハ上にInGaNのナノワイヤ成長.ディスプレイの革命になるという.MINATECのFabを利用,30Mユーロの資金を調達し,80人が働く.名古屋大学 天野教授がアドバイザに就任している.

質疑

Q:起業の成功率は?

A:成功と失敗は半々.起業した会社の1/3は買い手がつき,1/3の会社はそのまま存続する.スキーム全体でリターンを考えている.TDKが加速度センサなどセンサの会社を買ったから,MINATECに拠点を持つ大企業を呼び込むことができたことになった.

Q:インキュベーションの期間はどのくらい必要か.支援対象はどう選ぶか.

A:インキュベーション期間は6~18ヶ月である.支援するかどうかは,知財のあること,ビジネスの人を入れたチーム作り,技術完成度などで判断する.5年での立ち上がりをめどにしている.


2-2 「米国ナノテクノロジー共用施設ネットワーク,NNCI」/"National Nanotechnology Coordinated Infrastructure : an NSF - funded Nanotechnology Lab Network in the United States"
Oliver Brand(Georgia Institute of Technology, USA)

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 ナノテクノロジーは先端材料,医療,ロボティクスなどの基盤(インフラ)である.NNIは2001~2016年に23Bドル(230億ドル,2兆4,000億円)の支援を行ったが,ナノテクノロジーから生まれた製品は2012年に730Bドル(7,300億ドル,77兆円)になった.引き続き,新しくより良いナノ材料・ナノ構造・ナノシステムを追求する.しかし,その活動の元になるツール・技術は高価で,ツール運用には熟練技術者が必要となる.そこで,これらを備えたオープンアクセス設備を提供することになった.2004~2015年に組織されたNNIN(National Nanotechnology Infrastructure Network)の後継として,NNCI(National Nanotechnology Coordinated Infrastructure)がNSFの資金で設立された.

 16のNNCIのサイト及び13の協力機関(大学,国立研究所,非営利法人など)が米国全土の17の州に分布し,67の施設で2,000を超えるツールを供用している.ジョージア工科大学はそのセンターになっている.2017年9月までの2年間に,NNCIサイトは,12,400人を超えるユーザーにサービスを提供した.そのうちの3,200人は外部ユーザーである.ユーザーの所属する機関は,200以上の大学関係,800以上の会社,50以上の国際的な機関に及ぶ.1年間に,5,000以上の新ユーザーがネットワークで訓練を受け,900,000時間以上の利用時間が記録された.

 NNCIは,リソグラフィによるトップダウンと合成によるボトムアップのナノ製造・加工,およびナノスケールのイメージングと計測・評価のサービスを提供する.材料から,プロセス開発,複雑なデバイス作製,システム構築,それらの応用まで支援する.ユーザーは教育・研修を受けてツールを使うが,遠隔作業も提供し,依頼作業も受け付ける.地方の大学の利用も多く,産業界のユーザーの2/3は中小企業で,NNCIはスタートアップや小企業のサポーターとなっている.適用領域は,材料:28.11%,化学:12.73%,エレクトロニクス:11.57%,ライフサイエンス:8.88%,物理:7.61%,MEMS/機械工学:6.95%,医学:5.80%,光学:4.30%,教育研究:2.77%,地球科学:2.39%,プロセス:2.06%,その他の研究:6.84%と分布している.ユーザーが増加している分野は,ライフ,環境,地球科学で,マイクロ/ナノ製造を使ってこなかった人が多く,より多くの訓練とスタッフの支援が必要となっている.

 2016~2017年に300台の新しい設備を入れた.総額約67Mドル(約70億円).11台は1Mドル,16台は500kドル~1Mドルかかり,クライオTEMには5Mドルかかった.NNCIや大学の資金により,直接購入,寄付,ローン,リースなどで導入した.

 ネットワークからの成果には,2層グラフェンの励起子,細胞間神経活動を記録するナノワイヤ,ナノストローを用いた非破壊細胞解析,メモリデバイス用フレキシブル強誘電体,などの科学的成果があり,成果をもとにスタートアップが生まれ,スピンオフする事例も多い.

 NNCIの使命にはナノテクの教育・普及がある.セミナーを開き,大学生に研究の経験をさせる.ナノテクの情報を発信し,科学教育資料を作り,バスで巡回して啓蒙活動を行っている.

質疑

Q:CaliforniaやPennsylvaniaに5つのローカルネットワークがあるが,NNCIとの関係は?

A:5つのネットワークは企業のコンソーシアムで,NNCIとは別物である.DOEの支援で基礎研究を行っているから,お互いに補完することはできる.

Q:外部ユーザー25%というのは目標値か? 大学と企業で料金に差はあるか?

A:50%を外部にしたい.しかし,自前で設備を導入し,NNCIを頼らない大学もあるから,外部比率は急には変わらない.料金はサイトによって異なるが,一般的には企業の利用料金は大学の2~3倍である.

Q:財務的なことで,NSFの資金はどのように使われるか?

A:人に関することに多く使う.教育には20%使っている.どこに使うかは,各サイトの裁量である.

Q:ネットワーク内で作った材料はネットワークを通じて融通しているか?

A:ネットワークを通じて適宜融通し合っている.


【Session 3:ナノテクノロジーによるイノベーション(III)/Nanotechnology for Innovation(III)】

座長 野田 哲二(NIMS)

3-1 「産業が"Individual"になる~実用域に達した超小型デバイス生産システム・ミニマルファブ」/"Minimal Fab Realized as a One-by-One Device Production system to individualize the device industry"
原 史朗(産業技術総合研究所)/Shiro Hara (National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Japan)

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 LSIは産業が大きくなり,スモールビジネスが成り立つか疑問になった.大量生産は中国や開発途上国に移り,先進国は,高付加価値を狙うが,多品種少量生産になり,産業になりにくい.最近の半導体工場は,1ライン約5000億円を要し,負け組みが増えて,製造中止が激増している.研究成果をすばやく実用化するため,産業として成り立つ最小の製造規模を考えた.

 チップ価格は累積生産量の増加とともに低下する.通常,300mmウェーハだと,設備投資が大きいのでチップ価格は1チップ生産では106ドル/cm2になってしまうが累積生産量とともに低下し,累積105チップで下げ止まり,30ドル/cm2程度になる.0.5インチ(12.7mm)ウェーハだと,チップ価格は1個生産の104ドル/cm2から始まり,累積生産104個での価格で下げ止まって30ドル/cm2になる.従って累積生産104個以下では0.5インチウェーハの方がコストで優位となる.

 しかし,多品種少量生産は儲かりにくい.設備の共通化・標準化が必要になる.ミニマルファブは,2007年に提案し[4],次の3要素で定義される:(1)ウェーハの直径は0.5インチで,従来の12インチに比べウェーハ面積は1/,1000;(2)装置(tool)の大きさは幅294×奥行450×高さ1,440mmに標準化され,ほぼ人体と同じ大きさ;(3)局所クリーンシステムを用いることによってクリーンルームを不要にする.ウェーハ輸送車のウェーハ空間,プロセス作業の環境空間を,粒子ロック・エアタイトドッキングシステム(PLAD)により,クリーンにする.この定義にあった装置にはミニマルファブとしての認証を与える.このような装置に関与するファブシステム会員は150社になった.

 数多くのミニマル装置を開発した.幾つかの例を挙げるなら,レジスト塗布機・現像機,マスクレス露光システム,ウェットエッチャー,ドライエッチング装置,レジストアッシャー,酸化炉,拡散炉,SiNのスパッタープラズマCVD,CMP(化学機械研磨),DRIE(深掘り反応性イオンエッチング)等々.また,次のような後工程装置も開発した:ダイシング装置,ダイボンダー,銅メッキ,ウェーハ粒子スキャナー,光学式厚さテスター,3次元顕微鏡など.いずれも,AC100Vのコンセントに接続して稼働,ユーザーインターフェースも統一されている.

 2012年に,0.5インチウェーハにレジストパターンを形成した.ミニマルリソグラフィシステムの分解能は10µmであった.現在の分解能は約0.5µmである.2013年には,p-MOSFETをミニマル装置だけで作った.2015年には,CMOSインバーターとリングオシレータを作り,MEMSのボッシュプロセスにも成功した.2016年のセミコンジャパンではイベントホールでトランジスタを作れた.GaAs LD,SOI CMOS,Ga2O3,SiO2の処理もできた.これからはダイヤモンドウェーハに挑戦する.

質疑

Q:高さ140cmの筐体寸法の理由は?

A:重さを100kgに収めて移動でき,人が立って使える高さ,0.5インチウェーハに適した大きさとした.


3-2 「嗅覚IoTセンサシステムの標準化に向けた総合的研究開発と産学官連携」/"Comprehensive Development and Industry-Academia-Government Collaboration toward Standard IoT Olfactory Sensor Systems"
吉川 元起(物質・材料研究機構)/Genki Yoshikawa (National Institute for Materials Science, Japan)

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 2007年に作られた人型ロボットには鼻がなかった.最近の感情を持つという人型ロボット「ペッパー」には鼻の形もない.人間の五感(視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚)のうち,最もデバイス化が遅れているのが「嗅覚」である.嗅覚センサの実現を難しくしているのは,「ニオイ」の複雑さである.ニオイの成分は40万種以上あり,呼気は1,000種のガスから成る.このため,日常的に使える嗅覚センサがない.しかし,嗅覚はウィルス,血液,呼気の検査に使える.

 そこで,嗅覚に対応するナノメカニカルセンサとして,各種基礎科学の融合・最適化により,高感度と極小サイズを両立する「膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor, MSS)」を開発した[5].MSSは,Siなどの薄膜を縁の4箇所に設けたピエゾ抵抗素子で支え,この際ピエゾ抵抗素子の方向を,膜から伝わる応力を二つの異なる向きで受ける形状とし,膜に塗布した受容体層が標的分子を吸着することにより膜に発生する応力をピエゾ抵抗素子で感知し,ピエゾ抵抗素子をホイートストーンブリッジ回路に組み込むことにより抵抗変化を高感度に読み取る.ブリッジ回路と組み込まれたピエゾ抵抗素子および感応膜は,Siプロセスで1mm角の素子に形成され,これで1チャネルの検出ができる.

 ニオイの検知には感応膜の作り込みが必要になる.材質としては,細胞,高分子,金属などがあり,硬さと厚さの制御で感度が上がる.無機系ナノ粒子のシリカを使うと感度が上がることがわかり,感応膜はシリカに官能基を付けてシリカ - 高分子のハイブリッドナノ構造とした.全自動材料評価システムを立ち上げ,測定環境を振って1日に数万データをとり,材料をスクリーニングする.

 MSSの特徴は次のように纏められ,IoTなどの用途にも対応可能である.
 ・高感度:感応膜や測定条件次第でガス分子に対してppm~ppb感度
 ・小型:1cm2に100チャネル以上集積可能
 ・多様性:有機・無機を問わず様々な感応膜を使用可能
 ・室温動作/低コスト/低消費電力/高速動作/安定応答

 応用例を挙げると,食品では肉をニオイで判別できる,生産地での品質管理に役立つ.ガソリンも識別でき,レギュラー,ハイオク,灯油などが区別できるから,不正ガソリンの摘出に使える.その他,各種のスパイスやハーブのニオイも識別できる.さらに,機械学習と融合することによって,複雑な混合ガスから成るお酒のニオイから,アルコールという特定情報を高い精度で定量推定することに成功した.分子量の違いでたわみが異なるので,窒素と空気も区別できる.果物のラフランスの食べ頃をニオイで推定したら,硬さによる判別と一致した.このほか,癌の呼気診断の可能性も実証されており,今後は生体ガスによる健康状態の数値化など,様々な分野での利用を期待している.

 このMSSによる嗅覚センサシステムの社会実装に向けて,2015年に産学官連携「MSSアライアンス」を発足させ,最先端要素技術の垂直統合を行ってきた.さらに2017年11月より「MSSフォーラム」を発足させ,公募型実証実験活動を開始した.ここで実施される様々な分野での有効性実証実験を通じて,「香りやニオイの基準モノサシ」の確立を目指す.

質疑

Q:一度ニオイを検知したセンサは捨てるのか?

A:可逆反応を利用しているので,空気を流して吸着ガスを飛ばせば次の検体を測れる.

Q:人が臭わないガスでも検出できるか?

A:水のように人は臭わないものも検出できる.有毒ガスも含めて,人の臭わないものにも対応する.


【Session 4:nano tech大賞 2017 受賞者講演/nano tech 2017 award lecture】

「単層CNTに誘発されるイノベーション」/"Innovations Induced by Single Walled CNTs"
荒川 公平(ゼオンナノテクノロジー株式会社)/Kohei Arakawa (Zeon Nano Technology Co., Ltd., Japan)

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 nano tech 2017(昨年度)の展示会において,nano tech大賞2017は,日本ゼオン(株)/ゼオンナノテクノロジー(株)に贈られた.その受賞理由は,「電子部品メーカーのサンアロー(株)と組み,産総研で開発したSWCNT複合材料の本格的な事業活動を開始した.代表的なナノテク素材であるSWCNTの様々な産業分野への応用展開が期待される点を賞す.」であった.今回の講演では,それ以降の展開も含めて,技術の内容と今後の展望が紹介された.

 日本ゼオン株式会社は1950年4月12日に合成樹脂の製造販売を目的として創立され,塩化ビニールや合成ゴムの国産化を行った.現在は,エラストマーを主要製品としている.2017年3月期の売上は2,876億円,営業利益317億円で,3,070人が働いている.日本ゼオンのエラストマーは耐熱・耐油性の合成ゴムで,エンジン周りや,ゴム手袋に使われる.この他,光学フィルム,レンズ用樹脂,香料などを作っている.

 日本ゼオンの主要技術は有機合成だが,無機のCNT(カーボンナノチューブ)を作る工場を山口県徳山市の北に位置する周南市に作った.ここで生産するスーパーグロースCNT(SGCNT)は気相合成でSiウェーハ上にSWCNT(単層CNT)を成長させるもので,10分で2.5mmと成長速度が速いので生産性が高い.有機の日本ゼオンが無機のCNTに着手したきっかけは,産業技術総合研究所(産総研,AIST)からの働きかけであった.荒川氏が前職の日機装時代の1983年に,気相で浮遊しながらカーボンナノファイバー作る方法を発明していたのに産総研が目をつけた.日機装時代に取得した物質特許を利用して,SGCNTをやろうとしたが,無機に馴染みのない会社だったので,社長を説得して着手するのに数ヶ月かかった.CNTキャパシタ開発のNEDOプロジェクトでSGCNT量産プロセスを開発し,連続生成,基板大面積化を行った.Siウェーハに鉄粒子を載せていたのを,金属フィルム上に載せるようにし,化学的に作っていた鉄粒子を連続スパッタに変えるなどして,キロ数千万円していたものを数十万円にした.このプロジェクトでは,普及のためのサンプル配布に生産が必要となり,2009年に実証プラントを作った[6].プロジェクト終了後は,技術研究組合を作ってCNTの分散,複合化などの基盤技術を開発し,サンプル配布を行って普及を図った.2015年には量産工場を建設した.現在はキロ100万円だが,1~2桁下げて,キロ数万円にしようとしている.

 応用は,ゴムへの添加である.シーリング材,電極材料,電磁波シールド,熱伝導材,熱伝導ゴム複合材,などが作れる.SGCNTを1%添加すると熱伝導率が上がる.面内の熱伝導率は1~2W/mKだが,CNTの軸方向に当たる垂直方向では90W/mKになり,鉄を上回る.パワーデバイスのヒートシンクの界面に使うと,従来のグリースに比べ熱抵抗は半分になった.難燃性もあり,高温強度,機械強度は高い.厚さ10µmで電磁波の99%を吸収する.

質疑

Q:耐久性はどの程度か?

A:耐熱温度は200℃から230℃に上がり,引っ張り強度も上がった.


【Session 5:ナノテクノロジープラットフォーム利用主要成果講演/Topics of Nanotechnology Platform】

座長 横山 利彦(分子科学研究所)

5-1 「高分解能電子顕微鏡によるナノ粒子の状態解析の進展と新たな触媒機能の開発」/"Atomic Resolution Electron Microscopy of Nanoparticles for Development of Advanced Catalysts"
松村 晶(九州大学)/Syo Matsumura (Kyushu University, Japan)

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 九州大学超顕微解析研究センター(Ultramicroscopy Research Center Kyushu University)は,11あるナノテクノロジープラットフォーム事業 微細構造解析プラットフォームの一つである.透過電子顕微鏡(TEM)を11台,走査電子顕微鏡(SEM)を2台と,試料作製などの関連設備を持ち,エネルギー選択(Energy-filtering)高電圧電子顕微鏡,先端収差補正原子分解能STEM(走査透過電子顕微鏡)などがある.この中で,原子分解能STEMを使用し,京都大学 北川教授ら,大分大学 永岡教授らと共同で触媒材料の原子スケール構造解析を行い,新触媒開発に貢献した.

 触媒は,大表面積の固体表面に触媒活性を持ったナノメートルサイズの粒子や層が分散した形をとっている.このため,触媒機能の理解には原子レベルで触媒のサイズ,形状,表面構造の情報を得ることが大切である.電子顕微鏡による原子レベル構造解析により触媒機能を理解し,これを基に新触媒を開発した.以下に,2つの解析・開発例を紹介する[7][8].

 最初は,自動車排気ガス浄化の触媒として広く使われているRhナノ粒子の例である.Rhは希少金属である.一方,PdとRuの固溶体は,Rhなみの優れたCO酸化能力並びに高いNOx還元能力を持つことが明らかになっている.しかしながら,PdとRuは熱平衡状態では混じり合わない.このため,固溶体は高温で不安定となり分解する.電子顕微鏡で,Pd-Ruナノ粒子のHAADF-STEM(高角度環状暗視野-STEM)イメージと局所的なラインプロファイルをとると,600℃で3回のNOx還元プロセスの間に,PdリッチとRuリッチの層に分かれて行くことがわかった.そこで固溶体を安定化するため,3元合金PdRuRhナノ粒子を作り,熱安定性と触媒性能の向上を確かめることができた.

 二番目は,肥料生産のための重要な原料のアンモニアの合成である.アンモニア合成の典型的な手法であるハーバー・ボッシュプロセスは高温・高圧を必要とし,大量のエネルギーを消費する.このため,低温,低圧といった穏やかな条件でアンモニア合成が出来る新しい触媒が求められている.大分大学では,新たに,Ru/PrO2アンモニア合成触媒の開発に成功した.電子顕微鏡によるSTEM観察とXEDS(エネルギー分散型X線分析)マッピングから,結晶性の低いRuナノ層がPrO2の表面にできていることがわかった.この特異な構造が窒素分子のN≡N三重結合の切断とNH3合成の律速段階を相乗的に加速していると解釈された.この結果をもとに,PrをCeやLaに置き換え,Ru/CeO2,RuLa0.5Ce0.5O1.75の構成の触媒作成にも成功している.


5-2 「トレンチMOS構造を設けたGa2O3ショットキーバリアダイオード」/"Ga2O3 Trench MOS-type Schottky Barrier Diodes"
佐々木 公平(株式会社ノベルクリスタルテクノロジー/株式会社タムラ製作所)/Kohei Sasaki (Novel Crystal Technology, Inc. / TAMURA CORPORATION, Japan)

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 ユーザーが佐々木氏,実施機関がNIMSの,「パワーデバイス材料のGa2O3の結晶成長と応用」が,「ナノテクノロジープラットフォーム事業 平成29年度秀でた利用成果」の最優秀賞に輝いた[2].

 パワーデバイスは,電力がパワーステーション(発電所)から,工場,データセンタ,列車,家庭,EV等に送られる際の,電力の変換部分に使われる.

 パワーデバイスには,従来シリコンが使われていたが,物性の優れた,SiC,GaN,Ga2O3が注目されるようになった.Ga2O3は,バンドギャップが4.5eV,降伏電界が8MV/cmで,融液成長により結晶を作れるので材料が安い.RF加熱した融液から型を通して結晶を育成・引き上げるEFG(Edge-defined Film-fed Growth)法を用い,2012年に直径2インチ,2015年に4インチのGa2O3結晶ができた.2018年には6インチができるだろう.SiCが,1990年に1インチ,2008年に4インチ,2016年に6インチになったのに比べ大口径化が速く進んだ.Ga2O3の性能指数は,Siの3,000倍,損失は1/3,000で,ダイヤモンドに次ぐ高性能が期待される.電界に強いので薄くできるから直列抵抗値が下がる.しかし,Siと同じ構造では材料物性の効果が出ない.Ga2O3陽極酸化膜の界面の電界強度が低く,1MV/cmに下がる.界面のリークによるものなのでトレンチMOS構造をとった.周期的に溝(トレンチ)を設け,溝を絶縁体で埋める.物質・材料研究機構(NIMS)微細加工プラットフォームに頼んで,微細トレンチを作る技術を開発した.トレンチ幅1.5µm,深さ9µm,間隔3.8µmで,トレンチは丸底にする.トレンチにはHfO2をレーザー蒸着したが,これには東京工業大学の協力を得た.デバイス特性測定には早稲田大学の協力を求め,SiO2被着はNIMSで行うなど,それぞれのプラットフォームが持つ技術を利用した.

 デバイス試作では,SnドープGa2O3 (001) 基板上に,HVPE(ハイドライド気相成長)法でSiドープGa2O3膜を成長させた.基板およびエピ膜のドナー濃度と厚さはそれぞれ6×1018cm-3,570µmと6×1016cm-3,5µmである.エピ膜の表面にドライエッチングによりメサとトレンチの周期構造を形成した.トレンチ側面および底面には厚さ50nmのHfO2膜を設けた.アノード電極にはMo/Au/Niを,カソード電極にはTi/Auを用いて,ショットキーバリアダイオード(SBD)を作製した.アノード電極の外周部には厚さ400nmのSiO2によるフィールドプレート構造を形成した.

 試作したGa2O3 MOS SBDの特性は,立ち上がり電圧が,市販されている600-650V耐圧のSiC SBDの1Vに対し,Ga2O3では0.5Vに下がり,損失は40%低減された.逆方向リーク電流は,SiC SBDと同程度に低い.この技術を転用してMOSFETも作った.また,米国Cornell大学はタムラ製作所の結晶を用いてMOSFETを作っている.いずれも数年以内の実用化を狙う.

質疑

Q:絶縁性が高いのはなぜか?

A:バンドギャップが大きいことによる.


5-3 「光で剥がせる液晶接着「ライトメルト接着材料」の開発」/"Light-melt Adhesive as a New Application of Liquid Crystals"
齊藤 尚平(京都大学)/Shohei Saito (Kyoto University, Japan)

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 齊藤氏らは,名古屋大学 分子・物質合成プラットフォームを利用し,その成果が「ナノテクノロジープラットフォーム事業 平成28年度秀でた利用成果」に選ばれた[9].

 接着剤は用途によって,歪み耐性,光で剥がせる,絶縁性,導電性,バリア性などの機能接着性が求められ,ユーザーは,用途に合った機能接着性を持つ接着剤を選んでいる.今回は簡単に剥がせるものが求められた.光で固体から液体になり,光で剥がせる仮固定用の接着材料として,「光をあてると溶ける」物質が求められた.

 光で剥がせる接着剤には,次の要件を満たすことが求められる.
 (1)加熱状態でも仮付で十分な強度(1MPa以上)のあること
 (2)光照射で接着強度(bond strength)が十分に低下すること
 (3)接着した材料を引き離す迅速な光応答.

 (1)の耐熱接着性を備えることができれば,すでに普及している加熱してはがす仮固定接着剤に対する実用上の優位性が得られる.

 この要請に対し,分子設計で耐熱接着と迅速光剥離を両立するUV剥離型の接着材料を,独自の光応答骨格を持つ液晶化合物として開発に成功した.

 2枚のガラス板に挟んで接着性能を評価したところ,室温では1cm2の面積当たり16kgの重りを吊り下げる接着力の1.6MPaが得られ,100℃の高温でも1.2MPaの強度が得られた.接着後,紫外光を照射すると,液化して接着力は85%低下し,LED光源で320mJ/cn2の紫外光を照射すると2~3秒で剥がせた.

 ピコ秒レベルの超高速X線電子線構造解析等により接着・溶融過程を調べ,次のようなメカニズムがわかった.接着後,光応答の骨格は,固いアントラセンのウイングと柔軟性のあるシクロオクタテトラセンのジョイント(継ぎ手)で構成され,V字型の秩序だったカラムナー液晶構造により凝集力を保持している.これに紫外線を照射すると一部の分子が2量体となり,2量体の生成が液化を促して接着力が消失する.

 今回新たに合成したカラムナー液晶材料において接着機能が確認できたことから,従来の高分子接着とは全く異なる接着アプローチとして,今後も「液晶接着」に注目した研究が産学の垣根を超えて広まることを期待している.

質疑

Q:研究の動機は何か?

A:液晶を接着に適用した時に凝集力が大きいことに着目した.

Q:実用化の方向にあるか?

A:メーカに技術移転を始めているが,合成に難しさがある.コストは人件費,作業時間が長い.


【Closing Remarks / 閉会挨拶】

田沼 繁夫(JAPAN NANO 2018組織委員長,物質・材料研究機構ナノテクノロジープラットフォームセンター長)/Shigeo Tanuma (Chairperson of the Organizing Committee of JAPAN NANO 2018 / Director, Center for Nanotechnology Platform, National Institute for Materials Science, Japan)

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 ナノプラットフォームの最新の成果,ナノテクノロジーのトピックスを,ご講演いただいた.事務局によると530名の参加があったという.シンポジウムへの参加に感謝する.










参考文献

[1] 「磁気トンネル接合素子,未踏の一桁ナノメートル領域で動作実現」,NanotechJapan ナノテク情報 2018/02/23:http://nanonet.mext.go.jp/topics_ntj/?mode=article&article_no=4203
[2] 「ナノテクノロジープラットフォーム事業 秀でた利用成果(nano tech 2018 展示)」,NanotechJapan:http://nanonet.mext.go.jp/seika_selection/2018_SeikaSelection.pdf
[3] 「ナノテクノロジープラットフォーム事業 平成29年度技術スタッフ表彰」,NanotechJapan:http://nanonet.mext.go.jp/research_support_award/H29_Award.pdf
[4] 「21世紀型生産システム「ミニマルマニュファクチャリング」の創出」,NanotechJapan Bulletin,グリーンナノ企画特集<第7回>, Vol. 2, No. 2, (2009):http://nanonet.mext.go.jp/ntjb_pdf/GN-07.pdf
[5] 「新たな分子検出センサーMSSの開発」,NanotechJapan Bulletin, 10-9 INNOVATIONの最先端企画特集<第14回>, Vol. 7, No. 1 (2014):http://nanonet.mext.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-14.pdf
[6] 「単層カーボンナノチューブの量産技術:スーパーグロースの実証プラント~産学連携によるカーボンナノチューブの大量合成と応用展開~」,NanotechJapan Bulletin, 10-9 INNOVATIONの最先端企画特集<第20回>,Vol. 7, No. 3 (2014):http://nanonet.mext.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-20.pdf
[7] K, Sato, H. Tomonaga, T. Yamamoto, S. Matsumura, N, D. B. Zulkifli, T. Ishimoto, M. Koyama, K. Kusada, H. Kobayashi, H. Kitagawa, and K. Nagaoka, "A Synthetic Pseudo-Rh: NOx Reduction Activity and Electronic Structure of Pd-Ru Solid-solution Alloy Nanoparticles", Scientific Reports volume 6, Article number: 28265 (2016), doi: 10.1038/srep28265
[8] K. Sato, K. Imamura, Y. Kawano, S.-i. Miyahara, T. Yamamoto, S. Matsumura, and K. Nagaoka, "A low-crystalline ruthenium nano-layer supported on praseodymium oxide as an active catalyst for ammonia synthesis", Chemical Sciences, vol. 8, pp. 674-679 (2017)
[9] 「高温でも使える,光で剥がせる起床接着材料の開発」,ナノテクノロジープラットフォーム事業 秀でた利用成果(nano tech 2017 展示),NanotechJapan:http://nanonet.mext.go.jp/seika_selection/2017_SeikaSelection_5.pdf


(古寺 博)