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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 平成29年度技術スタッフ表彰 優秀技術賞
原子分解能STEM-EDSマッピングによる原子カラムの可視化
受賞者 東京大学 微細構造解析プラットフォーム 熊本 明仁氏に聞く

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支援に用いた電子顕微鏡の前の熊本氏と記念バッジ


 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業は,37の研究機関が全国の産学官の研究者に対して,1000を超える最先端のナノテクノロジー設備の利用機会を提供し,イノベーションにつながる研究成果の創出を目指している.最先端の研究設備の有効利用は,設備の特徴を熟知して整備し,利用技術を高め,利用者に使用のノウハウを提供する技術スタッフの存在によって可能となる.このため,ナノテクノロジープラットフォーム(NPJ)は平成26年度から,特に優れた支援を行った技術スタッフを3つの賞(優秀技術賞,技術支援貢献賞,若手技術奨励賞)で表彰してきた.平成29年度の優秀技術賞は,東京大学微細構造解析プラットフォームの,同大学 大学院工学系研究科 総合研究機構 ナノ工学研究センター 主任研究員 熊本 明仁(くまもと あきひと)氏に贈られた[1].受賞テーマは「原子分解能STEM-EDSマッピングによる原子カラムの可視化」であった.そこで,東京大学浅野キャンパスを訪ね,受賞した技術の内容,支援の状況,研究成果などを伺った.


1.多彩な電子顕微鏡を供用する東京大学微細構造解析プラットフォーム [2]

 東京大学微細構造解析プラットフォームは,最先端電子顕微鏡による原子構造解析や軽元素観察,多機能・高性能X線回折装置による結晶構造解析,ナノ・二次イオン質量分析による高分解能微量元素分析を中心に各種の分析手段を提供する.学内組織上は,同大学大学院工学系研究科総合研究機構 ナノ工学研究センター・先端ナノ計測センターとして,無機材料原子構造計測/電子状態計測/微量元素計測/有機材料・バイオ材料構造計測/低炭素材料・デバイス物性構造計測の5つの計測部門を設置することにより,基盤技術の構築や分析技術の向上に取り組み,供用の支援を行っている.

 本稿のSTEM-EDSマッピングは無機材料原子構造計測部門の設備で行われた.この部門の主要設備は,TEM/STEM(透過電子顕微鏡/走査透過電子顕微鏡),SEM(走査電子顕微鏡),FIB(集束イオンビーム装置),試料作製装置に大別される.東京大学において本事業で活用しているTEM/STEMは12台あり,それぞれの各名称に表されているような特徴や用途を持っている(図1)[3].上段右の4台は球面収差補正装置を搭載したもので,この中の2台が熊本氏の担当となっている.


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図1 東京大学 微細構造解析プラットフォーム 無機材料原子構造計測部門の透過電子顕微鏡


2.利用した装置:環境対応型超高分解能走査透過型電子顕微鏡の開発

2.1 電子顕微鏡による原子配列直接観察

 電子顕微鏡は,電子線を試料に入射し,試料により透過・散乱された電子を用いて微細な構造を拡大し観察する手法である.光に比べて波長は著しく短いため,光学顕微鏡の回折限界を超えた微細な構造を観察できる.電子顕微鏡によってナノ構造が直接観察できるようになったことにより,ナノテクノロジー研究・開発が大きく進展している.電子顕微鏡開発の歴史的経緯を概観すれば,まず試料を透過した電子線を用いて結像する透過電子顕微鏡(TEM,Transmission Electron Microscope)が開発され,次いで電子線を走査し,各電子プローブ位置から放射される二次電子を検出し,試料の表面構造を観察する走査型電子顕微鏡(SEM,Scanning Electron Microscope)が開発された.現在,測長SEMはLSI製造工程内の検査機器として欠かせない計測手法となっている.さらに,電子線を走査し,試料上の各照射位置で透過・散乱された電子を検出し,像を形成する走査型透過電子顕微鏡(STEM,Scanning Transmission Electron Microscope)も開発されている(図2).この手法の分解能は電子プローブのサイズに依存するが,電子線を集束させる電子レンズの球面収差により,その空間分解能は長年大きく制限されていた.これに対し,20世紀終わりに非対称磁界レンズを用いた球面収差補正装置(Aberration corrector)が開発され,原子分解能STEM観察が大きく進展した.その経緯や歴史については他を参照されたい[4].現在,一般的なSTEMにおいては,試料を透過・散乱した電子線を環状明視野(ABF,Annular Bright Field)検出器や円環状の高角散乱暗視野(HAADF,High Angle Annular Field)検出器で検出して,像を形成する.


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図2 STEMの概略図


 上述のSTEM像からは原子位置と原子番号の大小を判別することは可能であるが,元素種を識別することはできない.一方,STEMの高い空間分解能を維持したまま,電子線を照射した位置から発生する特性X線を図2に示すようなシリコンドリフト検出器(SDD,Silicon Drift Detector)により検出・分析するエネルギー分散型X線分光(EDS,Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を併用することにより,原子カラム(原子列)ごとの元素分析が可能になっている.


2.2 STEM-EDSによる構造解析例

 STEM-EDSによる構造解析例として,熊本氏らが東京大学の丸山教授らのグループと共同で行った垂直配向(VA,Vertically Aligned)単層カーボンナノチューブ(SWCNT,Single Wall Carbon Nano Tube)の合成に用いるCo-Cu系金属触媒粒子の構造解析を紹介する[5].Co/Cu金属触媒を用いて石英基板にアルコールからのCVD(化学気相蒸着)でSWCNTを成長させると,成長温度800℃で直径1nm,650℃では0.75nmのSWCNTが得られ,それぞれ1.1eV,1.25eVのバンドギャップを示した.SWCNTは直径を小さくすることで,より大きなバンドギャップが得られる.このことから,VA-SWCNTの構造を制御することでシリコンに代わる太陽電池デバイスなどへの応用の可能性を切り拓くものと期待されている.一般的に,良質な結晶成長を行うためにCVDでの成長温度を高くすると,SWCNTの直径も著しく増大する.しかし,Co-Cu系金属触媒粒子では,650℃から800℃までの成長温度で直径1nm以下を維持しており,そのメカニズムの解明のためSTEM-EDSにより触媒金属の構造解析を行った.

 図3左のHAADF STEM像ではシリカ膜上に堆積した金属微粒子の分布がわかる.電子線の高角散乱は原子番号Zに強く依存し,HAADF像のコントラストは約Z2に比例する.CoとCuの原子番号Zは,27と29で近いため,HAADF像では両者の識別は難しい.しかし,図中央の,Co,Cuの特性X線の強度をそのエネルギーに対してプロットしたEDSスペクトルではCoとCuがはっきりと区別できる.そこで,HAADF STEM像による原子カラム観察とEDS元素マップを重ね合わせることで,HAADF STEM像に元素分布情報を付与したものが図3の右図である.緑色の領域がCu,紫色の領域がCoに対応する.同じfcc構造の金属微粒子においてもCoとCuは互いに固溶しないため,CoとCuは相分離しつつ共存している.CoがCuに繋ぎ止められているため,触媒が凝集することなく,Co単体の触媒性能を維持していることが分かった.

 このように,HAADF STEM像だけでは元素識別が困難な系においても,EDSと組み合わせることにより,超高分解能で元素マッピングを行うことが可能である.


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図3 STEM-EDSマッピングによるCo-Cu系金属触媒微粒子の構造解析結果


2.3 原子分解能電子顕微鏡による軽元素原子コラムイメージング

 HAADF法では,Zが大きく,電子散乱能の大きい重元素の信号が支配的であるため,重元素と軽元素が混在する複合酸化物等では,Zの小さい炭素(C),酸素(O),窒素(N)などの可視化は困難なことが多い.一方,STEMの明視野像は,TEMと類似するコントラストが得られ,軽元素と重元素のコントラスト差はHAADFより小さい.そこで,ABF法による軽元素原子直接観察法が開発された.[6][7]

 強誘電体材料のチタン酸バリウムBaTiO3のSTEM観察を行うと,図4(左)に示すようにHAADF法では重い元素であるBaとTiが像中の輝点として観察できる.一方,ABF法では軽い元素であるOが像中の暗点として観察できている(図4(右)).さらに,EDSにおける特性X線検出には,従来のSi(Li)検出器よりも検出面積の大きなSDDを用いることにより,高い検出効率を実現でき,超高感度・高効率なX線検出・分光が可能になった.これらの技術開発は,東京大学と日本電子により共同で進められ,EDS検出器として素子面積が100mm2のSDDを2つ搭載したモデルが東京大学微細構造解析プラットフォームに設置されている(図5).


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図4 ABF法によるBaTiO3中の軽元素(O)の可視化


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図5 環境対応型超高分解能走査透過型電子顕微鏡


 この装置は,照射系球面収差補正装置を標準搭載し,機械的・電気的安定度を極限まで高めることで,世界最高レベルの分析電子顕微鏡(HAADF STEMの保証分解能 0.10nm)を実現している.冷陰極電界放出形電子銃(Cold-FEG)を搭載し,最高加速電圧は200kVである.


3.開発した技術:原子分解能分析イメージングの基礎技術 [8]

 優秀技術賞の対象となった原子分解能分析イメージングの基礎技術の第一は,前節に述べた,原子分解能イメージングを組み合わせたSTEM-EDSマッピングによる軽元素から重元素までの全元素の可視化である.これに加えて,電子線照射による試料ダメージと像質劣化の問題を避けるため,弱電流プローブによる走査を原子分解能で数千から数万回積算するマッピング法を開発し,観察対象とする物質のバリエーションを広げることができた.STEM法では,これまで弱電流プローブの高速スキャンを複数回行うことにより,同じ構造像として得られた信号を重ね合わせ,平均化することで分解能や,像質を上げる手法が用いられてきたが,これにヒントを得て,さらにEDSを組み合わせたものが本技術である.

 軽元素構造は電子線照射によって構造変化を起こしやすい.構造変化を少なくしようとプローブ電流を下げるとEDSの信号が小さくなり,ノイズに埋もれてしまう.そこで電子プローブを5×5nm2の試料上で高速かつ連続的に走査し,X線検出信号を画像ピクセルごとに蓄積する.電子線照射時間は1分以内として電子プローブが局所領域に長時間滞在することを避ける.また,ソフトウェア制御により4秒以内の間隔で試料のドリフト補正を行った.実験で取得したデータは2次元の強度分布を表示するデータキューブとなる.これには結晶の単位格子が複数含まれるため,単位格子4つで分割されたデータキューブについて,ピクセル当たりのX線カウントを積算することにより高S/N(信号対ノイズ比)のマップを形成できる.

 図6に,BaTiO3に対して積算マッピングした高S/N STEM-EDSマップの取得例を示す.図左上の,約4000回スキャンして得られたスペクトルイメージ(4Dデータキューブ)について,同時取得したSTEM像の結晶周期構造に基づいて64分割し(図6右上),それらを合算させることで,26万回スキャンして得たことに相当する高感度EDSデータを生成する.この高感度EDSデータから各元素のX線ピーク分離マップを形成することにより,金属元素のBa,Tiとともに軽元素である酸素原子カラムまでも明瞭に可視化できた(図6右下).


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図6 BaTiO3において積算マッピングによりS/Nの良いEDS画像取得


 図7は,本手法をAlN単結晶へ適用した例である.左上に結晶構造モデルが示されているが,STEMによって得られた原子配置のイメージに,右のAlとNのEDSスペクトル情報を重ねて,緑のN格子,赤のAl格子の原子マップができる.これを重ね,左下の軽元素を含むEDSマップが出来上がる.


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図7 AlN単結晶の原子分解能STEM-EDSマップ


4.支援の成果:軽元素複合材料の局所構造解析への応用 [1][8]

4.1 構造解析の対象はパワーモジュール基板

 軽元素STEM-EDSマッピングの複合材料局所構造解析への応用例として,パワーモジュール用の絶縁基板における接合機構の解明を紹介する.パワーモジュールは自動車のモーター駆動,自然エネルギーの電力変換などに需要と重要性が増している.この課題は,微細構造解析プラットフォームを利用して頂いている三菱マテリアル株式会社からの依頼であった.同社は,パワーモジュール用の絶縁基板としてDBA(Direct Bonded Aluminum)基板を製造販売しているが,Al/AlN/Alの積層構造のDBA基板において,金属Alと絶縁体となるAlNセラミックスとの接合はこの基板の信頼性を左右するキーテクノロジーである[9][10].図8は代表的なパワーモジュールの断面構造模式図で,Si IGBT(Insulated Gate Bipoar Transistor)などのパワーデバイス(図中はSi device)が,DBA基板を介して放熱板に半田付けされ,放熱板は冷却器に接続して構成されている.


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図8 Al/AlN/Al DBA基板適用例


 DBA基板は長年にわたって使われていたが,なぜパワーデバイスの発熱があっても長期にわたって良質な積層界面が維持されるのか,その詳細なメカニズムは不明であった.そこでDBA基板中のAl/AlN界面における原子レベルの構造解析を行い,接合のメカニズム解明に挑戦することになった.


4.2 金属/セラミック接合パワーモジュール基板の局所構造解析

 三菱マテリアルに接合プロセスを教えてもらうと,図9に示すように,接合部にAlと共晶(Eutectic)反応を示す添加元素(X)を導入し,Al融点より低い温度での加熱により,Al金属とAlNセラミックスとの接合部のみを溶融して接合していた.添加元素(X)が熱拡散でAl界面に侵入し,その領域の融点が下がって溶解する.その後,等温凝固中に添加元素はAl中に拡散・消失し,Al/AlN接合が形成される.接合部のみを溶解させるTransient Liquid Phase(TLP)法により良質な界面の接合が実現する.


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図9 DBA基板の接合プロセス


 そこで,添加物が界面構造形成の鍵を握ると考え,どんな元素が界面にあるかを調べた.まず,できるだけ対象物を単純にしてモデル化しようと純粋な金属Alと融点を下げるための添加物Siを用い,650℃に加熱して単結晶AlN基板と接合させた.Alの融点は660℃だが,Siを12.5%含むAl-Si共晶の融点は577℃に下がる.

 作製した接合界面観察試料は,機械研磨,アルゴンイオンミリング法により,原子分解能STEMによる観察・解析用試料に加工した.界面における構造解析では,界面を電子線に対して平行(Edge-on)になるように調整して接合部断面に沿った元素分布を検出した.

 Al/AlN接合部を原子分解能STEM観察すると,金属AlでもAlN結晶でもない特徴的な遷移構造が見つかった.この遷移構造が安定に存在するものかどうかを確かめるため,接合試料を長時間アニール処理してもらい,もう一度TEM試料を作り原子分解能でSTEM観察したところ,今度は先ほどの遷移構造が界面のほぼ全域にわたって明瞭に観察され,この構造が安定に形成する界面構造であることがわかった.元素分析を行うまでは,意図的に添加したSiがこの遷移構造中に含まれていると考えていたが,STEM-EDSマッピングを行うと全く予想外の結果が得られた.界面のEDSの結果からは,構成元素のAl,N,SiだけでなくMgやOが含まれていることがわかった.発見当時は,Mgは意図的に添加していないため,不純物であるMgがどこからやってきたのかよく分からない悩ましい分析結果であった.しかし,三菱マテリアルはこのMgに注目し,Al合金であるA6063(日本工業規格JISのコード番号)とAlNの接合試験を行った.このAl合金にはMg:0.42%,Si:0.38%が含まれる.すると規則的な遷移構造がアニール処理なしでも観察され,意図的に入れたMgが優先的に界面に偏析し遷移構造を形成することが明らかとなった.

 Al合金とAlNとの接合界面の原子分解能STEM像(図10左の2つ)を比較すると,界面の金属(Me)原子カラムはHAADF像から,軽元素(Le)原子カラムはABF像から判別できる.AlとNのサイトを区別できるAlN側と,原子カラムが現れていないAl合金側との間に,原子レベルで平坦なAl合金/AlN界面遷移構造の存在が観察できる.この遷移構造は図10右に示す3つの層状構造から形成されている.第3層(3rd)はHAADFとABFの双方で原子カラムの強度の差が小さいことから,Me原子カラムで構成されていると考えられる.しかし,Al,Mg,Siの原子番号は隣り合っているのでSTEM像では見分けられない.


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図10 Al/AlN溶融接合界面の原子分解能STEM(左)と界面遷移3層構造モデル(右)


 そこで,原子分解能STEM-EDSマッピングを行ったところ,単原子層のMgが界面に見出された(図11).一方,添加されているSiはAl合金側に分布することがわかった.この界面偏析構造を詳しく解析するため,信号強度を高め,分解能や画像の質を向上するとともに,前章で述べた積算・平均化手法を適用した.STEM像から得られる界面構造像とEDS分析を組み合わせたマッピングにより,Al,N,Mg,O,Siの原子スケールの分布が明らかになった.原材料になかったOはAlやAlNの表面にできた自然酸化膜から取り込まれたと考えられる.AlやNの原子カラムはAlN側の全面にあり,界面にMgの原子カラムが見える.これに加えてOが界面に存在し,Al側に入ったところにSiが層状に存在する.


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図11 Al合金とAlNのヘテロ界面の原子分解能STEM-EDSマッピング


4.3 金属/セラミック接合形成のメカニズム

 Al合金とAlN基板の界面には,不純物であるMg原子が単原子層構造を形成し,この周囲には酸素(O)原子も層状構造を形成しており,数原子層レベルで複雑な界面層状構造が自己組織的に形成されている.Al合金とAlN基板の界面は金属とセラミックスの単純な接合よりも,本来は不純物であったMgとO原子の導入により,より安定な界面接合が実現されることが明らかとなった.

 Al合金やAlNの表面には安定なアルミニウムの自然酸化膜ができている.しかし,MgはAlより酸化されやすいため,650℃の高温でAl合金中のMgは次のように反応してMgOとなり,界面遷移構造が形成されると考えられる.

3Mg+4Al2O3 → 3MgAl2O4+2Al

MgAl2O4+3Mg → 2Al+4MgO

 酸化アルミニウム膜が単純なAl2O3であるとすると,この接合時の界面反応は,酸化物形成の自由エネルギー変化によって説明できる(図12).図の左から右に向かって接合前,溶融接合前期,溶融接合後期,接合後を示す.接合前には,Al合金及びAlN表面で自然酸化膜の酸化アルミニウムが形成されている.酸化アルミニウム膜は,酸素分圧の低い還元的な環境下で金属Mgと反応し,(MgAl2O4を経由するか,または直接的に)より安定なMgOと金属Alを生成し,自由エネルギーが低下する.


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図12 Al合金/AlN基板界面の相変化モデルと反応の自由エネルギー変化


 この結果から,DBA基板におけるAl金属とAlNセラミックスとの強固な接合では,金属とセラミックスの単純な接合よりはむしろ,不純物であるMgとO原子がより安定な界面遷移構造をもたらすことが明らかになった([11][12][13][14]).


5.おわりに

 本優秀技術賞の受賞内容は,東京大学微細構造解析プラットフォームで開発された軽元素対応型超高分解能走査透過型電子顕微鏡を活用して行われた.受賞者の熊本氏は,接合のメカニズム解明というパワーモジュール基板製造メーカーからのニーズに応え,積算マッピングを利用した高品質画像取得技術を開発し,複合材料の局所構造解析から新たな材料開発につながる知見を得ることに成功した.このような新しい知見の取得には,新しい高度な測定・解析の手法が必要だった.

 良い結果が出ると,それが呼び水になって新しいユーザが訪ねて来る.しかし,呼び水となった高度な技術を必ずしも要しない案件も多いことから,研究内容を吟味してより適切な実験手段を提案することもあるという.高い解析技術を持てば,全体を俯瞰して,より適切なコンサルティング,アドバイスができる.今後も,技術支援者がより高い技術を開発し,その高い技術が設備利用を促進することを期待したい.


参考文献

[1] 技術スタッフ表彰 平成29年度 優秀技術賞 熊本 明仁(微細構造解析PF:東京大学)「原子分解能STEM-EDSマッピングによる原子カラムの可視化」:http://nanonet.mext.go.jp/research_support_award/H29_Award_1.pdf
[2] 東京大学 微細構造解析プラットフォーム(東京大学):http://nanonet.mext.go.jp/insti/u-tokyo/nc/
[3] 東京大学 微細構造解析プラットフォーム共用設備の一覧 TEM/STEM:http://lcnet.t.u-tokyo.ac.jp/keisoku2.php
[4] 幾原雄一,「透過型電子顕微鏡法の最新技術動向と将来展望(超高分解能イメージング)」,まてりあ 第56巻,第3号,254-259 (2017)
[5] Kehang Cui, Akihito Kumamoto, Rong Xiang, Hua An, Benjamin Wang, Taiki Inoue, Shohei Chiashi, Yuichi Ikuhara, and Shigeo Maruyama, "Synthesis of subnanometer-diameter vertically aligned single-walled carbon nanotubes with copper-anchored cobalt catalysts", Nanoscale, Vol. 8, Issue 3, pp. 1608-1617 (2016)
[6] 柴田直哉,フィンドレイ スコット,幾原雄一,「環状明視野(ABF)STEM法の理論と応用」,顕微鏡 Vol. 46, No. 1, pp. 66-60 (2011)
[7] S. D. Findlay, N. Shibata, H. Sawada, E. Okunishi, Y. Kondo, T. Yamamoto, & Y. Ikuhara, "Robust atomic resolution imaging of light elements using scanning transmission electron microscopy" Applied Physics Letters, Vol. 95, 191913 (2009)
[8] 熊本明仁,柴田直哉,藤平哲也,幾原雄一,「原子分解能分析電子顕微鏡法を用いた金属/窒化物ヘテロ界面の原子レベル構造解析」日本結晶学会誌 Vol. 59, pp, 246-251 (2017)
[9] 高放熱性を有する「Cu放熱板一体型DBA基板」を開発,三菱マテリアルプレスリリース,2015年1月28日:http://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2015/15-0128.html
[10] DBA基板における新規接合技術を開発,三菱マテリアルプレスリリース,2010年10月12日:http://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2010/10-1012a.pdf
[11] Mg単原子層が金属とセラミックスの接合を強くする!-原子分解能分析電子顕微鏡で初めて見えてきた異材接合の原子メカニズム-,東京大学工学部プレスリリース,2016.03.11:https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_20160311135808110207131725.html
[12] 東京大学との共同研究により金属とセラミックスの接合メカニズムを解明 三菱マテリアルプレスリリース,2016.03.11:http://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/info/2016/2016-0331.html
[13] Akihito Kumamoto, Naoya Shibata, Kei-ichiro Nayuki, Tetsuya Tohei, Nobuyuki Terasaki, Yoshiyuki Nagatomo, Toshiyuki Nagase, Kazuhiro Akiyama, Yoshirou Kuromitsu & Yuichi Ikuhara, "Atomic structures of a liquid-phase bonded metal/nitride heterointerface", Scientific Reports Vol. 6, Article number: 22936 (2016), doi: 10.1038/srep22936, Published online: 10 March 2016
[14] 微細構造解析プラットフォーム:東京大学 平成27年度 成果事例「異種材料接合基板における界面構造解析:http://nanonet.mext.go.jp/?action=multidatabase_action_main_filedownload&upload_id=3351&metadata_id=20&download_flag=1

(図は全て熊本氏から提供された)


(古寺 博)