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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第15回>
有機分子ファンデルワールスヘテロ構造をもつ原子層超伝導体の創製とその物性解明
物質・材料研究機構 国際ナノアーキクトニクス研究拠点(WPI-MANA) 内橋 隆
物質・材料研究機構 若手国際研究センター(ICYS) 吉澤 俊介
自然科学研究機構 分子科学研究所 横山 利彦,高木 康多

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(左から) 物質・材料研究機構 内橋 隆,吉澤 俊介
分子科学研究所 横山 利彦,高木 康多


1.はじめに

 2004年にGeimとNovoselovによってグラフェンの作製方法が示されて以来,原子層物質の研究が大きな注目を集めている.グラフェンは層状物質であるグラファイトから単層または数層を剥離したものだが,このためにグラファイトに内在していたディラック電子状態(線形のエネルギー分散をもつ電子状態)が表舞台に現れ,また非常に高い電子移動度をもつようになる[1].また,グラフェンと同様の層状構造をもつ遷移金属ダイカルゴゲナイドのMoS2はバルクでは間接遷移型の半導体であるにもかかわらず,単原子層にすると直接遷移型半導体になり,高効率の発光現象が可能となる[2].これらの原子層物質では,一般にバルク物質では得られない興味ある物性や機能性が得られるため,基礎物理から材料科学,デバイス工学に至るまでの広い分野を巻き込んで,研究が発展している[3].

 このような原子層物質では,超伝導は発現するだろうか? もし原子層からなる超伝導体が存在すれば,バルクとは異なる新規物性の発現や,原子スケール超伝導デバイスの実現が期待されるが,その問いへの答えは自明ではない.なぜならば超伝導は極めて多数の電子の集団的な振る舞いがもたらす相転移現象であり,原子層物質のような“純粋な”二次元系では相転移が起こりにくくなるからである[4].また原子層物質のほとんどの領域を占める表面界面で乱れが導入されると,超伝導体は絶縁体へ転移してしまう[5].そのため,原子層物質を用いた超伝導の研究はほとんど行われていなかった.

 しかし,このような状況はナノテクノロジーの発展によってこの7,8年の間に大きく変わった.2011年には筆者の内橋が,原子レベルで清浄なシリコン表面の上に原子層インジウムを成長させ,この系の電気抵抗が約3Kでゼロになることを実証した[6].これは原子層物質の超伝導転移の直接観測としては世界で初めてのものである.さらに,このインジウム層は原子2個分の厚さしかないにもかかわらず,極めて大きな超伝導電流(電流密度にして5×105A/cm2程度)を流すことができることや,超伝導臨界電流が試料表面での原子ステップによって制限されることが明らかになった.後者は,原子ステップがいわゆるジョセフソン接合として働くことを意味している[7].最近ではさまざまな原子層物質で超伝導が発見され,その物質系はカルシウムドープしたグラフェン[8]や,原子層厚さの遷移金属ダイカルゴゲナイド[9],銅酸化物超伝導体[10],鉄系超伝導体[11]などに広がっている.特に,SrTiO3基板上に成長した原子層FeSeに対しては60~100Kにもなる非常に高い超伝導転移温度(Tc)が報告され,非常に注目されている[12].また,イオン液体を用いた電界効果トランジスタを用いて絶縁体の界面に超伝導を誘起させることができるが,その厚さは実質的に原子層程度の厚さしかなく,これに起因する新奇な超伝導状態が報告されている[13].このように原子層超伝導体の研究の発展は目覚ましく,それにはナノテクノロジーの貢献が非常に大きい[14].

 本稿では,最近われわれが行ったファンデルワールスヘテロ構造型の原子層超伝導体の創製とその物性評価に関する研究成果を紹介したい[15].ファンデルワールスヘテロ構造は,グラフェンを発見したGeimらが提唱した人工原子層物質で,一般には,グラフェンや他の原子層物質を剥離したものを積層させて作製する[16].異なる原子層は互いに弱いファンデルワールス力で結合しているため,それぞれの特性を保持しつつ,有限の相互作用によって新しい物性・機能性を発現させることが可能となる.最近ではこの概念はより一般化され,原子層物質の表面上に有機分子を自己組織化的に成長させたものもファンデルワールスヘテロ構造と呼ばれており,有機分子デバイスなどへの応用が期待されている[17].われわれが作製したものは後者のタイプであり,超伝導を発現する原子層超伝導体の表面上に有機分子をエピタキシャル的に成長させたものである.図1にこの系の構造を三次元的に示す.


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図1 有機分子と金属原子層から構成されたファンデルワールスヘテロ構造の模式図.


 本研究では,電気伝導測定,走査トンネル顕微鏡(STM)測定,角度分解光電子分光(ARPES)測定,X線磁気円二色性(XMCD)分光測定,第一原理計算などの各種手法により,その超伝導特性と分子配列構造,電子・スピン状態の解明を詳細に行った.XMCD測定に関しては,自然科学研究機構 分子科学研究所付属の放射光施設 UVSOR-IIIに建設された超高真空超伝導磁石XMCD測定システムを利用した.当装置は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業における分子・物質合成プラットフォームによって外部ユーザに開放されており,研究の進展に欠かせない貴重なデータをスムーズに得ることができた.当事業にこの場を借りて感謝致します.本研究は,この他に科学研究費助成事業基盤研究(A)(課題番号25247053)および文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の支援を受けて行われた.また,ARPES測定は千葉大学の坂本一之教授,第一原理計算は東京大学の南谷 英美 講師・渡邊 聡 教授の各研究室で,共同研究を通じて行われたものである.


2.有機分子ファンデルワールスヘテロ構造をもつ原子層超伝導体の創製

 われわれが本研究で用いた原子層超伝導体は,シリコン(111)清浄表面上にインジウム原子が規則正しく配列してできたものであり,構造的にはIn(100)面の2原子層分がシリコン基板との整合性を部分的に保つために変形したものと見なせる.専門的にはSi(111)-(√7×√3)-Inと呼ばれており,表面科学の分野でよく知られた表面超構造の一種である(√7×√3はSi(111)の理想表面に対する周期性を示す)[18][19].良く定義された原子配列構造に対応して,明瞭なフェルミ面が存在し[20],この金属的な電子状態は,約3K以下で超伝導状態へと相転移する[6][21].図2aはこのインジウム原子層のSTM像であり,√7×√3周期構造に対応する表面構造が観測されている.本研究ではこの表面上に,代表的な有機分子であるフタロシアニン(Pc)を超高真空環境で吸着および配列させ,ファンデルワールスヘテロ構造を作製した.フタロシアニンはD4h対称性をもつ頑強な有機分子で,中心部分にさまざまな金属原子を配位結合によって取り込むことができる(図2d)[22].本研究では,マンガン原子および銅原子が配位したCuPc,MnPcを用いた.


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図2 本研究で作製した試料の構造.(a)-(c)シリコン基板上のインジウム原子層(Si(111)-(√7×√3)-In),マンガンフタロシアニン(MnPc)分子層,銅フタロシアニン(CuPc)分子層の走査トンネル顕微鏡(STM)像.実線と破線はそれぞれインジウム原子層の周期ユニットとフタロシアニン分子層の√2×√2周期ユニットを示す.(d)フタロシアニンの分子構造(e)フタロシアニン分子層とインジウム原子層の整合性を示す図.(f)孤立したMnPc,CuPcの電子・スピン状態.


 図2b,2cにMnPc,CuPcがインジウム原子層上に単層成長した試料のSTM像を示す.STM像にはフェルミ準位近傍の電子状態が主として観測にかかるため,MnPcとCuPcの異なる軌道を反映して分子内のコントラストが異なっているが,どちらも同じ正方格子状の配列構造をとっていることがわかる.詳細な解析を行ったところ,正方格子の主軸はインジウム原子層の主軸[1 1 -2],[-1 1 0]に対して45°傾いており,フタロシアニン分子の√2×√2周期ユニットがインジウム原子層と良く整合していることがわかった(図2e).すなわちこのファンデルワールスヘテロ構造は,エピタキシャルな積層構造を有する.同様のヘテロ構造を有機分子の代わりに無機物質を用いて作ろうとすると,一般に金属結合や共有結合などの強い結合が支配的になり,異種原子の混在によって合金化したり全く異なった表面構造へと変化したりしてしまう.しかし,ここで用いた有機分子は,他の原子分子とファンデルワールス力による弱い相互作用しかもたらさないため,界面での乱れの存在しない理想的なヘテロ構造が実現できる.

 有機分子層の下にインジウム原子層が保存された形で埋め込まれていることを確認するため,ARPES測定によりフェルミ面を観測した.固体結晶の価電子はバンド状態を形成しており,紫外光を照射したときに放出される光電子の面内運動量はバンド状態の結晶運動量に対応するため,光電子強度を運動量空間でマッピングすることでフェルミ面を直接に観測することができる.図3aと3bはCuPc層を成長させる前と後の,波数空間(kx,ky)における光電子強度のマッピングである.両者ともに明瞭なフェルミ面が観測され,その幅もほとんど変化していないことから,インジウム原子層に構造的な乱れは導入されていないことがわかる.しかし両者を比較すると,わずかにフェルミ面の位置がずれていることに気づく.図3cはkx = 0の線に沿って光電子強度をky方向にプロットしたものだが,ピーク間隔ksep(図3a,3bに矢印で示した間隔に対応する)は,有機分子層の成長後の方が大きい.実は観測されたフェルミ面は本来円形のフェルミ面が原子層の周期性に対応したブリルアンゾーンで折り返されてできたものなので[20],このことは価電子の数が減って元々のフェルミ面が小さくなったことを意味している.価電子数の減少は約3%であり,この分だけインジウム原子からCuPc分子へ電子が移動したことになる.


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図3 (a)(b)角度分解光電子分光測定(ARPES)によって観測されたインジウム原子層(Si(111)-(√7×√3)-In)のフェルミ面.(a)分子層成長の前.(b)CuPc単分子層を成長させた後.(c)kx = 0の線に沿ってky方向に測定した光電子強度.赤線:分子層成長前,青線:成長後


 他方,この電荷移動によって有機分子の状態にも変化が生ずる.遷移金属原子が配位したフタロシアニン分子は代表的な磁性有機分子であり,MnPc,CuPcは孤立した分子状態ではそれぞれ3/2ℏ,1/2ℏの角運動量に対応した3µB,1µBのスピン磁気モーメントを持っている[22].電荷移動の結果としてスピン磁気モーメントの大きさは一般に変化し,場合によってはスピンが完全に消失することもある[23].フタロシアニンのスピン状態を調べるために,XMCD測定を行った.XMCDスペクトルは,シンクロトロン施設の蓄積リングから取り出された円偏光した放射光を試料に照射し,X線吸収スペクトル(XAS)を測定することで得られる.測定時には試料に磁場を印加し,放射光の円偏光の向きを磁場に対して平行および反平行にした配置でXASを測定するが,その差がXMCDスペクトルとなる.特に磁性原子の内核軌道から非占有d軌道へ遷移する吸収端ではスピンおよび軌道磁気モーメントに由来したXMCDスペクトルが観測されるため,遷移金属などの磁性を定量的に測定するための実験手法として広く用いられている[24].

 実験はUVSOR-IIIのビームライン4B(放射光エネルギー:100-1000eV)に設置された超高真空超伝導磁石XMCD測定システムを用いて行った.図4a,4bに装置と施設の概観を示す.本装置では通電加熱やスパッタアニールなどによる試料表面の清浄化とその場薄膜成長が可能で,低速電子線回折・オージェ電子分光による試料表面評価ができる.さらに液体ヘリウムにより試料を5Kにまで冷却し,超伝導磁石を用いて最大±7Tの磁場を印加してXMCD測定をすることができる[25].実験は,データの解析が容易になる放射光入射角度55°の条件下で行った.図5a,5bはMnPc,CuPcをインジウム原子層にそれぞれ単分子層だけ成長させて作製した試料の,L吸収端におけるXAS/XMCDスペクトルである.いずれも,円偏光の向きを反転させて得られる二つのXASスペクトルに明瞭な差があり,XMCD信号が得られている.これは磁気モーメントがフタロシアニン分子に配位したMn,Cu原子上に存在していることを意味している.スピン磁気モーメントの定量的な値は,XMCDの総和則によって求めることができ,MnPcでは0.97±0.14µB,CuPcでは0.33±0.13µBであった.すなわち,いずれも場合も,フタロシアニンはその大きさを減らしながらも吸着後もスピンを保持していることがわかった.



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図4 (a)実験に使用した超高真空超伝導磁石X線磁気円二色性(XMCD)測定システムの写真.
(b)シンクロトロン放射光施設 UVSOR-IIIとビームライン4Bの概観図
https://www.uvsor.ims.ac.jp/eng/about/accelerator.htmlより引用).

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図5 (a)(b)インジウム原子層上に成長した
(a)MnPc分子層および(b)CuPc分子層のXMCDスペクトル.


 実験で明らかになった電荷移動とスピン磁気モーメントの値は,第一原理計算によっても支持された.計算は平面波展開に基づいたVASP(Vienna ab initio simulation package)を用いて行い,フタロシアニンの吸着構造はSTM観察をもとに最適化したものを用いた[26].計算によって得られた電子移動はインジウム原子層からフタロシアニン分子の方向に,一分子当たり1.6~2.0電子である.これはインジウム原子一個当たり0.05個程度の電子が抜き取られたことに相当し,上述したARPES測定の結果と定性的に一致する.また,スピン磁気モーメントの値は,MnPcでは2.37µB,CuPcでは0.49µBと求められた.これらの値はXMCD測定の結果よりも大きいが,実験では有限温度での測定のために磁化が完全に飽和していないことや,MnPcのXMCDスペクトルでは二つのピークが完全に分離できないことを考慮すると,妥当な値である.また,MnPcの場合は,近藤効果によってインジウム層の伝導電子が部分的にMn原子のスピンを遮蔽している可能性も考えられる[27].


3.有機分子層による超伝導状態の変調:MnPcとCuPcの比較

 以上のように,シリコン基板上のインジウム原子層とフタロシアニン分子層からできた複合系はそれぞれの配列構造を良く保ちながらも,相互作用によって電子・スピン状態が変調されていることがわかった.よってファンデルファールスヘテロ構造と呼ぶのにふさわしい原子層物質が創製できていると言える.では,インジウム原子層の超伝導特性は,有機分子の影響を受けてどのように変化するだろうか? 図6a,6bに,MnPcとCuPcの膜厚(蒸着量)を変化させながら,試料の面抵抗値を温度の関数として測定したグラフを示す.MnPcの場合は0.3MLの膜厚でTcは大きく降下し,0.6ML以上ではT > 1.6 Kの範囲で超伝導は観測されなかった.それとは対照的に,CuPcではおよそ1MLの膜厚までTcは5%程度上昇した.図6cにTcの膜厚依存性を示す.MnPcとCuPcの二つの場合で,Tcの変調に関して反対の振る舞いが見られる.超伝導の標準的な理論であるBCS(Bardeen-Cooper-Schrieffer)理論によると,超伝導の発現にはフェルミ準位での状態密度ρ(EF)が高い方が有利で,キャリアドーピングによってρ(EF)が増加すればTcも上昇する[28].フタロシアニン分子によるインジウム原子層からの電子の引き抜きは,見方を変えると“正孔の注入”であり,ρ(EF)の増加によってTcが上昇した可能性が高い.一方で超伝導体に近接してスピンが存在すると,伝導電子との交換相互作用によって一般に超伝導は抑制される[28].図6a-cに示されたTcの変調は,これらの二つの効果の競合によって生じていると思われるが,MnPcとCuPcで定性的には同様の電荷移動とスピン状態をもつことを考えると,Tcの変化方向が逆になることは不思議である.これを理解する鍵は,以下に示すようにスピンを担う分子軌道の特徴にある.


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図6 (a)(b)フタロシアニン分子層の成長がインジウム原子層の超伝導転移に及ぼす影響:(a)MnPc,(b)CuPc.(c)分子層膜厚の関数としてプロットした超伝導転移温度(Tc)の変化.


 図7a,7bは第一原理計算によって得られたスピン密度の空間分布である.MnPcの場合,スピン分布は分子面内だけでなく面直方向にも広がっており,その一部はインジウム原子層を貫いてシリコン基板との界面にまで達している(図7a).これは,スピンの存在する軌道がMnのdz2dxzdyz軌道であって(図2f),これらの軌道が面直方向(z方向)に伸びているからである.この結果としてMnPcのスピンはインジウム原子層の伝導電子に強い交換相互作用をもたらし,超伝導を抑制する.図7cはMnPcのスピン分解された状態密度を,各d軌道成分に射影して表示したものだが,特に面直方向への広がりが強いdz2軌道は強い相互作用の影響でピーク幅が大きく広がっているのがわかる.一方,CuPcの場合は,スピンを担うdx2-y2軌道は面内にのみ伸びている(図7b).図7dの各軌道へ射影した状態密度でも,dx2-y2軌道のピークは鋭いままである.よって,CuPcのスピンはインジウム原子層の伝導電子には交換相互作用を及ぼさず,超伝導を抑制しない.まとめると,MnPc,CuPcのどちらの場合も電荷移動によるTcの上昇が潜在的にあるが,前者ではスピンによる超伝導の抑制が強いためにTcが下がり,後者ではこの効果がないためにTcが上昇したといえる.


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図7 (a)(b)第一原理計算により得られたスピン密度の空間分布:(a)MnPc,(b)CuPc.(c)(d)各d軌道成分に射影して表示したスピン分解された状態密度:(c)MnPc,(d)CuPc.


4.おわりに

 本稿では,シリコン基板上のインジウム原子層にフタロシアニン単分子層を成長したファンデルワールスヘテロ構造を作製し,その配列構造,電子・スピン状態と超伝導転移温度への影響を調べた研究を紹介した.ヘテロ構造を構成する原子層・有機分子層はいずれもその本来の配列構造と電子状態を良く保ちながらも,相互作用によって電荷・スピン状態が変調される.この結果として,有機分子層がMnPcの場合はTcが抑制され,CuPcの場合はTcが上昇することがわかった.この対照的な振る舞いは,電荷移動とスピンによる交換相互作用の効果が競合することによって生まれ,フタロシアニン分子のスピンを担う軌道の方向性が重要な働きをしていると考えられる.

 このような有機分子を用いたファンデルワールスヘテロ構造は,今後さまざまな原子層物質の超伝導特性を制御するために利用できるだろう.有機分子からの電荷移動は,分子当たり1~2電子にもなり,ドーピング効率は非常に高い.もともと電子密度が低いグラフェンや遷移金属ダイカルゴゲナイドなどの原子層物質に適応すれば,超伝導のTcが大きく上昇する可能性がある.また,超伝導体に近接してスピンを配列することで,磁場誘起超伝導などの非常に珍しい現象を実現することも可能であり,この系は新しい超伝導/磁性体ハイブリッド原子層物質の候補である.有機分子は設計の自由度が高く,相互作用やスピン・軌道状態などを制御しやすいことも魅力的である.このような系の研究には,ナノテクノロジーを駆使した物質合成・計測技術の活用が欠かせない.今後も,ナノテクノロジープラットフォーム事業が重要な役割を果たすことを期待している.


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(物質・材料研究機構 内橋 隆)


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