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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第14回>
多分岐ポリマー型放射線レジストの塗布・描画性能評価
合同会社 グルーオンラボ 星野 亮一
熊本大学 工学部大学院先端科学研究部 國武 雅司
山口大学 微細加工支援室 岸村 由紀子

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(左から) 熊本大学 國武 雅司,合同会社 グルーオンラボ 星野 亮一,
山口大学 技術支援員 岸村 由紀子


1.概要

 電子線レジストの歴史は古く,半導体リソグラフィの世界では,その微細加工性能とパターン発生機能を活用して,長らく最先端デバイスの試作や,先端フォトマスクの制作に使用されてきた.今回,これまでの電子線レジストの特徴だけではなく,MEMSの諸製品製作に使われるリフトオフプロセスや,深堀りできるような三次元構造の製作に有効な厚膜塗布が容易で,形状制御が可能な,多分岐ポリマー型の電子線レジストの開発に成功したので紹介する.

 熊本大学とグルーオンラボは,平成23年から山口大学の微細加工プラットフォームを利用して,開発した様々なレジスト材料の露光特性評価を行ってきた.これまでは,解像性の向上を目指した開発を主眼としてきたが,今回は,分岐構造を持たせたポリマーの特性をリソグラフィに活用するという観点でのナノテクノロジープラットフォーム事業の利用であり,アプリケーション開発という,これまでとは少々違った取り組みとなった.

 そもそも材料開発は,材料,装置,プロセスの三つの要素が互いにフィードバックしあうことが重要で,今回も,お互いが,アイデアや意見を出し合うことで,実用性のある材料開発ができたと考えている.


2.MEMS製造のため

 MEMSとは,Micro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)の略称である.センサ,アクチュエータなどの電気要素や機械要素などを一つの基板上に複合的に集積した次世代デバイスのことで,リソグラフィやエッチングなどの半導体製造技術やレーザー加工技術など,様々な微細加工技術を駆使して製造される.すでに実用化されたMEMSデバイスとしては,プロジェクター用の表示デバイスとしてTexas Instruments Inc.が量産しているDMD(Digital Micromirror Device)が有名である.さらに,スマートフォン等モバイル機器に用いられるモーションセンサや,自動車用部品などに用いられる圧力センサ,加速度センサ,光通信分野などで用いられる光スイッチ用ミラーデバイス,原子間力顕微鏡に用いられるカンチレバー,またさらには無線通信機器などに用いられるRF(Radio Frequency:高周波)MEMSスイッチなどが次々と製品化されている[1].

 これまで集積回路の微小化,高集積化が,情報通信分野の発展を牽引してきた.そうした製造技術を新たな発展させる方向性として,MEMSでは電子回路外の機能までを統合的に集積することで,小さくて高機能,高精度で省エネルギーな高付加価値な次世代デバイスとして強く期待されている.情報通信分野にとどまらず、医療・バイオ、自動車、ロボット、航空・宇宙、福祉など多様な分野において,その分野の革新を促し,我が国の製造業の国際競争力の強化につながる最重要基幹技術のひとつとして認知されている。例えば,微細加工技術を駆使して微小流路や反応容器を作成するmicroTAS(micro Total Analysis Systems)やLab on a Chipなども,MEMSの関連分野の一つである.マイクロスケールの流路を利用して,溶液の混合や抽出,分析などの単位操作をひとつのチップ上で実現することで,極微量試料による高速分析など,医療・バイオの分析や化学工学分野の革新を目指した精力的な研究開発が行われている.

 MEMS製造においても,半導体製造技術同様,リソグラフィが最重要な基本製造技術のひとつとなり,開発において一層の微小化は常に重要な課題である.しかし限りなくnmスケールに近づきつつある最先端半導体製造技術に対して,MEMSでは器械要素など電子回路以外の要素を含む集積化であるため,単純な二次元平面内の超高密度化ではなく,サブミクロンスケールでの自由度の高い三次元的な構造構築技術の確立が当面の課題となっている.多様な構造デザインの要求に応じて,電子線やX線,あるいは,UV光といった光源の使い分けもなされている.半導体製造で採用されたフォトリソグラフィ用感光性ポリマーレジストとは別に,MEMS製造に適し,用途に応じて選択できる新たなポリマーレジストの開発が急務となっている.ここでは,我々が開発した厚膜で三次元的な構造制御を実現できる電子線レジストについて紹介する.MEMS用のレジストでは,ポリマーレジスト膜自身に3次元形状を付加することが要求されるため,従来の半導体製造でのレジスト膜とは全く異なり,ミクロンを超える厚膜で利用がしばしば要求される.


3.多分岐ポリマーについて

 レジスト膜には,紫外線,電子線やX線などの光分解による,レジストポリマーの感光領域を溶解除去するポジ型と,逆に感光領域を不溶化して,未感光領域を溶解除去するネガ型がある.ここではポジ型レジストに関して紹介する.ポリマーレジストの開発において,ポリマー構造のデザインはいうまでもなく重要である.感光性を持った化学構造の選択が重要であるが,それだけでなく,平均分子量(重合度)や分散度(分子量分布)などの高分子の一次構造が,感度,分解能,ラインエッジラフネスなどのレジスト膜としての特性に大きく左右する.分子量分布を狭めた狭分散性ポリマーレジストは,ラインエッジラフネスなどの形状性に優れたパターン構築を可能とすることがわかっている.

 レジスト膜として用いられる一般的な熱可塑性ポリマーは直鎖状の構造を持つが,高分子鎖に分岐構造を導入することで,物理的特性を変化させることができる.分岐構造を持った高分子として,リニアポリマーからグラフト鎖として分岐した櫛形高分子やコア分子から分枝した星型高分子がある.繰り返し分岐構造が導入された樹木状高分子,ハイパーブランチポリマーとして球状のデンドリマー(スターバーストポリマー)などが知られている[2].

 我々は,分岐型ポリマーが同種のリニア型ポリマーに比べて分散性や溶解性が高く,粘性が低いことに着目して,電子線や,X線に反応するMEMS用レジストのポリマーとして開発,評価を行った.

 図1に示すPMMA(Polymethylmethacrylate)は,最も古くから使用されているポジ型の電子線レジストであり,市販化もされている.電子線照射によりPMMAの主鎖の結合が切断され,露光部のみが有機溶剤系の現像液に溶解されるようになることで,パターンが形成される.従来型の分岐を持たないPMMAは,アニソールなどのレジスト溶媒への溶解性が必ずしも高いとはいえない.そのため,スピンコーターで,2~3µmの膜厚を形成しようとすると,高粘度品でも,複数回の重ね塗りが必要となる.このためレジスト膜表面の均一性や,プリベークによる膜中の熱履歴の違いによる不具合,より実際的には,塗布,乾燥の手間といった問題がある.さらには,プロトンやX線(シンクロトロン光)リソグラフィで要求されるような数十µm厚の要請には応えるのが困難であった.


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図1 PMMA


 この問題を解決するために,分岐構造を持たせたPMMAポリマーの開発を行った.分岐構造を持たせることで,高溶解性,低粘性,ひいては高濃度のレジスト溶液(ワニス)の実現に成功した.

 分岐構造を持ったPMMAは,ATRP(Atom Transfer Radical Polymerization:原子移動ラジカル重合)法で合成した.ATRPは,銅(I)錯体などの遷移金属錯体を触媒に,有機ハロゲン化合物を重合開始基とするリビングラジカルラジカル重合のひとつで,1995年に京都大学の澤本 光男らにより報告された比較的新しい重合法である.開始基からの選択的ポリマー成長が可能なため,複数の開始基を有するコア分子から合成することで,分岐を持ったポリマーをデザインすることができる.さらにリビング重合であるため,分子量分布が揃った所定の分子量のポリマーを合成することが可能という利点がある.

 コア分子を選択することで,様々なPMMAレジストを開発することができる.本稿では,ベンゼン分子をコアとする三分岐タイプと,フラーレンをコアとして数十もの分岐を有する多分岐タイプを紹介する.図2に,ベンゼンコアタイプの化学構造と,1H-NMRスペクトルを示す.


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図2 ベンゼンコアPMMAの構造と1H-NMRスペクトル


4.描画性能評価

 合成した三分岐PMMAポリマーは,アニソール溶媒に溶解させ,スピンコーターでシリコン基板に塗布後,ホットプレートで乾燥させ,所定の膜厚のレジスト膜を成膜した.この試料に,山口大学の電子線描画機ELS-7500EX(エリオニクス社製 加速電圧50kV)で描画を行った.なお,現像は,MIBK・IPAR混合現像液を用い,ディップ方式で実施した.


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図3 ELS-7500EX


 以下に具体的な描画例を示す.

①リフトオフプロセス

 リフトオフプロセスは,図4に示すように,レジストで作ったパターンにメタルを蒸着して,後でレジストを取り去ると,レジストがなかった部分にだけメタルパターンが残るという手法で,エッチングプロセスなしで直接,メタルのパターンを形成することが可能である.特に,多層メタルの場合,エッチング時に局所電池が形成され,電触で下の層だけがエッチングされるなどの不都合が起きるといわれている.

 しかし,レジストの側壁形状が,順テーパーあるいは垂直であった場合,側壁がメタル膜で覆われやすく,レジスト剥離液が浸透できずにレジストが残ることがある.またレジストが剥離できても,テーパー上のメタルパターンが残ることもある.こうした不具合を防ぐため,レジストの上部に庇状の突起を付けたり,レジストを逆テーパー型に作るなどの工夫を行う[1].


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図4 リフトオフプロセス


 今回開発したPMMAレジストは,一回の塗布で数µmの膜厚を得ることができる.電子の反射を利用して,高いアスペクト比で,良好な逆テーパー形状のレジストパターンを得た.このレジストパターンを使えば,先述したような,蒸着によるメタルパターンを精度良く形成することが可能になる.

 図5は,レジスト膜厚2.4µmと1.6µmで,それぞれ500nmのLine&Spaceを形成した例である.


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図5 ベンゼンコア 3分岐PMMAを用いた500nm L&Sパターン.
膜厚はそれぞれ(a)2.4µmと(b),(c)1.6µm.


②ブレーズドサークル

 また,3µmピッチでの,回折格子のためのブレーズドサークルパターン(図6)も作製した.露光は,50pAで,30~360µC/cm2と変動させて描いている.回折格子は光の回折を利用してスペクトルを得る分光素子で,古くから分光器に用いられてきたが,特に断面構造が鋸歯状(ブレーズ)で反射型の回折格子の作製に有用であろうと考えている.


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図6 ブレーズドサークル.


5.フラーレンコア 60分岐PMMA

 ベンゼンコア三分岐PMMAポリマー以外にも,コアや分岐数を変えたものを合成,描画評価した.フラーレンをコアにして60もの分岐をさせたPMMAポリマーを合成し(図7,図8),このポリマーをレジスト化して,電子線描画を行った.レジスト膜厚200nmで,50nmのLine&Spaceを解像している.PMMAレジストとして機能することがわかったことから,分岐を活かして,さらに超厚膜用途への可能性についても検討していきたいと考えている.


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図7 フラーレンコアPMMA.


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図8 フラーレンコアPMMAを用いた(a)100nmと(b)50nm L&Sパターン(膜厚:200nm).


6.LIGAプロセスでの使用例

 LIGA(Lithographie:リソグラフィ,Galvanoformung:電気めっき,Abformung:成型 のドイツ語の頭文字からなる略称)プロセスは,シンクロトロン放射で得られるX線を光源とするリソグラフィ技術である.1980年代にドイツ・カールスルーエ原子核研究所で開発された技術で,アスペクト比の大きな形状を作ることができる.元々は,板状のアクリル樹脂を加工していたが,底部に別の三次元パターンを転写したうえで,リソグラフィを施したいという新しいニーズから,液状の超厚膜レジストが必要となった.そこで,バーコーター塗布用の超厚膜タイプを開発した[3].

 公益財団法人 科学技術交流財団が,愛知県からの委託により実施している「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」のなかの「シンクロトロン次世代ナノ・マイクロ加工技術の開発プロジェクト」提供の,テストパターンを図9に示す.あいちシンクロトロン光センターでの試験において,極めて垂直性の高いきれいなパターンを得ることができている.


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図9 シンクロトロン光によるテストパターン.


まとめ

 MEMSの諸製品製作に要求される厚膜塗布が容易で,多様な形状制御がしやすい多分岐ポリマー型の電子線レジストの開発に成功することができた.特に,医療・バイオ応用マイクロデバイスなのなどの製作に有用なツールではないかとみている.また,ATRPにより合成したポリマーの特徴である狭い分子量分布をリソグラフィに活かせるようなレジスト開発も続けていきたいと考えている.


謝辞

 シンクロトロン光照射によるレジストパターン像の写真をご提供いただきまました岡田 育夫 名古屋大学先端ナノバイオデバイス研究センター研究員,櫻井 郁也 名古屋大学特任准教授に感謝します.

 また,アプリケーションの検討にあたり,多様なパターンの設計,露光,観察における山口大学の岸村 由紀子 技術支援員の多大なご支援に感謝します.


参考文献

[1] 『産業のマメ:MEMS』一般財団法人マイクロマシンセンター発行パンフレット2013年7月
[2] 『デンドリック高分子』高分子学会編集,共立出版 2013年2月
[3] 『LIGAプロセス』先端加工機械技術振興会編 日刊工業新聞社 1998年8月


(合同会社 グルーオンラボ 星野 亮一)


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