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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第12回>
プラズマインジケータによる処理工程の見える化
株式会社サクラクレパス 中央研究所長 釆山 和弘
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教 野々口 斐之

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(右から) NAIST物質創成科学研究科助教 野々口 斐之氏
株式会社サクラクレパス 中央研究所長 釆山 和弘氏
NAIST物質創成科学研究科 技術専門職員 片尾 昇平氏
NAIST物質創成科学研究科 技術専門職員 岡島 康雄氏

 ナノテクノロジープラットフォームの最先端研究設備の共同利用により得られる多くの成果の中で,特にホットな成果をピックアップして紹介する本企画特集記事として,今回は,分子・物質合成プラットフォームの一翼を担う奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)物質創成科学教育センターのNAIST-ナノテクノロジープラットフォームを活用した株式会社サクラクレパスのプラズマインジケータの開発を取りあげた[1].ユニークな発想に基づいて,産業界や社会の多くの場面に適用され,効果を発揮することが期待される興味深い製品である.その開発のカギとなる,構造とメカニズムの関係の解析はNAIST-ナノテクプラットフォームで行った.

 この成果を取材するため,奈良先端大学院大学のキャンパスを訪問し,株式会社サクラクレパス 中央研究所長 釆山 和弘(うねやま かずひろ)氏,奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科助教 野々口 斐之(ののぐち よしゆき)氏にお話しを伺った.その場には,同大学教授 河合 壮(かわい つよし)氏並びにNAIST-ナノテクノロジープラットフォーム連携マネージャーの同大学特任教授 清水 洋(しみず よう)氏にも同席頂いた.


1.伝統的な色材技術とナノテクノロジーの会合によるプラズマ処理工程管理の変革

 (株)サクラクレパスは,図1に示すように,カードに色材の薄層を付加しただけの簡単なプラズマインジケータを開発し,プラズマ処理工程の進捗状況を色材の色の変化で評価するという手法を提案し,その普及を図っている.そのポイントは,プラズマ処理工程の“見える化”であり,同時に“数値管理”を可能とすることである.


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図1 プラズマインジケータ(左上)によるプラズマ処理室内(右上)の
処理環境をインジケータの色の変化で評価(下)


 そこには,画材の元祖の色に対するこだわりと,ナノテクノロジープラットフォームが提供する最先端解析技術との会合があった.以下1章では,プラズマインジケータ開発に至るまでの経緯,NAIST-ナノテクノロジープラットフォームからの支援,及び,(株)サクラクレパスが提案するインジケータによる処理工程管理の基本概念を紹介する.


1.1 (株)サクラクレパスでのプラズマインジケータ開発にいたる経緯

 (株)サクラクレパスの創業は1921年(大正10年)5月29日で,「日本クレィヨン商会」として発足し,同年9月「桜クレィヨン商会」と改称している.1924年(大正13年)油絵具の製造販売を開始し,1925年(大正14年)にクレパスを開発,商標登録すると共に製造販売を開始した.このように描画材料を開発し,絵画教育の改革への貢献に始まり,「こころ」のある「色」を通じて,教育・文化に貢献することを社是に掲げて製品開発・事業展開を行ってきている.近年では,総合文具メーカーとして,長年の色材技術を結集して描画材料,筆記具,教育用品,事務用品などの幅広い商品をラインナップするとともに,工業分野,医療分野,エレクトロニクス分野へも参入している.社名を「株式会社サクラクレパス」と改称したのは,1970年(昭和45年)で,国花である“さくら”の名称と図柄を製品に冠しているのは,最高品質の製品を提供することによって,教育・文化に貢献し,国の繁栄とともに歩むことを企業理念としたからとのことである.また,この年に中央研究所を新築落成している.製造工場は大阪,鹿児島,中国にあり,2017年にはベトナムにも工場を新設した.営業販売拠点は国内外に広く展開している.

 上述のように描画材料の老舗であり文具メーカーである(株)サクラクレパスがプラズマインジケータの開発,事業化に乗り出した経緯を釆山氏に伺った.2011年に,同社では2021年に迎える創立100周年に向けて新規事業を興そうという方針が提示され,幾つかのプロジェクトが立ち上がった.その一つがプラズマインジケータである.(株)サクラクレパスは,次のコア技術を保有しており,これが新事業展開の基盤となっている.

・調色・色材技術

・微粒子分散技術

・界面制御技術

 (株)サクラクレパスの中央研究所は大阪工場内にあるが,新たに開発した無機色材を用いたプラズマインジケータについては,現在,京都大学の桂キャンパスに隣接する京大ベンチャープラザ(独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営)内にある桂研究センターで開発・事業化を展開している.この場所を選んだ理由は,京都大学との連携ができるからであり,のちにナノテクノロジープラットフォーム拠点の活用も可能であることが分かり,開発の促進には非常に有効であったと采山氏は語った.


1.2 NAIST-ナノテクノロジープラットフォームからの支援協力

 奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は文部科学省のナノテクノロジープラットフォーム事業の3プラットフォーム(微細構造解析,微細加工,分子・物質合成)のうちの分子・物質合成プラットフォームの一つの実施機関となっている(NAIST-ナノテクノロジープラットフォーム).プラットフォーム内の他の実施機関とも連携しつつ,同大学の物質創成科学教育研究センターに整備してきた分子・物質合成に関する先端研究技術や設備を産官学の研究者や研究チームに供用している.主な支援機器としては,透過型電子顕微鏡,X線解析装置など9機種の評価装置を備えている.他に約20の支援試行機器がある[2].

 今回の(株)サクレクレパスのプラズマインジケータの開発支援では,支援機器の中から粉末X線回折装置(リガク社製RINT-TTRⅢ/NM)と多機能走査型X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製PHI5000VersaProbe II)が用いられた.

 粉末X線回折装置はリガク社製で,粉末・薄膜などの一般的測定から小角測定など多様な使い方が可能で,薄層の結晶構造解析に適している.

 多機能走査型X線光電子分光分析装置は,多面的な分析が要求される研究・開発に使用可能なように設計され,多くのオプションが搭載される.試料表面をArイオン銃でスパッタエッチングしながら分析を繰り返すことで,深さ方向の構成元素や電子状態の情報を取得できる.

 プラズマインジケータの無機色材薄膜表面の色の変化のメカニズムの解明に当たっては,プラットフォームの技術者の協力により上記2装置の特徴が活用された(2.2節で説明).その他にも,電子線マイクロアナライザー,走査電子顕微鏡,及び透過電子顕微鏡が使用されている.


1.3 滅菌用でスタートしたインジケータについて

 プラズマインジケータについては,その前身として,30年ほど前から開発と事業展開を行ってきた滅菌用ケミカルインジケータがある.プラズマインンジケータはそこからの水平展開と位置づけられる.以下に,その滅菌用ケミカルインジケータを紹介すると共に,プラズマインジケータに繋がる「表面処理工程の評価」を色材を用いて簡易に素早く実行する新しい考え方を紹介する.

(1)インジケータによる処理工程の“見える化”

 滅菌用ケミカルインジケータは,病院でメスなどの医療器具を使用後に行う洗浄と滅菌装置での滅菌工程において滅菌が完全に行われたことを確認する簡易チェッカーである.菌の有無を直接的に観察する場合は,菌を培養するバイオロジカルインジケータを使用することになるが,時間と手間が掛かる.これを解決する策を考える中で生み出された.滅菌工程で変色する色材を基材に塗布しただけの簡単な器具である.

 この器具を滅菌処理環境(温度やガス)に置いて,時間推移に伴う変色状況と,殺菌の進行状況との相関関係を予め調べておいて,後は,インジケータの色の変化を見るだけで,滅菌工程完了を確認することができる.即ち,(株)サクラクレパスの提案は,処理工程の結果を評価するのに,処理結果の対象物を評価する代わりに,処理工程の遂行状況を評価することであり,その手段として処理環境の中で変色する色材を用いることであった.ただし注意しなければならないのは,色材は菌の存在有無をみているわけでなく,装置が滅菌される条件(温度やガス)になっていることを検知して変色するものである.

 (株)サクラクレパスでは,インジケータの機能を次の様に定義している.

 “外部環境により変色する色材を評価ツールとして用いる”

 この考えに基づけば,処理工程の“見える化”が実現するとともに,次に述べる手法で“数値管理”も可能となる.

 なお,滅菌用ケミカルインジケータは既に広く医療分野で使われているが,(株)サクラクレパスから医療系商社に提供され相手先ブランドにて販売されているため,サクラクレパスの名前は一般には知られていない.


(2)変色を利用する工程の“数値管理”

 色の変化を数値化するために,L*a*b*表色系の色空間を用いている.図2はL*a*b*表色系において色を特定する座標軸と,その空間における色差を説明する模式図である.L*a*b*表色系では,赤と緑の間の色(a*値)の変化を一つの軸,黄と緑の間の色(b*値)の変化をもう一つの軸として直交させて色相の面を形成し,明るさを表現する明度(L*値)の変化を3つ目の軸として,色相の面に垂直に交差させる.こうして形成される3次元の色空間において個々の色は座標で表現され,色の変化は座標上の距離(色差ΔE*abと称する)で表現できる.仮に,プラズマインジケータの色が図に示すように変わったとすれば,色差は,その変化の3つの軸方向成分,Δa*,Δb*,ΔL*から下記に示す計算式で求められる.なお,この値は市販されている色差計により簡単に測定し求めることができる.即ち,色の変化が数値化できる.

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図2 L*a*b*表色系の色空間と色差(L*:明度,a*b*:色)


 このように色差を数値化することにより,色の変化という人の視覚による主観的な評価は,客観的な数値データとして表され,記録することもできる.従って,滅菌処理工程あるいは次に述べるプラズマ処理工程の数値管理が可能となる.


(3)プラズマインジケータへの展開

 滅菌用ケミカルインジケータの対象とする滅菌の手段は,高圧水蒸気,エチレンオキサイド,過酸化水素など多彩であり,それぞれ反応も異なるので,インジケータの色材もそれに合わせて開発しているが,15年くらい前に,当時日本でも導入が始まっていたプラズマを用いた滅菌装置に対応するインジケータの開発に着手した.インジケータとしては,従来使用していた過酸化水素ガスには反応せず,過酸化水素プラズマが発生した場合のみに反応する色材が必要であり,その開発によりプラズマ滅菌用ケミカルインジケータの実現に成功した.


2.プラズマインジケータ事業化戦略 [3]

 プラズマ滅菌用ケミカルインジケータの開発を機に,この技術が,滅菌だけでなく他の業界で使われているプラズマ工程にも広く使われるのではないかと考え,プラズマインジケータとして技術の水平展開を図ることとした.そのため,組織を独立させて開発・事業化を展開した.プラズマインジケータは,プラズマ中の活性種(ラジカル,イオン)により変色する機能性色材を用いた評価ツールである.また,プラズマ強度に応じて色が連続的に変わるので,後述するようにプラズマの再現性や分布を測定するなど,適用機能が広がることとなった.


2.1 商品コンセプトと適用例

 従来からプラズマを評価する手段としては,プラズマの発光を分析する方法,あるいはラングミュアプローブをプラズマ内に挿入して電子密度を測定する方法などが行われているが,前者は装置にビューポートが必要になり,また限られた視野でしか観測できない,後者はプラズマを遮蔽することになり,また脱着に手間暇がかかるなどの課題があった.(株)サクラクレパスのプラズマインジケータは,そうした手間暇の掛かる評価をする前に簡単にプラズマの状況をチェックする手法としてニーズがあると,判断した.なおインジケータによる評価が,発光分光法やプローブ法の補完的な役割を果たすためには,両者の相関関係を把握する必要がある.3.3節の図12に,その相関関係の実測例を示している.

 商品形態としては適応領域に対応して次の4形態を考えている.

・カード型---置くだけ(処理進行の確認)

・ラベル型---プラズマを計測したい場所に貼り付ける

・シート型---大面積のプラズマの分布を評価

・ウエハ型---ウエハ単位で処理を行う工程の評価

 こうした形態を揃えることで,プラズマ処理工程の管理,トラブルシューティング,装置改造・設計の指針に役立つ情報収集ができるなど,多くの適用分野が予想される.

 図3に,上記商品形態の使用イメージを幾つかの具体例で示す.減圧プラズマ装置はプリント基板製造メーカーの例で,製品を載せる棚と電極が多段になった装置内のプラズマ分布を調べる様子を示している.ウエハプロセス装置は半導体メーカーの例でウエハ上のプラズマ分布や周辺へのプラズマの広がりを調べている.大気圧プラズマ装置の例はコンベア式製造ラインにプラズマを照射する場合である(大気圧プラズマ用インジケータについては3.2節で説明).


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図3 プラズマインジケータの各種商品の使用例


2.2 商品ラインナップと変色メカニズムの解明
~NAIST-ナノテクノロジープラットフォームとの共同研究~

 プラズマインジケータの商品としては,現在次の4種類の用途別商品種類をブランド名PLAZMARK®でラインアップしている[4][5].

①クリーニング用(O2/Ar)---スタンダードタイプ

②大気圧プラズマ用---高感度タイプ

③耐熱性対応---高温プロセス用

④ウエハ型---ウエハプロセス

 プラズマインジケータは,まず①クリーニング用から始まった.滅菌用ケミカルインジケータの技術の水平展開の有機色材である.始めはカード型でプリント基板製造ラインなどに使われた.その後様々な顧客からの要望で,商品の種類が拡大してきた.次に展開したのは②大気圧プラズマ用で自動車メーカーなどからの要望に応えるものである.処理時間が短く,短時間での評価が必要となるので,特に高感度化した商品である.この①と②は有機色材を使用しており,100℃以上の高温には使用できない.より高温で使用したいとの顧客の要望に応えて無機色材を開発し商品化したのが,③耐熱性対応の商品である.また,同じく無機色材により半導体製造ラインで用いるウエハと同形状の④ウエハ型を開発中である.第3章で各商品の詳細を説明する.この無機色材商品の開発から材料の評価,変色メカニズムの解析で,NAIST-ナノテクノロジープラットフォームとの協力関係が始まった[6].

 図4では,ナノテクノロジープラットフォームの共同研究で解明した無機色材における変色のメカニズムを有機色材と併せて説明する.


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図4 プラズマインジケータにおける,有機色材と無機色材の変色メカニズム


 有機色材では,2つの色素(赤,緑)が配合されており初めは両者の混じった色になるが,プロズマが存在する雰囲気では色材表層部の赤の色素はプラズマに弱く分解/消色してしまうので,プラズマに強い緑の色素だけが残って緑色となる.

 一方無機色材では,色材の表層部分がプラズマ活性種との相互反応により無機材料(金属酸化物)の価数が変化又は化合物が形成され変色する.図5に無機色材の各種ガスプラズマによる変色の例を示す.酸素ガスプラズマでは色材の酸素の価数が増えて黄色に,水素ガスプラズマやアルゴンプラズマでは,色材の酸素の価数が減って灰色になる.また,フッ素系のプラズマではフッ化化合物の色となる[7][8].これらの解析には,前述の粉末X線回折装置と多機能走査型X線光電子分光分析装置が活躍した.また,図5の各種ガスプラズマを使っての実験は,京都大学および名古屋大学のナノテクノロジープラットフォームの支援を受けた.


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図5 種々のガスプラズマによる無機色材の変色


3.各商品分野の実用化の過程

3.1 O2/Arクリーニング用

 プラズマ滅菌用ケミカルインジケータの水平展開で最初に取り組んだのがクリーニング用で,プラズマを用いる各種表面改質・クリーニングプロセスの評価に最適な色材を開発した.O2クリーニング用とArクリーニング用の2種類を用意している.前者はラジカル性のプラズマであり,後者はイオン性プラズマであるので,それぞれに適合した設計を行っている.

 PET(ポリエチレンテレフタレート)基材の上に有機色材を塗布したもので,カード,ラベル,シートの形状がある.顧客の用途に合わせて図6に示す3種類の感度を用意した.図4で変色メカニズムを述べた通り,この有機色材は赤色が消色した時点で変色は止まる.図6でNo.1という最も高感度なタイプは色差値40で飽和傾向になり,これ以上変色しないことがわかる.したがってクリーニングの完了確認だけであれば飽和点を見ればよいが,プラズマの分布や時間に伴う処理工程の進捗を評価するなど変色の中間段階(色差の変化)を見たい場合はグラフに傾きがある線形性のある範囲で評価する必要があり,適切な感度を選定しなければならない.図7はボンディング前のArクリーニング工程の評価の例で,電極の金の表面がエッチングされる状況が色差と相関があることを示している.即ち,一般には金のエッチングレートでプラズマの処理条件を評価するが,時間がかかり手間もかかることが課題とされており,このような相関をとっておけば,変色を見るだけでエッチングレートに換算でき,プラズマ状態の評価の省力化に役立つ.


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図6 O2クリーニング用の3種類の感度


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図7 Au膜エッチングレーと色差の相関


 図8はシート型プラズマインジケータの使用例である.プラズマ装置内で,プラズマを照射する基板面上のプラズマ分布とこれに垂直な側面でのプラズマ分布を色差で評価したもので,インジケータそのものの変色状況でも大凡の分布がわかるし,また色差分布を見ることにより,より詳細にプラズマの面内均一性を評価できる.


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図8 シート型による装置内のプラズマの分布の評価


3.2 大気圧プラズマ用

 大気圧で使用するプラズマ処理では,短時間に処理することが多く,クリーニング用インジケータでは変化が遅すぎるとの顧客の要望で,大気圧プラズマ用の色材を開発した.図3の例に示したように,動く試料台に載って流れて行く膜の上にプラズマを照射する場合には,電極の下を通りすぎるまでに変色する必要がある.変色性能としては移動速度300mm/secを実現している.色材は有機色材で,変色メカニズムはクリーニング用と同じであるが,変色感度を高める設計を行なっている.大気圧プラズマ用インジケータは,フィルム業界ではその表面改質,自動車製造では樹脂部品の接着強度を上げる前処理などの工程管理用として使われている.

 図9は,フラットパネルディスプレイ製造工程において大気圧プラズマで表面処理したガラス基板の濡れ性の変化を,従来行われている接触角測定と色差測定の相関を調べた結果である.処理前の接触角の大きいところから,処理後の接触角が小さくなるまで,相関があることが分かる.本例も図7と同様,一度この相関を取れば,あとは,接触角を測らなくても,インジケータの色で状況判断できる.そのうえ,接触角のようにポイントでの評価ではなく,面内分布の可視化も可能となる.


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図9 濡れ性確認手法で接触角測定と色差との相関


3.3 耐熱性ラベル型

 耐熱性ラベル型プラズマインジケータは100℃を超える高温使用のニーズに応えるもので,図10に示すように,耐熱性のあるポリイミド基材層(50µm)に無機色材層(16µm)を印刷技術で形成している.基材層の裏面に粘着層(25µm)を付加してある.表面にはラベルを測定場所に貼り付ける時に色材を汚さないように保護フィルムが付けてあり使用時に剥がすようになっている.


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図10 耐熱性ラベル型インジケータ


 この商品は200℃まで使用可であると同時に,高温でも放出ガスが極めて少ない.図11に放出ガスにより真空劣化する状況を市販の温度インジケータと比較して示す.プラズマインジケータ(赤線)は温度インジケータより低放出ガスであることがわかる.200℃を超えてわずかに放出されるガスは,色材に樹脂を混合させているためで,その樹脂から放出されるガスである.


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図11 ラベル型インジケータの放出ガス特性


 図12にプラズマ装置内におけるプラズマ強度の測定法として従来から行われているラングミュアプローブによる電子密度の測定と,本プラズマインジケータ2品種(感度を変えた)で測定した色差との相関を求めた結果を示す[9].この結果は,プラズマの状態を色の変化で捉えることができている,即ちインジケータとして機能している妥当性を示すものである.


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図12 誘導結合プラズマ(ICP)装置内で,プラズマ中にプローブ電極を挿入して測定した電子密度と,耐熱性インジケータの変色を色差計で測定した色差との相関.No.101とNo.102は感度の違う種類の商品


 この耐熱性プラズマインジケータから無機色材を使い,その変色メカニズム解明で,2.2節での記述の通り,NAIST-ナノテクノロジープラットフォームの支援を受けている.また,耐熱性ラベル型の開発については2014年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新エネルギーベンチャー技術革新事業の基盤研究支援(フェーズB)を受け,ウエハ型の開発については2015年度(フェーズC)を受けている[10][11].


3.4 ウエハ型インジケータ

 半導体デバイスの製造工程の様にウエハ単位で加工処理を行う用途のために,ウエハ型インジケータを開発している(図13).シリコン半導体向けや太陽電池向けはシリコン基板,LED向けはサファイヤ基板を用い,色材も樹脂を混ぜることをせず形成している.従って耐熱性も400℃まで使用可能である.サイズは現状では4インチと6インチである.図13の右図にウエハ表面のプラズマ分布を色差で表現した例を示す.現在こうした分布状態を短時間で測定できる色差自動マッピング装置を大塚電子株式会社と共同開発中とのことである.

 また,シリコン半導体プロセスでは金属汚染を嫌うことが多いので,金属を使わない有機色材によるメタルフリーウエハ型も開発中である.直径200mmおよび300mm,放出ガス特性もフォトレジスト並みを目指して開発を進めている.


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図13 (左図)ウエハ型インジケータ(シリコン基板)処理前白と処理後オレンジ
(右図)ウエハ表面のプラズマ分布を色差でマッピングした例


4.おわりに

 約一世紀の昔に設立し,クレパスを世に送り出し,絵画教育への貢献でスタートした老舗メーカーの(株)サクラクレパスが,今持前の色材技術を駆使して,ナノテクノロジープラットフォームの最先端技術を享受しつつ,クリーニングやプラズマ処理の工程管理の効率化や改善で,広く産業界に貢献しつつある話を伺った.

 顧客ニーズを取り込んで,次々と新しい適用分野をひろげ,汎用技術として広く産業界に技術を浸透させていく様子は印象的で,コア技術を商品化して市場展開を図る典型と思われ,その発展を期待したい.

 技術開発の段階でのナノテクノロジープラットフォームの活用では,複数の施設にまたがる連携が行われている.多様化する技術や応用分野の開拓に際して有効なプラットフォームの特徴の一面を表している.


参考文献

[1] 菱川敬太,山川裕,釆山和弘,井上浩,野々口斐之,小池徳貴,平尾昇平,岡島康雄,"「プラズマインジケータTM」開発における変色過程の解明" NanotechJapan, 平成26年度 成果事例,
http://nanonet.mext.go.jp/?action=multidatabase_action_main_filedownload&upload_id=3486&metadata_id=20&download_flag=1
[2] 奈良先端科学技術大学院大学ナノテクノロジープラットフォーム,
http://mswebs.naist.jp/nanopla/
[3] 釆山和弘,"プラズマ処理効果の可視化ツール"計測技術,第44巻13号,2016.12.
[4] (株)サクラクレパス ホームページ,インジケータ「PRAZMARK®」,
https://plazmark.craypas.co.jp/?_ga=2.57216682.1825730780.1505186483-1809931252.1452727041
[5] (株)サクラクレパス 公式チャンネル,「「プラズマ見える化」ツールプラズマインジケータPLAZMARK紹介動画,
https://www.youtube.com/watch?v=-QJyBhu7vis
[6] 山川裕,宮崎裕司,釆山和弘,井上浩,清水雅弘,西正之,平尾一之,"プラズマインジケータ(1):プラズマ雰囲気下における無機酸化物の変色性とプラズマ診断"第75回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,08-084, (2014).
[7] 宮崎裕司,菱川敬太,山川裕,釆山和之,井上浩,"ArO2プラズマ処理によるプラズマインジケータの変色",第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,07-09, (2015).
[8] 菱川敬太,山川裕,竹岡拓昭,中村慶子,釆山和之,"プラズマインジケータを用いたラジカル・イオン挙動の解析",第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,07-127, (2016).
[9] 菱川敬太,宮崎裕司,釆山和弘,井上浩,酒井道,"プラズマインジケータ(2):プラズマインジケータを用いたプラズマ分布診断法",第75回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,08-085, (2014).
[10] 新エネルギー・産業技術総合開発機構ニュースリリース,"プラズマ強度を瞬時に判断できるプラズマインジケータを開発",2015.6.1,
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100387.html
[11] 新エネルギー・産業技術総合開発機構ニュースリリース,"半導体製造装置用のプラズマ評価ツールを商品化"2016.12.12,
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100689.html

本文中の図は,図2以外は全て(株)サクラクレパスより提供されたものである.


(向井 久和)


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