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企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端 ~Life & Green Nanotechnologyが培う新技術~
<第59回>
光ヘテロダイン干渉によるナノ粗さ・高さの高精度計測
~0.1ナノメートル精度で表面形状を非接触測定する装置を開発~

ツクモ工学株式会社 服部 義次氏,泉谷 恵介氏に聞く

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 2017年2月15日~17日に東京ビッグサイトで開催されたナノテクノロジー総合展・技術会議「nano tech 2017」で,今回初めて出展したツクモ工学株式会社(以下,ツクモ工学)がnano tech大賞の新人賞を受賞した.受賞理由は,「(株)都ローラー工業,(有)フジ・オプトテックと組み,光学的に薄膜表面の粗さ,うねり,段差,角度などの形状を0.1ナノメートルの精度で測定できる装置を開発した.研究や産業など様々な分野への応用の可能性を賞す.」である[1].

 この度,埼玉県狭山市にあるツクモ工学を訪問し,代表取締役の服部 義次(はっとり よしつぐ)氏,営業部課長の泉谷 恵介(いずみたに けいすけ)氏に,0.1nm精度の光学計測装置について,開発の経緯や技術内容,そして今後の課題や抱負など,お話を伺った.


1.光学機器からレーザー計測器まで開発するツクモ工学

 ツクモ工学は,光学機器,光学実験用のホルダーや位置決めステージなどを製造・販売している会社である[2].1986年に,機械設計技術者であった服部氏が,それまで勤務していた大手電機メーカから独立して創設した従業員18名の企業である.

 製品としては,ミラーホルダー・レンズホルダーなどのホルダー類,XY軸ステージ・Z軸ステージ・回転ステージなどのステージ類,光学ベンチ等をカタログ製品としてラインアップしている.一方,顧客の要望に応じて設計・製作するカスタム製品も多く取り扱っている.顧客は理工系の大学,国公立の研究所,民間企業の研究所関係が多く,顧客の特殊仕様に迅速に対応する“小回りの良さ”を特徴としている.カスタム製品の例としては,真空チェンバー内での探針位置決めXYZ3軸ステージ,反射高速電子線回折(RHEED)モニタリング用のCCDカメラ位置決めシステム,傾斜ステージ,等がある.

 服部氏は,工場の生産技術の機械設計で15年ほどキャリアを積んでから,独立してツクモ工学を狭山市に設立した.狭山市は,狭山茶の茶畑やゴルフ場などが点在するのどかな地域であるが,各種の製造業が集まっていて,埼玉県内では工業出荷額が一番大きい地域でもある.設立当初は大企業からの下請け的な業務が多かったが,設計から部品加工・組立調整まで一貫して製作する力を蓄積し,2003年頃からは光学関連機器をベースにした新製品の開発にも取り組み始めた.光学機器にレーザーを組み合わせて計測器を作ろう,より付加価値の高い製品を創出しよう,と考えた.nano tech大賞 新人賞を受賞した「ナノ粗さ高さ形状計測器TN-A1」は,そうした新製品開発の活動の中から生まれた.

 このレーザーを使った計測器は,“ヘテロダイン干渉法”というレーザー光の干渉を利用した計測器である.その原理を次節で説明するが,原理そのものは30年以上も前から知られているもので,世界中の大学の研究室で盛んに研究され,関連する特許も数多く出願されている[3].しかし,研究室での試作例はあっても,製品として世の中に提供されて普及するまでには至らなかった.「その理由は,一つには当時はレーザーが不安定で,安定した干渉計測をすることが難しかったこと,また計測したデータを計算機処理して粗さや高さ形状にまで算出・表示するのに,膨大な時間と経費がかかっていたから」と服部氏は語った.さらには,位相差顕微鏡やAFM(Atomic Force Microscope,原子間力顕微鏡)など,新方式の計測器が製品として登場してきたので,ヘテロダイン干渉計測の製品化には誰も取り組もうとしない状況に陥っていた.そうした状況下で,ツクモ工学は15年ほど前からヘテロダイン干渉計測器の開発に乗り出した.

2.光ヘテロダイン干渉計測の原理

 レーザー光は,光の電磁波としての波動性,コヒーレンシー(干渉性)が高い光である.レーザーが発明された直後から,その干渉性を利用して精度の高い計測を実現しようと干渉計測の研究が盛んに行われた.様々な光干渉計測の中で光ヘテロダイン干渉法は,2つの異なる周波数のレーザー光を干渉させて,対象物の表面粗さや高さ形状(うねり)などの高さ量をナノメートル精度で精密に測定するものである[3][4].

 図1に,光ヘテロダイン干渉装置のブロック図を示す.レーザー光源(周波数:f0)から出射された光は,音響光学素子により光周波数変調され,2つの異なる周波数:f1,f2を持つレーザー光に変換される.2本のレーザービームは,ビームスプリッタを透過してからレンズで集束されて被測定物体の試料に照射される.試料で反射されて戻ってきた2本のレーザービームは,ビームスプリッタで90度下向きに反射されて受光素子に向かう.受光素子上では,2つの周波数が異なるレーザー光が重ね合わさって干渉し,差周波数:f1-f2のうなり周波数で正弦波状に光強度が変化する.受光素子は,光強度の変化を電気信号に変換する.この時,試料からの反射戻り光のうなり周波数の電気信号の位相φsは,試料の表面を走査するにしたがって変化するが,音響光学素子を駆動する光周波数制御系からの差周波:f1-f2の位相φrは試料の走査に依存しないので一定である.したがって,駆動電気系の差周波信号の位相φrと,干渉光学系からの差周波信号の位相φsとの位相差:φs-φrを位相計で検出して高さを測定する.


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図1 光ヘテロダイン干渉装置のブロック図


 図2は,光ヘテロダイン干渉(右)と,従来一般的な干渉計測装置で採用されているホモダイン干渉(左)とを比較したものである.ホモダイン干渉では,レーザーからの光をビームスプリッタで2つに分割し,同一周波数の光の半分を上方に反射させてミラーに当て,その反射光をビームスプリッタで透過させて受光素子に導き,参照光とする.同一周波数の残り半分の光はビームスプリッタを透過して試料に照射され,試料からの反射光はビームスプリッタで下方に反射されて,受光素子に導かれ物体光となる.同一周波数の物体光と参照光は,受光素子上で干渉して時間軸上で静止した干渉縞を作る.干渉縞の2次元光強度分布を受光素子で画像信号として検出して,被測定試料の表面高さ分布を測定できる.しかし,同一周波数の光路が大きく離れた2つの光ビームを干渉させているので,振動による光路長変化に敏感であり,正確な試料表面高さ測定が難しいという短所がある.


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図2 ホモダイン干渉(左)とヘテロダイン干渉(右)


 一方,光ヘテロダイン干渉では,レーザー光源は1つでも,光周波数変調で2つの異なる周波数の光を発生させて,わずかに離れているが,実質的には同一の光路を進む2光波を干渉させる構成で,差周波数のビート信号を時間軸上で動く干渉縞として受光している.周波数変調駆動系とビート信号の位相差を検出して,PCの数値演算処理で試料の高さ形状を測定しているので,振動があっても2光波間では互いにキャンセルされ,位相検出には影響されない.また,位相を検出するため,レーザー強度に変動があっても影響を受けない,という特徴がある.また,ホモダイン干渉は2次元のエリア計測を行うが,本例で示したヘテロダイン干渉はポイント計測のため,試料をステージなどで1次元,あるいは2次元走査する必要がある.


3.3社が連携体を組んで開発したナノ粗さ高さ形状計測器TN-A1

 先述したように,ツクモ工学では2003年からヘテロダイン干渉計測器の開発をスタートした.そのきっかけは,ヘテロダイン干渉計測の研究をやっていた人と知り合ったことから始まった.狭山市の「さやまインキュベーションセンター21」という新分野への進出・新規起業・新たな製品やサービス(ものづくり関連)の研究開発を目指す企業・起業家の育成支援のための施設に,その人と一緒に入居して取り組み始めた[5].ところが,その方はかなりご高齢であったので7年前に他界され,開発は一時中断してしまうことになった.

 その窮地を救ってくれたのが,「さやまインキュベーションセンター21」の別の階にいた藤田 宏夫氏である.藤田氏は,ヘテロダイン干渉計測の研究で博士号を取得されたプロフェッショナルで,東京農工大学で非常勤講師をしていた関係で,東京農工大発のベンチャー企業であるフジ・オプトテックの社長を務めていた.藤田氏は当時,ヘテロダイン干渉計測とは別のプロジェクトを推進していたが,同じ「さやまインキュベーションセンター21」に入居していたよしみで,服部氏が藤田氏に共同開発を提案した.藤田氏がツクモ工学のヘテロダイン干渉計測器の開発に参加することになり,それまでと違った反射型での計測に方向転換した.その方向転換が功を奏し,中断していた開発は急速に進展することになり,新製品の誕生に向けて,技術的には基礎固めができた.

 新製品の創出には資金が必要ということで,関東経済産業局の経営サポート「新連携支援」の補助金を申請することにした[6].「新連携支援」は,民間企業どうしが連携することで新事業立ち上げにチャレンジする中小企業を,補助金・資金調達面で支援するものである.図3に示す3社連携体を組んで,補助金を申請した.3社の分担は,

①ツクモ工学:コア企業で,設計・開発・製造

②フジ・オプトテック:光学計測技術

③都ローラー工業:薄膜計測,販売

という構図である.


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図3 3社による新連携体の構成


 都ローラー工業は,PETフィルムなどを巻き取る高精度なローラーを製造・販売している会社である.フィルムを巻き取る際,フィルムは3000m巻き取って検査し,不良があるとロットアウトになってしまう.巻き取る前にインラインで検査したいということで,光ヘテロダイン計測に白羽の矢が立った.また,販売ルートを持っているので,新しい計測器の販路開拓にも連携体として期待している.現時点では未だ,インラインの検査計測装置までは完成してないが,オフラインの検査室でのフィルム薄膜の評価で協力している.

 新連携の補助金が平成25年に認可され,開発資金を得たことで,図4に示す「ナノ粗さ・高さ形状計測器 TN-A1」が完成した[7].図4の左側が光ヘテロダイン干渉計測器本体で,He-Neレーザー・音響光学素子の光周波数変調器・集光レンズ・試料ステージ・受光素子などが組み込まれている.試料ステージやレンズホルダーなど,部品の約8割はツクモ工学の内製品である.ただし,He-Neレーザー(波長633nm)と,音響光学素子は購入品である.図4右側は,周波数変調の駆動電気系,試料のXY移動ステージの駆動電気系,受光素子からの干渉電気信号の位相差検出電気系を収納した筐体である.図4中央は汎用PCであり,計測ソフトLabVIEWを使用して,干渉信号の位相差から試料の表面粗さや高さ形状分布への変換処理,ディスプレイへの表示をしている.なお,本装置では音響光学素子は1つだけ使用して,2つの異なる周波数の光ビームを発生させている.藤田氏と服部氏は連名で,音響光学素子を2つ使用する方式を特許出願しているが,高価格になるので製品には採用してない[8].


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図4 ナノ粗さ・高さ形状計測器 TN-A1 [6]


 図5は,微細な領域での各種計測器の位置付けを描いている.縦軸は高さ方向の計測可能な範囲,横軸は試料表面のXY方向移動設定範囲(測定可能範囲)である.光ヘテロダイン干渉計測装置「ナノ計測器TN-A1」は,図5右下の朱色で塗った領域をカバーしており,高さ方向の計測可能範囲は0.1nm~300nm,XY移動設定範囲は1µm以下~25mmとかなりの広範囲を測定可能であり,かつ他のどの装置も測定できない領域を占めている.AFM(原子間力顕微鏡)やSEMのような電子顕微鏡でも0.1nm精度の高さ方向計測は可能であるが,XY方向での25mmに及ぶ広範囲は観察できない.しかも,真空にしなければならない,プローブ探針がほぼ接触しながら計測するので振動には弱い,などの制限がかかる.それに対し,光ヘテロダイン干渉計測装置であるTN-A1は,以下の特徴を有している.

①非接触で(レーザー光をレンズで集光して)測定できる

②高さ方向の分解能が0.1nmを実現した

③粗さとうねりが同時計測できる(測定範囲が大きい)

④振動に強く,除振台は不要(普通の机上に設置可能)

⑤試料表面のmmオーダーの広範囲を,ナノの精度で測定できる

⑥価格が安い


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図5 各種計測器の測定範囲と性能比較


4.0.1nm精度の粗さ・高さ形状測定例

 ナノ計測器TN-A1で実際に測定するデモを,ツクモ工学の本館を出て20m程先にある実験棟で見せていただいた.本記事冒頭の写真は,デモ装置の前にてお二人を撮影したものである.測定の操作は同室で研究開発の一部を手伝っていただいている鈴木氏にしていただいた.鈴木氏は,計測したデータの画像解析をするソフト開発を担当している.

 図6はSiウェーハの表面形状を測定したデータ例で,試料の表面走査範囲は10mm×0.4mmである.図6上の縦軸は表面高さ形状で数値の単位はnm(1目盛りは20nm),横軸は計測ポイント数でX方向の長さ10mmを12µmステップで833回移動させて計測している.Y方向は走査幅0.4mmを20µmステップで20回走査している.図6上の20本のラインは測定した位相を高さ量に変換したときの高さ形状プロファイルで,測定の始点と終点の高さを共にZ=0に規格化した基準平面に対する高さに変換している.Siウエーハの表面うねりは,40nm以内に収まっている.なお,各形状プロファイルのX軸方向の隣り合う二点間の高さの差は表面粗さを表すが,1nm以内である.


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図6 Siウェーハの表面形状測定


 図6下は,図6上で得た高さ情報を3D表示したもので,X軸は走査幅10mmに対応し,Y軸は走査幅0.4mmに対応している.X軸とY軸の数値は,12µmと20µmステップ毎の計測ポイント数である.Z軸は高さで,単位はnmである.表面のうねりは概ね40nm以内に収まっている様子が一望できる.走査範囲10mm×0.4mmでの測定ポイント数は833×20=16660ポイントで,これらのデータを測定・処理・表示するのに要した時間は40秒弱である.

 光ヘテロダイン干渉測定の原理については,第2節で説明した.ここではさらに,図6のような測定データがどのようにして得られるのか,光の干渉信号から試料表面の粗さや高さ形状に変換する処理プロセスについて説明する[4].

 図7は,ヘテロダイン干渉法で,2つの異なる周波数のレーザービームを試料に集光照射したときに,2つのビームスポット位置での試料高さに差:Δhがある場合の,2ビーム干渉ビート信号の様子を描いている.レーザービームが音響光学素子で周波数変調され,2つの異なる周波数:f1,f2の光に変換されて音響光学素子から出射される時,2つの出射光ビームのビーム進行方向は僅かに異なっている.したがって,レンズで集光して試料に12µm直径の集光スポットとして照射した場合,同じ場所ではなく約12µmずれて照射されることになる.図7の左側に描いたのは,赤色の周波数:f1の光スポットと,青色の周波数:f2の光スポットのピーク間距離が12µmずれていて,試料上の高さΔhの段差に丁度またがっているケースである.なお,2ビーム光の間隔は電気信号で制御可能である.


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図7 ヘテロダイン干渉法での2ビーム間高さの差と干渉ビート周波数位相差の関係


 図7右側に黄緑色で示した物体信号の位相が,位相は変化しない一定の参照信号(赤色)に対して,位相差:Δφだけ遅れているとすると,反射の場合,2ビーム間の光路長の差は2×Δhであるので,ΔφはΔhとは以下の式の関係になる;

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ここで,λはレーザー光の波長で,He-Neレーザーの場合は633nmである.位相が1度ずれて測定された場合には,Δφ=1度/360度(2π),であるので,

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の高さの差に相当する.位相差の測定は,電気的には0.1度以下まで可能であるので,高さ分解能(最小読み取り高さ)としては0.1nmの測定が実現できる.ホモダイン干渉計測での測定精度はλ/100程度とされていたが,光ヘテロダイン干渉計測は振動や光強度変化に影響されないために,λ/5000を超す精度が実現できる.

 図8は,高さ分解能が0.1nmであることを示す測定例で,VLSI Standards社製の基準ゲージの計測結果である.この段差標準ゲージは石英基板上のCr薄膜をエッチングしたもので,NIST(米国標準技術研究所)の段差標準を基準にして製作されている[9].縦軸は微細段差:7nm /6nm /5nm /3nm /2nm /1nmの測定値(正のピーク値は立ち上がりエッジ段差,負のピーク値は立下りエッジ段差に対応)で,ステップ状段差の微分形として検出される.横軸は2µmステップ毎の計測ポイント数,すなわち位相差の検出回数であり,計測トレース上の点が,各計測ポイントでの表面高さである.この計測データから,1nmの微小段差でも高さ方向の分解能(最小読み取り高さ)0.1nmで測定できることがわかる.


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図8 VLSI Standards社製基準ゲージの微細段差(<10nm)測定


 図9は,2つの光スポットが試料表面上を移動していくにしたがって,2ビームのヘテロダイン干渉信号での位相差がどのように検出されるかを模式的に描いている.①や③のように,2つの光スポットが同じ高さにある場合,位相差は生じないので0となる.②のように,2つの光スポット間に高さの差があって,試料表面が凸の場合には,検出した位相差は+に,逆に④のように凹の場合には位相差は-になる.したがって,試料表面の形状の微分が,ヘテロダイン干渉の位相差となって検出されることになる.さらには,図8の段差ゲージの計測結果で,エッジ形状がブロードになると微分プロファイルの凸変化と凹変化の傾きもブロードになるため,段差だけでなく,エッジ部での形状も同時に測定できる.


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図9 表面形状と測定される位相の関係


 図10は,表面の粗さ測定と形状測定とで,2つの光スポットの走査(あるいは試料のX軸方向の走査)をどう変えるかを説明している.図10右は,図9と同様の形状測定向け走査で,この場合は「重ね走査」と称して,光スポット径と同じ10µm毎のステップで試料ステージを移動させて,図9下のような位相差を検出し,その位相差信号を積分することで表面形状(うねり)が得られる.図10左は,光スポット径よりも小さな3µmあるいは4µmとかの「任意ステップ走査」で試料ステージを細かく移動することで,測定した二点間の高さの差分,すなわち粗さを測定することができる.図9下の位相差信号の微分をとることに相当している.こうした粗さ測定,うねり測定は,JISの定義にしたがって計算している[10].


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図10 粗さ測定と形状測定の走査方法


 図11は,表面粗さ計測データの例である.試料はSiウェーハ表面で,5mm×0.4mmの面での2次元粗さを測定している.X軸方向は3µm,Y軸方向は20µmステップで走査している.図11上は,2次元走査全体の粗さの表示で,縦軸が粗さ(nm),横軸はX軸方向の測定位置である.測定面内の粗さとしては,算術平均粗さSaは0.16nm,二乗平均平方根粗さSqは0.21nmの結果を得ている.図11下は,上記測定面での粗さ絶対値の3D表示である.計測ポイントの総数は約3.3万点で,測定・処理・表示に要した時間は90秒ほどである.


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図11 Siウェーハの表面粗さ計測データ例


5.今後の課題と抱負

 ツクモ工学の光ヘテロダイン干渉計測装置「TN-A1」は製品化され,nano tech展はじめ各種の展示会に出展したり,顧客先でのデモなど販売促進活動を鋭意推進している.技術的な課題としては,現製品では5倍率の対物レンズを使用し,焦点合わせは手動で行っているのに対し,次期製品では対物レンズの倍率を10倍以上に上げ,さらに自動焦点機能を備えることを計画している.さらには,振動などの外部外乱に強い特性を生かして,実際の生産ライン中でのインライン計測にも対応する装置開発も計画中である.干渉計測装置として技術的には完成され,性能・価格面で他方式の計測装置と比較して優位性があることは,販促活動を通して手応えを感じているという.

 しかし,大手の企業に導入してもらうには,計測器メーカとしての実績が未だないために,参入障壁は高いのが実情とのことで,「先ずは,大学や国公立の研究所などで購入していただいて,お墨付きを得ることができればと期待している.中小企業の仲間から,新製品を開発できても販路開拓は技術開発以上に苦労するとよく聞くが,今回のこの開発も同様のケースである.」と服部氏は語る.「アメリカに持っていけば,良いものはしがらみなく売れるのではと勧める人もいるが,先ずは国内で実績を作ってからと考えている.」

 ナノ領域の計測器を導入している企業・研究所は1500ヶ所程あり,半導体やディスプレイ,各種の薄膜関係,カーボンナノチューブやセルロースナノファイバー等,様々な分野で需要はあると見ている.その全てにTN-A1を導入していただければ,10年間で1500台,年間150台,月10台の需要は見込めそうだ.ツクモ工学では,先ずは年間5~10台の販売を目指して,生産設備や人員体制を計画している.


6.おわりに

 光ヘテロダイン干渉計測は30年以上前から盛んに研究はされていたが,実用化には至らなかった.この度,光学機器メーカのツクモ工学が15年の歳月をかけて製品化にこぎつけた.中小企業であるので潤沢な資金があるわけではなく,関東経済産業局からの補助金制度も利用して開発した.そして何よりも,人とのつながりが大切で,フジ・オプトテックの藤田氏をはじめ,様々な方との縁が結ばれて新製品が誕生した.服部氏の元気なお話の背景に,語りつくせないドラマがあったことが想像される取材であった.ヘテロダイン干渉計測装置が,ナノテクの世界に普及,浸透していくことを期待したい.


参考文献

[1] nano tech大賞2017;http://www.nanotechexpo.jp/2017/main/award2017.html
[2] ツクモ工学 HP;http://www.twin9.co.jp/
[3] 中島俊典,"ヘテロダイン干渉法",光学,第9巻第5号,pp.266~274 (1980)
[4] 藤田宏夫,"音響光学素子を用いたビーム走査式差動型ヘテロダイン干渉法による3次元表面形状計測",光学,第21巻第5号,pp.327~332 (1992)
[5] 狭山市「さやまインキュベーションセンター21」;https://www.city.sayama.saitama.jp/shisetsuannai/bunkashisetsu/incubation.html
[6] 経済産業省 中小企業庁 経営サポート「新連携支援」;http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shinpou/
[7] ツクモ工学「ナノ粗さ高さ計測器TN-A1」;http://www.twin9.co.jp/modules/mxdirectory/singlelink.php?cid=216&lid=815
[8] 藤田宏夫,服部義次 "ヘテロダイン干渉装置」,特開2013-257302(出願人:ツクモ工学)
[9] VLSI Standards, Step Height Standards (Quartz);http://www.vlsistandards.com/pdf/products/dimensional/shs.pdf
[10] JIS B0601," 製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ",(2013);http://kikakurui.com/b0/B0601-2013-01.html

本文中の図は,全てツクモ工学から提供されたものである.


(尾島 正啓)


「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2018_banner.jpg