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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第7回>
上皮細胞アピカル複合体構築の観察
大阪大学生命機能研究科 医学系研究科 立石 和博,竹永 富妙子,中山 彰吾,田村 淳,月田 早智子,
大阪大学医学系研究科 日本繊維製品品質技術センター 西田 倫希
大阪大学 超高圧電子顕微鏡センター 井上 加奈子,保田 英洋

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(左から) 大阪大学生命機能 医学系研究科 中山 彰吾,
大阪大学超高圧電子顕微鏡センター 井上 加奈子,
大阪大学生命機能 医学系研究科 月田 早智子,
大阪大学生命機能 医学系研究科 田村 淳


1.緒言

 繊毛は生体内のほぼすべての細胞に存在し,個体の発生や生体の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが知られている.繊毛の異常は網膜色素変性症,嚢胞腎,不妊,水頭症などの様々な症状につながり,「繊毛病(シリオパティーCiliopathy)」と呼ばれ,臨床的にも非常に重要視されている.また,その内部に走行する微小管(φ25nmの細胞骨格)が形態維持の役割を担っている[1].形態的・機能的特徴から一次繊毛と多繊毛の2種類に大別される.一次繊毛とは,腎臓の尿細管上皮など体内の多くの上皮細胞から1本のみ分化する突起構造で,環境変化にともなう力学変化のセンサーなどとして働く不動毛である.一方,多繊毛は,気管や卵管などの特定の上皮細胞表面で分化し,1細胞あたり数百本形成される突起構造である.これら多繊毛は,完全に同調して運動する.この機能によって,例えば気管上皮細胞では,肺から口に向かって規則的なお辞儀運動を繰り返す数百本の多繊毛によって,吸気により気管に取り込まれた異物を肺の奥から口側に向かって,痰として排出することが可能となる.また,これら繊毛の支持体として根元には生物種や組織に例外なく基底小体と呼ばれる構造体が存在し,TF(Transition Fiber)やBF(Basal Foot)という2種類の突起構造が付随している(図1).基底小体が各繊毛に1つ対応し,支持体として機能することで繊毛の形成や維持が可能となると考えられてきた[2][3][4][5].しかしながら,その構造や機能の詳細についてはまだ不明瞭な点が多い.本研究では,マウス気管多繊毛上皮細胞のアピカル表層細胞骨格および,基底小体の配向に焦点を当て,それらの関連性を細胞学的に明らかとすることを目的とした.これらの解明には高分解能・立体イメージングから得られる情報が必要不可欠である.特に,細胞のアピカル表層で3次元ネットワークをつくり走行する,微小管をはじめとする細胞骨格を,詳細かつ鮮明に観察するためには,超高圧電顕を用いた厚切り切片での観察が不可欠であった.そこで,ナノプラット事業を利用した超高圧電子顕微鏡トモグラフィー法を用いて解析を進めた[6].



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図1 気道表面のSEM像と基底小体のTEM像・模式図
(大阪大学大学院生命機能研究科ホームページ研究成果2013より改変)
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/events/achievement/tateishi-tsukita-20140131/



2.超高圧電子顕微鏡トモグラフィーによる微小管と多繊毛基底小体の関連性の解明

 野生型マウスの気管多繊毛細胞アピカル面直下を加速電圧3000kVの超高圧電子顕微鏡を用いて観察し,微小管の三次元構築像を得た結果,基底小体には2つの突起構造TF,BFが付随し,BFには微小管が結合することが観察された(図1).野生型マウスでは基底小体の周囲において格子状に微小管が走行し,さらにそれらの微小管は突起構造をアンカーするように配向することで基底小体の方向性を制御する可能性を示唆する結果が得られた.一方で,Odf2変異マウス気管上皮細胞では,BFの完全な消失,正常な長さの微小管の密度の低下や,走行の乱れが観察された.超高圧電子顕微鏡トモグラフィー像の観察の結果から,基底小体の突起構造はアピカル細胞骨格を係留することで気管多繊毛の秩序のある配置に寄与することが示唆された.この配置は,野生型マウス気管における繊毛の協調的な運動を可能にする一方,Odf2変異マウスでは気管における粘液の乱流が観察された(図2).



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図2 Odf2変異細胞における基底小体のTEM像と模式図(Kunimoto et al., Cell. 2012より改変)


3.微小管および中間径繊維とアピカル細胞骨格との関連性の解明

 Odf2変異マウスの解析から,気管繊毛上皮細胞のアピカル微小管のネットワークは,気管多繊毛の土台となる基底小体の配向を決定し,気管多繊毛の協調的な運動に寄与することが示唆された.そこで,微小管に加えてネットワーク構成に重要な因子となり得る他の細胞骨格(中間径繊維とアクチン繊維)についても解析を進めることとした.本研究では,これら2種の繊維のうち中間径繊維に注目し,アピカル細胞骨格中における微小管と中間径繊維の相互作用について検討を行った.超高圧電子顕微鏡トモグラフィー像観察の結果,微小管および中間径繊維のいずれにおいてもアピカル膜に対し平行走行をとるが,中間径繊維はアピカル膜から200nm以内の薄い層に湾曲したネットワークを,微小管は200nm以上の広領域で直線的なネットワークを構築することが明らかとなった(図3C,D,E).



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図3 マウスのアピカル細胞骨格ネットワーク(Tateishi et al., Sci. Rep. 2017より改変)


4.アピカルの細胞骨格層構造の形成

 微小管および中間径繊維のネットワークによって構成されるアピカル細胞骨格の構築過程を明らかとするため,発生時期の異なるマウスの気管を超高圧電子顕微鏡により観察を行った.その結果,微小管は発生後の早い段階からネットワークを形成し(図3E 胎生17日齢マウス気管),その後,時間経過とともに微小管の密なネットワーク形成や中間径繊維の形成が観察された(図3E 新生2日齢マウス気管).また,それぞれの細胞骨格は基底小体の周囲に高い局在性を示したことから,気管多繊毛を支持するための強固なネットワーク形成に寄与すると考えられた.アピカル膜に平行走行する細胞骨格の偏在については,これまでに様々な上皮細胞で報告されており,細胞間接着装置によって細胞間に偏在する細胞骨格はオーガナイズされ,上皮細胞のアピコベーサルや基底小体平面極性を制御すると考えられている[7][8][9][10][11].一方で,アピカル微小管ネットワークが疎となるOdf2変異マウス多繊毛上皮細胞では,微小管の数が減少し,それを補完するように中間径繊維の厚いネットワークの形成が観察された(図4A).しかしながら,このOdf2変異マウスの中間径繊維は野生型に比べて垂直方向に走行する割合が高くなる(図4B,C).これらの結果から,それぞれの細胞骨格のバランスが正常な走行性や多繊毛の強固な支持機能にとって重要となると考えられた.



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図4 Odf2変異マウスの中間径フィラメントネットワーク(Tateishi et al., Sci. Rep. 2017より改変)


5.結び

 今回,繊毛協調運動のメカニズムを超高圧電子顕微鏡により視覚的に明らかとすることができた.これにより,繊毛関連疾患の病態の解明とその治療のための有用な新しい知見がえられたという意義深い成果となった.


6.謝辞

 本研究の一部は,大阪大学超高圧電子顕微鏡センターにおける「文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業微細構造解析プラットフォーム(大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点)」の支援を受けて実施されました.


参考文献

[1] Satir, P. & Christensen, ST. Overview of structure and function of mammalian cilia. Annu. Rev. Physiol. 69, 377-400(2007).
[2] Kunimoto, K., Yamazaki, Y., Nishida, T., Shinohara, K., Ishikawa, H., Hasegawa, T., Okanoue, T., Hamada, H., Noda, T., Tamura, A., Tsukita, S. & Tsukita, S. Coordinated ciliary beating requires Odf2-mediated polarization of basal bodies via basal feet. Cell 148, 189-200(2012).
[3] Antoniades, I., Stylianou, P. & Skourides, P. A. Making the connection: ciliary adhesion complexes anchor basal bodies to the actin cytoskeleton. Dev. Cell 28, 70-80(2014).
[4] Werner, M.E., Hwang, P., Huisman, F., Taborek, P., Yu, C.C., & Mitchell, B.J. Actin and microtubules drive differential aspects of planar cell polarity in multiciliated cells. J. Cell Biol. 195, 19-26(2011).
[5] Vladar, E. K. E., Bayly, R. R. D., Sangoram, A. A. M., Scott, M. P. & Axelrod, J. D. Microtubules enable the planar cell polarity of airway cilia. Curr. Biol. 22, 2203-2212(2012).
[6] Tateishi, K., Nishida, T., Inoue, K., & Tsukita, S. Three-dimensional Organization of Layered Apical Cytoskeletal Networks Associated with Mouse Airway Tissue Development. Sci. Rep. 7, 43783(2017).
[7] Shi, D., Usami, F., Komatsu, K., Oka, S., Abe, T., Uemura, T. & Fujimori, T. Dynamics of planar cell polarity protein Vangl2 in the mouse oviduct epithelium. Mech. Dev. 141, 78-89(2016).
[8] Shin, K., Fogg, V.C. & Margolis, B. Tight junctions and cell polarity. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 22, 207-235(2006).
[9] Martin-Belmonte, F. & Perez-Moreno, M. Epithelial cell polarity, stem cells and cancer. Nat. Rev. Cancer 12, 23-38(2012).
[10] Wallingford, J.B. Planar cell polarity and the developmental control of cell behavior in vertebrate embryos. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 28, 627-653(2012).
[11] Yano, T., Matsui, T., Tamura A., Uji, M. & Tsukita, S. The association of microtubules with tight junctions is promoted by cingulin phosphorylation by AMPK. J. Cell Biol. 203, 605-614(2013).


(大阪大学超高圧電子顕微鏡センター 井上 加奈子)


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