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企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端 ~Life & Green Nanotechnologyが培う新技術~
<第58回>
熱可塑CFRPによる自動車軽量化への挑戦
~構造部材の軽量化・低コスト化を実現する“LFT-D”技術~

名古屋大学ナショナルコンポジットセンター 特任教授 石川 隆司氏に聞く

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石川氏と3,500トンプレスを中心にした研究開発設備群


 世界的なCO2排出規制導入と化石燃料の節約動向の影響を受けて,自動車の軽量化へのニーズが高まっている.これに応える有力な技術が,2017年2月15~17日東京ビッグサイトで開催された国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2017)の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ブース内の構造材料エリアに展示された.「熱可塑CFRPによる自動車軽量化への挑戦」と題して新構造材料技術研究組合(Innovative Structural Materials Association,ISMA)[1]の一員である名古屋大学集中研分室から出展された“熱可塑性CFRPで試作したサイドフレームアクタとフロアパネル”である.同展示は来場者の関心を引くと共に,主催者からも高く評価され,「nano tech大賞 2017」のプロジェクト賞(グリーンナノテクノロジー部門)をNEDOブースとして受賞した[2].受賞理由は「高張力鋼板やアルミなどこれまで自動車構造部材に用いられた材料の置き換えを目指す熱可塑炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を開発した.自動車の大幅な軽量化につながる成果を賞す.」である.そこでこの度,本研究開発をリードしてこられた名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(National Composites Center, NCC)[3] 特任教授の石川 隆司(いしかわ たかし)氏を訪問し,この展示を実現した“LFT-D(Long Fiber Thermoplastic-Direct)”技術 註1)の内容や特徴および将来展望等についてお伺いした.

註1)繊維長の比較的長い炭素繊維と熱可塑樹脂の混練体をLFT-Dと言い,これを高速プレス成形して軽量・低コスト構造部材を得る技術全体をLFT-D技術と呼ぶ(詳細は第4章).


1.名古屋大学NCC:自動車用CFRP研究開発拠点

1.1 名古屋大学NCC設立の経緯

 2011年当時,名古屋地域には航空機・自動車材料の開発に特化した研究拠点がなかった.そこで経済産業省は同省の拠点形成事業として,名古屋大学に日本国内の他にはないような大型の研究設備を導入した研究開発拠点を設置し,この拠点から生まれる研究成果を起爆剤として日本の航空機・自動車産業を発展させようと考えた.名古屋大学NCCが組織上設立されたのは,JAXA(宇宙航空研究開発機構)で長い間航空機用複合材料の研究開発に従事していた石川氏が名古屋大学に異動した2012年4月で,2013年7月には建屋,CFRP成形用3,500トンプレス,連続的にLFT-Dを製造する二軸押し出し機,大型連続加熱装置,耐雷・耐火・耐炎評価装置等の設備が完成し運転を開始した.研究対象は,当初は航空機向けと自動車向けとが半々を構想していたが,現在は,予算上からは自動車向けが95%,航空機向けが5%の割合になっている.ここにしかない設備を活用して,他者には出来ないリスクの高い製品に近いものを狙って研究開発を進めている.


1.2 研究開発テーマと推進体制

 開設当初の2013年度は,経済産業省からの直接資金拠出を基盤として,東京大学と共に自動車構造用CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo-Plastics,炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)の技術開発に取り組んだ.2014年度からはNEDOが,新しく設立した新構造材料技術研究組合(Innovative Structural Materials Association,ISMA)[1]を経由してプロジェクト資金を得て,「革新的新構造材料等研究開発」の5つの個別課題の1つ「熱可塑性CFRPの開発」[4]を,東京大学の「革新炭素繊維基盤技術開発」と連携しながら進めている(図1).これらの研究開発のキーワードは「自動車への適用技術」である.


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図1 新構造材料技術研究組合(ISMA)での革新的新構造材料等研究開発組織
(プロジェクト開始当時.現体制は参考文献[5] p.20参照))


 このような組織の下で名古屋大学NCCは,量産自動車のボディ(シャーシ)を,熱可塑性CFRPを用い低コストで製造する研究開発をオールジャパン体制の“名古屋大学集中研”で進めている.すなわち,名古屋大学集中研は,名古屋大学を中心に,自動車会社5社(ホンダ技研工業,三菱自動車工業,スズキ,トヨタ自動車,スバル),炭素繊維素材メーカ3社(東邦テナックス,三菱ケミカル,東レ),エンジニアリング会社3社(共和工業,アイシン精機,小松製作所)の11企業が参画し,プロジェクトと表裏一体をなす共同研究契約をもって運営されている(図2).


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図2 名古屋大学集中研における研究開発の実施体制


2.自動車軽量化への社会的要求とそれに応える技術

2.1 自動車の軽量化を加速する環境規制強化

 全世界的な環境意識の高まりを受けて,欧米をはじめアジアでも,CO2排出量の規制あるいは燃費規制の導入が検討されている.最も厳しい欧州では,2020年にCO2排出量を95g/km以下とすることが決められており,これを超える自動車に対し税率を上げる指針が出されている.一方,自動車は,高機能化が追求され電子機器の装備による重量増,また電気自動車やハイブリット車の場合は電池搭載による重量増が見込まれることから,総重量を減らすため自動車の構造材の軽量化が強く望まれている.一方,各種自動車の重量とCO2排出量との関係から,100kgの軽量化により約20g-CO2/kmの削減が可能であることが解っている.


2.2 軽量化要求に応える技術

 自動車の軽量化には,鋼鈑の高張力化(ハイテン化),アルミニウム合金の大幅な採用等の選択肢があるが,最も効率的な手段として,比較的強度の優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の構造部材への大量適用が期待されている.

 図3は,縦軸に力学的特性,横軸にコストに直結する成形性(生産性)をとり,種々のCFRP成形技術を俯瞰したものであり,4つの主要技術が示されている 註2)


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図3 構造材料軽量化のためのCFRP成形技術俯瞰図


 1つは,図左上のオートクレーブ(プリプレグ)法である.これは,連続炭素繊維織物に重合開始剤を含む熱硬化性樹脂を浸み込ませたもの(これをプリプレグという.保管は,重合が進行しないよう極低温で行う)を,構造材を造る時に所望の形に整えた後オートクレーブという自動釜で時間をかけて(サイズや目的用途によって変わるが4~10時間)加熱・硬化するものである.一度硬化したものは,再加熱しても流動性は生じない.よって融着接合は不可能である.航空機構造物のように高強度・高剛性に代表される力学特性を重視し,生産部品の数量が少なく,かつコストミニマムを強く追及されない分野に適した技術である.技術としてはほぼ完成されている.具体的な代表的用途は,航空機の主翼や胴体である.

 2つ目は,図の右下に示されている射出成型(ペレット)法である.長さ0.1~3mmの不連続繊維と熱可塑性樹脂を混合して作製したペレットを熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱し,射出成形するものである.高い力学特性は要求されないが,秒オーダまたはそれ以下のタクトタイムの短い生産性が要求される小型歯車やパソコンの筐体等の大量生産品に広く用いられている.これも既に完成された技術である.

 3つ目は,図の中央に示されているRTM(Resin Transfer Molding)法(樹脂注入成形法)である.完全に閉じた雌型の中に連続繊維の織物を詰めて重合開始剤を含む熱硬化性樹脂を注入した後,加熱して出来るだけ早く重合・硬化させるものである.発展途上の技術である.

 4つ目は,図の中央やや下部に示されている不連続繊維強化CFRTP法である.これは,上述の射出成型よりは長い不連続繊維(1~20mm)と熱可塑性樹脂の混練物を作製し,これを軟化点以上でプレス・成形する技術である.大量生産物でありタクトタイムの短いことおよび強度を要求する部位も多い自動車構造部品用に開発されているものである.LFT-D技術はこの技術に属し,本記事の主題であり,4章で詳しく述べる石川氏が責任者を務める名古屋大学NCCが取り組んでいるものである.

註2)図3および本文に出てくる炭素繊維-樹脂複合材関連の用語を改めて整理しておく.

炭素繊維(Carbon Fiber, CF):炭素繊維は軽い(比重はFeの1/4),強い(比強度はFeの10倍),剛い(比弾性率はFeの7倍),錆ない等の優れた特性を持っている.

CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics,炭素繊維強化熱硬化性プラスチック):CFと熱硬化性樹脂との複合材.CFの優れた特性を活かしたもの.

CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo-Plastics,炭素繊維強化熱可塑性プラスチック):CFと熱可塑性樹脂との複合材.

一方,炭素繊維が連結であるか不連続であるか,樹脂が熱硬化性であるか熱可塑性であるかによって下記のように整理できる:

表1 用いる炭素繊維形態と樹脂種による炭素繊維強化プラスチックの呼称整理
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3.自動車業界の軽量化への対応状況

 CFRPを採用している代表的な自動車の例を紹介する.総じて日本は欧州より遅れをとっている.


1)BMW-i3

 量産車にもCFRPを多用しようとする動きの中で,関係者の間で大きな話題になったものにドイツBMW社の電気自動車BMW-i3[6]がある.この車は,月産1000台レベルの量産車である.CFRPの適用状況を図4に示す.電気自動車であるが故に電池搭載による重量増があるが,これをキャンセルし,なお総重量を減らすために,量産自動車としては異例に多い100kg程度のCFRPを使用してキャビンを構成している.キャビンは,上下のシエルを,熱硬化型であるエポキシ樹脂を用い,図3に示したRTM法で成形し,エラストマーを含んだ接着剤で接着した後,これをアルミ製のシャーシーに,少ないポイントで結合して製造している.これにより重量の増減は,①電池+モータ:+200kg,②ガソリンエンジン除去:-100kg,③キャビンシェルのCFRP化:-405kgとなっている.


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図4 電気自動車BMW-i3のキャビンシェルのCFRP化による重量軽減


 RTMでの樹脂の硬化時間は,目標の100℃-5分タクトは達成していないようであるが,相当に高速の硬化が実現しているとのことである.コスト削減のために,炭素繊維の前駆体は日本メーカから供給され,電気料金の安い米国で繊維に焼き,ドイツに渡って織物に仕上げるという複雑なサプライチェーンをとっている.しかし,RTM法自体が長い複雑なプロセスでありまだタクトタイムが長いこと,およびカーボン繊維を織物にするということ等でコスト的には厳しいようである.


2)Toyota Mirai

 Toyota Mirai[7]は,世界初の燃料電池車で,高圧水素タンクや燃料電池スタック台等にCFRPが使われている(図5).高圧水素タンクは,炭素繊維を巻いてボンベ形状にしたプリプレグを加熱硬化させる図3のオートクレーブ(プリプレグ)法で作製したもので,750気圧の水素圧に耐える軽量なタンクとなっている.燃料電池スタック台は,非連続繊維型のCFRTPであり,後述するLFT-D技術とは異なる技術で作製している.電池の電解液が漏れても,腐食を引き起こさない部材になっている.


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図5 燃料電池車Toyota MiraiでのCFRP適用状況


3)その他

 これらの他にBMW7(2015年モデル),トヨタレクサスLFA,トヨタプリウスプラグインハイブリッド[8],audi等がこれに追随している.

 また,ドイツLotus社のLotus Elise[9]は,アルミニウムを構造部材に多用し,従来のスチール車に対し30%前後の軽量化を達成している.なおこの車は,後述するように名古屋大学NCCの研究開発のベンチマーク車になっている.


4.本研究内容:高い生産性で低コスト化を可能にするLFT-D技術とその成果 [10][11]

4.1 LFT-D技術:大物成形品のハイサイクル・低コスト成形技術

 本研究で開発している技術は,繊維長の比較的長い炭素繊維と熱可塑樹脂を混練し混練機から押し出される素材を製造し,それを高圧プレスで短時間に所望の構造部材に形成する方法である.オートクレーブ(プリプレグ)法が必要とするプリプレグのような中間部材が不要で,炭素繊維と樹脂ペレット材料の供給から最終製品までダイレクトな一貫自動生産システムにより,短時間成形が可能になり,構造用CFRP製法としてはコストミニマムを目指すものである.欧州では,GF/PP(ガラスファイバー/ポリプロピレン)が主で,実用段階であるが,二次構造部材中心である.本研究開発ではCF/PA6(カーボンファイバー/ポリアミド6(ナイロン6))を用いる技術を開発し,構造部材へ適用し実用化を狙うものであり,世界とトップを争っている研究開発である.

 炭素繊維,熱可塑性樹脂供給から高圧プレスで短時間に所望の構造部材を成形するまでの全プロセスを図6に示す.


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図6 CFT-D技術の成形プロセス


 プロセスは6つの素過程から成っている.

①熱可塑性原料(PA6,融点225℃)と添加剤(表面処理材であり,炭素繊維と樹脂との濡れを良くする)を混合したものを溶融・混練して,次の二軸スクリュー型混練押出機へ送る.

②二軸スクリュー型混練押出機は,他方の側から,炭素繊維束を巻き込む.

③二軸スクリュー型混練押出機の中で,炭素繊維は,スクリューへの衝突や樹脂内せん断場中で切断され,樹脂内のせん断力により混練されていく(従って,繊維の長さを正確に制御することは困難であり,本質的に繊維長さに分布が生じる.繊維長決定要因としては,スクリュー回転数,繊維・樹脂供給量即ち混練装置内滞留時間,繊維・樹脂混練時の圧力・温度等があり,それらが複雑に影響しあっている.炭素繊維の長さと得られた成形体の力学的特性には密接な関係があり,静的な弾性係数・強度の他に衝撃特性も重要であり,特に衝撃特性を維持するには,ある程度以上の長さの繊維の存在が必要である).この混練体をLFT-D(Long Fiber Thermoplastic-Direct)という.

④二軸スクリュー型混練押出機から混練された素材(LFT-D)が,一定温度(熱可塑性樹脂の融点225℃以上)に保たれている保温チャンバー内に所定量押し出される(この押し出されたものを,見た目に座布団のように見えるところから,本プロジェクトでは“フトン”と呼んでいる(図7左)).

⑤フトンは,保温された状態で,ロボットにより高速高圧プレスに設置された雌金型の上へ搬送・載置される.

⑥高速高圧プレスで,短いタクトタイム(2m2の面積で約1分以下)で,所定の構造部材の形に成形される(図7右,強度に異方性が生じないようにするには,理想的には炭素繊維がランダムな方向に向いていることであるが,このプレス時に“フトン”に流れが生じ,流れの方向に繊維は配向する.これはプロセスでは何とも対処の仕方のない課題である.そこで,CAEで流れを予測し,配向を加味した部材設計技術で対処するようにしている).


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図7 押出素材(フトン,CF/PA6,100×370mm,左)と成形板(460×460×3mm,右)
(米ZOLTEK社と独Fraunhofer共同研究の例)


4.2 開発目標:LFT-D技術でAl構造車より10%軽量化

 LFT-D技術により達成すべき目標値を,以下のような考え方に基づき具体的に設定している.先に述べたように,従来のスチール(比重~7.8)車に比べ既に30%前後の軽量化を達成している実績豊富なアルミ(比重2.7)構造車Lotus Eliseが存在するが,アルミ押出部品とアルミパネルの複数部品を接着またはボルトで締結する点で多くのエネルギーを必要とし長い製造時間を要し,数量の少ないスポーツカーには認められるが,コスト的に実用量産車には適用できない.これを,より軽量(LFT-Dの比重~1.5)のLFT-Dを用いるCFRPにし,且つ実用量産車並みのコストを実現できれば事業化に繋がる.そこで,Lotus Eliseを,開発する軽量構造のベンチマークにし,

①軽量化:アルミ構造体比10%軽量化すること

②低コスト化:量産車(年産100,000台レベル)に対応する生産性を実現すること

③上記目標値を,LFT-D技術構造の実証試験にて実証すること(最終年度2017年)

としている.

4.3 競合技術との比較

 当面の競合技術は,先に図3で紹介したRTM技術である.これはヨーロッパで進展しており,炭素繊維を用い,先に述べたBMW-i3等の量産自動車へ適用されている.図8にRTMの中でも高圧で樹脂を注入するHP-RTM(High Pressure Resin Transfer Molding)プロセスとLFT-Dプロセスの構成を示す.


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図8 HP-RTMとLFT-D技術のプロセス構成


 HP-RTMプロセスは,連続炭素繊維を織物に加工後,裁断機でカット,積層,プレス機で形を整え,それを型内に載置する.次いで,重合開始剤の混入された熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を高圧ポンプで注入し加熱硬化させるなどで,長いプロセスになっている.これに対し,LFT-Dプロセスは,熱可塑性樹脂と比較的長い非連続炭素繊維を混合・混練し,フトンの大きさに裁断後,金型に投入され,高速プレス機によって成形する,短くかつシンプルなプロセスである.表2に,両者の長所・短所を比較して示した.


表2 LFT-Dと競合技術HP-RTMとの優劣比較
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①LFT-Dは,HP-RTMのように連続繊維プリフォーム製造/賦形,配管クリーニング,加熱・重合・硬化等を必要とせず,コスト,設備投資の点で優位である.

②しかし,LFT-Dは連続ではなく不連続繊維であるがために力学特性は劣る(この点に関しては,熱可塑性樹脂の成形性の良さから実現可能な補強効果のあるウェブ付構造部品(図9左)や連続繊維・熱可塑性CFRPとのハイブリッド化(図9右)で解決している).

③融着性や二次加工性は熱硬化性樹脂でできているHP-RTMは不可能であるが,LFT-Dは熱可塑性樹脂であるので可能である.これがLFT-Dの最大の強味である.自動車構造部品は他の部品と接続して全体を構成するが,これまでの金属でのスポット溶接と同じように超音波融着で容易に接続ができる.

④LFT-Dは意匠性が劣る.このため,ドアやトランク等の外ものには適用しにくい(これについても連続繊維・熱可塑性CFRPとのハイブリッド化で解決しようとしている(図9右)).


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図9 LFT-D技術でなければできない補強構造
(左:構造部材にウェブを付与,右:炭素繊維織物・熱可塑CFRPとのハイブリッド化)


4.4 LFT-D技術による成果例:最適成形プロセス条件を確立し,大物・小物全構造部材を成形

1)大物・小物全構造部材の成形

 ベンチマークに用いたアルミ製のスポーツカー Lotus Elise のシャーシーより,重量減10%,比強度はほぼ同じか若干勝るものを,非連続・熱可塑性CFRPを用いるLFT-D技術で,生産性良く低コストで作製できることを実証評価するのが本プロジェクトの最終目標である.そこで,Lotus Eliseのシャーシーの重量を計り剛性等を測定し,これらの数値を満足する非連続熱可塑性CFRP製シャーシーを設計した.図10は設計したシャーシーを10個の構造部材に分解したものである.この10個の構造部材全部を,これまで築き上げてきたLFT-D技術で作製した.


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図10 シャーシーの構成部材の配置


 最も難しい大物のフロアパネル(面積:約2m2の大きさ)から成形に取り掛かった(図11左).プレス時の温度,圧力,プレス移動速度等によってでき具合は変わる.また,雌金型のどこに“フトン”を置けば短時間にフトンがうまく流動し,欠落部分無く全体を成形出来るかが問題となった.実験による試行錯誤に加え,参加企業から提供されたソフトをLFT-D用に改良したCAEにより樹脂の流れの数値予測等を活用するなどして,最適条件決定の技術・ノウハウを確立した.その結果,図11のように目的物を成形できた.


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図11 成形された構成部材
a)フロアパネル,b)サイドシルINR,c)左から センターメンバー,リアパネルLWR,サイドシルOTR


 サイドシルINRは,フロアパネルにより小さく易しい.しかし,このものは剛性が必要なので連続繊維の織物・熱可塑性CFRPとハイブリッド化しなければならなかったが,これも図11中央のように完成させた.さらに簡単なセンターメンバー,リアパネルLWR,サイドシルOTR(図11右)を作製した.(フロントパネルは,成形が最も易しいので,試行段階で成形済み)


2)全シャーシーの高速接合品

 上記で成形した各構成部品を超音波溶接で接合して,完成させた全シャーシーを図12に示す.10万台/年の量産車に適用できる生産性のある低コスト製法(LFT-D技術)で作製された本シャーシーが,「アルミ製のものよりも10%軽く,比剛性はほぼ同じか若干勝る」ものであることを証明する総合評価に取り掛かっているところである.


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図12 全シャーシーの高速接合品


5.今後の展望

 今後の自動車への適用のためのCFRP成形技術の流れは,不連続繊維を用いるLFT-D技術の方向と,連続繊維を用いるRTM技術の方向に大別され,其々の車種の生産速度,構造部位等によって使い分けられて適用が拡大していくものと推定される.名古屋大学NCCが手掛けているLFT-D技術は,生産性が極めて高く大きな低コスト化ポテンシャルを持っており優位にある.しかし,適用部位によっては強度不足の課題があるが,これに対しては,連続繊維・熱可塑性CFRPとのハイブリッド化や熱可塑性樹脂の流動性の良さを活かした構造設計による補強技術で克服できる見通しである.

 量産自動車の2割がCFRP構造車になるにはまだ時間がかかると思われる.しかし,世界で競い合って研究開発が進んでいる分野なので,名古屋大学NCCとしてはこの分野で世界トップを走り続け,一刻も早く実用化につなげる方針とのことである.


6.おわりに

 実験現場を案内して頂いた.3,500トンプレス,LFT-D用二軸押出機,熱可塑性CFRP成形用金型,それに耐雷試験装置等々の巨大な設備に圧倒された.名古屋大学NCCでは,この大型設備を運転しないと研究開発は進展しない.常にプロジェクト参加各社が集まり,総てのテーマをいわゆる「アンダーワンルーフ」の形で運営されている.µm径オーダの炭素繊維が数mmオーダの長さに切断されながら熱可塑性樹脂とnmオーダの精度で表面処理・混練されてLFT-D(フトン)となり,金型に載置され,プレスで加圧され,1分足らずでフトンが金型の隅々まで過不足なく流動して所望の形の成形体が得られる.この結果を,NCCの研究員・技術者とプロジェクト参加各社の技術者が全員集合し,細かい成形条件や原料特性の変更など,現場で議論して成形ノウハウを築く連携作業を進めている(図13).まさしくnano tech大賞「プロジェクト賞」を生み出した光景である.


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図13 試作現場で議論を行う組合員各社の技術者


 最近,異常に多発する大雨や,それよる土砂崩れや流木に破壊された浸水家屋の情報に接する度に,地球温暖化をひしひしと実感させられている.名古屋大学NCCを中心とする本プロジェクトの研究開発が進展し,その成果が産業界で実用化され,自動車の軽量化による効果「軽量化100kg当り,炭酸ガス排出量20g/km削減」により,安心と安全な地球環境保持に大きく貢献されることを願ってやまない.


参考文献

[1] 新構造材料技術研究組合(Innovative Structural Materials Association,ISMA),http://isma.jp/
[2] “nano tech大賞 2017”,http://www.nanotechexpo.jp/2017/main/award2017.html
[3] 名古屋大学ナショナルコンポジットセンター,http://ncc.engg.nagoya-u.ac.jp/index.html
[4] 経済産業省 産業技術環境局 研究開発課,「革新的新構造材料等技術開発の概要」,http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/hyouka/haihu108/siryo2-2.pdf
NEDO,「革新的新構造材料等研究開発」,http://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100077.html
[5] NEDO,「革新的新構造材料等研究開発(平成29年度実施方針)」,http://www.nedo.go.jp/content/100862760.pdf
[6] BMW,「BMW-i3」,http://www.bmw-i.jp/BMW-i3/
[7] トヨタ,「トヨタ・MIRAI」,http://toyota.jp/mirai/
[8] 三菱レイヨン,「三菱レイヨンの炭素繊維材料(SMC)がトヨタの新型「プリウスPHV」のバックドアに採用」,https://www.m-chemical.co.jp/news/mrc/detail/pdf/20170306104646.pdf
[9] LOTUS,「ロータス・エリーゼ」,http://www.lotus-cars.jp/
[10] 石川隆司,「自動車構造部品への炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の応用の展望(CFRPを中心に)」,精密工学会誌,Vol.81,No.6,pp.489-493(2015),https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/81/6/81_489/_article/references/-char/ja/
[11] インタビュー記事,「次世代自動車用熱可塑性CFRPの素材および加工技術開発」,精密工学会誌,Vol.81,No.6,pp.483-484(2015),https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/81/6/81_481/_pdf

 本文中の図表は,総て名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)石川氏より提供されたものである.


(真辺 俊勝)


「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2018_banner.jpg