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企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端 ~Life & Green Nanotechnologyが培う新技術~
<第54回>
ロール・ツー・ロール(R2R)ナノパターニングによるデバイス開発
~数百ナノメートル幅のパターンを連射的に転写できるロール・ツー・ロール技術~
旭化成株式会社 生産技術本部 生産技術センター 阿部 誠之氏,能川 春生氏に聞く

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 いつでもどこでも意識することなく周辺の情報が個人につながるトリリオンセンサー社会 註1)の到来が予測されている.これを実現するにはセンサーや電子回路が安価に大量に供給されなければならない.旭化成株式会社は,それを可能にするロール・ツー・ロール(Roll to Roll 註2),以降,R2R)ナノインプリント技術を開発した.今後これを産業として展開していくには他企業との連携・協創が必須と考え,そのきっかけを得ることを目的に2017年2月15日~17日に東京ビッグサイトで開催された国際ナノテクノロジー総合展・技術会議に出展した.多くの来訪者の関心を引くと共に,主催者であるnano tecch 2017実行委員会から優れた技術内容と認められnano tech大賞2017 グリーンナノテクノロジー賞を受賞した[1].受賞理由は「100ナノメートル幅の配線を連射的に基板に転写できるロール・ツー・ロール技術を開発した.フレキシブルデバイスを効率的に生産でき,エネルギーやヘルスケアなど様々な産業への応用展開が期待される点を賞す.」である.

 そこで,受賞対象となったR2Rナノパターニング技術の内容および今後の展望を伺うべく,旭化成株式会社 生産技術本部 生産技術センター 加工技術部 主幹技師 阿部 誠之(あべ まさゆき)氏,同センター 次世代ものづくり技術開発部 課長代理 能川 春生(のがわ はるお)氏を静岡県富士市の生産技術センターに訪ねた.

註1)毎年1兆個(1トリリオン個)のセンサーを医療やヘルスケア,流通や物流,農業,社会インフラなどのあらゆる部分で活用し,センシングしたデータを生活に役立てていく社会[2].

註2)電子デバイスを効率よく量産する手法の一つ.ここでは,ロールRoll:フィルムが巻かれた原反)から,フィルムがローラーRoller:表面にパターンのない金属製回転円筒)を介して繰り出され,次のステップでモールドMold:表面にパターンが描かれた金属製の回転円筒)でフィルム面に加工が施され,加工されたフィルムが再び巻き取られてロールRoll)になる生産プロセスをいう.


1.Creating for Tomorrowの旭化成株式会社 [3]

1.1 グループの理念とビジョンおよびスローガン

 旭化成株式会社を中心とする旭化成グループ(以降,旭化成)の理念は,「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献」することである.これに基づきビジョンとして,“「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して,社会に新たな価値を提供する”を掲げる.そのためのスローガンを「昨日まで世界になかったものを,Creating for Tomorrow」とし,「いつの時代でも世界の人びとが“いのち”を育み,より豊かな“くらし”を実現できるよう,最善を尽くす」としている.これは,創業以来変わらぬ人類貢献への想いである.このようにして生まれた製品は,身近な消費財から,生活をより快適にする素材・製品や,いのちを支えるヘルスケア製品まで,さまざまなシーンに何気なく入り込んで活躍している.

1.2 沿革:創業90年超,繊維に始まり,建築,医薬にまで多角化

 旭化成の沿革と現状を図1に示す.1923年に旭化成の創始者である野口遵氏は,宮崎県延岡市で日本初のアンモニア化学合成に成功し,1931年にアンモニアを利用し再生セルロース繊維「ベンベルグ™」(人工絹布)を生産する一方で,化学肥料やレーヨン繊維などの事業も展開した.

 1960年に食の安全に貢献するサランラップ®を発売して樹脂製品事業に進出,1967年には,軽量気泡コンクリート「ヘーベル」の製造を開始し,1972年にこれを用いた「ヘーベルハウス™」を発売し,建材事業・住宅事業へ本格進出した.

 旭化成中興の祖と言われる宮崎輝社長は多角化を進め,1972年にエチレンセンターを水島に作って石油化学に進出,1974年には中空糸型人工腎臓などの医療機器事業を開始,1980年に磁気センサーのホール素子,1983年にはLSIの生産を開始しエレクトロニクス事業にも進出した.2012年には米国ゾール・メディカル社を,2015年には電池のセパレータ企業である米国ポリポア社を買収し,グローバル化を推進した.

 旭化成は,2016年から3年間の中期計画をスタート,新たな挑戦を行なっている.今回の受賞対象となったR2Rナノパターニング技術の開発はその一つである.


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図1 旭化成の沿革と事業展開


1.3 事業展開:持株事業会社体制のもとで更なる挑戦を続ける

 以上のように多角化により事業は拡大し,2015年現在は図1右に示す業容となっている.即ち,旭化成グループは旭化成株式会社が持株事業会社となる持株事業会社制を取り,(1)マテリアル領域,(2)住宅領域,(3)ヘルスケア領域の3つの領域で事業を展開している.資本金は1,034億円,従業員は連結で33,000人,2016年3月期の売上は1兆9,409億円である.マテリアル領域が売上の約1/2を占め,住宅領域が1/3,残りの15%がヘルスケア領域となっている.


1.4 研究・生産技術開発体制

 持株会社の中に長期的,グループ横断的な研究を行う研究開発本部と生産技術本部があり,事業会社には事業領域ごとの研究開発センターが置かれている.生産技術本部に置かれた生産技術センターではポリマー加工を中心としたプロセスにフォーカスし,生産性向上ならびに高機能化・高付加価値化を追求している.旭化成全体としての研究開発費は,2015年度は811億円であり(図2),将来や全社共通課題に向けたコーポーレートには10.1%が当てられ,本開発はこの中で推進している.


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図2 研究開発費


2.フレキシブルエレクトロニクスとそれに寄せられる期待

2.1 R2Rナノパターニング技術開発の経緯

 2005年頃,多くの技術がコモディティ化する状況の中で,高機能化・高付加価値化をもたらす将来のフィルム加工技術とは何かが議論になった.生産技術センターでは,産業界の技術的動向や将来の社会ニーズ等を検討した結果「ナノパターニング技術であり,行きつくところはプリンテッドエレクトロニクス(PE)技術」との答えに辿りついた[4][5][6].これが,阿部氏らがPEおよびこれによってもたらされるフレキシブルエレクトロニクス(FE)に関わるきっかけになったとのことである.

 PE(またはFE)とは,フレキシブルなフィルム上に印刷技術を用いてエレクトロニクスデバイスを作製するものである.従来のシリコン系のエレクトロニクスとは異なり真空・高温プロセスを不要とし,絶縁性インクや半導体インクおよび導電性インクをフィルム上に塗布・印刷するものであり,大面積,軽量,薄膜,機能の複合化,フレキシブルである等の特長がある.これらの特長により,従来にない製品の開発が可能になり,またR2R連続生産により大幅な低コスト化と大量供給が期待されている.


2.2 IoT社会が要求するセンサーの数,それに応えるのはどのような生産技術か

 このようなFEの市場は,2022年に30USB$(3兆円)になるという予測がある.その背景には,図3に示されるような多くのセンサーに支えられるIoT社会の到来が予想されているからである.例えば,これを道路の要所要所に大気分析と電源能力と通信機能を持ったセンサーを配置して,有毒ガスの分布を調べ,交通政策に役立てることが考えられる.自動化・高密度化が求められ,安価な大量のセンサーが必要となる.2010年は1億個だったが2025年には年に1兆個のセンサーが必要になるとされている.阿部氏らはこの需要増に対する対応策を生産技術の観点から検討した.Siプロセス技術で応えようとすると,2025年までの総投資額は700兆円になる.これに対し,R2Rを取り入れたPE技術で応えるなら,総投資額は1/70で済むという試算になった(表1).IoT時代のセンサ大量需要に対して,PEが有効であるという結論である.


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図3 センサーをはじめ多様なエレクトロニクスデバイスを大量に必要とするIoT社会


表1 1兆個/年の需要に対するプロセス能力比較
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2.3 具体的ターゲットとそれに必要な生産技術

 次に阿部氏らは,具体的にどのようなFEデバイスを開発すべきか,それを実現するにはどのようなプロセス技術が必要かを定量的に明らかにすることを試みた.例えば現在,橋梁等のインフラの老朽化が大きな問題になっている.これに対し,橋を覆うようにオンラインセンサをつけることを考えた(図4).pHなどを測定して故障を予知する.データを送れるように通信も必要になる.エネルギーハーベスティング(環境発電),pHなどのセンサーアレイ,RF回路,アンテナを全て印刷で大面積のシート上に作る.耐久性が求められる一方,一定時間経過後環境を害することなく自然に帰れる材料であることが必要である.


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図4 全印刷大面積インフラモニタリングセンサー:橋梁モニタリングセンサー


3.FEプロセスに要求される課題と目標設定

3.1 TFTのチャネル長が求める解像度

 上記の橋梁モニタリングセンサーを実現するための課題を検討した.まず生産技術上最も高度のことが要求される高速トランジスタTFT(Thin Film Transistor,薄膜トランジスタ)について検討した.TFTは,基板フィルム上に一定幅のゲート電極を設け,これを覆うように絶縁体を堆積させ,間隔をあけて2つの電極(ソース(s),ドレイン(d))を設け,電極間を有機半導体で埋めることで形成される(図5左).ソースとドレインの間隔がチャネル長Lである.ゲート電極はLより大きく,ゲート電極とソース・ドレイン電極はそれぞれS/2のオーバーラップがある.TFTの遮断周波数fc(周波数が高くなるに従って増幅率が低下して1になる周波数)は図中の式(1)で表される.ここで,µ:移動度,Vsd:sd間電圧である.電極の重なりS/2の大きさは位置合わせの精度によって決まるが,寄生容量となり遮断周波数を低下させる.遮断周波数10MHzを得るには,S=10nm~10µmとすると,Lは250nm~10µmとなり,サブミクロンの解像度が必要になる.図5右下の図中の斜めの線は,用いる半導体の移動度をパラメータにして遮断周波数とチャネル長の関係を示したものである.Si MOSFETにおける電子の表面移動度は数百cm2/Vsだが,有機半導体のキャリ移動度は0.01cm2/Vs程度(2005年当時,今は1~5cm2/Vs)と1桁以上小さく,1µm以下の短いチャネル長が求められる.


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図5 FEデバイスに用いられるトランジスタ(TFT)の仕様


3.2 解像度と面積の2次元で目標設定

 FEデバイスの種類によって,必要とされる解像度と面積は異なる(図6).フレキシブルパソコンだと解像度は10nm~200nmで面積は0.01m2~0.2m2,有機太陽電池(O-PV)だと解像度は0.3µm~30µmで面積は0.03m2~20m2,大面積センサでは解像度は0.1µm~10µmで面積は0.1m2~10m2である.10µm以上の低解像度は既存技術で対応できるので,開発目標はあらゆる面積をカバーし,解像度は0.1µm~10µmとした.


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図6 FEデバイスパターン解像度と大きさ(開発目標:解像度0.1µm~10µm)


3.3 単位時間あたりの生産量:スループット

 次に生産性(スループット)を考えた.図7に示すように,スクリーン印刷だと50µm以上の低解像度だが1m2/s以上の高スループットが得られる.スタンプを用いるマイクロコンタクトプリンティング(µCP)の枚葉バッチ処理だと0.01µmから10µmの広い範囲の解像度が得られるが,スループットは10-4m2/sと極めて低い.枚葉フォトリソグラフィは3µm程度の高解像度だがスループットは10-4m2/sレベルである.このように,スループットと解像度はトレードオフの関係にあるが,これを打破するのがR2Rである.フォトリソを枚葉からR2Rにすると,スループットが1~2桁上がる.そこで枚葉処理のµCPをもとに,高解像度のR2Rで,0.1~1m2/sのスループット,0.1~10µmの解像度を開発目標とした.


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図7 印刷法の種類と解像度,生産性
(開発目標:スループット0.1~1m2/s,解像度0.1µm~10µm)


3.4 プロセスのトータルイメージ

 R2Rプロセスのトータルイメージを図8に示す.フィルムを連続的に繰り出し,TFTならゲート,絶縁体,ソース・ドレイン,半導体を4層順次印刷する(図において,第1層はナノプリント,第2層はコーティング,第3層はナノインプリント,第4層は再度コーティングの構成を想定している).


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図8 R2R量産プロセスのトータルイメージ


4.R2R量産プロセスの課題:超微細円筒モールドの開発

4.1 R2Rプロセスで印刷のハンコになる超微細円筒モールド

 R2R量産プロセスで最大の課題は超微細円筒モールド(Seamless Roller Mold: SRM)(ハンコ)の実現である.ハンコの良いものがないので自作することにした.このために電子線描画装置を兵庫県立大学松井真二教授[7]および株式会社ホロン[8]と連携しさらにはJST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)のA-STEP(産学連携開発型の研究成果最適展開支援プログラム)の支援を得て自社開発した.nano tech 2017に展示したハンコを図9に示す.表面に描かれている継ぎ目なしモールドパターンの例を図の右に示す(12.5µmピッチに当たる2,000ppi(pixel per inch,チャネル,電極幅共に500nm)のTFTパターン,および100nmL/Sパターン).

 この直径10cm,幅250mm(又は70mm)のローラーの全幅・全周を20時間で露光できた(一般的な電子ビーム露光装置の3600倍のスループットである.従来のポイントビームでは100年かかるとのことである).


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図9 開発したR2R量産プロセス用継ぎ目なしモールドとその表面のモールドパターン


 SRMの製作プロセス(図10)は,幅250mm,表面粗さ2nm(Ra=2nm)の超平滑表面のローラー加工に始まる.Dip coating(浸漬塗布)で電子線レジストを塗り,プリベーク(予備焼成)の後,電子線露光し,現像,ポストベークしてレジストパターンが出来上がる.その後,出来上がったレジストパターンを用いる後加工により,硬いモールド表面に所望の微細パターンが出来上がる.


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図10 電子ビームリソグラフィを用いるSRM作製のトータルプロセス


4.2 電子ビームを用いたローラー露光法とその装置開発

 平面上に電子ビームを露光し描画する装置は入手出来るが,円筒面上に露光・描画する装置は存在しなかった.そこで,“①長時間安定にµAオーダの大電流を流せる平行電子ビームを発生させ,②これを,デバイスのパターンが描かれている50mm×50mm大のステンシルマスクを通して1:1の等倍露光を行い,③この操作をローラーの回転方向にも横方向にもステップ・アンド・レピートを繰り返し,ローラー表面にパターンを高速に描画する装置”を開発した(図10下左).ホロンが電子光学系,旭化成がローラーステージ部分を担当した.位置決め精度は全表面で50nm以下,最良は10nmである.基本特許[9]は兵庫県立大の松井教授と株式会社ホロンが保有し,旭化成もホロンと共願で有用な関連特許を取得している[10].


5.開発したSRMを用いたR2Rプロセスによるパターニング

5.1 プロセスのポテンシャル確認

 図11左にポテンシャル(基本能力)確認に用いたR2Rナノインプリントのトータルプロセス構成とプロセス条件を,図右にR2Rナノインプリントで1µmのラインパターンを作製したフィルムを示す.送り出しロールから繰り出したフィルムを多段ローラーで送りながらUV硬化樹脂を塗布,SRMでナノインプリント,UVランプ照射で硬化,UV硬化樹脂を剥がしてロールに巻き取る.図右から解るようにインプリントされた膜は,SRMのシームレスを反映して不連続線のないきれいな構造模様を示している.


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図11 R2Rナノインプリントのトータルプロセスおよびナノインプリント結果


 次に,PETフィルムに銀(Ag)を印刷した.1µm線幅,5µmピッチのパターンおよび200ppiのTFTパターンのナノインプリンティング,ナノプリンティング註3)を行った.規則正しい印刷パターンが得られる(図12).超高解像印刷でPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムにAgの250nmラインパターンを印刷した結果を図12左下に示す.ラインの縁に突起が見られる.これはインクの中のAg粒子の大きさが50nmあるためで,インクメーカーに改善をお願いしているところである.これからもインクメーカーとの共同開発が必要になる.

 これらより,モールドの解像度は100nm,フィルム上のワイヤグリッドの解像度は50nmであり,印刷の実績解像度は250nmであった.


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図12 インプリントおよびプリントによるL/S(線幅Lと間隔S)パターン(中央)と
超高解像印刷(左下)および200ppi-TFTパターン(右)

註3)ナノインプリントは,凹凸のあるモールドを樹脂に押し付けて,樹脂に凹凸を形成する方法,ナノプリントはモールドの凸部にインクをつけそれをフィルム基板上に押し付けて転写しパターンに形成する方法.


5.2 R2Rによる製品レベルの試作品

 これまで述べてきたモールドパターンやそれを用いた印刷パターンは,本技術が持つポテンシャルを示したものである.現在の製品レベルの例として,配線の見えないメタルメッシュ透明導電フィルムを図13に示す.PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに導電性インクを印刷(線幅1µm)し,ベークして導電性を持つようにしたものである.


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図13 配線の見えないメタルメッシュ透明導電フィルム


6.今後の展開

6.1 製品ビジョン

 将来の製品ビジョンは“unPad”の実現である.unPadとは,スマートフォンやタブレットなどのデバイスなしに情報へのアクセスが可能な世界を意味する.具体的にいうと電子壁紙やあらゆるモノに埋め込まれたセンサやユーザインターフェース(UI)を通してインターネットへアクセスできるという概念である.これを実現するために図14に示すような"ものとソリューション"を開発し事業化していく.


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図14 製品ビジョン:“unPad”


 1)まず初めに社内にあるCore Technology(今回開発した①SRMを中心に ②プリント技術 ③材料技術 ④デバイス設計技術)を利用して,簡単な単層の機能性フィルム(透明導電膜(TCF),アンテナ等)から始め,これらが実用化できる段階になったら,
 2)TFTアレイフィルム,これを組み込んだインフラストラクチャーを監視するようなセンサーアレイ,電子壁紙,生鮮食品輸送時の温度を記録するスマートタグ等を手掛け,
 3)次に関連会社Zool社のライフベスト等高度のものへ展開していく.ライフベストは心疾患の患者が着るウエアラブルベストである.常に心臓の鼓動をモニタリングしている.脈拍がおかしくなったらAEDを起動させて救急措置をすると同時に救急車に連絡が行って本格的処置をする.


6.2 R2R技術開発ロードマップ

 ライフベスト等のR2R適用デバイスは図15に示す技術開発ロードマップと連動で製品化して行く.ロードマップは,解像度,フィルム幅,重ね合わせ制度などを指標として構成されている.解像度において50nmは既に見えており目標達成に近い.フィルム幅(すなわちローラー幅)は現在の250mmから2020年には1mに拡げて行く.初めのロールと次のロール間の印刷重ね合わせ精度は現在の5µmから,2018年には1µm,2020年にはさらにはサブミクロンへと高めていく.遮断周波数は,現在のTCFにおける10MHzから,2020年のµTAS(Micro Total analysis System,マイクロ総合分析システム)では10MHz超,2022年の高精度なTFTでは50MHz,次いで2023年の100MHzの物流で使うようなスマートTAG,そして2025年の鉄橋のモニタリング用IoTセンサーでは200MHzに高めていく.モニタリング用IoTセンサーでは,アンテナ,環境発電,各種センサー,そして最も難しい通信用TFT等がインテグレートしたものとなる.


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図15 旭化成のR2R技術開発ロードマップ


6.3 R2R技術事業化のビジネスモデル

 R2R技術はまず社内のデバイス製品の製造に適用する.同時に社外に向けて,既に社内に保有している設計ツールを公開・提供し,社外ユーザーはこのツールで設計したデータを旭化成に送り,旭化成はそれによってデバイスを製造して返す形のビジネスを想定しているとのことである.


7.おわりに

 旭化成が自社開発したSRMおよびそれを用いるR2Rナノパターニング技術の話を伺った.数十nmオーダの微細パターンを幅1,000mm,長さ数百mのフィルムに形成するという壮大な目標に向かって着実に進捗していることを知ることができた.ナノスケールの緻密な領域と数10~数百m2の大面積の領域が共存する技術開発に,ただ驚くと共に強烈な感動を覚えた.阿部氏らはこれらの発展は旭化成一社のみで出来るものではないと認識しておられ,これまで多くの企業や研究機関と連携して開発を進めてきた.今後,本技術の産業化に当たっては,今まで以上にさらに多くの企業との連携・協創がますます大切になると考えられる.本小文を読まれ,自分の所に本技術の進展に寄与できるポテンシャルやアイディアがあると思われる方も多かろう.これらの方々が力を合わせ,来たるべき“un Pad”のIoT社会が必要とするセンサー類をはじめ各種のデバイスやソリューションを大量にかつ安価に生産できるトータルシステムが築かれることを願っている.


参考文献

 本文中の図表は,全て旭化成株式会社より提供されたものであり,特に『阿部 誠之,伊藤直人,松井真二,岡田 真,「Roll to Rollナノパターニングによるデバイス開発」,第64回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 講演番号 15p-512-6 (2017)』に用いられた図表を多用した.

[1] nano tech大賞2017,http://www.nanotechexpo.jp/2017/main/award2017.html
https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2016/ze170222.html
[2] トリリオンセンサー社会,;http://www.dbj.jp/ja/topics/report/2015/files/0000021467_file2.pdf
[3] 旭化成株式会社ホームページ,;https://www.asahi-kasei.co.jp/
[4] 阿部誠之,「新しい産業としてのプリンテッド・エレクトロニクスへの期待と旭化成の取り組み」,コンバーテック,42巻,7号,pp.71-77(2014)
[5] 阿部誠之,「サブミクロン解像度を持つPE用ロールトゥロールパターニング技術の開発」,シミュレーション,35巻,2号,pp.74-78(2016)
[6] 阿部誠之,「機能性フィルムへの適用に向けたナノパターニング技術の開発」,化学経済,63巻,8号,pp.18-19(2016)
[7] 松井 真二(研究代表者),「戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」 研究課題「超高速ナノインプリントリソグラフィ技術のプロセス科学と制御技術の開発」研究終了報告書(研究期間 平成20年10月~平成26年3月),https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research/s-houkoku/JST_1111049_08062578_EE.pdf
[8] 株式会社ホロン,「大面積シームレスロールモールドの共同開発」,
http://www.holon-ltd.co.jp/business/development.html
[9] 株式会社ホロン,兵庫県,「ローラーモールド作製方法」,特許第5288453号(2013.06.14登録,2008.05.27出願),特許第5144847号(2012.11.30登録,2008.05.15出願)
[10] 株式会社ホロン,旭化成エンジニアリング株式会社,「ロールモールド製作装置およびロールモールド作製方法」特許第5968601号(2016.07.15登録,2011.06.30出願)

(真辺 俊勝)


「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2018_banner.jpg