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NanotechJapan Bulletin Vol.10, No.2, 2017 発行

第16回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2017)開催報告


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 第16回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2017)は,2017年2月15日から17日までの3日間例年通り東京国際展示場(東京ビッグサイト)東4~6ホールで開催された.主催はnano tech実行委員会,事務局は(株)JTBコミュニケーションデザイン(JCD)である.

 本展示会は,“ナノテクノロジー”をテーマとする最大級の展示会である.ナノテクノロジー開拓の機運の醸成がグローバルに始まった21世紀初頭から毎年開催され,今年は16回目である.23の国・地域より476企業・団体が出展して開催された.

 今年度のnano techの開催テーマは「Open Nano Collaboration」であり,「あらゆる分野での研究開発間のビジネスマッチングを創出し,異分野融合による知の創出を加速させる」ことを狙いとしている.nano tech 2017と同時開催で表1に示す13の展示会が同じ東京ビッグサイト東棟の1~6ホールに展開された.このうち項目1~4の展示は,nano tech 2017と同じ東棟4~6ホールに展開され,境が無く展示会が一体化されていた.また,このなかの項目9~13および項目2の6展示会はコンバーティングテクノロジー総合展として,機能性フィルムやナノファイバーなどのマテリアルから印刷・塗装技術まで,ものづくりを支える技術や装置が集結した.


表1 nano tech 2017と同時に開催された展示会

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 会場は連日来場者で賑わい,全展示場の3日間の総来場者数は53,106名と発表されている.図1はこの10間年の来場者の変化で,2010年のリーマンショックの影響,2012年は東日本大震災の影響での減少があって以降回復が継続し,今回はまた一段と増加した.


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図1 3日間の全展示場総来場者数


 また,開催の3日間はnano weekとして,会議棟において,「第15回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2017)(当月号に開催報告あり)」など各種シンポジウムやセミナーが開催された.

 先に,開催テーマで触れたように,nano tech総合展は技術融合による研究開発と産業化の促進を狙っており,その一環として,シーズとニーズのマッチングを効果的に行わせるために第12回から商談促進ツール「ビジネスマッチングシステム」を運用してきており,今回で5回目を迎える.総合展開催の2ヶ月前からWeb登録してシステムに参加し,マッチングメンバーを検索して展示会場での商談のアポイント申し込みを行うもので,商談には会場に設けられたビジネスマッチング会場も利用できる.nano tech実行委員会からの報告によれば,システム利用件数は年々増加し,今回の参加者数は昨年に比べて3割強増えた1,153機関で,商談件数も昨年より微増して340件とのことである


1.nano tech 2017の概要

1.1 出展状況

 出展状況を,nano techのWebサイトの「出展者/製品・技術一覧」での検索結果のデータに基づいて概観する.

 まず,nano tech 2017の出展者数の年次推移を図2に示す.2017年の国内出展者の減少が目に付くが,これには,ナノテクの応用分野への展開に伴う同時開催の他の展示会への移動が関係していると思われる.例えば,nano techの常連であった帝人は新機能材料展へ,富士フイルムは先進印刷技術展とPrintable Electronicsniに,東芝機械は3D Printingに移行している.


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図2 出展者数の年次推移(国内,国外)


 図3は技術・製品応用分野別に出展者数を前年と比較して示すもので,出展者/製品・技術一覧の分類項目に若干の違いがあり,2017年と2016年でそれぞれデータが欠如しているところがあるが,IT&エレクトロニクスは前年より減少しており,それ以外は若干増加している傾向がわかる.図2で国内の出展者数が減っているのに反して図3の出展者数が平均としては増えているのは,個々の出展者の複数の分野への出展が増えているためと推察される.分野別特徴としては,特にライフ分野の出展者の増加が目立っている.


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図3 分野別出展者数の前年との比較


 図4は,分野別に国内と国外の出展者数をグラフに表したものである.海外からの出展者数が特に多いのは材料・素材分野であることが分かる.続いて,計測加工分野,環境・エネルギー分野が比較的多い.


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図4 出展者数の分野別に見た国内,国外の比較


 図5~図11に7つの分野それぞれについて,技術・製品分類項目別に出展者数を前年と比較して示す.ただし,図6の計測・加工分野は,前年のWebサイトの出展者検索には無かったので前々年度と比較した.図5に示す材料・素材分野では,分類項目に違いがあり,比較出来ていない項目が多くある.項目名が違っても類似の項目がある場合は近くに並べた.


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図5 材料・素材分野の項目別出展者数


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図6 計測・加工分野の項目別出展者数


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図7 IT&エレクトロニクス分野の項目別出展者数


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図8 ナノバイオ分野の項目別出展者数


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図9 自動車分野の項目別出展者数


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図10 環境・エネルギー分野の項目別出展者数


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図11 ライフ分野の項目別出展者数


1.2 nano tech 2017の展示会場の状況

1.2.1 メインシアターおよびセミナー会場から

 nano tech 2017の開催テーマとして「異分野融合で加速する,知の共創」が掲げられた.ナノテクノロジーがより広く各分野に浸透し,他技術と融合して,具体的に社会に貢献する新しいフェーズに入ったことを思わせる.そうした流れは,展示場内メインシアターで開催された特別シンポジウムに見ることが出来る.初日に「最先端医療・生命科学を加速するライフ・ナノテクノロジー」「グラフェンスペシャル」,2日目には「AI/IoT」「セルロースナノファイバーの実用化最前線」,最終日には「マテリアルズ・インフォーマティクス」が開催された.各シンポジウムとも盛会であったが,特に「セルロースナノファイバー」のシンポジウムでは会場を取り巻く人で溢れ,通路も通れなくなるほどであった.


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メインシアターの会場


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メインシアターでのシンポジウム「セルロースナノファイバー」で溢れる来場者


 また,展示場内にはシーズ&ニーズセミナーA会場,B会場,C会場が設けられ,出展者の技術・製品紹介の他,シンポジウムも行われた.A会場では,科学技術振興機構ALCA/新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDOによるセミナー「次世代セルロースナノファイバーの創出に向けて」,B会場では,初日午後に特別シンポジウム「Robotic Special」,C会場では初日終日「次世代プリンテッドエレクトロニクス技術セミナー」,2日目と3日目の午後に「3Dプリンティングセミナー」が開催され,いずれも盛況であった.


1.2.2 注目分野の状況

(1)ナノカーボン

 カーボンナノチューブ(CNT)は発見から25年が経つが本格的応用(産業化)には至っていない.その主たる原因は高いCNTの合成コストに帰すと考えられる.しかし,海外では,ルクセンブルグに本社,ロシアに工場,韓国に関連企業を持つOCSiAl社が純度80%程度のSW(単層)CNTで数10t/年の量産を行い,この低価格化路線により,中国,韓国の電池メーカやプラスチックメーカが,積極的に製品に取り入れているなど,品質より低価格化を先行した活動が活発である.一方,高品質を追求する日本でもようやく日本ゼオン(株)や名城ナノカーボン(株)の大型プラントが生産を開始するなど産業化の動きが出てきた.また,これにつれてアプリケーションについても積極的な動きが見られ,“CNT市場は第三次成長期に突入した”とも言われている.三菱商事(株)はCNTを樹脂で包んだものを多数凝集させたビーズ化CNTを開発した.コンパクトで飛散を防ぎ安全に取り扱える.ビーズは複合材のマトリックスの中で分解し,出来たCNT-マトリックス複合材ではCNT配合量を従来の1.6~3.5倍まで高めることができるという.

 グラフェンについては,今年もメインシアターの特別シンポジウムに採りあげられ,注目度が高いが,海外からの出展が多く,国内ではまだ研究段階のレベルと思われる.その中で,日本触媒からのサンプル出荷が目に付いた.

(2)セルロースナノファイバー

 近年注目を集めている素材である.2015年以来NanotechJapan Bulletinでも3件の取材記事を載せている[1][2][3].nano tech 2017のこの関連の出展者数は,NEDOを含めて8件あり,海外からではカナダからの出展があった.応用に向けた製品化が課題となっており,これに関する関心の高さが,前述の特別シンポジム「セルロースナノファイバーの実用化最前線」の盛況に示された.シンポジウムの中で製品化の課題としてコスト低減が挙げられた.nano tech大賞 2016の新人賞をセルロースナノファイバーで受賞した森林総研は新機能材料展に出展し,展示会をまたがっての話題となっている.

(3)AI/IoTとセンサ技術

 このテーマはnano techの中でメインシアターのメインテーマとして初めて登場した.内閣府が定める第5期科学技術基本計画(平成28年~平成32年)は「超スマート社会“Society 5.0”」の実現を目標とし,そのために強化を図る基盤技術の項目のなかに,AIおよびIoTがあげられている.また,新たな価値創出のコアとなる強みを有する技術(ロボット,センサ,バイオテクノロジー,素材・ナノテクノロジー,光・量子など)の強化を図ることが記されている.特別シンポジウム「AI/IoT」では産業技術総合研究所(産総研)人工知能研究センター 副センター長 麻生氏から「実世界に埋め込まれる人工知能」と題する講演が,また,NECシステムプラットフォーム研究所長 中村氏から「AI時代のコンピューティングプラットフォーム」と題する講演があった.IoTの有効性を決める鍵はいろいろな事象に対する優れたセンサが開発されることである.nano tech 2017の展示場のなかでも,各種センサの研究開発が紹介されていた.

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースでは「印刷技術でIoTセンサの多品種変量生産技術」や「フレキシブルなシートセンサ」など,産業技術総合研究所(産総研)では「早期診断技術に貢献するヘルスケア用ガスセンサ材料」,物質・材料研究機構(NIMS)では「スマートフォンで読み出せるウェアラブルRFID化学センサ」や「モイスチャーセンサ:微小な水滴の検出とサイズ判定」などが展示された.また多くの大学がテーマとして取り上げている.

 メインシアターでは,初日の午後,内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)宮田プログラム「進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム」の取り組みと3つのプロジェクト(細菌・ウイルス,PM2.5,有害低分子の検出)の進捗状況が報告された.

(4)3Dプリンティング

 3Dプリンティングについてはnano techと同じフロアであるが独立した展示会3D Printing 2017が開催された.応用分野として医療分野があり,nano techとの関係が深く,nano techの展示の中にも3Dプリンティング関連の出展が見受けられた.3D Printing 2017の出展者数は昨年の3割増しの約60社となっている.シーズ&ニーズセミナーのC会場では,主催者企画3D Printingセミナー基調講演として医療分野について大阪大学 中野教授の「3Dプリンタの医療応用」,航空宇宙分野についてJAXA主幹研究開発員 池田氏の「JAXAの宇宙航空開発分野における3Dプリンター活用事例」があって,大盛況であった.

(5)その他

 バイオミメティックス関係も興味深い展示を行なっていた.Biomimetics Network Japanのブースでは,関連組織の活動状況と共に,清水建設が「蓮の葉の表面構造を模した超撥水型枠によるコンクリートの価値向上」,凸版印刷が「南米生息のモルフォ蝶の鱗粉構造をヒントにした,無色透明材料のみで鮮やかな構造発色を呈するシート」,帝人が「モルフォ蝶の翅の構造を模した構造発色繊維と構造発色フィルム」,および「蓮の葉の表面構造を模した高撥水織物」を披露した.

 NEDOのブースでも,「鮫体表の流れ場を再現する人工的なバイオミメティックデザイン構造を流体機器に適用して,その性能向上を図る」研究を紹介していた.


1.2.3 国内における地域横断的な研究開発活動の活性化

 nano tech総合展では回を重ねるごとに,国内における地域横断的な研究開発活動の活性化が進んでいる様子が窺える.文部科学省が全国的に展開しているナノテクノロジープラットフォーム事業も5年近く経過し,その共用施設の大学や産業界での活用も順調に進み地域のナノテク技術およびその応用展開に貢献している.このブースでは特に秀でた研究開発成果を表彰し紹介していた.今年度の最優秀賞は微細構造解析PFの名古屋大学で,東京大学・JSTさきがけ・ローレンスバークレー国立研究所との連携による「超高効率水素製造光触媒を実現した新奇薄膜構造の発見とその構造解析」であった.また,多くの大学のブースでもナノテクノロジーPFの運用活動に触れることができ,オープンイノベーションが進みつつある様子が感じられた.

 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が実施しているスーパークラスタープログラムでは,京都地域コアクラスターと滋賀,福井,長野サテライトクラスター,および,愛知地域コアクラスターと山口,福井,長野サテライトクラスターが,SiCやGaNのパワーデバイス,結晶材料,その実装技術や材料,応用技術の研究開発を行っている.

 また,京都市は文部科学省イノベーションシステム整備事業のなかの地域イノベーション戦略支援プログラムにおける「京都科学技術イノベーション創出地域」として,産・学・公・金(地元金融機関)による京都科学技術イノベーション推進協議会を設け,次世代エネルギーシステム創造戦略と銘打った活動を行っている.

 北海道千歳市では,千歳市独自の特性を生かした産業集積を目指す千歳市地域産業活性化基本計画を平成26年スタートさせた.集積業種としては,

・光サイエンスに特化した単科大学である千歳科学技術大学を中核とする光関連産業,

・豊富で良質な水資源と農畜産物等を活用した食品関連産業,

・新千歳空港,幹線道路,近くの港湾等の交通・輸送インフラを活用する物流関連産業,

である.

 その千歳科学技術大学は,産・学・官・金連携の中核となってホトニックスワールドコンソーシアム(PWC)を構築し,ホトニクスバレープロジェクトを展開している.平成16年の経済産業省の地域新生コンソ-シアム研究開発事業,その後の戦略的基板技術高度化支援事業等の中で支援を受けた8件の研究開発課題の成果等を基に,現在11名のクラスターコーディネータによるPWC研究クラスターが活動している.なお,同大学では文部科学省のナノテクノロジープラットフォーム事業により,分子・物質合成プラットフォームを備え,光ナノテクノロジーの実績を活かし,また,食品関連産業の活性化に関わる支援活動を行っている.

 山形大学は有機エレクトロニクスに関して大変積極的な研究開発展開をしている状況が二つのブースに分かれて紹介された.一つはフレキシブル基板研究グループが中心となる有機エレクトロニクスイノベーションセンター(INOEL),もうひとつは有機トランジスタ研究部門が中心となる有機エレクトロニクス研究センター(ROEL)である.

 INOELは,経済産業省の支援を受けた有機薄膜デバイスコンソシアム(2015年度で終了)の成果を受けて,2015年度からフレキシブル有機エレクトロニクス実用化基盤技術コンソシアムを立ち上げた.異なる技術分野の企業11社が集結して技術の垂直統合を実現し,フレキシブル有機ELディスプレイ・EL照明・太陽電池,フレキシブルセンサ等の実用技術の開発を狙う.ROELとも協力してJSTが推進する「産学共創プラットフォーム(OPERA)」(2016年度~2020年度)にも参画する.

 一方,ROELは,材料創製から応用デバイスまでの研究領域を網羅しており,印刷型センサとICT技術を融合したスマート有機センサを創出してIoT社会に貢献することを狙う.JSTのセンタオブイノベーション(COI)プログラム,JSTのOPERAプログラムの支援を受け,また企業との産学連携研究を行なう.宇部興産(株)との共同開発で,印刷有機集積回路に適用可能な,今までにない高安定で高性能なn型有機半導体を実現し,2017年4月に発売を開始するとしている.これにより,デバイスの低消費電力化に望まれる相補型の集積回路の実現が可能となる.

 以上新しく動きつつある産学官連携の研究開発活動の2つの例を紹介した.この他にも大学を中心とした地域研究開発活性化の例は多いが,紙面の都合で割愛する.

 異色な展示として,地方独立行政法人 京都市産業技術研究所が数寄屋造りの展示空間を設け,京都の伝統技術と先端技術を融合する技術・商品開発を紹介していた.同研究所の創設100周年を記念しての出展であり,脇に立てかけられたモニュメントには,「宙(そら)の環(わ)-礎(いしずえ)-」と題して御所車をモチーフとした時計が時を刻んでいた.時計の文字盤は12の研究会が「ものづくり技術や素材」を駆使して制作したパネルが並べられ,各パネルの意匠は京都の四季折々の行事や風物を表すものであった.過去1世紀の活動を礎として次の100年の知恵産業の創出に向かうことを表現しているという.


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京都市産業技術研究所のモニュメント(左)と展示風景(右)


 つくばイノベーションアリーナナノテクノロジー拠点(TIA-nano,2009-2015)は,産総研,NIMS,筑波大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK)が参画して,ナノテクノロジー分野のオープンイノベーションを推進してきたが,2016年に東京大学が加わって,研究領域もこれまでのナノテクノロジーからバイオ,計算科学,IoT等へと拡大し,新生TIAとしてスタートしている.


2.海外からの参加

 展示場のなかで,比較的中央に近い部分に多く存在する外国のパビリオンは,例年目立つ存在であった.nano tech 2017では,そうしたパビリオンにもそれぞれの国の事情による変化が起こっている.図12は出展者数の多い順に左から並べるとともに,ここ4年間の各出展国の出展者数の変遷を示すものである.大きな変化は,先ず,従来1位であったドイツは出展者数が半分近くに減り4位となったことである.ドイツでは国のナノテクプロジェクトの期間が過ぎたので,支援の終了にともない,昨年からドイツ・パビリオンは姿を消していた.ただ,ザクセン州(SAXONY)は以前から独立のパビリオンを出しており,継続している.ドイツに代わって韓国が1位の座を占めた.パビリオンは小さいクラスターの集合体として形成され,パビリオンとして一番広い面積を占めている.2位の台湾は,国が積極的に管理し,出展者の変化があるが,例年ほぼ同じ出展者数を維持している.


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図12 海外からの出展者数の推移を示す.なお,この他にオーストリア,シンガポール,フィリピン,フィンランド,ベルギー,ポーランドが1社づつ出展している.

 次に注目されるのは,カナダの3位への躍進である.2015年,カナダにNational Institute for Nanotechnologyが設立され,カナダ国内全体のナノテクノロジーの研究開発,産業化の促進を図ることとなり,前回からnano techへの出展も纏め役となっている.今回は,出展者数が倍増し,参加人数も倍になったとのことである.

 さらに注目されるパビリオンはオランダである.パビリオンとしての初めての参加はnano tech 2008であるが,ここ数年は出展者が極めて少なかった.今回久しぶりにパビリオンが復活し,出展者数14で6位となった.積層造形技術を基にしたフレキシブル・プリンタブルデバイス開発ソリューションの展開など,最先端技術開拓状況をアッピールした.

 一方,チェコのパビリオンは,昨年出展者が急増したので,広い面積を用意したが,今年は出展者が集まらず半減し,商談空間が広くなっていた.

 中国は17社の半分は材料・素材で,そのうちCNTの量産企業を含めて5社がCNTあるいはグラフェンの関連製品を出展していた.


3.nano tech大賞 2017

 最終日の午後,メインシアターにおいてnano tech大賞 2017の表彰式が行われた.表彰式の冒頭,nano tech実行委員会の川合 知二委員長より,nano tech大賞 2017の選考について次のような説明があった.


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表彰式における川合委員長の挨拶


  nano tech大賞 2017は,出展された全ブースを対象とし,20名の審査委員が会場を回って展示内容および聞き取り取材を行った結果を持ち寄り,委員会で2時間半にわたる激論を行い,大賞および部門賞毎に,最優秀展示を選定した.

 続いてnano tech大賞,10部門賞,および日刊工業新聞社賞の発表と表彰が行われた.以下に各賞の授賞者および公表された授賞理由と展示内容を紹介する.

◆nano tech大賞 日本ゼオン/ゼオンナノテクノロジー

受賞理由:電子部品メーカーのサンアロー(株)と組み,産総研で開発したSWCNT複合材料の本格的な事業活動を開始した.代表的なナノテク素材であるSWCNTの様々な産業分野への応用展開が期待される点を賞す.

展示内容:産総研で開発されたスーパグロース法によるSWCNTの工業化製品とその応用製品を展示した.SWCNTは長さ100~600µm,直径3~5nm,純度99%以上であり,応用製品は,複合樹脂・ゴム,伸縮性導電塗料,透明帯電防止塗料,電磁波吸収・遮蔽材料,シート系熱界面材料,SWCNTキャパシタ等,多彩である.


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日本ゼオンのブース


◆ライフナノテクノロジー賞 ニチレイ

受賞理由:寒冷地に生息する魚類から発見した不凍タンパク質を冷凍食品に利用する研究を続けてきた.このタンパク質を医療,土木など食品以外の様々な産業に役立てようとしている活動を賞す.

展示内容:不凍タンパク質が持つ氷結晶成長抑制,氷結晶の再結晶化抑制,溶質の均一分散化,非凍結低温環境下における細胞保護などの機能を実証する実験を紹介し,食料品における効果,多孔質セラミックの製造への活用,細胞を生きたまま保存することでの医療分野への貢献等が説明された.

◆グリーンナノテクノロジー賞 旭化成

受賞理由:100ナノメートル幅の配線を連射的に基板に転写できるロール・ツー・ロール技術を開発した.フレキシブルデバイスを効率的に生産でき,エネルギーやヘルスケアなど様々な産業への応用展開が期待される点を賞す.

展示内容:超鏡面加工した直径100mm円筒表面に,最小寸法100nm以下のパターンを描画し,ロール・ツー・ロールプロセスに適用することでシームレスな印刷を行う技術を紹介した.現在,ロール幅は250mmまで広げることに成功している.フレキシブルデバイス向けTFT電極印刷,光学フィルム用1µm Gridインプリント,透明導電膜用5µm Grid印刷等の応用例を展示した.

◆独創賞 京都市産業技術研究所

受賞理由:京都の伝統的なモノ作りの技術を研究し,ナノテクノロジーを用いて実現しようとしている点を賞す.

展示内容:1.2.3に記したように,同研究所100周年を記念して,伝統技術と先端技術の融合や,新たな知恵に基づく新技術や新商品開発を紹介している.デジタル捺染システムと着物染色技術を融合し,新規染料トナーによりポリエステル布への絵画の転写;京焼・清水焼の伝統技術に無鉛フリット釉薬技術を適用した食洗機対応「洋皿」;京焼・清水焼の伝統技術とセラミックス製造技術の融合による大型極薄陶板;炭素繊維紋織物の製織技術・加工技術の開発など多彩な技術・商品開発を展開している.

◆新人賞 ツクモ工学

受賞理由:(株)都ローラー工業,(有)フジ・オプトテックと組み,光学的に薄膜表面の粗さ,うねり,段差,角度などの形状を0.1ナノメートルの精度で測定できる装置を開発した.研究や産業など様々な分野への応用の可能性を賞す.

展示内容:この装置の原理は,近接した二つのレーザ・ビームで被測定表面を走査し,反射光の位相差を測定すると,段差のあるところで両ビーム走行距離が変わり,反射波の位相差が変化するので,その位相変化量で段差の寸法を評価するものである.高さ分解能は0.1nm,高さ測定範囲は0.5~300nm,最大移動量はX,Y軸各5mmである.

◆功績賞 ファナック

受賞理由:将来の自動運転車でニーズが高まるヘッド・アップ・ディスプレー用レンズの金型製造に利用できる指令分解能0.1ナノメートルの加工装置を開発した.世界をリードする技術力の高さを賞す.

展示内容:超精密ナノ加工機FANUC ROBONANOを展示した.静圧空気軸受を採用し固体摩擦を無くし高信頼であり,直線軸で1nm,回転軸で100万分の1°の指令分解能で制御可能にした.5軸の標準機械本体を基本に各種の加工法に対応するオプションを用意し,ミリング加工,引き切り加工,旋削加工,機上計測機能による補正加工等多彩な加工に対応する.

◆産学連携賞 東大大越研/DOWAエレクトロニクス/岩谷産業

受賞理由:高性能ハードフェライト磁石「ε型ナノ酸化鉄」の基礎研究から市場展開までを確立した.IoT社会の実現につながる本格的な産学連携の取り組みを賞す.

展示内容:東大大越教授が発見したε型ナノ酸化鉄は,直径3~50nmで存在するナノ粒子磁性体で,強磁性に加えて強誘電性を持ち,超100GHzを含む広範囲のミリ波吸収材を実現する.また,高い保持力を持ち,粒径が8.2nm±2.7nmと揃っているのでテープに高密度・均一に塗布可能であり,将来の大容量磁気テープ材料として期待されている.

◆ビジネスマッチング賞 台湾パビリオン OME Technology

受賞理由:ビジネスマッチングシステムを活用して,様々な出展者,来場者と最も多くの商談アポイントを獲得.精力的にオープンイノベーションに取り組んだ点を賞す.

展示内容:ナノ解像のピエゾ・アクチュエータとこれを用いた位置決め技術を核とした装置を製品化している.例えば,ナノ解像プラットフォームでは,解像度4nmで100×100mmのロングストロークを実現している.また,低ストロークながら13kgを越える負荷に対応できるナノスケール位置決めプラットフォーム用の駆動機構を開発している.応用分野は半導体産業,高精度光学システム,X線/ナノスケール顕微鏡,各種精密システム等,広範である.

◆プロジェクト賞(ライフナノテクノロジー部門)
 AIST:畜産現場のアンモニア臭を効率良く除去する吸着剤

受賞理由:多孔性配位高分子を独自技術で改良し,高効率でアンモニア臭を除去できる吸着剤を開発した.畜産現場の環境改善に大きく貢献する点を賞す.

展示内容:AISTが開発した吸着剤は,アンモニアに対して従来の吸着剤の数倍の飽和吸着量と吸着速度を実現している.使用後の吸着剤は,加熱することで吸着アンモニアを放出し,更に酸洗浄により再生される.なお,吸着剤の多孔性配位高分子は,組成や構造を制御することで,用途に応じた材料構造の最適化,性能の向上が可能とのこと.

◆プロジェクト賞(グリーンナノテクノロジー部門)
 NEDO(実施者名:名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)):熱可塑CFRPによる自動車軽量化への挑戦

受賞理由:高張力鋼板やアルミなどこれまで自動車構造部材に用いられた材料の置き換えを目指す熱可塑炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を開発した.自動車の大幅な軽量化につながる成果を賞す.

展示内容:熱可塑性CFRPを用いた高速大物プレス成形(LFT-D工法)の実証研究の成果を出展した.平成25年度は自動車用フロアパネルおよびサイドフレームを完成させ,平成26年度はフロントアッパパネル等の製作に取り組んだ.次年度にシャシーに組み立て評価するとのこと.

◆特別賞 オランダ・ハイテク・パビリオン

受賞理由:オランダを代表するナノテク関連企業14社が出展した.技術力の高さを示すとともに,積極的に海外と情報交換をすすめる点を賞す.

展示内容:オランダ応用科学研究機構(TNO)および,TNOとベルギーのIMECが設立したHolst Centreは,フレキシブル&プリンタブルデバイスR&Dソリューションを主題として,パートナーとの協創開発でOLED照明/ディスプレイ,心電図測定パッチなどを創出した.


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オランダパビリオン


◆日刊工業新聞社賞 ストローブ

受賞理由:表面増強ラマン散乱技術を活用した微量物質の低コストな検出技術を開発した.対テロ対策や医療分野への応用が期待される点を賞す.

展示内容:ラマン分光の検出感度を上げ,低濃度極微量の試料でも低コストで測定可能にする試薬を開発した.金属ナノ粒子の集合体の照射光によるプラズマ共鳴が表面増強ラマン散乱(SERS)を起こすことを活用するもので,開発した試薬では金のナノ粒子を用いている.パームトップのコンパクトラマンモジュール,可搬型ファイバープローブラマン分光装置等も揃えて,屋外等でも手軽に物質検査が可能となる.


4.おわりに

 nano tech 2017は,「Open new collaboration」「異分野融合による知の創出」というキーワードをテーマとして開催された.nano techも16回を重ね,素材,基礎技術としてのナノテクノロジーの研究開発から,人々の生活や社会にたいして具体的な新しい価値を創出することを目指す過程を展開している様子が窺える.

 国が推進する各種プロジェクトのなかで,また,プロジェクト終了後の成果の発展活動を含め,大学や各地域の研究開発活動の活性化を感じることができた.

 nano techから同時開催の他の展示会へ出展を拡大,あるいは移行させる企業も多くあり,技術融合による新しい技術領域や,新しい製品開発の展開は,新しい時代の扉が開きつつあることを感じさせる.


参考文献

[1] NanotechJapan Bulletin, 企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端<第36回>「竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発(中越パルプ工業(株))」,Vol. 8, No.4 (2015).
[2] NanotechJapan Bulletin, 企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端<第38回>「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発(NEDOプロジェクト)」, Vol. 8, No. 5, (2015).
[3] NanotechJapan Bulletin, 企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端<第49回>「次世代素材のセルロースナノファイバーの製造技術を開発(森林総合研究所)」,Vol. 9, No. 5, (2016).


(向井 久和)