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企画特集 Collaboナノテクノロジー ~産学官連携により広がる可能性と未来への挑戦~
<第11回>
新開発バリ取りツールの効果検証
~産学官金の連携でプラットフォームの活用を推進~

有限会社本間商会 本間 忠樹,中日信用金庫 山田 功
豊田工業大学 佐々木 実
ナノテクノロジープラットフォームセンター 産学官連携推進マネージャー 東海・北陸担当 科学技術振興機構(JST) 松山 豊

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(左から) (有)本間商会 本間 忠樹,豊田工業大学 佐々木 実,
中日信用金庫 審査部 寺倉 昌弘,山田 功 理事長,JST 松山 豊,
中日信用金庫 安井 美千夫 理事,島田 勝史 審査部次長


1.はじめに

 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(以下,NPJ)[1]は機器共用事業である.文部科学省では科学技術活動全般を支える基盤である研究施設・設備は,基礎研究からイノベーション創出に至るまでの研究開発に不可欠なものであるとの立場から,これらの整備や効果的な利用を図ることに取り組んでおり,現在では様々な施設共用の仕組みが存在している.そういった中でもNPJは前身の事業であるナノ支援・ナノネットから数えると既に15年が経過している.また,全国26もの大学・研究機関が参加している全国規模の事業であることも本事業の特筆すべき点であろう.

 全国の5地域(北海道・北東北,南東北・関東,東海・中部,関西・四国,中国・九州)に配置されたJST産学官連携推進マネージャー5名はそれぞれの担当地域において地域ごとの特色を活かしながら利用者,実施機関の地域の組織との連携推進活動に取り組んでいる.東海・中部地域は自動車や工作機械といった「ものづくり」で知られる地域であり,連携推進マネージャーとしてそういったものづくりの企業に関わる機会も多い.

 ものづくりに携わる東海・中部地域の中小企業にとって,ナノテクノロジーは“縁遠いもの”というイメージが少なからずあった.また,イノベーションを推進するためには地域での産学官の連携には不可欠であるが,中小企業を対象とする場合,資金的な意味もあり,金融機関を含めた産学官金の連携が必要と言われている.しかし,経営者,金融機関担当者にとって具体的な連携での役割をイメージすることは難しいのが現状ではないだろうか.

 今回紹介する事例は,有限会社本間商会という開発型商社によるバリ取りツールの事例である.金融機関との連携でNPJの存在を知り,豊田工業大学[2]の支援により開発したバリ取りツールの“強み”を“見える化(観察)”した成果が,事業の拡大につながっている.製品の上市や展開に際し,開発企業,企業と金融機関との連携,その先にあったNPJとの関わり,そしてそれぞれの立場からの支援が結果として有意義な成果を生んだ産学官金の連携の好事例である.


2.新開発バリ取りツール BARUZOとは

 バリ取りツール「BARUZO(バルゾ)」の「バリ」とは材料を切削,切断などの加工をする際に境界に生ずる不要な突起のことである.このようなバリを取り除くことを目的にしたものがバリ取りであり,バリ取りは材料加工のプロセスで必要な工程であると同時に非常に手間の掛かる作業でもある.バリの大きさも様々で見える大きさのバリもあれば,触れても存在がわからないほど小さなバリもある.通常はそのようなバリを1ヶ所毎に手作業によって取り除くという手間をかけることで初めて精密な機械部品等が完成するのである.

 本間商会の開発したバリ取りツール「BARUZO」の仕組みは,持ち手部分に内蔵されているローターを圧縮空気により回転させ,回転を振動に変換することによるブラシの先端部の高速振動によりバリを落とす.このブラシの高速振動を利用することで「大面積・複数個所のバリを一度で落す(高生産性)」ことが可能になった.また,ブラシ部分の材料が特殊な樹脂であるため,「バリ処理をする対象部品に傷をつけない(高品質)」「手にブラシがあたっても怪我をしない(安全性)」という特徴も有している.「BARUZO」は従来ヤスリを使って1か所毎,作業者が慎重に削っていたバリ取りを安全に・楽に・効率良く行えるツールなのである.実際,高い生産性は顧客から高い評価を受けており,従来のやすり方式と比較して,バリ取りに掛かる人員と時間の両方が削減できたとの報告がある.

 「BARUZO」という製品名は開発者の思いがこもっている.「開発したバリ取りツールはものづくりの加工で避けて通ることができない,大変手間のかかる“バリ(BARR)をゼロ(ZERO)に!"という思いを持って名づけました.」(本間社長)


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図1 新開発バリ取りツール「BARUZO」(本間商会製品パンフレットからJST作成)


3.自社開発と特許出願

 開発者の思いがこもった「BARUZO」開発のきっかけは地域の異業種交流会にあった.交流会で株式会社ワイテックと本間社長が出会ったことで,ものづくりの現場での「困りもの」であるバリ取りを解決するために2社による協力が始まった.

 「BARUZO」の開発における最も困難な箇所はブラシ部分であった.ブラシに求められる機能は高速振動をしながら対象部品(ワーク)に直接接触し,バリを落とすことである.バリを落とすために最適な材質,形状について,コストの制約条件の中で,試行錯誤を繰り返すことで課題解決に至った.開発の段階では中小企業庁の経営革新事業も活用することで国内特許の出願と取得,海外向けのPCT*も出願し,「BARUZO」は特許が成立している.

*PCT出願:特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願とは,ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって,PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度.(特許庁WEBより)


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図2 「BARUZO」の機能や特長について説明する本間社長(左)(撮影:JST)

有限会社 本間商会
所在地:〒461-0043 愛知県名古屋市東区大幸4丁目12-12
電話:052-722-2727
主事業:機械工具,研磨材の商社
従業員:2人


 小規模な事業者では取り組み難いPTC出願ではあるものの,本間商会はものづくりが東南アジアや中国にまで展開している実情を鑑み,当初から海外展開,その際の模倣抑止を視野に入れていた.本出願は海外展開するためには必須であった.


4.経営者に密着した地域金融機関「信用金庫」こその支援

 事業展開に際しては運転資金,設備投資資金などの資金面のサポートとなる金融機関との関わりも大変重要であった.本間商会が中小企業庁の経営革新事業に採択され,特許を出願したタイミングで,取引金融機関の一つである中日信用金庫[3]との関わりがより積極的なものへと変わっていった.

 本間商会では開発に成功後の展示会などでのバリ取りツール「BARUZO」でデモ等のPRを行った.すると大手自動車関連メーカーをはじめとした数社から「興味がある」,「自社の工場で試してみたい」等の声が聞こえるようになった.一方でバリが見えないレベルで正確に取れているか,バリ以外の本体に傷はないのか等,やすりによるバリ取りと比較した製品レベルでの評価に対する疑問も聞こえてきた.本間商会はその疑問に答えたいという気持ちはあったが,「バリが取れているか」「傷がついていないか」といった問いに対し,微視レベルで確認ができる設備(顕微鏡等の機器)も知見も有していないため,対応するための方法が見当たらない状況であった.「どうすればいいのかもわかっていなかった」(本間氏談)この状況を中日信用金庫の担当者に相談することでNPJという機器共用事業を知ることになった.

 信用金庫は全国に265(16年9月末時点)存在し,店舗数は7,378に上る.本間商会の取引銀行である中日信用金庫もそのような信用金庫の一つであり名古屋地区を中心に21支店を有する.中日信用金庫の取引先企業は8割が従業員数20人未満という小規模事業者であり,今回紹介している本間商会もそのような企業の1社である.

 金融機関にとって企業向けの貸出業務は主な業務の一つである.融資(貸出業務)に際しては,相手企業の財務内容を詳しく知る必要がある上,融資を通じた取引が長くなるにつれ,経営者や財務担当者との関係も密になる.特に小規模事業者の場合は金融機関との窓口は経営者が当たることが多いため,取引を通じて財務だけでなく経営者の思い,彼らが抱える課題に対しての解決方法を模索する場面に遭遇することも少なくない.しかし,経営者の抱える課題が技術的な問題である場合には金融機関としては判断が難しい場合が多い.「経営者様の抱える課題に対してなんとかして解決できないかと,担当者はいろいろ努力しますが,特に技術的な課題を抱えられたお取引企業の場合,なかなか的確な対応ができずに困っていました.」(中日信用金庫 山田理事長)

 「技術的な課題」を抱える企業への対応に頭を悩ませていた中日信用金庫へ名古屋産業振興公社からNPJの話が伝わり,JSTの産学官連携推進マネージャーである松山へと繋がっていくことで同信用金庫とJSTとの連携が始まった.


5.本間商会・中日信用金庫・NPJの連携

 名古屋産業振興公社との関係では,かねがねJSTマネージャー 松山はNPJの役割について説明を行っていた.そして中日信用金庫を紹介されたことにより,同信用金庫の部店長会議でNPJを紹介する機会を得ることとなった.NPJの事業内容を紹介する際にはどのような企業が支援対象に向いているのかを丁寧に説明することで,中日信用金庫の取引先企業のなかでもNPJの支援対象に適した「技術的な課題を持つ取引先企業」を具体的にイメージしてもらい,全店をあげて対象企業を掘り起こす取り組みに繋ぐことができた.

 NPJでは,最先端の機器と大学の知恵を活用することにより,材料の解析(観察),加工,材料の合成という支援ができる.何らかの“もの”や“材料”で悩む企業を発掘するため,簡単なチェックシートを中日信用金庫へ提供した.その結果,信金の各支店から本部の審査部を経由し,課題や事業内容,経営者の想いなどを斟酌した上で,いくつかの支援対象候補の企業が上がってきた.

 金融機関から上がってきたNPJの支援候補企業は,経営部分の信用が金融機関によって担保されているともいえる.これらの候補から,協力機関である名古屋産業振興公社とJSTマネージャーとで対象企業の絞り込みを行った上で,実際に企業へ同信金の支店長と一緒に訪問した.経営者から直接困りごとや商品,技術に対する想いを聞き,その場でNPJの具体的な活用イメージについて提案をすることができた.そして,支援対象候補の企業の一つである本間商会と繋がっていった.

 本間商会への訪問後すぐに連絡を入れたのがNPJの実施機関の一つである豊田工業大学である.同大学には微細な表面観察が可能な走査型電子顕微鏡,表面の粗さが計測可能なZygo社の立体プロファイラーが登録されていることが実施先としての決め手ではあったが,何といっても,ものづくりで世界に冠たるトヨタ自動車によって設立された豊田工業大学によるものづくり企業の支援が良いのではないかと考えたことも選択の理由の背景にある.

 利用相談の相手は,豊田工業大学の佐々木教授であった.佐々木氏からは,本来の用途が半導体デバイスの研究向けである上記装置を,ものづくり分野であるバリ取りツールの良さ・強みの「見える化」の課題解決に試行的に利用することに賛同が得られた.

 また,実施に際してはNPJの事業である試行的利用事業[4]を活用した.試行的利用は初めてNPJを利用する研究者等を主な対象として,ナノテクノロジー設備利用にあたって必要となる利用料・旅費等を支援する事業である.試行的利用では申込から実施機関での実施に至るまで産学官連携推進マネージャーが利用者のサポートを行っている.

 図3(右)は豊田工業大学での利用成果を発表する本間社長である.豊田工業大学での利用成果を報告し,多くの参加者から好意的な反響があった.


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図3 (左)中日信用金庫本店
(右)中日信用金庫 部店長会議(豊田工業大学での利用成果を発表する本間社長)
(撮影:中日信用金庫)


 以下は今回の執筆に際し関係各位に取材を行なった時の記事である.インタビュー形式とすることでNPJに関わった人々の声をそのまま届けるとともに,豊田工業大学での支援の成果を述べる.

6.豊田工業大学 加工PFの支援でバリ取りツールの特長を「見える化」

 ~訪問を受けた本間商会様は,どのように感じられましたか?

(本間商会 本間)
 最初は,ナノテク?・・・と聞いて,支援のイメージが全く分かりませんでしたが,熱心な信用金庫の支店長の勧めもあり,一緒に来たJSTの松山さんへ,事務所でバリ取りツール「BARUZO」のデモをしました.すると,「大変面白い」と関心をもっていただき,ナノテクノロジープラットフォームで電子顕微鏡等を利用したバリ取り前後の表面の微細構造の観察をしてはどうか?と提案いただきました(図4参照).
 そこでNPJの利用に向けて,バリ取り前後の比較をするために試料として,アルミ7075合金のブロックにエンドミル(ドリル状で回転軸に対して横方向も切削できる工具)で溝加工をし,溝の周りにバリが出ているサンプルのワーク(加工対象)を作りました(図5参照).


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図4 本間商会の利用を支援した産学官金の連携のスキーム(JSTフェア パネルより)


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図5 バリ取りの前後観察のためアルミ合金に溝を加工し,バリを作ったサンプル
赤い矢印のところにバリがみられる (撮影:本間商会)


(豊田工業大学 佐々木)
 利用の前に,きちんとしたバリ取り前後の比較観察をするために,どのような観察サンプルを作れば,的確な観察ができるのかについて検討しました.
 例えば,ものづくりの現場で出たバリのある材料を持ち込まれても,いろいろな条件が影響しているので,観察した後の分析の段階になって何が影響しているのかわからなくなります.どのような条件の加工でできたバリか,あるいは,バリの除去を明確に観察することを目的に作製したサンプルが必要なのです.こうした議論や検討を踏まえて,本間商会さんにサンプルを準備いただきました.
 相談があった時から,電子顕微鏡,立体プロファイラーの利用について考えていましたが,さらにバリをさまざまな見方でとらえるために,1µmずつ高さを変え,2次元面を撮影し,そのデータを3次元に再構成するデジタルマイクロスコープも利用してバリ取り前後の観察をすることにしました.
 観察は,私の研究室に利用者の本間さん,JSTマネージャーも入って,目の前で機器操作し,デジタルマイクロスコープなどは,操作の仕方を学んでいただきました.走査型電子顕微鏡は,他の研究室にあるので,事前に調整し,技術サポートスタッフの方に手伝っていただきました(図6,図8).

(豊田工業大学 佐々木)
 電子顕微鏡は,電界放出形走査電子顕微鏡(JSM-7000FOA)を利用し,広い範囲のバリの状態がわかるように100倍程度の比較的低倍率で観察しました(図7(a)).エンドミルでの十字溝の加工によって膜状にめくれたバリが観察できます.「BARUZO」でバリ取り後の写真が図7(b)で,膜状のバリがきれいに除去されているのが観察できました.
 観察にあたっては,図5のようなサンプルでは,電子顕微鏡の試料を載せるステージに入らないので,バリがあるところを中心に,16mm×14mmにサンプルを切り出してもらって観察しました.


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図6 (左)豊田工業大学 佐々木氏(中央)と打合せ,
(右)走査型電子顕微鏡での指導・観察

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図7 走査型電子顕微鏡によるバリ取り前後の表面観察
(a)の膜状にめくれたバリが,バリ取り後(b)ではきれいに除去されている


(本間商会 本間)
 技術サポートスタッフの方は,電子顕微鏡の観察の仕方や結果の解釈についても教えていただきました.佐々木先生,技術サポートスタッフの方と一緒に操作をし,事前観察したあと,研究室の一角でバリ取り処理をし,観察したい部分を見極めながら成果を得ることができました.

(豊田工業大学 佐々木)
 こうした観察をするにしても,バリのある個所全体を俯瞰し,特徴的な注目すべき部分を詳しく観察することが必要です.また,処理の前後で観察する場所がずれないように目印をつける等の実務的な工夫も必要です.
 図9は,デジタルマイクロスコープで,バリ取り前(左),後(右)を比較したものです.2000µm×3000µmという広い範囲に対して,高さ方向を1µm単位でずらしながら,バリの立体的な構造を把握・観察することができます(写真中 赤枠).これも右の写真ではきれいに除去されています.


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図8 デジタルマイクロスコープを操作する本間社長


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図9 バリ取り後,赤線枠のバリが除去されている状態を観察


(JST 松山)
 バリがなくなったことが,一目瞭然でわかる立体的な写真ですね.

(豊田工業大学 佐々木)
 そして表面粗さをビジュアルに観察できるZygo社の白色干渉計も利用して,バリ取りによって表面の粗さがどのように変化するかについても観察しました.
 表面粗さをしめす値にRaという数値があります.これは,表面の高低を平均するような計算をして算出しますが,バリ取り前 Ra=0.055µm(55nm),バリ取り後 Ra=0.053µm(53nm)で,表面粗さに変化はないと言える数値です(図10).

(本間商会 本間)
 写真にもあるように,評価用のサンプルは,鏡面レベルの表面仕上げしており,見た目でも,さらに粗さ計測でも変化はないこと,つまりバリ取りによってキズや表面粗さが変化しないことを示すことができました.


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図10 立体プロファイラー(Zygo社)でバリ取り前後の表面粗さを比較,
表面粗さに変化がないことを確認(Ra:0.055µm → 0.053µm)


7.利用の成果を産学官金で共有

(JST 松山)
 後日,その観察結果データをもとに,共同開発者の(株)ワイテックや中日信用金庫の関係者も入っていただき,結果の報告会を開き,バリ取りツール「BARUZO」で「きれいにバリがとれていること」,「樹脂ブラシによる傷,表面粗さへの悪影響がないこと」を微細なレベルで確認することができました.
 産学官金の連携で,きちんと顔合わせして,成果や方向性を関係者に理解できるように分かりやすく説明し,認識を共有していくことは,大事なことですね.

(本間商会 本間)
 当社は,豊田工業大学という第3者によって,バリ取りツール「BARUZO」の特長や強みを「見える化」することができました.ナノテクノロジープラットフォームを利用してみて,最先端の機器や大学の先生方がお持ちの知見を使って,中小企業が直面している課題に正面から向き合っていただいたことで,取引金融機関にも当社の製品性能や技術力,革新性を理解してもらうことが出来ました.また,JSTマネージャーが,相談から完了まで円滑・スピーディに進めてくれたことに驚いています.


8.利用による事業展開への成果

~成果は,事業などに役立っていますか?

(本間商会 本間)
 まず,JST 松山さんの指導で,成果報告をYouTubeの動画[5]にし,関心を持つ方が広く,成果に接することができるようにしました.
 そして,東京ビッグサイトでのJSTフェア[6]でのパネル展示・バリ取りのデモ,TechBizエキスポでのナノテクプラットフォームブースでの展示・デモ,メカトロテックジャパン等の展示会等に出展し,自動車関連の大手企業やなかなか地域では,出会えないようなお客様と知り合える機会をいただきました.
 あるお客さんなどは,「(中小企業である本間商会が)どうして,豊田工業大学の支援を得られたの?」とびっくりされ,ナノテクノロジープラットフォームの支援事業を説明すると納得されていました.
 また,JST 松山さんが,成果を新聞等のマスコミにつないでくれたことも事業の展開で大きな効果をもたらしています.


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図11 JSTフェア2015で成果展示とBARUZOのデモ・説明をする本間社長


9.マスメディアを通じて利用成果を広く社会にPR

(JST 松山)
 ナノテクノロジープラットフォームも3年目くらいから,ものづくり関連の地域の中小企業さんでの興味深い利用成果が生まれてきていました.マネージャーも広い担当地域に一人しかいないのでマスメディアとの連携によって,広く事業のPRを図るべく,昨年度くらいから成果をまとめて新聞社やテレビ局に持ち込むという活動を進めています.なかでも,本間商会さんと豊田工業大学の成果は,ものづくりに関連する企業の事例として,東海地域の大手メーカーもスポンサーとなっている「中部経済新聞社」が一面で取り上げてくれました(掲載日:平成28年9月26日).

(本間商会 本間)
 この新聞掲載で,ものづくり関連大手企業をはじめとして大きな反響がありました.豊田通商(株)からもお話があり,トヨタグループでの販路開拓の連携が進んでいます.また大手セラミックス関連の商社からも声がかかり,東西のユーザー開拓で連携できる体制が整いつつあります.さらに,ものづくりの拠点の海外展開が進んでいることから東南アジア,欧米での展開も進めようとしています.


10.産学官金の連携,金融機関の果たす役割と地域への貢献

~ナノテクノロジープラットフォームの利用とフォローの支援などで事業の進展に大きな成果を得たということですね.さて,地域の活性化や地方創生という視点から,地域の金融機関の期待はいかがだったのでしょうか?

(中日信用金庫 山田理事長)
 そもそも,今回の本間商会様の支援事例のように事業会社と大学の研究者の間には連携するパイプが少ないのが現状です.本来ならばその間をつなぐ役割を,信用金庫自らが展開することができればいいのですが,実際は難しい.技術的な相談をいただいても理解や相談に持っていく先が分からないのです.

(JST 松山)
 一方で,JSTマネージャーは,技術関連の課題を理解し,解決に向けて大学と共同提案などもできますが,その反面,非常にたくさんある金融機関の取引先の企業の財務状況や経営者の人柄などの把握はできません.また,利用後の成果を活用したビジネス展開支援や事業展開などに伴う資金等の支援は,金融機関に手助けしてもらうことになります.

(中日信用金庫 山田理事長)
 例えば,ビジネスでの展開支援では,金融機関は,ビジネスマッチングという仕組みがあります.平素より,名古屋地区を中心としてビジネスパートナーをご紹介しておりますが,信用金庫が企業のマッチングの間に入ることは,取引などへの安心感や信用に繋がります.

(中日信用金庫 安井理事)
 取引先の企業経営者様が,自社の技術に対していかに自信があっても,金融機関としては,その技術力を正確に理解し評価することについては苦手な分野といえます.この度のナノテクノロジープラットフォームの活用により,金融機関として苦手な分野といえる技術力の評価の部分を理解し補うことが出来ます.このような取り組みにより,地域の企業や産業の成長をさらに推し進めることが出来ると実感しています.

(JST 松山)
 本間商会さんの例でも,バリ取り後の表面や処理の良さを,大学の支援で,きちんと微細に「見える化」ができました.そしてその成果を,WEBやYouTube,メール等のITを活用して発信し,地域や全国レベルの展示会,また新聞などのマスメディアで,いかにその強みや良さを外部に知らしめるかが,大事な支援となります.

(中日信用金庫 山田理事長)
 ITの活用は本当に大切になってきていますね.昔は,勘と経験というノウハウでものづくりしていたところが,その工夫を科学的に「見える化」し,デジタルデータにして活用し,さらにITで広く発信することができるようになってきました.小規模な事業者であっても,その良さや強みを発信することで,魅力的な取り組みをする企業として,若い力となる人材もあつまってくるのではないのでしょうか.

(中日信用金庫 審査部 島田次長)
 私が,営業店の担当者として多くの企業と関わっていた当時,ナノテクノロジープラットフォームのような連携の仕組みを知らなかったために,先に進まなかった案件もありました.現場では,こうした産学官金の連携の仕組みを知らないがために課題解決や発展の機会を失っていることもあると思います.営業店の担当にも周知し,地域企業に対する活用推進での連携も続けていきたいと思います.ただ,このナノテクノロジープラットフォームがこのように地域企業のためになるということが,広まると他の信金との競合もでてくる不安はありますが・・・(笑).

(中日信用金庫 審査部 寺倉氏)
 私も営業店での顧客対応を踏まえての意見ですが,技術面の情報が不足することで,経営者様の意見や想いの伝わり方が不十分となる場合があります.ナノテクプラットフォームによる情報の「見える化」はこれを解決してくれます.また,JSTマネージャーと企業に同行し,経営者様とのやり取りを聞いていて,はじめて技術的な課題の内容や意味,その解決方法を理解することができました.また,自社技術について生き生きと話しをする顧客の表情に触れることもできました.

(中日信用金庫 山田理事長)
 信用金庫は,全国各地域に265の組織があります.各信用金庫はそれぞれの地域で協同組織金融機関としての役割を担っていますが,全国的な発言力が大きいわけではありません.また,地域の中小企業である本間商会様と豊田工業大学佐々木教授,JST 松山マネージャー,中日信用金庫が,企業課題の克服に向けて具体的につながることは,通常では実現できないことでした.しかし,今回のような産学官金の連携の仕組みによって,多方面からの全国的な情報発信が可能となるのです.このことは,先日,訪問いただいた金融庁の方からも高い評価(産学官金の取組みについて)をいただきました.
 引き続き,産学官金の連携を進めて,技術や強みを持つ取引先の成長を支援し,地域社会に貢献していきたいと考えています.


11.おわりに

 文部科学省ナノテクノロジープラットフォームの枠組みの中で,産学官連携推進マネージャーは産業界(民間企業),学校(教育・研究機関),官公庁(国・地方公共団体)の三者を繋ぐ役割を担っている.本稿で紹介した本間商会の事例は産学官に加えて金(金融)の連携による産学官金連携の好事例であると考える.四者が連携すればそれぞれが有する技術・能力を活かすことはもちろんであるが,さらにプラスアルファの成果を上げることが可能になる,そんな事例ではないであろうか.今回,強みのある商品を持つ本間商会(産),先端の装置と優れた知見を有する豊田工業大学(学),NPJの仕組みを持ち事業を展開する文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム(官),地域の金融機関として,地域中小企業支援に積極的に取り組む中日信用金庫(金)の四者が連携することで,一者では解決できなかった問題の解決を可能にした.

 今後もJST産学官連携推進マネージャーが窓口となり多くの企業,研究機関,金融機関を繋げることでものづくりに関わる多くの人,ひいては研究・開発に関わる人々への一層の支援を目指したい.


参考文献

[1] 文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業 http://nanonet.mext.go.jp/
[2] 豊田工業大学 ナノテクノロジープラットフォーム http://www.toyota-ti.ac.jp/kenkyu/nanoplatform/index.html
[3] 中日信用金庫 http://www.shinkin.co.jp/chunichi/
[4] ナノテクノロジープラットフォーム 試行的利用事業(注:年度によりHPのURLが変わります) http://nanonet.mext.go.jp/shikou/h28/
[5] YouTube動画「有限会社 本間商会(利用者代表)当社開発のバリ取りツール使用前後における金属表面の微細構造観察 豊田工業大」 https://youtu.be/x-6QLRN67p4
[6] JSTフェア http://www.jst.go.jp/tt/jstfair/


(松山 豊)


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