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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第5回>
「CMOS+MEMS」一体化微細加工プロセスによる超小型変位センサの作製と医工学応用
九州大学大学院 システム生命科学府 澤田 廉士,野上 大史,林田 優馬
北九州産業学術推進機構 産学連携統括センター 五十嵐 政俊,上野 孝裕,安藤 秀幸

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(後列左から) 北九州産業学術推進機構 五十嵐 政俊,上野 孝裕,安藤 秀幸
(前列左から) 九州大学 澤田 廉士,野上 大史,林田 優馬


 九州地区での「ナノテクノロジープラットフォーム事業」は,北九州産業学術推進機構(FAIS: Kitakyushu Foundation for the Advancement of Industry, Science and Technology)が「微細加工プラットフォーム」の拠点,九州大学が「微細構造解析プラットフォーム」と「分子・物質合成プラットフォーム」の拠点になっている.FAISの共同研究開発センターには「CMOS+MEMS」一体化微細加工プロセス(1µmCMOS一貫プロセス)の共用設備があり,様々なCMOS回路とMEMS微細加工の試作支援を行っている.

 今回,FAISの微細加工プラットフォームを使用した研究成果例として「超小型変位センサとその医工学応用」を取り上げる.本研究を推進している九州大学大学院システム生命科学府 澤田 廉士(さわだ れんし)教授を同氏が率いるナノ・マイクロ医工学研究室に訪問し,成果内容とFAISの果たした役割を伺った.同研究室からは野上 大史(のがみ ひろふみ)助教,林田 優馬(はやしだ ゆうま)修士2年生,FAISからは,産学連携統括センター 半導体・エレクトロニクス技術センターの五十嵐 政俊(いがらし まさとし)産学連携担当部長,同センター 開発支援部の上野 孝裕(うえの たかひろ)開発支援課長,安藤 秀幸(あんどう ひでゆき)ナノテクプラットフォーム事業担当研究員が同席した.


1.北九州産業学術推進機構の微細加工プラットフォームが果たした役割

1.1 北九州産業学術推進機構の設立趣旨と概要

 微細加工プラットフォームが設置されている公益財団法人北九州産業学術推進機構(FAIS)は,「アジアに開かれた学術研究拠点」と「新たな産業の創出・技術の高度化」を目指し,理工系の国・公・私立大学や研究機関が同一のキャンパスに集積するという独自の試みとして,平成13年(2001年)4月に開設された北九州学術研究都市(学研都市)と同時に発足した[1].図1は,北九州市若松区にある学研都市キャンパス全体の航空写真である.学研都市には,北九州市立大学・大学院,九州工業大学大学院,早稲田大学大学院,福岡大学大学院の1学部4大学院(学生総数は約2,300人,その内留学生は約540人),その他16の研究機関や47社の企業等が集積している.最寄駅はJR鹿児島本線折尾駅で,澤田氏がいる九州大学の伊都キャンパス(福岡市西区)からは車で2時間ほどの距離にある.


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図1 北九州学術研究都市


 FAISは,この学研都市の一体的運営や,大学等の研究シーズと企業のニーズをつなぐコーディネート活動をはじめ,産学連携による研究開発への助成,研究成果の事業化支援などに取り組んでおり,文部科学省や経済産業省が主導する事業をはじめ,数多くの研究開発プロジェクトや人材育成プロジェクトを実施している.これらの活動を通じて,地域における産業技術の高度化や新たな産業の創出を支援している.また,FAISの運営に係る経費は約21億円(平成28年度当初予算ベース)であり,北九州市や国などからの補助金・委託料,及び事業収益などにより賄っている[2].

 この産学連携活動の一環として,平成13年に共同研究開発センターにクリーンルームを設け(建設の費用は北九州市が負担),IC(集積回路)及びMEMS(微細電気機械システム)の微細加工設備を設置し研究開発支援を開始した.その後,CMOS標準プロセスの開発やMEMS加工技術を強化し,現在,「CMOS+MEMS」一体化微細加工プロセスの提供を行っている.

1.2 FAIS共同研究開発センターの機能と特徴

 FAISは文部科学省委託「ナノテクノロジープラットフォーム」事業に平成24年の発足から参画しているが,その前身のナノテクノロジー・ネットワーク(平成19年発足)から引き続いての参画である.FAISの共用施設は,キャンパスのほぼ中央にある共同研究開発センター(産学連携センター2号館)の中に設置されている(図1).共同研究開発センターは,半導体微細加工技術の研究開発を支援する施設である.エレクトロニクス産業,特に半導体プロセス及び微細加工に関する基盤的技術を持つ企業や大学などが連携して共同研究開発などを行う施設として運用されている.ICやMEMSの試作を行う製造装置を開放し,微細加工技術を応用した新しいビジネス創造を目指す企業などに対して,研究支援を行う.設備の利用に関しては,専任技術スタッフが技術支援はもとより,利用前の相談も行っており,学術的な基礎研究から産業界における研究開発まで,幅広いニーズに対応している.

 施設の特徴は,一貫したCMOSプロセス(1µmプロセス)を通せることと,MEMS微細加工にも対応していることである[3].図2に,FAIS共同研究開発センターが有するCMOS+MEMS設計・製作・評価の一貫した研究開発環境を示す.本施設では単にCMOS構造が作れるだけではなく,オペアンプや制御回路,デジタル回路などを,CMOSプロセスで作製できるので,MEMSに簡単なアンプや制御回路を付加することが可能となる.したがって,開発した様々な素子は,半導体産業の既存インフラに容易に展開できる.CMOSの一貫した標準プロセスを保有している機関は国内でも稀であるという.


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図2 FAIS共同研究開発センターのCMOS+MEMS一貫研究開発環境


 「この一貫プロセスを備えていることが,九州大学がFAISを利用しようとした理由です.」と澤田氏は語った.たまたま,澤田氏がFAISから講演を依頼されたことがきっかけになり,小型センサにCMOS+MEMS技術を適用し始めた.澤田研究室がFAISを利用するようになってから,10年近く経過した.ナノネットの頃にFAISを利用して得られた初期の成果は,NanotechJapan Bulletinの特集「フォーカス26」で報告されている[4].

 共同研究開発センターでは1Fにプロセス設備を置き,2Fに研究室を置いている.表1は,1Fにあるケミカルプロセス室(クリーンルーム),イエロールーム(クリーンルーム),組立・測定室,マイクロプロセス室,レイアウト設計室の各室に設置された共用機器・設備とその特徴をまとめている.


表1 FAIS共同研究開発センターの共用機器・設備と特徴
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 共用設備の利用にあたっては,利用者が自ら装置を操作することを基本として,専任技術スタッフが装置のオペレーションや工程実習等,適宜,必要な教育を実施している.利用者はスタッフ立ち合いのもと,装置の操作方法などの指導を受けながら利用できるので,設備利用に不慣れな研究者にとっても利用し易い環境を提供している.九州大学の小型変位センサの試作でも,九州大学の研究者が装置を操作し,FAISの安藤氏らがマンツーマンで研究者にはり付いて作製した.FAISの使用料は部屋代だけで,技術料は取らない.普通に使っている材料は,無償提供している.ユーザーは,独自の特殊な材料だけを用意する.CMOSのプロセスを通すのに10日くらいかかり,一般の企業が利用する場合は40~50万円の負担となる.これに対して大学の場合は,その教育的な側面を考えて半額にしているとのことである.


2.周辺機能集積化 超小型変位センサの作製

 九州大学の澤田教授が率いるナノ・マイクロ医工学研究室では,光ナノ計測,MEMS分光・変位センサなどの研究を推進しているが,個別光学部品の組み立て調整で構成するのではなく,フォトリソグラフィ技術(マイクロ・マシーニング技術)を用いて超小型センサの作製・研究開発を行っている.変位センサ,血流センサなど,どれも従来製品と比べて1/10~1/100の小型化を実現し,それらの医工学分野への応用展開を目指している[5].試作を担当された林田氏に,超小型変位センサの研究開発状況を伺った.

 図3は,代表例として変位センサを超小型化した成果を示したものである.左上の従来製品の変位センサは,三角測量の原理で変位を検出するもので,長辺は70mmもある.これに対して本研究室では,3mm角×0.7mm厚の超小型変位センサを実現している.この小型変位センサは,図3右上のように構成されている.面発光レーザ(VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting Laser)から放射された光ビームは,外部ミラーで反射される.反射光ビームはビーム径が広がって,VCSEL周辺の4つの光検出器(PD: Photo Diode)でモニタされる.4つのPDは,図3右下のようにVCSELを中心とした円周上を4分割した位置に配置される.外部ミラーまでの距離や傾きによって,PDの受光量や4つのPDの受光バランスが変化するので,外部ミラーの変位や回転角度が測定できる.(検出原理の詳細は,参考文献[4]を参照)


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図3 超小型変位センサの構成(右上)とセンサ面上の配置図(右下) [5]


 変位センサの開発着手時は,VCSEL,PDともにSi基板上に個別チップを貼り付けてから,チップと電極間をワイヤボンディングして接続して作製していた.数年前にFAISでのCMOS一貫作製プロセスを利用することで,まずはPD4つをSi基板上にモノリシックに集積した[4].PDはSiのpn接合を用いており,pin型にはしていない.VCSELはSiではなく,GaAs化合物でできた波長850nmの半導体レーザであるので,CMOSプロセスでは作れない.したがって,VCSELチップは手作業で取り付けている.変位センサとして使うにあたり較正曲線をとるので,VCSELの取り付け位置精度は厳密さを要求しない.この段階では,PD検出信号増幅用のオペアンプ及び外界の熱等による特性補正回路等は,Si基板の外部に設けていた.

 現在では図4に示したように,信号増幅用のオペアンプ4つと温度センサ1つも含めて,3mm角のSiチップ上にモノリシック集積した超小型変位センサが実現できている.温度センサは,MOSトランジスタの温度特性を利用したものである.温度センサの出力を用いて, 光センサチップの温度依存性を補正している[6].FAISの装置で試作することにより,PDに加えて,CMOSオペアンプや温度センサも集積できた.各チップをハイブリッドで組立てていた時は25×25mmあったセンサを,3×3mmにまで小型化できたことは,FAISのCMOS一貫プロセス設備と専門技術支援スタッフによる丁寧な指導の賜物であると感謝されている.


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図4 CMOSオペアンプと温度センサをSiチップ上に集積した超小型変位センサ


 モノリシック集積の効果は,小型化だけではない.図5は,ミラーの変位量に対する4つのPDによる光量検出の総和電圧で,青色カーブがオペアンプ外付け,緑色カーブはCMOSオペアンプ集積化センサの測定データである.変位量の0.5~2mmまでの測定範囲で,赤色の線で囲んだ直線部の傾きが8倍以上になり,変位の検出感度として10倍近く向上した.また,S/Nも1.5倍に改善され,分解能が向上した.これは,オペアンプ外付けの場合には外部雰囲気の電磁ノイズがのり易かったのが,CMOSオペアンプ集積化によって電磁ノイズが減少したことによると考えられる.

 3mm角の超小型変位センサは,1枚のSiウェーハから数100個オーダで作製できるので,特性のバラツキが少なく,かつ安価に製造できることも,製品化する場合には大きなメリットである.


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図5 変位検出感度のCMOSオペアンプ集積の効果


3. 超小型変位センサの医工学分野への応用展開

 九州大学のナノ・マイクロ医工学研究室では,超小型変位センサの応用先として医工学分野を中心に様々な可能性を検討している.

3.1 剪断力センサとしての利用

 ロボット腕の指先で卵を掴むときに,掴む力が強すぎると卵は割れてしまうし,逆に弱すぎると卵を落としてしまう.力のかけ具合をセンシングできれば,最適な力に制御することで,ロボットで卵を扱えるようになる.力量センサとしては,測定面に垂直な力を測定する圧力センサと,測定面に平行な力を測定する剪断力センサが必要になる.特に剪断力センサは,滑りという現象に密接にかかわってくるので,ロボット腕の指先に搭載できる小型剪断力センサが求められている.また,医療や介護の現場では,床ずれが起こらないように,身体とベッドとの接触部にかかる剪断力をセンサ検知できれば,床ずれを未然に防ぐことにもつながる.

 図6は,変位センサに弾性フレームを被せた3軸力量センサである.弾性体はシリコーンゴム製の6mm角×4mm厚のブロックで,下部に反射ミラーを取り付けてある.弾性ゴムブロックをプラスチック枠に載せた弾性フレームを,前節で紹介した超小型変位センサに被せると,図6の左下に描いたように,垂直荷重(z軸方向)に対してはミラーが上下に変位するので,圧力センサとして機能する.また,水平方向(xy平面内)の剪断力に対しては,ミラーが傾いて回転するので,2軸の剪断力センサになる[7].


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図6 変位センサに弾性フレームを被せた3軸力量センサ(z軸:圧力+xy軸:剪断力)


 本方式では,圧力センサと2軸剪断力センサとが,1つの3軸力量センサにまとまっているだけでなく,受力部の弾性フレームと検出部の変位センサが分離されており,受力部は容易に取り換え可能である.剪断力センサとしては,既に圧電抵抗方式,歪抵抗方式などが実用化されているが,力による変形を測定するので,受力部と検出部は分離できない.本方式では,把持対象物に応じて最適な弾性フレームに交換できるので,センサの測定範囲や分解能を容易にチューニングできる点が特徴である.


3.2 血流センサとの組合せ

 血流センサは澤田氏が九大奉職の前にNTTに所属していた時から取り組んでいるテーマで,継続してその小型化,医工学への応用へと発展させている.血流センサの小型化と応用研究を担当している野上氏が,最新状況を次のように語った.

 図7は,MEMS血流センサの構成と検出原理を示している[5].図7中央の模式図にあるように,Siのチップに半導体プロセスで2つの窪みを作成し,夫々の窪みに半導体レーザ(LD: Laser Diode)チップとPDチップを実装する.MEMS技術と言えばSiの微細加工プロセスで構造物を作製することを意味しており,SiマイクロモータやDMD(Digital Mirror Device)のような可動微小構造体がとり上げられることが多いが,本例のような静的微細Si構造物もMEMSで作製できる.LDからのレーザ出射光はSi製のマイクロレンズで平行ビームにして垂直上方に出し,指先など血流を測定したい部位に照射する.照射レーザ光は生体内で散乱され,散乱光の一部は血流センサ内のPDに戻ってくる.図7右側に描いたようにPDが検出する散乱光には,血管内の血流によりドップラーシフトしたものと,血管以外の静止した生体組織からの後方散乱光とが混在している.したがって,ドップラーシフト散乱光と周波数シフトしてない後方散乱光がPD上で干渉し,PDからは血流量を反映した光干渉出力が検出される.図7左側の写真にあるように,MEMS血流センサはタブレットに接続され,タブレット内でPD出力信号はコンピュータ処理(DSP: Digital Signal Processor)により高速フーリエ変換,パワースペクトル算出され,血流量がタブレットのディスプレイに表示される[5].


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図7 MEMS血流センサの構成と検出原理 [5]


 こうしたレーザドップラー血流計は従来,光ファイバを使用してファイバ先端を被測定部にあてるファイバ式血流計が製品化されているが,LD/PDを含む光学系は個別部品を組立て微調整されて大型の据置計器ボックス内(数10cm)に収納され,持ち運びはできなかった.また,被検者が体動すると光ファイバが振動してノイズを発生してしまう問題もあった.したがって,病院や研究機関などでの使用に限られていた.これに対して図7のMEMS血流センサは,FAISのMEMS微細加工設備と専門技術スタッフによる支援により,2.8mm角のSiチップで超小型にすることが可能になった.小型化することで持ち運びができ,かつS/Nのよい検出ができる.ただし,LDチップはメラニン色素による光吸収が少ない近赤外の波長1310nmのDFB(Distributed Feedback Bragg reflector)レーザ,PDチップはInGaAs製の光検出素子であるので,Siプロセスでは作製できない.したがって,LDチップとPDチップはSi-MEMS構造体に取り付けている.なお,DFB-LDから出射されたレーザ光ビームはSiチップ面に平行に進んでから,チップ面に対して54.7°傾いたミラーで反射してほぼ垂直上方に向かい,シリコンレンズによりコリメートされる.シリコンレンズ形状はリフローしてできた中央部が厚めのレジストパターンをマスクにしてシリコンをエッチングすることにより形成される.そこのミラーは,異方性エッチングによってSiの<111>面で形成され,金を蒸着して反射率を高めている[8].このような超小型Si-MEMS血流センサは,Siウェーハ上に2次元的に多数個並べてSi微細加工プロセスにより一度に沢山作製できるので,量産化に伴う低コスト化が見込まれる.

 超小型MEMS血流センサを利用して,例えば脱水症が早期に発見できる.炎天下の建設作業現場で,作業者が脱水症になりかけているか,血流センサでテストすることで判断できる[8].こうした医工学分野での応用は,医学部とも連携して実施している.工学部でテストデータを取り,病院で実際にテストする.医学部の先生が工学部に来て,一緒に測定したりもしている.脱水症の他に,難病とされている強皮症(皮膚が硬くなる病気)の検査にも使おうとしている[9].

 飲酒テストとしても利用できる.図8は,血流センサを指先につけて挙手試験をした時の血流データである.横軸は時間で,0~10秒間は手を机上に置いた状態(挙手前),10秒で挙手して40秒まで挙手状態を保持してもらう.血流データの青色は飲酒前,赤色は缶ビール(500ml)を飲酒してから60分後に挙手試験した血流データである.図8上は被験者が酒に弱い人の場合,下は酒に強い人の場合である.挙手した直後,血流は急激に下がり,その後10~20秒程して上昇するが挙手前のレベルまでは回復しない.血流の振動は心臓の脈動に同期しており,飲酒後は飲酒前よりも振幅が減少している.飲酒によってアルコールが血管を弛緩させるために,血流振幅が減少すると考えられる.血流振幅が飲酒後に減少する傾向は,酒に強い弱いに関係しないという実験結果になっている[10].他にはランニングしながらの血流量やストレス検出についても研究されている[11][12].


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図8 MEMS血流センサによる挙手試験(飲酒前後の変化データ) [10]


 取材者も実際にMEMS血流センサを指に装着して挙手試験をしてみたり,深呼吸してリラックス状態になると血流データが変化する体験をさせてもらった.人間だけでなく,家畜でもストレスの有無で血流が変化するという.例えば,牛のストレス状態を血流センサでモニタすることで,牛の発情を検知し受胎率を向上させる可能性が検討されている.しかし,単に血流量の測定を行うだけでは,ストレスや発情の信頼性高い検出は難しい.

 「血流はセンサの接触圧によっても変わってしまうから,センサを測定対象に押し付けるだけの従来の血流センサは余り普及しなかった.」と澤田氏は語った.「血流センサに超小型変位センサを接触圧センサとして組み合わせて測定すれば,血流センサはもっと普及すると期待している.」と強調された.超小型変位センサを使って接触圧を一定に制御しながら血流測定することを狙った試作は,現在FAISでの「CMOS+MEMS」一体化微細加工プロセスで進行中である.


3.3 脈波センサへの展開

 超小型変位センサの光源を,面発光レーザ(VCSEL)から発光ダイオード(LED)に替えることで,脈波センサにしようとしている.図9の左側に,脈波センサ+接触圧センサの構成図を示した.波長850nmのLED光は血管の中に入り,反射して戻ってくる光量が血管の収縮・拡張によって血液による光吸収や光散乱が変化するのを利用して脈波を検出する.LEDに替える理由は,LDに比べて安全性上の問題が少ないためである.接触圧センサとしては,弾性枠を挟んで透明なカバーを被せて指との接触面とし,その下部にミラーを貼り付け,ミラーからの反射光量を検出する.接触圧は,弾性ゴムの変形でミラーの位置が上下に動き,光量が変化するのを検出する.脈波を検出するPD-Aと,接触圧を検出するPD-Bは,別々に搭載する.

 図9の右側のデータは,脈波を検出するPD-A出力が,センサと指との接触圧によって変化する様子を示している.赤色は接触圧が0.5N,黄色が1.3N,緑色が2.3N,青色が3.2Nである.指をセンサに強く押しつけるにしたがって接触圧が増大し,平均出力は減少するが脈波振幅は増大している.現在,この構造の「脈波センサ+接触圧センサ」は,設計パラメータやプロセス条件などを振って特性を改善している最中である.


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図9 「脈波センサ+接触圧センサ」への応用展開


4. おわりに

 九州地区でのナノテクノロジープラットフォーム事業「微細加工プラットフォーム」の拠点であるFAIS共同研究開発センターの「CMOS+MEMS」一体化微細加工プロセスの支援により,九州大学のCMOSオペアンプ・多機能集積化超小型変位センサが試作できるようになった.FAISのCMOS一貫プロセス設備・専門技術支援スタッフと,九州大学ナノ・マイクロ医工学研究室との共同研究開発によって,3mm角までの変位センサ小型化に成功している.

 センサチップの設計・レイアウト変更により,チップに搭載する機能を追加・変更できるから,超小型変位センサの機能を拡大・変更して各種応用に展開できる.その利用例として,剪断力センサ・血流センサとの組合せ・脈波センサなどが検討されている.人間の健康・医工学分野への応用にとどまらず,畜産業への貢献も期待される.長年蓄積してきた「CMOS+MEMS」一体化センサ技術が実用化され,九州発の新産業創出に結実する日が近いことを予見させるとともに,FAISの共同研究開発センターの「微細加工プラットフォーム」の支援があったことを実感させられる訪問であった.


参考文献

[1] 公益財団法人 北九州産業学術推進機構(FAIS) HP;https://www.ksrp.or.jp/fais/
[2] 公益財団法人 北九州産業学術推進機構(FAIS) 事業報告書/Annual Report 2015
[3] 上野孝裕,安藤秀幸,“一体化を狙う微細化技術 MEMS+CMOS”,工業材料,Vol.62, No.7, pp.80~82 (2014)
[4] NanotechJapan Bulletin フォーカス26企画特集:成果事例クローズアップ(九州地区ナノテクノロジー拠点ネットワーク),“ウエハレベルパッケージング可能な超小型高精度マイクロレーザー変位センサ”,NanotechJapan Bulletin Vol.4, No.5 (2011);http://nanonet.mext.go.jp/ntjb_pdf/F26-34.pdf
[5] 九州大学 大学院工学研究院 機械工学部門 システム生命科学専攻 ナノ・マイクロ医工学研究室 HP;http://nano-micro.mech.kyushu-u.ac.jp/
[6] Toshihiro Takeshita, Yuma Hayashida, Hideyuki Ando, Hirofumi Nogami, and Renshi Sawada, "Temperature Compensation for a Micro-optical Displacement Sensor Using an Integrated Thermal Sensor", Sensors and Materials, Vol.28, No.12, pp.1337~1347 (2016)
[7] Toshihiro Takeshita, Kota Harisaki, Hideyuki Ando, Eiji Higurashi,Hirofumi Nogami, and Renshi Sawada, "Development and evaluation of a two-axial shearing force sensor consisting of an optical sensor chip and elastic gum frame", Precision Engineering Vol.45, pp. 136-142 (2016)
[8] H Nogami, W Iwasaki, T Abe, Y Kimura, A Onoe, E Higurashi, S Takeuchi, M Kido, M Furue, and R Sawada, "Use of a simple arm-raising test with a portable laser Doppler blood flow meter to detect dehydration", Proc. IMechE Vol. 225 Part H: J. Engineering in Medicine, pp.411~419 (2011)
[9] Makiko Kido, Sayaka Hayashida, Satoshi Takeuchi, Renshi Sawada, Masutaka Furue, "Assessment of abnormal blood flow and efficacy of treatment in patients with systemic sclerosis using a newly-developed micro wireless laser Doppler flowmeter and arm-rising test", British Journal of Dermatology, Vol. 157, pp.690-697 (2007).
[10] Wataru Iwasaki, Hirofumi Nogami, Hiroki Ito, Takeshi Gotanda, Yao Peng, Satoshi Takeuchi, Masutaka Furue, Eiji Higurashi and Renshi Sawada, "Useful method to monitor the physiological effects of alcohol ingestion by combination of micro-integrated laser Doppler blood flow meter and arm-raising test", Proc IMechE Part H: Journal of Engineering in Medicine, Vol.226, No.10, pp.759~765 (2012)
[11] Wataru Iwasaki, Hirofumi Nogami, Satoshi Takeuchi, Masutaka Furue, Eiji Higurashi, Renshi Sawada, "Detection of Site-Specific Blood Flow Variation in Humans during Running by a Wearable Laser Doppler Flowmeter", Sensors 15, pp.25507-25519(2015).
[12] Akiyama Terukazu, Miyazaki Tatsuya, Ito Hiroki, Nogami Hirofumi, Higurashi Eiji, Ando Shin-ichi, Sawada Renshi, "Comparable Accuracy of Micro-Electromechanical Blood Flowmetry Based Analysis versus Electrocardiography Based Analysis in Evaluating Heart Rate Variability", Circulation Journal, Vol.79, pp.794-801(2015).

※本文中の図1,2と表1はFAIS,図3~9は九州大学から提供されたものである.


(尾島 正啓)


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