メニュー
JNB,No.133, 2007年3月7日発行

ナノインフォ
米国におけるナノテクノロジー啓発事業 ~米国Science Museumによる取り組み~
その4:ボストン科学博物館(Museum of Science, Boston)


Daniel A. Davis 氏 (M.S., Education Associate, Current Science & Technology Center, Public Programs)

 全米の博物館が協同するナノテク啓発に関するネットワークであるNanoscale Informal Science Education(NISE)Networkに全米科学財団(NSF)が2000万ドルの資金を提供し,科学博物館による市民へのナノテク啓発活動を推進することが報道されたが,ボストン科学博物館はそのネットワークの取りまとめ役としてナノテク展示の開発を進めることになっている.ボストン科学博物館でのナノテク関連展示について,後述するライブショウなどで多忙な中を同館Current Science & Technology部門の Daniel A. Davis氏がインタビューに応対してくれた.

 ボストン科学博物館では展示コーナーの一角にナノテク関連の展示を設置している.導入部では,例えば撥水繊維・スポーツ用品やCNTの水素貯蔵など,現在あるナノテクを応用した製品或いは近い将来に応用が検討されている製品のプロトタイプが展示されており,それに付随してナノテクによる付加効果などを説明したプレゼンテーションが用意されている.ナノテク応用の展示の中でも,今後の研究として関心の高いがん対策をはじめとする医学応用の展示は,高度な内容ながら観客の関心が高い.さらに進むと気相合成法,ボトムアップ・トップダウンによるナノ構造作製の概念,観測機としてのAFMの原理やナノインデンテーション応用といったナノテクに関する基礎科学技術的な内容についての展示が効率的に配置されている.Davis氏によればこうした展示には周辺に位置するMIT,Harvard Univ.の研究者,Northeastern Univ.のナノファクトリー部門などの協力を仰いでいるとのことである.一方で独自にスパッタリング装置や走査電子顕微鏡を所蔵しており,展示公開に活用している.試料作製や微細構造観察などのデモンストレーションだけではなく,ナノファイバーの可視化などの独自に考案した新しい展示を作製するためにもこうした所蔵の技術を活用するのだという.こうした機器のスタッフには博物館が退職した研究者・技術者や大学教授などを雇用し,トレーニングを行った上で人材登用を行っているとのことだ.

 当館では展示に平行して,科学トピックに関するライブプレゼンテーションが行われている.訪問時にもDavis氏によるナノテク関連のエキシビションが行われ,非常に盛況であった.ナノテクを利用したがん検知などのトピックは,高齢者の観客にも特に関心が高く,ライブショウの終了後にDavis氏に積極的に質問をする高齢の観客の姿が印象的であった.このがん検知やM/NEMS,量子ドットを用いた体内トレーサーなどをトピックとしたナノテクのライブプレゼンテーションでは,2004年の6月の開始時から数回の改訂を経て常に最新の情報が提供されている.スタッフは毎日随時情報収集を行い,必要に応じてレポートや論文を取り寄せ内容の反映を詳細に検討しているという.また時には著名な研究者から大学生の研究員までをライブショウに講師として招き,研究成果を発表してもらうこともある.そうした人材捜しには,周辺に著名な大学や病院が多く隣接するボストンは非常に有利なのだという.講師を務める研究者にとっても,こうした啓発事業への参加はアウトプットとしてNSFの評価にカウントされるとのことである.

 現在,博物館で設定するナノテク展示の対象層は10才位を下限としているが,実際の来館者は5才から85才と幅広い.そこで子どもが多い場合はライブショウでも説明に対して実演の割合を多くするなどして対応を変えており,幅広い年齢層でも展示内容を十分に学ぶことができるようにされている.

 さらにボストン科学博物館では地元の地域TVのニュースチャンネルと連携し毎日1分間,月に一度は1時間の科学番組を制作し放映している.訪問時はナノテクとヘルスサイエンスに関連したプログラムが放映されていた.こうした運営へはHarvard Univ. を通したNSFからの資金の他にもNew England Cable Newsや地元会社の協賛など,近隣各所の協力が行われている.ボストン科学博物館が行っているナノテクノロジー展示の内容については下記Webアドレスからも詳しく知ることが出来る.また同Webページ内にはフォーラムが設けられている.

(nanonet 小森 和範)


133c-1.jpg
写真1. ボストン科学博物館


133c-2.jpg
写真2. 現在/将来のナノテク応用製品が展示されている


133c-3.jpg
写真3. 展示を補完するプレゼンテーション内容は単なる科学技術的な補足説明だけではなく,
ナノテクを取り巻く社会までと多彩なもの


133c-4.jpg
写真4. 独自に所蔵する実験機器はデモンストレーション展示だけではなく展示の開発にも活用される


133c-5.jpg
写真5. ナノテクを取り上げたライブショウ(中央の演者がDavis氏)


133c-6.jpg
写真6. ナノテクライブショウに熱心に聞き入る観客