(本ページの記載内容は、S&T Journal 2002年3月号掲載当時のものです。)

わかる入門講座:ナノテクの世界、その3
ナノ構造の作り方(II)
独立行政法人 物質・材料研究機構 材料研究所微小造形グループ ディレクター 野田 哲二

 前号では露光転写、いわゆるリソグラフィーによる半導体加工あるいは微細マシンの作製方法を紹介しました。しかし、露光技術、コーティング、それとエッチングを組み合わせた加工では、どうしても光の回折によるビームの広がり、レジスト膜の性能などによって五十数ナノ(ナノは十億分の一)メートル(nm)の加工が限界といわれています。

 レジスト膜を使わない方法としては、直接、微細なビームで加工する方法があります。ここではまず、電子、イオン、原子、分子、レーザー光などのビームによる加工方法について紹介します。

のだ てつじ
1946年神奈川県生まれ。北海道大学工学部卒業。工学博士、専攻は化学反応プロセス、レーザー化学。北大助手、科学技術庁金属材料技術研究所精密励起場ステーション総合研究官を経て2001年より現職。

【電子ビーム

材料表面の原子を一個一個見分けられる

 電子線は、加速エネルギー、ビーム径など電気的に精密に制御し易い特徴があります。この特性を利用して微細な構造を観察、あるいは組成を解析する透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、オージェ電子分析器(AES)、電解イオン顕微鏡(FIM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)などの電子顕微鏡が開発されて来ました。

 これらの電子顕微鏡の分解能を表に示します。面方向の分解能は、電子ビームの大きさとビームが影響する範囲の大きさに依存します。SEM、AESを除いていずれも面分解能は原子のサイズ以下にまでなっています。

 また、厚さ方向に関しては、AES、FIM、STMは一原子層を識別できます。特にSTMは、面分解能、垂直分解能に優れ、材料表面の原子一個一個を見分けることができます。 
このような原子レベルで観察できるビーム技術をうまく利用すれば、ナノメートルサイズで原子や分子などを操作することが可能となります。

 STMの原理を図1に示します。尖端を鋭くした金属探針を真空などの絶縁雰囲気で試料に一ナノメートル程度の距離になるまで近づけます。そのとき探針と試料との間に印加した数ボルトの電圧によって針の尖端と試料の間にトンネル電流が流れます。このトンネル電流が一定になるように探針の高さを制御します。探針を試料表面に沿って走査すると、制御信号から原子サイズで表面の凹凸が検出できます。すなわち、表面の原子の配列を見ることができるわけです。

電子顕微鏡 面分解能
(ナノメートル)
垂直分解能
(ナノメートル)
TEM 0.2〜10^5 10^2〜10^5
SEM 2〜10^4 10〜10^5
AES 2〜10^2 0.2〜10
FIM 0.2〜10 0.2〜10
STM 0.2〜10^4 0.01〜10

表:露光装置

 

図1:走査型トンネル顕微鏡の原理

ナノメートルサイズのトランジスタが可能

 この探針にパルスでより高い電圧をかけると原子を引き抜くことができます。この技術を利用してナノメートルサイズのトランジスタを作製した例を図2に示します。シリコンの表面に水素を吸着させて絶縁化し、必要な部分の水素だけを引き抜いてトランジスタ回路が作られています。

  STMを絶縁物の形状測定に発展させたものが原子間力顕微鏡(AFM)と呼ばれるもので、カンチレバー(片持ちバネ)の先の探針を試料上で走査すると、リソグラフィーと同様、パターンが描けます。この方法で描ける線幅は、一〇〇ナノメートル程度となっています。

  これらのSTMとAFMを総称した走査型プローブ顕微鏡(SPM)では、多針にすることで、より複雑な形状の加工や、スループット(処理速度)を向上させる試みがなされています。

  一方、透過型電子顕微鏡(TEM)では、電子銃の高輝度化、高分解能化が進み、数ナノメートルのビーム径で〇・一アンペアの強度を持つビームの実現も可能となりつつあります。電子ビーム描画装置の概念図を図3に示します。五〇〜一〇〇キロ電子ボルトに加速されて電子銃から放出された電子ビームは、磁界レンズ群によって絞られ直接、試料に描画されます。透過型電子ビームによって作製された数ナノメートルのシリコン(ケイ素)ナノドットの例を図4に示します。シリカ(酸化ケイ素)薄膜を加熱しながら高強度の電子ビームを照射することによりシリカを分解してシリコンドットを形成させます。ビーム径を変えることによってドットのサイズを制御でき、また、狙った場所に作製することができます。

 

【イオンビーム

マスクレスの直接加工ができる

 電子銃の代わりに液体金属イオン源を用いることによって微細なイオンビームを発生させることができます。特に、ガリウムイオン源は、電圧をかけたときに理想的な円錐状のイオン源形状を形成して、一〇ナノメートル程度の安定した点光源を提供できます。

  この液体イオン源による加工装置は、集束イオンビーム装置(FIB)と呼ばれています。最近では、レンズの改良により数ナノメートルのビーム径が得られるようになり、電子ビーム源と同程度に近づきつつあります。この集束イオンビームを用いた微細構造作製方法としては、レジスト膜を用いたリソグラフィー以外にマスクレスの直接加工、イオンビーム支援立体構造作製などがあります(図5)。

  指向性のあるイオンビームによる直接加工は、表面の損傷域を小さくすることが可能であり、特定の箇所のナノ構造作製に威力を発揮します。また、イオン電流をピコ(ピコは、一兆分の一)アンペアまで下げて走査することで、加工と同時に表面の形状を観察することができます。直接加工の例としては、きちんと配列した量子ドットや超電導材料のジョセフソン接合構造の作製などがあります。

注目浴びるイオンビーム支援堆積法

 近年イオンビームの利用として注目されているのは、イオンビーム支援堆積法によるナノ構造の作製です。炭素やタングステンなどを含む反応ガスにイオンビームをあてて、その領域だけに化合物を堆積する方法です。太さが数ナノメートルのイオンビームをコンピューターにより精密に制御することでナノコイルやナノワイングラスなどが作製されています(図5)。

  ガリウムイオンビームによるナノ構造作製においては、イオンエネルギーが高いために一個のイオンで多くの分子を分解することができ、作製された構造体にはほとんどガリウムが含まれず、希望する元素のみでナノ構造が実現できるとされています。

  この他、ガスによっては、特定の反応だけを起こさせることも可能です。また、有機膜にイオンを照射して高分子を配置制御する方法も提案されており、有機分子によるナノ構造の作製やバイオ系材料の開発が期待されます。

 

 

図2:STMによって20×18ナノメートルサイズに作られた単電子トランジスタ

図3:電子ビーム加工装置

図4:シリカ中に形成されたシリコンナノドット(NIMS竹口氏提供)

図5:収束イオンビームによるナノ加工

【分子ビーム

ビーム化に2つの方式

 分子ビームには、イオン化したものと、分子そのもののビームとがあります。イオン化したビームとしては、アンモニア、トリアルキルガリウム、エチレンなどのビームが作られています。
また、分子そのもののビームの利用としては、ノズルからジェット射出させて、数百ナノメートルのドット構造を形成することが行われています(図6)。この場合、マイクロピペットの先端に溶液を滴下し、これに数ナノ秒のパルスレーザーを光ファイバーを通して照射することで秒速数百メートルの高速ジェットビームが発生し、高分子膜中に一次元配列された数百ナノメートルサイズのドットが形成されています。

  ナノ構造作製のためには、数十ナノメートル以下のノズル口径と、強力な射出パワーが必要となり、さらに分子の成長や反応の方向性を制御する技術などが課題とされています。

図6:分子ビームによる構造体作成

【レーザービーム

細胞や染色体にも適用できる

 高強度レーザーを用いた切断、溶接などの加工が一般に行われていますが、加工の最小サイズはマイクロ(マイクロは百万分の一)メートル(μm)程度であり、また、ビームが通過する原子、分子はすべて励起されます。

  これに対し最近、多光子励起ビームがナノメートルサイズの加工法として注目されています。その原理を図7に模式的に示します。一般に分子あるいは化合物は、その結合エネルギー以上のパワーを与えると、反応を起こすかあるいは分解します。図のようにレーザービームをレンズで絞ると焦点部で反応が起こります。しかし、波長の短い光では、エネルギーが高いため、焦点位置だけではなく、光路部分全体にわたって分子が励起され反応が広がります。一方、エネルギーの低い赤外光では、同時に二個以上の光子が吸収されないと反応が起こらず、その結果、焦点位置のほんの数十ナノメートル域の部分のみが励起されます。この複数の光子が同時に一個の分子に吸収・励起・反応する過程のことを多光子過程と呼びます。

  この多光子過程を利用して、シリカ結晶中にシリコンのナノドットを作ることが行われています。また、焦点位置のみ励起させることができることから、ビームによって損傷を受けやすい生物に関しても、適用でき、細胞や染色体の数十ナノメートルの領域のレーザーアブレーションすなわちナノサージェリー(ナノメートルレベルの超微細手術)にも利用されています。

図7:多光子励起過程による加工

複合化の試みも

 これまでビームによる直接ナノ加工について紹介しました。このような加工方法は、「トップダウン的なアプローチ」といわれていますが、この方法だけでは、対象とする構造も限られてしまいます。一方、核生成、拡散、結晶成長、反応などの自己組織化を利用した構造形成を「ボトムアップ的アプローチ」と呼んでいます。

  この両者の特性を組み合わせると、いろいろなナノ構造の形態を出現させることができます。

 ここでは、半導体で行われている例を紹介します。

  ガリウム砒素の砒素面が現れている(111)面の上に円形の窓を多数開けた(図8(a))シリカマスクを張り合わせ、エッチング液に浸すと、側面にガリウム面が現れた(111)面からなる正四面体形状の溝が自動的に形成されて反応が停止します(図8(b)、(c))。さらに、このような形状のそろった溝内にインジウムガリウム砒素とガリウム砒素を化学蒸着によって交互に積層させます。その結果、溝の底の部分にインジウム濃度の高いナノ構造が自発的に形成されます。その幅は一〇ナノメートル程度(図9)で、量子ドットとして利用されています。

  これは、四面体溝の底部の砒素が現れている部分のインジウム原子の取り込み方が速いという反応を巧みに利用した例です。この他、イオン注入により不純物を添加して、そこを結晶核とした構造作製、酸化反応における自己反応停止、結晶面方位の利用なども考えられています。

数ナノメートルの三次元加工が必要に

 超高速、超高密度素子、量子コンピューター素子、光学素子、分子素子、ナノマシンなど今後期待される数々の新しい素子においては、数ナノメートルサイズでの加工が要求されます。それには、より精緻に時間、空間的に制御された微小ビームの開発とともに原子、分子の自己反応との組み合わせによる三次元のナノ構造作製技術の開発が必要となってきます。

 

参考文献
1) 中山ら、計測と制御、 38, (1999), 742.
2) 藤崎ら、分光研究、48, (1999), 260.

図8:エッチングによって作製したGaAsの四面体溝(富士通 佐久間氏提供)

図9:GaAsの四面体底に形成されたドット(富士通 佐久間氏提供)

(本ページの記載内容は、S&T Journal 2002年3月号掲載当時のものです。)


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