(本ページの記載内容は、S&T Journal 2002年2月号掲載当時のものです。)

わかる入門講座:ナノテクの世界、その2
ナノ構造の作り方
独立行政法人 物質・材料研究機構 材料研究所 微小造形グループ ディレクター 野田 哲二

マイクロの時代からナノの時代に

 車、機械や玩具などを作るときには、金属やプラスチックなどの原材料をまず手に入れ、型をつくる、切る、削る、磨く、組み立てるなどの加工操作をします。この加工には、一般に工作機械が用いられます。工作機械として、切断機、旋盤、プレスなどが使われますがその加工精度は、五〜五〇マイクロメートル(マイクロは百万分の一)程度です。

 ボールベアリング、レンズ、ビデオデッキの磁気ヘッドなどでは、精密研磨が行われ、〇・五マイクロメートルの精度が要求されます。さらに、半導体の集積回路(IC)やビデオデスクになると、もはや機械加工ではなく光や電子線などのビームを使ったパターン加工という微細加工、いわゆるリソグラフィー技術が使われ、その精度は〇・〇五マイクロメートルすなわち五〇ナノメートル(ナノは十億分の一)というサイズになります。さらに大規模集積回路(LSI)では、五ナノメートル以下まで要求されるようになります。現在では、原子同士の結合距離に近い一ナノメートルでの微細加工の試みもなされています。

より微細な加工が求められている

 それではなぜこのような微細加工が必要となってきたのでしょう。私達が使っている電話、オーディオ、カメラ、電子手帳、ミニディスクといった電気製品には、ICが組み込んであります。今から五十年ほど前のトランジスタラジオが出たころに比べて、一つの回路は一億分の一以下まで小さくなっています。

 多くの回路が集積された小型のICを組み込んだ装置では、さまざまな機能が発揮されています。最も顕著なのが計算機の心臓部である中央演算処理装置(CPU)やメモリーです。例えばパソコンで使っているCPUの「ペンティアムIII」では、一平方センチメートルあたり三千万個のトランジスタが搭載されています。今後さらに多くのトランジスタが集積化されることが予測されています。それに伴ってより微細な加工技術が求められます。

のだ てつじ
1946年神奈川県生まれ。北海道大学工学部卒業。工学博士、専攻は化学反応プロセス、レーザー化学。北大助手、科学技術庁金属材料技術研究所精密励起場ステーション総合研究官を経て2001年より現職。

微細化が最も進んでいるのは半導体

 現在、製品レベルで最も大量に、かつ微細化が進んでいるのは、このような半導体の分野です。ここでは、まずシリコンICの微細加工を例にして述べます。

  ICの作製工程は、大きく分けて、シリコンウエハーに酸化膜などの成膜過程、回路を作るリソグラフィー過程、不純物添加過程、ウエハーを一個一個のチップに切り分けリードフレームとの間の電極をつける組み立て過程、検査過程からなります。このうち特に微細加工がなされるのは、成膜、リソグラフィー、不純物添加過程などです。

  成膜に使われる薄膜としては、絶縁膜のSiO2、Si3N4、電極として使われる銅、アルミニウムなどの金属膜、WSi2のようなシリサイドがあります。これらの膜の厚さは、目的によって五〇〜数百ナノメートルで一〇%以内の精度が要求されます。薄膜の作り方には、SiO2の場合は酸素ガス(Si+O2→SiO2の反応)、あるいは水蒸気によるシリコンの熱酸化が行われており、厚さは数十ナノメートルまで制御できています。シリサイド、窒化物薄膜は、SiH4、WF6、H2、N2Oなどを原料として 
WF6+SiH4→WSix+HF
あるいは
SiH4+N2O→Si3N4+H2O
のような反応を利用した化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition, CVD)あるいはスパッタ法(Sputtering)などにより作られています。

  CVDには、大気圧で反応させる常圧CVD、数十トール(トールは圧力の単位)下の減圧CVD、高周波により原料ガスをプラズマ化して反応させやすくするプラズマCVDがあります。このうち減圧CVDが膜質が良好であるため大量処理に利用されています。

  なお、CVDは、化学反応を利用するため、反応ガスと下地との相性を考慮する必要があります。

  銅やチタンなどの金属薄膜については、アルゴンガスで金属ターゲットをたたき、飛び出して来る金属原子をウエハー上に積層させるスパッタ法が広く使われています。スパッタ法には、下地の材料を選ばない特徴があります。

  シリコン半導体では、P型、N型の半導体にするために、ボロン(ほう素)、リン、砒素を注入する不純物過程が必要ですが、これにはイオン注入法が使用されます。イオン化した添加用のガスを数十キロ〜数百キロボルトに加速してウエハーに照射します。打ち込まれる深さは、加速電圧によって百ナノメートルから数マイクロメートルまで制御できます。

  以上の成膜及び不純物注入過程は、厚さ方向、すなわち一次元の制御になります。ICでは、微細なパターンを彫りこんでいく必要があり、その方法として二次元的な微細加工すなわちリソグラフィー(Lithography)が行われています。

  リソグラフィー工程では、まずウエハー上に感光性樹脂のフォトレジストを塗布し、その上から図1に示す露光装置によりマスクを通して回路パタンーンが縮小転写されます。このときのパターンの解像度は、光源の波長に依存します。すなわち、波長より短い加工精度は難しく、より微細な構造を作るために、七〇〇ナノメートル〜四〇〇ナノメートルの可視光、三六〇ナノメートルまでの紫外線、さらに短い真空紫外光域のエキシマレーザー(KrFレーザーで二四八ナノメートル)と、より短波長の光源を用いるようになってきました(図2参照)。

  さて、ICの作製工程では、露光の後、現像により不必要なレジスト膜が取除かれ、反応性ガスによるパターン部分のエッチング(図3参照)、成膜が繰り返されて、複雑なICチップが作られます(図4参照)。エッチングには、ガスによるドライエッチング、あるいは反応試薬によるウエットエッチングが行われています。酸化膜を取り除くには、四フッ化メタンガスやフッ化水素溶液、シリコンやアルミニウムの除去には塩素、窒化膜に対してはリン酸が用いられています。
現在、リソグラフィー技術としては、より波長の短いX線を使うことが試みられています(図2)。特に強度の高いX線を発生するシンクロトロン放射光(SR)を用いたX線露光システムの開発が行われ、一〇〇ナノメートルクラスのパターンを持つICが試作されています。

図1:露光装置

図2:リソグラフィー用光源

図3:反応性エッチングの模式図

図4:リソグラフィーによる集積回路(IC)の作成

拡がる応用研究

 このようなIC作製技術における成膜―パターン露光―エッチングプロセスを、微小な圧電、磁気、静電素子などのマイクロ機械部品作製に応用する研究も盛んに行われています。
図5には、表面型センサーの作成プロセスが示されています。Si、Si3N4、SiO2等の成膜、リソグラフィー、エッチングによってシリコン振動子が作られていく様子がわかります。この振動子と基板の間は、アルキル分子一個程度の間隔になっており、角速度を静電容量の変化として検出する高感度の振動型マイクロジャイロとして使われます。

  図6には、同様にリソグラフィーによって作られたマイクロバルブの例が示されています。バルブのパーマロイ薄膜は、スパッタにより約二マイクロメートルの厚さに成膜され、イオンエッチングにより図のように「卍型」に成形されます。バルブの構成は、スプリングと一体になった弁蓋と弁座からなっており、パイプの外側の電磁コイルにより開閉がなされます。実験では、一〇〇ナノトールの高真空装置と同じ程度の真空が保たれるとされています。このマイクロバルブと同じような構成で三〇〇マイクロメートルサイズのマイクロリレーも作られています。

  図7は、成膜―エッチングプロセスによって作製したマイクロ静電モーターの例です。ローター電極、ステーター電極等を積層させ、配線・ケーシングを行って、組み立てなしで外径一・四ミリメートルのマイクロモーターが作られています。このモーターは、配管の非破壊検査用に使用することが想定されています。

  X線リソグラフィー技術を使った例としては、高密度複合圧電素子があります。

 図8は、シンクロトロン放射光のX線を用いて直径二五マイクロメートル、高さ二五〇マイクロメートルの圧電ジルコニアセラミックス柱状構造列を作製した例です。厚いレジスト膜にX線でパターニングし、パターン孔にスラリー状のセラミックスを注入して作られています。シンクロトロン放射光のX線の波長は〇・五〜一ナノメートルと短いために、非常に細かいパターンを描くことができ、また、焦点深度が極めて深い特色があるため、図のような細かい円柱を作ることができます。この圧電セラミックス柱群は、高感度の超音波振動子として用いることができます。

 このほか、リソグラフィー技術を用いて光スキャナー、磁気トルクを利用したアクチュエータなども開発されています。

 さらに、マイクロデバイスを組み合わせてマイクロマシン・システムを構築する研究も進められています。シリコン基板上にマイクロ化学反応・分析システムを組み上げるマイクロメカニカルシステム(Micromechanical systems, MEMS)が提案されています(図9参照)。この基板上にリソグラフィーによって集積されたシステムは、サンプル導入、流量制御ポンプ、試薬との混合ならびに反応器、成分分離部、センサー部からなっています。流路の管径は、マイクロメートルサイズです。

 このようなマイクロ化学反応・分析システムは、特にDNA(デオキシリボ核酸)や、RNA(リボ核酸)の増幅・合成、分析に有効であると考えられています。DNAの分析においては、シリコン基板上にマイクロ反応容器アレイを形成し、それぞれのセルで形成されるDNAをCCDカメラで観察し、構造を解析するシステムも検討されています。

数ナノメートルサイズの制御には課題も

 本稿では、半導体作製で行われているパターン転写プロセスによるリソグラフィー技術を中心に述べました。パターン転写プロセスは、一挙に大量の微細加工ができる利点、すなわちスループット(Throughput)が高い利点があり、製品化プロセスとしては最も有利です。その一方、露光に用いる光の波長による解像度の限界、また、露光装置のレンズの収差、マスクとウエハーとの相対位置精度、ウエハーの平滑度、ウエハーを置くステージの機械的精度などにより、現状での微細加工精度は数十ナノメートルが限度です。

 数ナノメートルサイズでの制御を行うためには、以上のような問題を解決する必要があります。

 一方、レジストなどを用いないで、直接、走査型プローブ顕微鏡や各種の極微小に絞ったビームによる加工は、スループットが低いため、大量生産には向かない、性能のそろった製品が得られにくい等の課題がありますが、より細かい構造を作れる可能性があります。

 次号では、極微小ビーム技術あるいは材料の自己反応プロセスによるナノ構造作製技術について紹介します。

参考文献

(1)森田博文ら、NTT R&D, 50, (2001), 394.
(2)土屋智由、精密工学会誌、 65, (1999), 639.
(3)桑野博喜、計測と制御、 35, (1996), 202.
(4)鶴田和宏、石川雄一、精密工学会誌、65, (1999), 659.
(5)S. R.Quake and A.Scherer, Science, 290, (2000), 1536.
(6)庄司習一、 精密工学会誌、 65, (1999), 655.

図5:表面型センサー作成プロセス

図6:マイクロバルブ


図7:マイクロ静電モーター

図8:X線リソグラフィーによるマイクロ圧電素子

図9:基板上に構成されるマイクロ化学反応・分析システム

(本ページの記載内容は、S&T Journal 2002年2月号掲載当時のものです。)


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